本研究では大腸菌をバイオアッセイとして用いることにより,紫外線の殺菌作用を可視化できる教材開発を検討した.本研究の独自性は,非病原性大腸菌株(Escherichia coli DH5α株)の希釈液を噴霧ボトルから寒天培地に噴霧後,半分をアルミ箔で覆い,紫外線や太陽光を照射し,24時間37°Cで培養後の生育をパラメータとして殺菌作用を可視化した点である.培地への大腸菌の植菌法で,噴霧ボトルからの噴霧法は先行研究では行われていなかった.この噴霧法によりコロニーの均等な拡散を実現できた.またアルミ箔や紫外線カットフィルムで覆った領域をコントロールとすることで太陽光と太陽紫外線の照射の有無によるコロニー数の比較が明確になり,太陽光に含まれる紫外線の殺菌作用の可視化と定量化が実現した.また,晴天時と曇天時の紫外線量の違いも明確に可視化ができた.
本研究で開発した教材を高校生対象の講習会で実践した結果,生徒の紫外線の殺菌作用に対する理解の向上が確認できた.さらに,講習会に参加した教員に対する調査結果から,この教材を活用することで生徒が主体的に研究テーマを設定する探究活動において有用であることが示唆された.
平成29年改訂中学校学習指導要領解説理科編では,第2学年「動物の体のつくりと働き」の単元において,食物が物理的及び化学的に消化され,栄養分が吸収される仕組みを理解させることが示されている.生物における消化の働きを物質の粒子の変化として生徒が理解することは重要である.しかし,粒子の組成に注目した消化に関する実験では,生徒が膜を通過する分子の大きさの程度を実感することが困難である.また,消化の働きや仕組みに関する学習理解については,溶解するという誤概念をもつ生徒が多いと報告されている.そこで本研究では,消化の働きについて「食物を吸収されやすい小さな分子に変化させること」を生徒に実感させる教材を開発し,教材としての有効性を検証した.
開発した教材はビーズやブロックを分子と見立て,消化の働きや仕組みを理解させるモデル教材である.消化前後での物質の大きさを捉えさせる教材として,ビーズを連結することで高分子を表現するモデルを開発した.また,人の体内で行われる「消化」・「吸収」・「合成」の仕組みを理解させる教材として,ブロックの分解・運搬・組み立ての活動から消化の働きを実感できるモデル教材を開発した.これらの教材を用いて,消化の働きにおける物質の変化と,分子の大きさの関連に注目させること,消化の必要性を理解させる授業実践を行った.
授業実践後の結果,生徒の約8割が消化の働きを理解することができた.また,分子の大きさの理解も改善された.これらのことから,本教材は消化の働きについて,粒子の概念で理解させることができたと考えられる.
生命科学や医学を学ぶ大学生は,早期に動物のからだの成り立ちと構造,機能を理解する必要がある.そのための学習手段のひとつとして,大学では動物を用いた解剖実習が行われている.解剖実習に使用される生物としてカエルやザリガニが普及しているが,従来報告されている麻酔方法には安全性と使いやすさに改良の余地があった.また,よく用いられてきたアメリカザリガニは法規制の変更に伴い,解剖に適した大きな個体の入手が困難になりつつある.本研究では,ウシガエルおよびウチダザリガニを教材として用い,麻酔方法の改良を通じて,従来よりも実施しやすい解剖方法の開発を目指した.適切な麻酔の選定により,心臓をはじめとする器官の機能を維持した形での解剖を可能にした.これにより,後口動物および前口動物における消化器系,循環器系,泌尿生殖器系,神経系の観察と,各種器官の機能連関を考察可能な実習方法を確立できた.