文化人類学
Online ISSN : 2424-0516
Print ISSN : 1349-0648
ISSN-L : 1349-0648
最新号
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
表紙等
原著論文
  • エチオピア・アルシ社会におけるガダ再興運動が生み出す抗争と創造
    大場 千景
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 86 巻 1 号 p. 005-024
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/09/23
    ジャーナル 認証あり

    本稿は、エチオピア南東部に居住するアルシの間で20世紀を通して解体の一途をたどっていった伝統的政治体系であるガダの再興運動に焦点をあてている。近年のエチオピアの政治的コンテクストを背景として、多くのオロモ語系諸集団の間で衰退していったガダへの再考や復興に関する議論とその実践が行われはじめている。本稿では、現在進行中の社会現象であるガダ再興の過程を通して、当該社会の人々の社会概念や権力への欲望、ローカルなポリティクスを抱き込みながら、新たに生み出されようとしている社会構造と実践について記述した。論考では、第1に、ガダが現存するアルシ西県での古老へのインタビューとガダの実践の観察に基づいて、解体以前のアルシのガダがいかなるものであったのかを明らかにした。第2に、アルシにおけるガダ再興運動を概観しつつ、アルシ西県のドドラ地域において引き起こされた、ガダ再興運動を巡るサブクラン間の対立を事例として取り上げながら、分節出自体系とガダという2つの社会システムとの間で揺れる人々の社会的葛藤について考察した。地域の共同性を生み出しクランを超えたガバナンスを実現してきたはずのガダが、その再興運動を通してディレンマを増幅しながら、分節出自集団本位のものとして再構築され、分断的な社会の仕組みを作り出していることを記述した。

  • 訪日中国人観光者の「遊学」ツアーと伝統の再創造
    周 菲菲
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 86 巻 1 号 p. 025-043
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/09/23
    ジャーナル 認証あり

    インターネットの普及によって大きく変容する中国人観光者によるオンライン・オフラインの多様な消費実践において、日本は「工匠精神」すなわち「匠の精神」(「職人気質」)の国として新たに形成されている。その実態を理解するために、本稿はアクターネットワーク論を参照しつつ、trip shoot(旅の写真やビデオの作成を中心とするスタイル)をはじめとする多様な個人旅行や、「遊学」や「研学」ツアーに関して参与観察や聞き取り調査を行うことによって、「ブラックボックス」として閉じられた「匠の精神」の内容とその形成のメカニズムを詳細に検討する。それに加え、研究参加者によるSNS投稿の分析と、インターネットにおける半構造化インタビューや動画サイトの視聴コメント分析といった、量的調査を含むオンライン調査による非干渉型の検証を結合した、観光をめぐるハイブリッド・エスノグラフィーの方法論的達成を目的とする。さらに、中国人観光者の「遊学」における「匠の精神」が、中国における伝統の再創造に再帰的につながっていることを明らかにする。

特集 マルチスピーシーズ民族誌の眺望ーー多種の絡まり合いから見る世界
  • 奥野 克巳
    原稿種別: 特集
    2021 年 86 巻 1 号 p. 044-056
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/09/23
    ジャーナル 認証あり
    The proposal of the new “Anthropocene” geological age in the beginning of the 21st century has led to humans being seen as the primary agents driving the large-scale destruction of our planet. This has led to the development of multispecies ethnographies focusing on the situated relatedness that binds humans into multispecies communities. There has been a shift in perspective from the behavior of humans as a single species to the entanglement of many species. In turn, multispecies ethnography has helped amplify the discipline through research on the entanglement of multiple species, interactions between art and performance geared at speculation and experiment, collaborations with other disciplines and practitioners, and conducting multi-sited research. This special issue features three multispecies ethnographies: one that focuses on how non-humans, as agents who have escaped human control, have entangled with many other species to survive and thrive, and two that argue that it is not always humans who have harmed the planet and destroyed nature everywhere.
  • イヌイトと近代の存在論の比較からみる存在論の機能
    大村 敬一
    原稿種別: 特集
    2021 年 86 巻 1 号 p. 057-075
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/09/23
    ジャーナル 認証あり

    本稿の目的は、先住民の存在論の1つ、カナダ極北圏の先住狩猟採集民のイヌイトの存在論を近代の存在論と比較することで、多種多様な生命体がダイナミックにもつれ合う現実の宇宙という地平で多様な先住民の存在論と近代の存在論を対称的に理解することがどのような可能性を拓くのかを考えることである。そのために、本稿ではまず、イヌイトが実際の宇宙で実践している生業活動の現実にイヌイトの存在論と近代の存在論を位置づけて検討する。そして、そのどちらか一方が現実を正しく映し出し、他方が単なる空想の産物であるというわけではなく、どちらの存在論も、その真偽を直接に確認することはできないが、生業活動でイヌイトが実感している経験を妥当に説明しうるものであるという点で等価であることを確認する。そのうえで、そうであるにもかかわらず、イヌイトが近代の存在論ではなく、イヌイトの存在論を採択しているのは何故なのかを考えながら、この2つの存在論をイヌイトの生業システムに位置づけて比較し、これらの共通点と差異を析出する。最後に、この分析に基づいて、多様な先住民の存在論と近代の存在論を等しく位置づけ、多種多様な生命体がもつれ合う現実の宇宙のなかで存在論がどのようなメカニズムで機能しているかを探る局所的な関係論的生成論の視点が、人類学の未来にどのような展望を拓くのかについて考察する。

  • 人=ハチ関係からポリネーションの人類学へ
    大石 高典
    原稿種別: 特集
    2021 年 86 巻 1 号 p. 076-095
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/09/23
    ジャーナル 認証あり

    現代生態学によれば、地球の自然は異なる生物種どうしが競争するだけでなく、共生することによって作られる共生系と呼ばれるネットワークによって成り立っている。植物の花粉媒介のことをポリネーション(pollination)、それを担う動物のことをポリネータ(pollinator)という。ポリネーションでつながっている関係性の束のことを送粉共生系という。本論考では、森林を地上から支える送粉共生系に目を向けることで、脱人間中心主義を掲げる「人間以上の民族誌(more-than-human ethnography)」における「共生系」のアナロジーの可能性について検討する。日本列島は、在来種であるニホンミツバチと明治期に導入された外来種であるセイヨウミツバチが共に分布し、養蜂やポリネーション・ビジネスに利用されている点で独自の位置を占めている。長崎県・対馬、北海道・道北、東京都内で蜂を飼っている養蜂家に加え、ミツバチ研究者を訪ねて参与観察を含む聞き取り調査を行なったところ、「伝統的養蜂」か「産業養蜂」かにかかわらず、その種の視点から環境を見ることの重要性が語られた。また、飼っている種の如何を問わず、人とミツバチの関係には略奪的側面と伴侶種的側面の両方が見られた。産業養蜂家は、特に農業資材として群れを貸し出すポリネーション・ビジネスを貴重な収入源と認識しながらも、群れやミツバチ個体に及ぼされる損失に心を痛めている。国内の異なる文脈での調査から、人と2種のミツバチの関係をめぐって、蜜源植物を提供する景観、その景観を分かち合う野生動物、農家や林家、猟師などの主体、さらに科学者、行政を巻き込んだ種横断的なアソシエーション、あるいは「たぐい」が形成されていること、その間でさまざまな交渉が行なわれている様子が明らかになった。生態系の生存基盤をなしている共生系というネットワークを意味する生態学的概念のアナロジーを、経済のみならず社会文化にまで拡張することで、人と自然を捉える新たな視点を獲得できる。ミツバチやマツタケは、媒介者として種間の出会いに偶然性をもたらし、「たぐい」が生み出される。それによって種を超えたにぎわいを作り出すのである。

  • 人新世における自然=文化批評としてのマルチスピーシーズ民族誌
    近藤 祉秋
    原稿種別: 特集
    2021 年 86 巻 1 号 p. 096-114
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/09/23
    ジャーナル 認証あり

    本稿では、渡り損ねた夏鳥の「残り鳥」や遡上するサケをめぐるディチナニクの実践について報告し、彼らが他種との間に築く「刹那的な絡まりあい」について論じる。北方アサバスカン民族誌学の先行研究では、「人間と動物」の二者関係が記述の枠組みとなってきたが、本稿では「人間-動物-ドムス」の三者関係から考察することを試みる。「刹那的な絡まりあい」は、ディチナニクが他種の生存に対する配慮を怠らない一方で、その関係性が束縛と支配に変わることを未然に防止しようとするせめぎ合いの中で生じるあり方である。ハラウェイは、人間と他種の「絡まりあい」を論じる際に、「自然と絡まりあう先住民」のイメージを前提として、「自然から独立する白人男性=人間」観を批判した。本稿の結論はハラウェイの前提には再検討の余地があることを示している。マルチスピーシーズ民族誌は人間と他種の絡まりあいに関する微細な記述を通して、生態学や生物学の視点からは扱われてこなかった側面を描くことができる。マルチスピーシーズ民族誌家は、人類学者独自の視点を通して、生態学者や生物学者の「人新世」論とより積極的な対話を図るべきである。本稿では、マルチスピーシーズ民族誌がとりうるそのような方向性の一例として、北米の生態学者によって提起された人新世論である「ハイパーキーストーン種」について民族誌事例を通じて検討する。

展望論文
  • 「キリスト教の人類学」と近代
    飛内 悠子
    原稿種別: 展望論文
    2021 年 86 巻 1 号 p. 115-126
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/09/23
    ジャーナル 認証あり

    In the past, Christianity was viewed by some as a "Repugnant Cultural Other" in anthropology studies, while others believed it should fall within this field. Against the background of the self-reflection of anthropologists, the number of anthropological studies of Christianity increased rapidly around the 1990s; however, these studies essentially objectified Western Christianity, classifying non-Western Christianity as "Other". The "Anthropology of Christianity" began around 2000 by reflecting critically on the attitude of these studies, but is yet in a nascent stage and faces problems. Nevertheless, it has a certain significance in that it enables us to rethink modernity—even anthropology itself—because there remain certain dichotomies such as modernity and non-modernity, Western and non-Western, and secular and religious. As they also confuse these dichotomies, non-Western anthropologists could contribute to this process of rethinking by joining the "Anthropology of Christianity".

  • 高野 さやか, 中空 萌
    原稿種別: 展望論文
    2021 年 86 巻 1 号 p. 127-138
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/09/23
    ジャーナル 認証あり

    Legal anthropology has produced numerous studies on law and society, mainly focusing on the significance of customs and social norms other than state law. Represented by legal pluralism in the 1980s, which claimed the coexistence of multiple legal systems in a society, it has successfully relativized the power of state law. However, its uneven emphasis on customary law may have narrowed and limited its research subjects. This article attempts to revitalize the original broader question of legal anthropology on law and society by reviewing recent ethnographies targeting professional and technical legal practice. It elucidates that the study of "making of law" as professional practice mediated by physical/technical devices suggests the new critical understanding of "what law is" or the relationship between state law and customs, as well as opening interdisciplinary dialogues with the studies of "law and development" and "nudges".

レビュー
学会通信等
裏表紙等
feedback
Top