目的 : 医学生を対象に、疫学研究における倫理的問題についての意識を、公衆衛生学の講義の際の倫理に関する講義 (60分、2コマ) の前後で比較し、疫学研究における倫理教育のあり方の参考にする。
方法 : 医学部3年生を対象に、公衆衛生学の講義の際に質問票を用いて調査し、疫学と倫理に関する講義の前後の調査結果を比較する。
結果 :
1. 健康診断の際の健診に直接関係ないアンケート調査、血液検査に対しては、講義の前後とも、「同意の得られたものだけに行うのなら良い」と答えた者が7-9割を占め一番多かったが、講義の後で、「断りは不要」という者が減り、「してはいけない」という者が増え、2割になった。
2. 保存血液を用いた健診と直接関係ない血液検査については、「同意の得られた者だけに行うのなら良い」 (前 : 5割、後 : 6割) が一番多く、「無断で血液を保存していることは倫理的に問題がある」 (前後とも4割) が二番目に多かった。
3. 調査に必要以上の人に調査の参加を依頼することについては、講義の前では「特に問題ない」と答えた者が5割を占め、一番多かったが、講義後には2割に減り、「時間と費用、参加者の善意が無駄になるので、倫理的に問題である」と答えた者が2割から4割に増え、一番多くなった。
4. 必要以上の人に調査の参加を依頼し、残った血液を他の研究に利用することについては、「同意の得られた者だけに行うのなら良い」 (前後とも5割) と「してはいけない」 (前 : 4割、後 : 5割) と答えた者が多かった。
5. 健診で残った血液を用いた遺伝子検査に対する倫理的基準については「遺伝子検査は普通の血液検査よりも倫理基準を厳格にすべきである」と講義の前後とも答えた者が多かった (7割) 。
6. 研究結果の公表、研究の科学的合理性の確保、インフォームド・コンセントの受領、研究の倫理性の確保、個入情報の保護の5つのうち、疫学研究を行う際に大切だと思う順に番号をつけると、講義の前後で、一位が個人情報の保護から、研究の倫理的妥当性の確保に変わったものの、前後とも、個人情報の保護、インフォームド・コンセントの受領、研究の倫理的妥当性の確保が上位を占めた。
結論 : 医科人学関係者は、卒前・卒後教育を通じて、疫学研究の意義と方法、個人情報保護の仕組みと問題点の両方を良く理解してもらい、臨床や保健活動の現場で、適切な疫学研究が行われるように支援していく必要がある。
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