この簡潔な評論では, 心拍変動性(HRV)の心理生理学的研究における, 利用可能性の問題を論じた.第1に, HRV関連指標が, 時間領域対周波数領域に大別されることを指摘し, 後者の指標であるスペクトル・パワーについて詳しく述べた.第2に, 高周波数帯域および低周波数帯域のパワーが, 自律神経活動とかかわってどう解釈できるか, 要約した.前者は, ほぼ心臓迷走神経活動を反映するものの, 後者については, 規準化してあるとないとにかかわらず, これが一こ、臓交感神経活動とかかわる程度はさほど大きくない点に言及した.第3に, ストレス刺激の賛的特徴(すなわち, 能動的対処対受動的対処)は, それぞれの曲行力学的昇圧機序と, 背後にある自律神経調節機能に, 寄与することが示された.したがって, ストレス刺激負荷時のスペクトル・パワーは, 刺激の質的特徴によって変化するのである.最後に, スペクトル・パワー(とくに低周波数帯域)の, 心理生理学的研究における利用可能性は疑問であり, むしろ, 圧反射感度, 前駆出期, 規準化脈波容積といった, 他の無侵襲的指標の方が優れたものであることを指摘した.
抄録全体を表示