地図と地名との密接な関連が一つの課題として強調されてきたのは, 比較的最近のことに属する。地名そのものの問題も実は明治以来の歴史をもつが, 地名が地図との関連において重視されてきたことは, 地図もまた古い, その歴史とともにありながら, 強い問題意識としてはことさらに盛りあがらなかった憾みがあった。戦後の国語改革にともない, 地名の問題意識が高まってきた, というよりは高まらざるをえない情勢におかれて, とくに地図の分野における地名の取扱いがクローズアップされてきた傾向がある。
地図地名学はこうした要求に応ずべき一つの学的体系へのアプローチとして生れ出る必然性をもつものと考えられ, たとえばドイツなどでは, これが学問的研究対象として, つとに手のつけられていた分野であった。しかるに日本では, 従来この種の研究は技術論としてしか考えられていなかったむきがあり, したがって今後の大きな課題として, この分野の体系的確立は真剣に考えられなければならぬものとなるであろう。
地図地名学はこうして歩みはじめたぼかりの態勢ではあるが, これが基本的姿勢と大きな関係をもつに至るであろうと考えられる国語問題, ならびに国際的規模における地名問題の趨勢に, まず眼を通してみる必要があると思われる。国際連合経済社会理事会 (ECOSOC) では, 地名の問題を地図製作の一環として取扱っており, 国際間の地名統一についてかなり具体的な意見を呈示している。本稿はこの点をとくに通観することにより, 今後の地図地名学の方向に対する-指針としたい意図をもつものである。
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