文化人類学
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84 巻, 2 号
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表紙等
論文
  • ムンバイのミドルクラスにおける家事労働と相互依存性
    田口 陽子
    2019 年 84 巻 2 号 p. 135-152
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/11
    ジャーナル フリー

    人類学における親族論は、生殖医療技術の発展や、多様な婚姻制度の拡大や、グローバルなケア労働の再配置によって、再活性化してきた。「親族とは何か」という問いがより根本的に揺さぶられるとともに、親族関係を成り立たせている物語が切実な問題として立ち現れてきた。本稿は、インド都市部の世帯運営を事例に、相互に依存する関係のなかに生きる人々が、どのようにその関係を組み替えうるのかを考察する。そのさい、フィクションという視点から親族関係をとらえなおそうとする議論と、社会的想像力やモラリティの変容をめぐる議論を補助線とする。ムンバイの世帯という単位から親族を論じることで、社会と家族や公的領域と私的領域という境界にとらわれることなく、労働や責任や期待をめぐる語り口と実践を通して、人間のつながりや関係性を照らしだすことを試みる。

    まずは、生物学的なものと社会的なものの区分を所与とせず、関係性をとらえなおそうとしてきた人類学的な親族論と物語をめぐる論点を整理する。つぎに「世帯」という単位を参照枠とし、グローバルなケア労働に関する議論を経由したうえで、インドにおけるヒエラルキカルなモラリティの変容について検討する。現代インド都市部における家事労働者をめぐる状況には、カースト分業/紐帯に、消費者の選択と労働者の権利をめぐる問題が入り込み、ヒエラルキーと交換という異なるモラリティが絡みあっている。本稿は、ムンバイを舞台に、一見ふつうの世帯の形成と維持を、民族誌的な物語として描いていく。そうすることで、日常的に作り出されている「奇妙な親族」に光を当て、婚姻と血縁からなる家族の規範に依拠するのではなく、また同等な個人間の交換に移行するのでもなく、別の形でつながりを想像し、他者との相互依存的な関係を構築していく可能性を考える。

  • 自己/他者認識についてのオートエスノグラフィ
    川口 幸大
    2019 年 84 巻 2 号 p. 153-171
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/11
    ジャーナル フリー

    本稿は、大学入学を機に東北地方で暮らすことになった関西出身者としての私の自己と他者認識の形成、およびその変遷についてのオートエスノグラフィである。関西と関西人については、主にマスメディアから発せられる画一的な表象によって、その「ユニークさ」が広く人口に膾炙している。私は地元にいた18歳までは厳密な意味で自分が関西弁を話す関西人であると意識したことはなかったのだが、仙台で暮らすようになってから、関西人はよくしゃべる、どこでも関西弁を話す、面白い、値切ることができる、ガラが悪い、納豆が嫌いといったステレオタイプに基づくまなざしを受け、次第にそれを内面化させた振る舞いをして関西人として生きるようになった。今回、オートエスノグラフィのかたちで改めて関西人としての自己について思考し記述してみて分かったのは、それらのトピックを冗談以上の主題に発展させることは難しく、結局のところ個人的な差異の領域に帰されること、かつその背景には私を含めた日本の文化人類学における自己/他者認識の偏った枠組みが遍在していることである。他方で、私のこの状況は、エクソフォニー(母語の外にある状況)についての議論さえも相対化しながら、自己/他者認識の軛を自らの個人的次元で受け止め、それを弛めうる可能性につながることも明らかになった。

  • 香港のタンザニア人を事例として
    小川 さやか
    2019 年 84 巻 2 号 p. 172-190
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/11
    ジャーナル フリー

    インターネットとスマートフォンが普及し、人類学者が調査している社会の成員みずからが様々な情報を発信するようになった。本稿では、香港在住のタンザニア人と彼らの友人や顧客などが複数のSNSに投稿した記事や「つぶやき」、写真、動画、音楽、絵文字などの多様な発信を「オートエスノグラフィ」の「断片」とみなし、断片と断片が交錯して紡ぎだされる自己/自社会の物語を「彼らのオートエスノグラフィ」と捉え、その特徴を明らかにする。香港のタンザニア人たちは、SNSを利用して商品情報や買い手情報を共有し、アフリカ諸国の人々と直接的につながり、オークションを展開する仕組みを形成している。彼らはそこで一時的な信用を立ち上げ、多数の顧客と取引するために、好ましい自己イメージにつながりうる断片的情報を投稿する。彼らが投稿した多種多様な断片的な情報は、他のユーザーとの間で共有されることによって価値を持つ。また異なる媒体に投稿された断片的な情報は、インターネット上で他者の欲望や願望と交錯し、偶発的に継ぎはぎされ、いまだ実現していない個人の可能性を示す物語となっていく。本稿ではこのような形で生成する被調査者の多声的なオートエスノグラフィの特徴について認知資本主義論を手がかりにして明らかにする。それを通じて人類学者によるエスノグラフィの特徴を逆照射し、ICTを活用したエスノグラフィの新たな方法を模索することを目的とする。

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