犯罪心理学研究
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47 巻, 2 号
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資料
  • 財津 亘
    2010 年 47 巻 2 号 p. 1-14
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,連続放火事件のベイジアンネットワーク(BN)モデルを構築し,犯罪者フロファイリングを想定したモデルの精度を検討した。モデル精度の検証は,窃盗歴と就業状態の推定を通じて行った。BNは,現象の因果関係を条件付き確率の連鎖ネットワークによって表し,未知の現象に関する可能性を確率で算出することができる。詳細な手続きや結果は次のとおりである。まず,探索アルゴリズムの一つであるK2アルゴリズムおよび情報量基準の一種であるMDL (minimum description length) を用いて,学習用データ(518名)を基にBNモデルを構築した。その結果,放火犯の窃盗歴は放火後の通報という行動や駐車場などの放火現場といった変数と関連性がみられた。さらに,就業状態は車両の使用と関連性がみられた。第2に,検証用データ(未解決事件と想定した30名のデータ)を用いてモデルの精度を検証した。その結果,窃盗歴に関する精度は80%と高かった。しかし,就業状態に関する推定精度は50%であった。より精度を高めるためには,より正確な情報のデータペースを使用し,さまざまな探索アルゴリズムや情報量基準を用いることで,モデルを試行錯誤して構築していく必要がある。

  • 笹竹 英穂
    2010 年 47 巻 2 号 p. 15-31
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    女子大生の防犯意識の形成について,特に抑うつの影響に焦点を当てて明らかにすることを本研究の目的とした。平成15年4月にA女子大学の女子学生2~4年生計878名に対して調査を実施した。調査内容は,抑うつ尺度として用いた日本版GHQ30精神健康調査と,防犯意識の形成についての基本モデル(笹竹,2008)で使用されている質問項目である。分析の結果,抑うつは犯罪不安と犯罪情報への関心の関係性を抑制する一方で,犯罪情報への関心と防犯意識の関係性を克進させることが示された。また防犯意識を従属変数とし,抑うつと犯罪情報への関心を独立変数とする2元配置分散分析を行った。その結果交互作用が有意であり,抑うつ高群は抑うつ低群と比較して防犯意識は低いものの,抑うつ高群のなかで犯罪情報への関心の高い者は,防犯意識を高く持つことができることが示された。これらの結果について,精神活動抑制(制止)や自己注目の概念を用いて考察が行われた。

  • 藤野 京子
    2010 年 47 巻 2 号 p. 33-46
    発行日: 2010/02/28
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,児童虐待の経験を乗り越えていくプロセスを明らかにすることを目的とした。そのため,児童のころ親から虐待を受けた経験を有しながらも,調査時点においては自身を主観的に幸福であると感じている30歳代の女性16名を対象に,その被虐待経験によってどのような影響を受け,さらにどのような経過をたどって今日に至っているのかについて,当事者の視点から明らかにすることを試みた。半構造化面接による面接調査を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析を行った。その結果,虐待されても当初はその行為を十分問題視できないものの,それが不当であると気づくことが,受身の被害者のままでいることからの脱却の試みにつながること,また,虐待への恐怖心が少なくなるにつれ,虐待がなぜ生じたかを多角的視点から理解しようとし,虐待をしてしまう親に対する洞察も深められるようになっていくことが明らかになった。加えて,虐待場面のみならずそれ以外の生活場面も含めて,自己効力感に気づけるような体験をすることが,社会適応を促す原動力となっていることも明らかになった。なお,虐待を受けなくなって以降も,虐待を受けたことや虐待を受けた自身に対する内的処理が変容していくことが示された。

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