行動医学研究
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19 巻, 2 号
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総説
第19回日本行動医学会総会シンポジウム企画
  • 中尾 睦宏, 坂野 雄二
    2013 年 19 巻 2 号 p. 50-51
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/03/21
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  • —日本の公衆衛生における健康増進行政の展開と超高齢社会における専門家—
    井原 一成
    2013 年 19 巻 2 号 p. 52-58
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
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    WHOの健康憲章において健康は、「身体的、精神的ならびに社会的に完全に良好な状態をいうのであって単に病気や虚弱でないことをいうのではない」と定義される。Downieは、この定義から、健康は積極的健康と消極的健康の2面から定義されると指摘した。消極的健康とは疾病や障害をなくすという意味であり、積極的健康とは単に疾病をなくすだけではなく、良い状態に向かうという意味となる。Downieは、消極的健康と積極的健康の関係について、両者を直線の両端におく1次元的モデルや、消極的健康を横軸、積極的健康を縦軸におく2次元的モデルなどを示している。Downieにおいて、消極的健康と積極的健康の探求はともにヘルスプロモーション(健康増進)の目的であり、消極的健康と積極的健康推進とのいずれか一方を達成しようとする時、他方の達成も同時に探求すべきものである。健康増進が日本の公衆衛生のキーワードとなったのは1960年代前半である。公衆衛生行政における健康増進は、積極的健康であったり、消極的健康であったり、あるいはその両者を包含するヘルスプロモーションであったりと多義的であったが、1970年代後半には消極的健康に重心を置いた1次元的健康増進モデルへと収斂したように見える。健康増進は、良い状態への方向性を含意するものだが、高齢期には、身体健康や精神健康の向上が現実的な目標ではなくなる時がやがておとずれる。1次元的健康モデルにこれを当てはめれば、正の方向への向上がストップし、その後は不健康の方向に進むだけとなってしまう。高齢期の健康増進が可能となるのは、Downieの2次元的モデルである。消極的健康の方向への向上が不可能になった者も、積極的健康を向上させることは可能であるからである。老年学の観点から野尻雅美は、Downieの2次元的モデルを高齢者向けに発展させ、QOL座標を提案している。縦軸のウエルビーイングと横軸の生活機能(身体健康や精神健康)とのベクトルの和がQOLとなる。高齢者はある時期になれば、横軸方向の増進から縦軸方向への増進にシフトすることが重要であると野尻は主張しているように見える。この20年余り老年学は、高齢者の自立と生産性の維持という目標を掲げて発展してきた。しかし、後期高齢者の急増は、自立が困難であり生産性を維持できない高齢者あるいは超高齢者が地域に出現することを意味する。そうした者達への健康増進を考えるにあたって我々は彼らの特徴を改めて吟味する必要がある。心理学者のEriksonがライフサイクルの最終段階として提示した第9段階は、我々が超高齢者を理解するのに有用である。エリクソンは、脆弱ではあるけれども失われていく能力をたぐり寄せて統合し、衰えた能力のため完璧はめざせなくとも、それでもなお前進しようとする高齢者を描出した。自立が困難になっても、本能的に自律的であろうとする高齢者には尊厳という言葉が相応しいように思われる。エリクソンは、超高齢者は、失調要素と同調要素のせめぎ合いの中にあると言うが、同時に彼らは積極的健康と消極的健康のせめぎ合いの中にもある。専門家は、こうした高齢者への健康増進のあり方を実践の中で探ることになる。その中で、専門家は自らの在り方を問うことになるが、それは特別なことではない。日本の健康増進の歴史は、消極的健康と積極的健康とのせめぎあいの歴史であり、その中にあって、専門家は常に自らのあり方を問い続けてきたからである。
  • 竹内 武昭
    2013 年 19 巻 2 号 p. 59-63
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
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    日本の喫煙率は低下してきてはいるが、依然として先進国としては高い状態が続いている。多数の死者を出す予防可能な疾患にもかかわらず、社会的には重要度の認識が低く、西欧諸国と比較すると十分な対策がなされていない。まさに「サイレントキラー」の名にふわさしいのがたばこである。明らかに健康被害のあるたばこであるが、実際に問題なのはほとんどの人がたばこの害が解っていながら、やめられない依存状態にあることである。ニコチン依存は、ニコチンが報酬系の行動と強く結びついていることに主因がある。依存に関係するドパミン神経系は「報酬系回路」として知られており、快の感覚を個体に与えるため、強化行動をひき起こす。喫煙による急激なニコチン濃度上昇は、一過性のドパミン過剰放出を起こすが、最終的にドパミン受容体数が減少するため、慢性的な喫煙状態は、シナプスの機能不全を起こす。禁煙指導には、薬物療法と共に行動科学的アプローチが重要である。禁煙の意志のある喫煙者に対してはニコチン依存の治療が行われ、行動カウンセリング(禁煙支援の5つのA)が高い戦略的価値を持つと考えられている。日本では保健適応の禁煙外来の利用が有用である。禁煙の意志のない喫煙者に対しては、動機付け面接を基本とする行動カウンセリング(動機強化のための5つのR)が有効であると考えられている。禁煙を継続・維持中の禁煙者に対しては再発防止戦略が重要であり、禁煙継続中に起こりうる心身の問題、外部環境の障害、誘惑に対する対応が含まれる。喫煙者には支持的に対応し、彼らはたばこ産業の犠牲者であるという考え方を持つことが重要である。さらに、禁煙することのメリットを個人レベルで模索し、禁煙開始と禁煙継続のモチベーションを維持する必要がある。
  • 稲田 修士, 吉内 一浩
    2013 年 19 巻 2 号 p. 64-67
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
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    生活習慣病の予防のための健康増進において運動習慣の定着や禁煙とならび食習慣の改善は重要視されている。しかしながら食習慣などの生活習慣を変えることは非常に難しい。2型糖尿病は生活習慣病として最も代表的なもののひとつであるが、糖尿病のコントロールの改善のためには、糖尿病をセルフマネージメントするための教育が治療のアウトカム改善に重要であるとされている。糖尿病の患者教育では自己効力感を中心においた教育プログラムの有用性が示されており、その中でセルフモニタリングをはじめとした行動医学的な手法が頻用されている。これまで食事のセルフモニタリングは紙に記録して自分でカロリーを算出するという方法でなされていた。しかし、この方法には記録の日時の把握が不可能であるという欠点や、食事を記録し、栄養素を計算するという手間が非常に煩雑であるためセルフモニタリングの継続が困難であるという欠点があり、限定的にしか用いられていなかった。この欠点を克服できる方法として携帯情報端末を用いた食事日記について研究が行われるようになっている。本稿では健康増進でも中心的な位置を占める食習慣の改善に対する行動医学の適応の一例として、携帯情報端末を用いた食事日記とその応用例としての2型糖尿病に対するセルフケアシステムについて概説する。
  • 本谷 亮
    2013 年 19 巻 2 号 p. 68-74
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
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    東日本大震災の被災者・避難者の多くは、心身両面においてさまざまな健康問題を抱えている。健康問題の例としては、PTSD症状の出現、抑うつ、不安、焦燥、怒りの増加、睡眠障害、血圧上昇、アルコール依存症、生活習慣病、あるなどがあげられる。震災がもたらしたこのような健康問題は、震災直後の急性期のみならず、中長期においても大きな問題となっており、被災者に対する継続的なアプローチが必要である。今回の震災では、津波や原発事故のために、強制的に避難をせざるをえず、震災後、住環境が大きく変化した者も多い。動かないことで全身の心身機能が低下する“生活不活発病(廃用症候群)”も、避難している高齢者を中心に散見され、心身の健康問題の悪循環を生んでいる。加えて被災三県の中でも放射線の影響が懸念されている福島県では、住民の屋外活動の減少や食品摂取の過剰制限など、放射線不安が要因で引き起こされている健康問題への対応も課題の一つとなっている。被災者・避難者の抱える健康問題に関しては、ハイリスク者の早期発見、早期支援を行うことが重要である。また、ハイリスク者や対応困難者に対しては、医師、看護師、保健師、心理士など多職種がチームとなって連携したアプローチをすることが不可欠であり、支援に臨床心理学的視点や行動医学的視点が必要となることもある。そして、被災者・避難者の健康増進を考える際には、個々人に対するアプローチに加えて、地域やコミュニティーに対するアプローチも非常に重要であり、いかに地域やコミュニティーを取り込んだアプローチができるかが長期におよぶ被災者・避難者の健康増進のカギとなる。
総説
  • 中田 光紀
    2013 年 19 巻 2 号 p. 75-82
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
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    過去半世紀にわたる主観的健康感に関する研究から、主観的健康感は死亡率に対し独立した寄与因子であることが報告されている。しかし、その生物学的メカニズムについての研究は十分に発展してこなかった。本論文では、主観的健康感と免疫系との関連について、健康な日本人労働者を対象とした報告(第13回日本行動医学会荒記記念賞受賞論文)と併せて、これまでの研究について体系的に整理することを目的とした。PubMedによる文献検索を行った結果、最終的に15本の論文が抽出された。これらの論文をレビューした結果、様々な人種や集団において、主観的健康感が低い者は高い者に比べ各種炎症マーカー(インターロイキン-6、腫瘍壊死因子-α、C反応タンパク、総白血球数等)が増加し、液性免疫機能が活性化される可能性が示された。この関連は男性よりも女性で、若年者よりも高齢者でより明確であった。本レビューによって、主観的健康感の低さと各種疾患(特に、心血管疾患)による死亡危険度の増加には免疫系が介在する可能性が示唆されたが、これまでの研究のほとんどが横断研究であるため因果関係を支持するまでには至らなかった。今後、主観的健康感と疾病死亡危険度の関係において、免疫系が果たす役割を縦断研究により明らかにする必要がある。
原著
  • 井合 真海子, 根建 金男
    2013 年 19 巻 2 号 p. 83-92
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/10/31
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    本研究では、認知行動カウンセリングの視点から、境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder:BPD)周辺群を対象として、BPD周辺群が実際の見捨てられ場面において示す、見捨てられスキーマの働きと思考・感情・行動との関連を調べることを目的として、研究1では質問紙による量的研究を行い、研究2では実験的手法による量的・質的研究を行った。研究1では、大学生352名を対象に質問紙調査を行った。その結果、見捨てられ経験を持つ者は、見捨てられ経験を持たない者と比べて、有意に見捨てられスキーマ得点およびBPD傾向得点が高いことが示された。さらに、見捨てられ場面における対人スキルの欠如や、肯定的解釈の不足などが、見捨てられスキーマの維持・強化につながる可能性が示唆された。研究2では、大学生のBPD周辺群9名を対象として、実際に経験した見捨てられ場面を想起するイメージ実験を行った。その結果、見捨てられ場面において見捨てられスキーマが賦活しており、快感情の低下やその場面における否定的解釈、相手と距離をとるといった対処行動に影響を与えている可能性が示唆された。
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