犯罪心理学研究
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48 巻, 1 号
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資料
  • 渕上 康幸
    2010 年 48 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2010/08/25
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    発達障害は非行のリスク因と考えられているが(発達障害→非行),すべての発達障害者が非行に走るわけではない。また,虐待が非行の先行要因であることは多くの研究により明らかにされているが,虐待の先行要因についての知見は之しく,未然防止のための手がかりが不足している(?→虐待→非行)。本研究では,虐待の先行要因として発達障害を想定した(発達障害+虐待→非行)。むろん,すべての被虐待児が非行に走るわけではなく,不適切な養育経験にかかわらず,非行に走らない者もいる。こうした個人内の保護因を説明する概念として近藤(2004)による「非行抑制傾向」を想定した(虐待→非行抑制傾向≠非行)。これらの関連を明らかにするため,アナログ研究の手法による自己記入式の質問紙を用いて,全国の少年鑑別所入所者を対象とする横断調査を実施した。有効な回答を得られた1,842名(うち女子250名)について,男女別に構造方程式モデリング(SEM)による因果推論を行った結果,小学生時の反抗挑戦性障害(ODD)傾向が強いほど,家族からの暴力や放任といった不適切な養育経験を有しており,不適切養育経験は素行障害(CD)傾向を高めるリスク因であることを示す因果連鎖が認められた。また,罰感受性や罰回避性,抑制性といった個人内の非行抑制傾向は,CD傾向を低減する保護因であった。加えて,非行抑制傾向は,不適切養育経験には左右されず,静的保護因の可能性が示唆された。齋藤・原田(1999)が提唱する破壊的行動障害の連鎖モデルに,不適切養育経験と非行抑制傾向という変数を加えると,ODDからCDへの因果連鎖は消失した。ODDがCDへ移行するか否かの鍵を握るのは,不適切養育経験と非行抑制傾向であり,これらに介入することで,破壊的行動障害の連鎖が断ち切られる可能性が示唆された。

  • 緒方 康介
    2010 年 48 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2010/08/25
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は児童相談所で出会う身体的虐待被害児における知能の偏りを調査することである。児童相談所のケース記録から抽出された身体的虐待群58名と,マッチング法により性別(男児41名,女児17名),年齢(月齢139カ月),全検査IQ(平均86)を統制された対照群58名のデータにおけるWISC-IIIの下位検査プロフィールを比較分析した。まず身体的虐待群の全下位検査評価点がノルムよりも低いことを1サンプルのt検定で確認した。その後,多変量分散分析によって10の下位検査における全体的な群間差が検出された。つづいてボンフェロニーの修正を施したpaired-t検定,ロジスティック回帰分析,判別分析の結果,いずれにおいても絵画完成と絵画配列における群間差が示された。対照群に比べて身体的虐待被害児は,絵画完成課題で高く,絵画配列課題で低い評価点であった。最後に全下位検査評価点の平均値と2つの下位検査評価点を比較すると,身体的虐待群で絵画配列が低く,対照群で絵画完成が低いという有意傾向が得られた。本研究知見の臨床実践上の意義について,身体的虐待被害と絵画完成および絵画配列に関する知的能力との関連,身体的虐待と非行との関連という観点から考察した。

  • 渕上 康幸
    2010 年 48 巻 1 号 p. 21-34
    発行日: 2010/08/25
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    ADHDから反抗挑戦性障害(ODD),さらに素行障害(CD)へ至るDBDマーチの経路の途中に,家族との関係性や共感性といった要因を媒介させた逐次的モデルが成り立つか否かを検討するため,DSMの診断基準項目やDavis (1983)の多次元共感測定尺度等を用いて,少年鑑別所入所者を対象とした横断的,回顧的な自己記入方式の質問紙調査を実施した。有効な回答を得られた1,842名(うち女子250名)について,男女別に構造方程式モデリングを行った結果,①ADHD傾向→ODD傾向→CD傾向といった因果関係の流れは大筋において支持された。②総じてADHD傾向が強いほど,放任や虐待といったネガティブな家族との関係性が認められた。ただし,ADHDの亜類型の違いにより,ネガティブな家族との関係性の有様は異なっていた(多動衝動→虐待,不注意→放任)。③放任や虐待はCD傾向を高め,非行初発年齢を引き下げるリスク因であった。④共感性の「視点取得」は非行初発年齢を引き上げる保護因であった。⑤男子では放任は「視点取得」を低下させるリスク因であった。⑥男子では不注意傾向を強く自認するほど,共感性の「視点取得」は低く,逆に「個人的苦悩」は高かった。

  • 板山 昂, 桐生 正幸
    2010 年 48 巻 1 号 p. 35-49
    発行日: 2010/08/25
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,少年による殺人に対する大学生の原因帰属について,その被害者の属性と事件状況の違いによる相違の有無を明らかにすることにあった。

    大学生312名を調査対象者とし,質問紙調査を実施した。

    本研究では,少年による殺人事件において,犠牲者の属性(肉親,同級生,および他人)に基づいた3つの状況を設定し,6つの原因の領域(人格,家庭,友人,学校,地域,社会)を用い原因帰属を検討した。

    分散分析の結果,状況による原因帰属の違いが明らかになった。母親が被害者の場合では,家族関係の悪さに特徴的に強く原因帰属を行い,同級生が被害者の場合では,友人とのコミュニケーションの不足と学校の問題に特徴的に強く原因帰属を行っていた。さらに,他人が被害者の場合では,少年の人格問題および家族関係の悪さに特徴的に強く原因帰属を行うことが明らかとなった。

    本研究によって,犠牲者属性による状況の違いでの,少年による殺人に対する原因帰属の相違点が明らかとなった。

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