本稿では、1999年に民政移管を果たしたナイジェリアにおいて、公平な政治参加を保証する制度として慣行化した輪番制と、ローカルな政治実践との関わりを論じる。特に、三大民族のひとつと位置づけられているイボ人を対象とし、一地縁集団で起きた伝統的権威者の後継者選びを主な事例として取り上げる。
ナイジェリアでは民族・宗教・地域の対立が後を絶たず、国民の融和が重要な課題となっている。「輪番制」とは、下位集団・地域間で重要な政治ポストを順々に持ち回りする制度である。例えば、大統領職については1999年以降、南部(キリスト教徒が多数派)と北部(イスラム教徒が多数派)で順番に持ち回るべきとする言説がある。さらにローカルな政治においても、自治組織や年齢組の役員、さらには伝統的権威者の地位までも、輪番制によって捉える動きがある。
アフリカの多くの国々では現在、国内に包摂した諸民族の王や首長を政府が保護し、地方行政と関わる一定の政治的権限を認める政策をとっている。この現象の影響は、かつては「国家なき社会」と呼ばれた分節社会にも及んでいる。それら集権的な権威者が不在であった分節社会には、国家政策を契機として王や首長と呼ばれる地位が生まれている。本稿で取り上げるイボ人もそのような事例のひとつである。
1999年の民政移管後のイボ社会では、伝統的権威者の候補者選びについて国政選挙を模した住民投票を行うとともに、輪番制を採用する動きが広まっている。アフリカにおいて伝統的権威者を媒介とした統治が拡大・浸透するなか、分節社会の人びとはいかに自身が望む政治的公平性を担保するのか。本稿では、イボ社会における伝統的権威者選びを事例とし、人びとが国政選挙と関わる輪番制の慣行を用いて、公平性をめぐるモラリティを生成する過程に注目する。
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