行動医学研究
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4 巻, 1 号
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総説
  • 小林 章雄
    1997 年 4 巻 1 号 p. 1
    発行日: 1997年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    本稿では、ソーシャルサポート研究における諸問題について論及した。ソーシャルサポートのコンセプトにはいくつかの定義があるが、大きく構造的支援と機能的支援に大別される。構造的支援は、ネットワークの中での結び付きや、その大きさ、婚姻状況その他の人口動態的変数からなり、機能的支援は、提供された支援やその支援の利用可能性についての個人の認知からなるとされる。このようにソーシャルサポートの概念が広いため、一つの方法でソーシャルサポートのすべての視点を網羅することや、すべての研究に適する測定法を見つけることは困難である。とりあえず、わが国で適用可能なソーシャルサポート測定尺度の開発が望まれる。
    ソーシャルサポートと疾病との関連では、ふたつのモデルが提案されている。一つはソーシャルサポートが緩衝要因として働くとするもの (緩衝仮説) であり、もう一つはソーシャルサポートの欠如そのものが強いストレッサーとして働くとするもの (主効果仮説) である。構造的支援の面からはソーシャルサポートの主効果を、機能的支援の面からは緩衝作用を支持する知見が多くみられる傾向にある。しかし、ソーシャルサポートが疾病の進展、発症、回復にどのような生理学的メカニズムでかかわっているのかは十分解明されていない。ソーシャルサポートのより適切な測定法、心理学的、生理学的に信頼性の高い方法を用いることが重要である。
    また、心血管疾患から他の慢性疾患へ、男性から女性へ、成人から子どもあるいは高齢者へ研究の幅を広げるべきで、そのことによりソーシャルサポート研究の知見が一層蓄積されることになる。
  • 名郷 直樹
    1997 年 4 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 1997年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    Evidence-Based Medicine (EBM) はより質の高い根拠に基づいて医療を行っていこうという問題解決の一手法であるが、その大きな特徴は患者の問題から始め、患者の問題の解決に終わるという視点、行動科学に基づいたプロセスの組立にある。そして、そのプロセスは以下の四つのステップで示される。1. 患者についての疑問の定式化、2. 疑問についての情報収集、3. 収集した情報の批判的吟味、4. 情報の患者への適用。
    注目すべきは、それぞれのプロセスが思考様式でなく行動様式として提示されている点である。患者の問題解決のための勉強を医師の行動という面からとらえ、よりよい患者管理を実現する、そこにEBMの特徴と目的が集約されていると考えている。
原著
  • 津田 彰, 片柳 弘司, アンドリュー ステプトー
    1997 年 4 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 1997年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    喫煙習慣と心臓血管系ストレス反応性との関連性について明らかにするために、メンタルストレス・テストとしてRaven'sマトリックス認知課題テストを負荷した時の健康な男子成人の非喫煙者 (N=16) と一晩禁煙者 (N=14)、30分前喫煙者 (N=17) の心臓血管系ストレス反応性と情動反応を比較した。一晩禁煙群は、非喫煙群および30分前喫煙群の被験者より、ストレス負荷前の安静時拡張期血圧は有意に低かったが、メンタルストレス・テストに対する変化は有意に大きく、かつ情動反応も著明であった。30分前喫煙群の心拍数はストレス負荷前ならびに負荷中、負荷後のいずれかで、非喫煙群および一晩禁煙群よりも有意に高値を示したが、血圧の変化には群間差がなかった。一晩禁煙群の遂行成績は30分前喫煙群より有意に悪く、喫煙欲求もまた強かった。2つの喫煙群ではまた、ストレス負荷によって生じた不快な気分がストレス負荷終了後も遷延した。今回の知見より、喫煙習慣によって心臓血管系ストレス反応性が異なること、これら血圧や心拍数の変化は喫煙習慣を有する被験者の実験前の喫煙状態に依存することが明らかとなった。喫煙とストレス反応性と心臓血管系疾患の発症危険性との関連性について考察した。
  • 鈴木 伸一, 嶋田 洋徳, 三浦 正江, 片柳 弘司, 右馬埜 力也, 坂野 雄二
    1997 年 4 巻 1 号 p. 22-29
    発行日: 1997年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、日常的に経験する心理的ストレス反応を測定することが可能であり、かつ簡便に用いることができる尺度を作成し、その信頼性と妥当性を検討することであった。
    まず、新しい心理的ストレス反応尺度 (SRS-18) が作成された。調査対象は、3,841名 (高校生1,316名、大学生1,206名、一般成人1,329名) であった。因子分析の結果、3因子が抽出された。それぞれの因子は、「抑うつ・不安」、「不機嫌・怒り」、「無気力」と命名された。各因子の項目数は、それぞれ6項目であった。尺度の信頼性は、α係数、再検査法、折半法によって検討され、いずれも高い信頼性係数が得られた。
    次に、SRS-18の妥当性が検討された。内容的妥当性、および、高ストレス群と低ストレス群、健常群と臨床群における弁別的妥当性について検討され、いずれもSRS-18が高い妥当性を備えていることが示された。本研究の結果から、SRS-18は、高い信頼性と妥当性を備えた尺度であることが明らかにされた。最後に、ストレスマネジメントの観点から、臨床場面や日常場面におけるSRS-18の有用性が討議された。
症例報告
  • 増田 豊
    1997 年 4 巻 1 号 p. 30-32
    発行日: 1997年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    筆者は、37歳男性の精神分裂病患者の行動変容を観察した。この患者は強度の思考障害はなかったが、入院当初から治療者の様々な精神療法的な介入にもかかわらず拒薬が著しかった。そこでスタッフがこの患者を除く同室の患者全員に、その病室内で同時に服薬するように指導していったところ、指導後3週間でその拒薬患者も自ら服薬するようになった。この症例について筆者は以下のように考察した。
    1) この患者は同一時刻に同一の病室で服薬するという行動の提示によって集団を認知した。
    2) 自らこの集団に帰属したことにより、この患者は服薬という行動をとるようになった。
    3) 具体的な行動の提示による集団の認知と集団帰属好性は、この患者のみならず、ヒトの集団に関わる根本的なありようであろう。
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