本稿では,米国のサブプライム危機から派生した欧州の金融・経済危機の構造的要因を分析している.構造的要因として,経済構造の相違があるままに単一通貨を導入したことや,金融統合によって欧州の金融機関の競争環境が激化したこと,そして中東欧諸国への EU 拡大などが挙げられ,それらを実証的に解明している.さらに欧州中央銀行,欧州委員会ならびに,各国政府が行っている危機対応の経済対策について展望している.
中東欧の経済危機の諸相を概観したうえで,バルト諸国,とりわけラトビアに焦点を当て,経済危機の原因を考察する.2004年の EU 加盟の前から賃金が急上昇した.金融面では北欧の銀行が進出し,シェア競争をし,消費ブームを煽った.すでに2005年には経済は過熱の兆候を見せていたが,政府の対応が遅れた.2007年春に引き締め政策に転じ,同年12月に経済は不況に陥ったうえに,2008年 9 月のリーマン・ショックが追い打ちをかけた.