犯罪心理学研究
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47 巻, 1 号
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原著
  • 近藤 日出夫, 高橋 久尚
    2009 年 47 巻 1 号 p. 1-19
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    わが国では,非行少年に対する司法的な意思決定を助けるため,構造化されたリスクアセスメントの作成が重要な課題となっている。本研究では,少年鑑別所を退所した1,080人の非行少年の再入状況を分析した。再入リスク要因を反社会的な態度,薬物乱用など7領域に分け,それぞれの領域ごとにCox比例ハザードモデルによる生存時間分析を行い,どのような要因が再入に影響を与えているかを探った。その結果,リスク要因として多くの静的,動的な因子を同定することができた。さらに,分析によって抽出されたリスク項目を用いて,リスクアセスメントのためのプロトタイプを作成し,一定水準の精度を得ることができた。考察では,今後,わが国において,実用的で,精度の高いリスクアセスメントを構築していくための方向性について検討した。

資料
  • 藤井 淑子
    2009 年 47 巻 1 号 p. 21-35
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    非行をしたことで受ける一連の法的措置による経験が,非行少年の更生にどのような影響を与えているか,保護観察対象者に半構造化面接を行って検討した。一連の法的措置は汎理論的モデルの変容ステージと対応すると想定し,更生するためにはまず適応的に振舞おうとする変化が生じていなければならないと考えられるため,変容ステージの初期の前熟考期や熟考期に焦点を当て,そこで有効とされていて非行に関連すると思われる変容プロセスの情動的喚起,再評価(自己再評価,環境再評価)を取り上げた。

    情動的喚起や再評価は,逮捕・勾留の間や観護措置の間の審判までの身柄が拘束されている間に起こりやすいが,そのときに行動変容しようと思うのは,自由にできないという身柄拘束に伴う効果もあるものの,一連の法的措置を経る中で周りから働きかけを受けて,少年自身が考えたり,これをきっかけに変わろうという構えを持つことの意味のほうが大きいと考えられる。また,どのような情動的喚起や再評価が起こるかについては,家族に関するもののほか,身柄拘束されたくないということや仕事のことも重要な意味を持つと考えられる。

  • 緒方 康介
    2009 年 47 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,被虐待児のP–Fスタディへの反応を分析することで,虐待の被害児童における攻撃性に関する知見を得ることを目的に実施された。調査対象として,児童相談所のケース記録の中から,P–Fスタディが実施されていた215名分(虐待群65名,比較群150名)の児童のデータが回顧的に抽出された。分析に際しては,まず初めに虐待群の平均値を標準化データにおける理論値(ノルム)と比較し,続いて比較群との群間における差異を検証した。ノルムおよび比較群との差異が両方有意であったものを虐待群の特徴ととらえ,多変量分散分析とボンフェローニの修正を施したt検定の結果から,虐待群ではI-AとGCRが高くE-Aが低いという知見が得られた。この分析結果に対して,自責傾向(I-A)の高さは他責傾向(E-A)を抑制した結果との解釈がなされ,GCRの高さは過剰適応のためであると考えられた。本研究知見と先行研究で得られている知見とを重ね合わせることで,被虐待児は虐待されるかもしれない環境下では攻撃性を抑制しており,虐待の恐怖が取り除かれると攻撃性を爆発させるという心理的な傾向を持つことが示唆された。

  • 平田 乃美, 大浦 宏
    2009 年 47 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,一般および少年鑑別所収容少年の学級環境に対する評価を扱うものである。一般中学生121名,少年鑑別所収容生徒87人を対象として,独自に構成した現実・選好フォームによる学級環境評価尺度を実施した。学級環境(現実/選好)と個人属性(一般群/非行群)を要因とした2要因分散分析の結果,「教師の支援」「学級での疎外感」「授業からの逸脱」「規律の乱れ」の因子において,一般中学生・少年鑑別所収容少年ともに現実・選好環境の間に有意な差が認められた。「教師の支援」「学業の負担」では交互作用が認められ,鑑別所収容生徒が一般中学生以上に,現実と選好する環境のギャップ(乖離)が大きく,教師との親密なかかわりや支援を求めていることや,学業の負担をより強く感じていることが明らかとなった。これらの結果は,Hunt (1975) の人間環境適合説に基づく主要な先行研究(Fraser & Fisher, 1983; Stern, 1970) の知見とも合致しており,現実・選好学級環境の評価手法が非行・逸脱行動の早期発見・予防のための生徒指導に活用できる可能性が示唆された。

  • 小俣 謙二
    2009 年 47 巻 1 号 p. 59-73
    発行日: 2009/07/31
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,高層住宅団地の防犯と安全にかかわる環境心理学的要因を明らかにすることを目的に,犯罪発生率,犯罪不安,リスク認知の高い高層団地の特徴を検討した。調査対象団地は56団地,回答者は成人女性である。その結果,以下の所見が得られた。1) 照明設備への住民の満足度が高いほど全犯罪の犯罪率,侵入窃盗・侵入の発生率が低い。2) 自転車盗難や車盗難などの乗り物に関する被害は立地場所の環境が整備されていない高層団地で多い。3) 性犯罪被害は郊外の,団地当たりの棟数が多い団地で多い。このように,犯罪発生率にかかわる要因は罪種によって異なることが見いだされた。一方,4) 犯罪不安やリスク認知には照明設備への満足度が強くかかわっていた。すなわち,不安場所数や夜間の不安は照明満足度を高めることで改善されることが結果からみてとれる。同様に,4罪種中3罪種のリスク認知にも照明設備への満足度が関係していた。こうした本研究の結果はさらに検討を要するが,今後のわが国での高層住宅への需要を考えると,住環境の防犯政策を考えるうえで重要な意味をもつものと考えられる。

展望
文献紹介
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