日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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ISSN-L : 0385-7883
34 巻, 1 号
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原著
  • 佐藤 美信, 前田 耕太郎, 花井 恒一, 小出 欣和, 船橋 益夫, 安形 俊久
    2009 年 34 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     11年間に経験した40歳未満の大腸癌22例を若年者大腸癌と定義し,非若年者大腸癌(40歳以上85歳未満)と比較し,若年者大腸癌の臨床病理学的特徴と治療成績向上の方策について検討した.若年者群の主訴は排便時出血が多く,平均病悩期間は9.2月であった.若年者群は女性例,リンパ管侵襲高度陽性例,N2以上のリンパ節転移陽性例,stage IIIb症例が非若年者群に比べて有意に高率であった.根治度Aの手術施行率は両群間に差を認めないものの,若年者群の再発率は非若年者群に比べて有意に高率で,stage IIIbでは有意に予後不良であった.再発形式では肺再発が有意に多かった.若年者大腸癌の予後向上のためには,排便時出血を認めた際には早期に受診するよう若年者への啓蒙に努め,できるだけ早期に癌を発見し,病期の早い段階で十分なリンパ節郭清を含めた治癒切除を行うことが重要で,術後は肺再発を意識したサーベイランスを行うことが必要と考えられた.
  • 角田 明良, 松井 伸朗, 渡辺 誠, 中尾 健太郎, 草野 満夫
    2009 年 34 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     大腸癌患者80例を対象に,European Organization for Research and Treatment of Cancerのquality of life (QOL)調査票であるQLQ-C30(C30)とHospital Anxiety and Depression Scale (HADS)を用いて,術前後のQOLを調査し,術後QOLを予測する因子を解析した.各尺度の術前後値を比較すると,C30の"physical function(F)"と"role F"およびHADS-Anxiety(A)は術後有意に低値であったが,"emotional F""fatigue"と"pain"は術後有意に高値であった.術後1カ月目のQOLを予測する因子として,"global QOL","physical F","role F","fatigue","dyspnoea"およびHADS-Depression(D)はそれぞれの術前値が選択された."cognitive F","emotional F","social F","diarrhoea"およびHADS-AはHADS-Dの術前値が選択された.以上より,術前のC30と抑うつの要素が術後1カ月のQOLを予測する因子として重要と思われた.
臨床経験
  • 梶 理史, 原田 信比古, 鈴木 修司, 鈴木 衛
    2009 年 34 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     目的:原発性虫垂癌の臨床病理学的特徴について検討した.方法:過去4年間に当院で経験した4例の原発性虫垂癌に他6施設52例を加えた56症例に対し,主訴,術前診断,術式,組織型,深達度,病期,累積5年生存率について検討した.結果:虫垂癌の正診率は22%であった.組織型は腺癌34例(60%),粘液嚢胞腺癌21例(38%),深達度は SS以深の症例が46例(82%)と大半を占めた.病期はStage IIIa~IVが52%と過半数であった.累積5年生存率は,組織型別では腺癌65.1%,粘液嚢胞腺癌51.3%,病期別では,Stage 0:100%,Stage I:100%,Stage II:80.0%,Stage IIIa・IIIb:47.6%,Stage IV:15.0% (p<0.05)であった.結語:多くは進行癌で,予後の向上には早期発見が必須であるが,現状では有用な方法はなく今後の課題である.
  • 椿 昌裕, 伊藤 友一, 藤田 昌紀, 渡辺 理, 砂川 正勝
    2009 年 34 巻 1 号 p. 22-26
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     大腸憩室手術症例の治療成績を検討した.対象は1994年6月から2004年2月までに当科で手術された大腸憩室疾患19例である.男性10例,女性9例,平均年齢56.9歳.憩室の存在部位は右側結腸10例,左側結腸9例であった.緊急手術が12例と多くを占めていたが,右側結腸憩室炎では術前虫垂炎と診断された症例が6例みられ,腹部CT検査が施行された症例は1例のみであった.汎発性腹膜炎を呈した3症例については原因となった憩室存在部位の腸管を切除したハルトマン手術を行った.この3症例を含め18例が軽快退院し,脳梗塞で他病死した症例を除いた17例の予後は良好であった.
     大腸憩室炎に際しては,右側結腸憩室炎は保存的治療を第一選択とし,汎発性腹膜炎を呈した症例ではハルトマン手術を行うべきである.
  • 境 雄大
    2009 年 34 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     大腸癌穿孔5例の臨床所見,検査所見を後方視的に評価し,その特徴を検討した.平均年齢68.0歳,男性3例,女性2例,癌の占居部位はS状結腸2例,直腸3例,癌部穿孔2例,口側穿孔3例であった. CTが診断に有用であった.術式はHartmann手術3例,人工肛門造設術2例であった.組織型は高分化腺癌3例,低分化腺癌1例で,進行度はStage IVが4例であった.腹膜炎は汎発性3例,限局性2例であった.白血球数は全例4,000/μl以上であった.初診時のAPACHE II スコアは平均9.8であった.術後30日以内の死亡例はなかった.術後合併症として創感染2例,腹腔内膿瘍2例を認めた.大腸癌穿孔では患者背景,受診までの期間,腹腔内の汚染状況,全身状態,癌占居部位・穿孔部位を考慮して術式を決定すべきである.手術関連死亡例はなく,急性期の予後は良好であったが,特に口側穿孔例では創感染の合併頻度が高く,術中感染対策に工夫が必要であると考えられた.
症例報告
  • 合川 公康, 宮澤 光男, 田渕 悟, 石井 利昌, 岡田 克也, 岡本 光順, 小山 勇, 二反田 博之, 金子 公一
    2009 年 34 巻 1 号 p. 32-36
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は40歳,男性.2006年11月,胸腺腫瘍に対し,拡大胸腺摘出術を施行された.摘出腫瘍は,当初WHO分類Type B3,正岡の病期stage IIの胸腺腫と診断されていた.2007年11月経過観察のための全身検索を施行し,肝S1に,径3cm大の腫瘤を認め,胸腺腫由来の転移性肝腫瘍と診断した.肝S1と術中エコーで認められたS6の2カ所に対して,肝部分切除を行った.病理学的に,以前摘出した腫瘍と類似していたが,臨床経過を考慮すると,胸腺癌の診断が妥当と考えられ,訂正された.3カ月後のCTで多発肝転移を認め,全身化学療法を施行し経過観察中である.胸腺癌を含めた胸腺上皮性腫瘍の再発形式は,局所または胸腔内再発が主で,血行性転移は少ないとされているが,血行性転移のうち肝転移は肺と同等もしくは多いとの報告もあり注意を要する.胸腺癌肝転移の報告は少なく,切除の適応に関しては,今後症例を集積し検討が必要である.
  • 鈴木 修司, 梶 理史, 原田 信比古, 鈴木 衛
    2009 年 34 巻 1 号 p. 37-41
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は49歳,男性.1カ月前からの空腹時心窩部痛,左背部痛を主訴に当院受診.精査にて多発食道癌,胃癌,多発リンパ節転移の診断で,術前化学療法として5-FU,CDDPによる化学療法を施行した.化学療法1コース後手術は右開胸開腹胸部食道亜全摘,胃全摘,縦隔内食道空腸Roux-en Y吻合を施行した.病理では胃の病変は食道癌のリンパ節転移の胃浸潤であった.術後一時食物通過障害認めたが,退院となった.退院後7日後から食物通過障害症状再燃し,再入院となった.食道透視検査にて吻合部肛門側の空腸の長い範囲の狭窄を認めた.内視鏡検査では吻合部肛門側の空腸が全周性に粘膜脱落,狭窄を認めた.内視鏡下ブジーを2回施行したが,症状の改善なく,カバードステントを挿入した.これにより食事摂取が可能となった.その後腹膜播種となって5カ月後死亡したが,それまでステントの開存が確認され,食事摂取が可能であり,良好なQOLを認めた.
  • 田中 雄二朗, 羽生 信義, 西川 勝則, 岩渕 秀一, 阿部 光文
    2009 年 34 巻 1 号 p. 42-45
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は59歳,女性.近医にて貧血加療中,胃噴門部に腫瘤を指摘され当科に紹介された.上部消化管内視鏡検査にて,食道下端から胃内に懸垂する表面が小結節状の黒色亜有茎性腫瘍で,生検で悪性黒色腫と診断された.手術は右開胸開腹胸部食道亜全摘,胸腔内胃管再建術を施行した.術後病理組織学的所見はpT2(MP),N2,stage IIIであったため,術後補助療法としてDAV療法(ダカルバシン,ニムスチン,ビンクリスチン)および放射線療法60Gyを行った.術後6カ月目に肝転移が認められ,DAC-Tam療法(ダカルバシン,ニムスチン,シスプラチン,タモキシフェン)に変更,また免疫療法および放射線療法を行ったが,術後1年5カ月目に死亡された.原発性食道悪性黒色腫は稀であり,手術療法に加え補助療法が行われるケースが多いが予後不良な疾患である.今後化学,放射線治療や他の治療法を含めた集学的治療法を検討していく必要性がある.
  • 星野 真人, 志田 敦男, 瀧 徹哉, 二川 康郎, 藤岡 秀一, 保谷 芳行, 岡本 友好, 矢永 勝彦
    2009 年 34 巻 1 号 p. 46-50
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は78歳,男性.既往歴および家族歴は特記すべき事項は認めなかった.2007年8月に健康診断の上部消化管内視鏡検査にて胃体上部に壁外性の圧排を認め,腹部CTにて胃体上部大彎側と膵尾部に接するように直径5.0×7.0cmの嚢胞性腫瘤を認めるも無症状のため経過観察していた.12月初旬上腹部圧迫感出現し,当院外科紹介受診となった.腹部造影CTにて胃体上部後壁および膵体尾部の間に直径12×10cmの境界明瞭で内部構造一部充実性の嚢胞性腫瘤を認めた.MRIでも同様の所見であった.以上より膵原発の嚢胞性病変もしくは胃原発の間葉系腫瘍の診断で手術を施行した.開腹所見で胃原発の間葉系腫瘍と診断し,脾臓摘出および胃部分切除術を施行した.病理所見においてc-KITおよびCD34は陽性でありGISTと診断した.術後経過は良好で第20病日に退院した.嚢胞化したGISTは予後不良なことが多く,早期の摘出が望ましいと考えられた.
  • 松澤 岳晃, 梨本 篤, 藪崎 裕, 中川 悟
    2009 年 34 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は77歳の女性.2000年9月に胃癌に対して胃全摘,膵体尾部・脾合併切除,D2リンパ節郭清を施行しRoux-en Yで再建した.最終診断は2型胃癌(MUL:14.0×13.0cm,por1,pT4 (膵体尾部),pN2,H0,P0,CY0,M0,f Stage IV)で根治度Bであった.術後の補助化学療法はMF療法を計30コース施行したが,CEA,CA19-9が変動したため10コース目からUFT 300mg/dayを併用投与し,MF療法終了後もUFTは継続した.その間明らかな転移所見はなく,術後5年でUFTを終了した.術後7年2カ月の腹部骨盤CTで腹部大動脈周囲リンパ節の腫大を認め,同リンパ節の単独再発と診断した.その2カ月後に腫大したリンパ節を周囲神経叢および左副腎とともに切除し,病理診断で胃癌のリンパ節再発(2/3)を確認した.以上,根治術7年後の腹部大動脈周囲リンパ節単独再発を根治切除し得た1例を経験したので報告する.
  • 若杉 正樹, 梅村 彰尚, 南村 圭亮, 堀 孝吏, 菊一 雅弘, 平田 泰, 坂本 昌義
    2009 年 34 巻 1 号 p. 56-60
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は,甲状腺乳頭癌の既往がある70歳,男性.胃内視鏡検査で,体上部大彎に2cm大の粘膜下腫瘍様隆起性病変を認めた.生検では高分化型管状腺癌であり,胃GIST(gastrointestinal stromal tumor)や転移性胃癌は否定され,胃粘膜,異所性膵,等より発生した胃原発癌と思われた.また,膵尾部に壁在隆起を伴う3cm大の多房性嚢胞性腫瘍を認めた.以上の所見から,胃癌,膵IPMN(intraductal papillary mucinous neoplasm),胆石症の診断で胃局所切除術,膵体尾部切除術,胆嚢摘出術を施行した.病理組織診断は,胃憩室の粘膜内に主体のある高分化型管状腺癌であり,膵腫瘍は漿液性嚢胞腺腫であった.胃憩室内から発生し,粘膜下腫瘍の形態を呈した胃癌の報告は稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 石井 正嗣, 宮崎 達也, 石橋 敬一郎, 石田 秀行, 豊住 康夫, 糸山 進次
    2009 年 34 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     幽門下リンパ節転移を伴った多発胃粘膜癌の興味ある1例を経験したので報告する.症例は57歳,男性.胃潰瘍に対する内服治療と経過観察を他院で11年間受けていた.スクリーニングで施行した腹部超音波検査で膵頭部前面(幽門下)に径6cm大のmass lesionを認めたため,当院紹介入院となった.胃内視鏡検査で胃角部に0-IIa型(病変A),幽門前庭部に0-Is型(病変B)の胃癌を認めた.開腹所見では径6cm大に腫大したリンパ節転移を認め迅速病理診断で低分化腺癌の診断であり,幽門側胃切除術(D1+β)を行った.組織学的には術前診断されていた2箇所の病変(病変A:25mm,pap,病変B:6mm,tub1+por1)のほかに,胃角部にも0-IIa型で7mm大のtub1(病変C)を認め,全病変が粘膜癌であった.腫大した幽門下リンパ節のみに低分化腺癌の転移を認め,組織型から推察すると0-Is型病変(病変B)からの転移が疑われた.術後1年10カ月経過した現在,再発の兆候は認めない.
  • 亀山 哲章, 冨田 眞人, 三橋 宏章, 松本 伸明, 矢作 芙美子
    2009 年 34 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は24歳,男性.吐下血が出現し,当院内科を受診,上部内視鏡検査にて十二指腸球部前壁に出血性腫瘍を認め,入院となった.CT,エコーでは腫瘍を同定できず,MRIでは1.5cm大の腫瘍を認め,拡散強調像が腫瘍性病変の同定に有用であった.超音波内視鏡では腫瘍内血流の豊富な腫瘍を認め,十二指腸GISTと診断した.手術は術中内視鏡併用の腹腔鏡下十二指腸局所切除術(完全鏡視下)を施行した.免疫組織学的所見では,c-kit,CD34が陽性,SMA,S100,クロモグラニンAは陰性であり,GIST, uncommitted typeと診断した.大きさが2cm以下であり,mitosisもほとんどみられず極低危険群と診断した.術後経過は極めて良好であり,腹腔鏡下手術が有用であったと考えられた.
  • 天野 邦彦, 宮崎 達也, 崎元 雄彦, 石畝 亨, 石橋 敬一郎, 石田 秀行, 小澤 文明, 糸山 進次
    2009 年 34 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     十二指腸球部癌は比較的稀な疾患である.幽門狭窄を生じる頻度が低いため,十二指腸潰瘍との鑑別を要することは少ない.今回,十二指腸潰瘍の長期経過観察中に幽門狭窄をきたした十二指腸球部癌の1例を経験したので報告する.症例は62歳,男性.20歳代から十二指腸潰瘍に対し,内科的治療を行っていたが,軽快・再燃を繰り返していた.3年前の潰瘍病変の生検では悪性所見を認めなかった.嘔吐を主訴に当院内科を受診したところ,幽門狭窄と診断され入院した.上部消化管内視鏡検査で幽門狭窄と前庭部の変形を認めた.盲目的に行った球部の生検ではびらんと再生上皮を認めるのみであった.難治性十二指腸潰瘍による幽門狭窄の疑いで開腹したが,術中迅速組織診断で十二指腸断端に腺癌が認められたため,膵頭十二指腸切除術を施行した.術後1年2カ月経過した現在,明らかな再発を認めず,健存である.
  • 淺野 博, 荻野 直己, 大原 泰宏, 多賀 誠, 美濃島 卓哉, 小川 展二, 篠塚 望
    2009 年 34 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は25歳,男性.3日前からの腹痛を主訴に近医受診し腸重積の診断で当科紹介となった.来院時の腹部所見は右側腹部に強い圧痛と筋性防御を認めた.CTで上行結腸の部位に同心円状の層構造をもつ腫瘤が確認されたため,腸重積の診断で緊急手術となった.開腹すると回盲部を先進とした腸管が上行結腸まで重積していた.重積を解除したところ腸管の血流は良好で壊死は認めず,触診上腸管内に器質的疾患は触知しなかったため腸切除は行わなかった.術後経過は良好で,術後施行した注腸検査でも器質的病変は認められないため退院となった.成人腸重積は比較的稀な疾患であるが,小児の腸重積と異なり腫瘍などの器質的疾患に伴って二次的に起こるものが多く,手術による重積腸管の切除が一般的である.今回われわれは腫瘍などの器質的疾患が認められず,腸切除を行わずに治療した腸重積を経験したので文献的考察を含めて報告する.
  • 矢川 陽介, 小林 慎二郎
    2009 年 34 巻 1 号 p. 81-85
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     虫垂結石症は稀な病態であるが,虫垂炎を発症すると重症化しやすく拡大手術が施行される場合もある.われわれは,巨大な虫垂結石を伴ったが軽度の炎症にとどまり,腹腔鏡下に施行した虫垂炎の1切除例を経験したため報告する.症例は59歳,男性,右下腹部痛で来院.同部に軽度の圧痛を認めたが,血液検査上,炎症反応はなかった.腹部X線で骨盤腔に輪状構造を伴う巨大石灰化像を認めた.腹部US,CTで腫大した虫垂内に石灰化像を確認し,虫垂結石を伴う虫垂炎と診断,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.結石は虫垂先端に存在し,30mm大,指圧で壊れず,割面は輪状構造を呈していた.病理組織学的診断は化膿性虫垂炎であった.術後33カ月,合併症なく経過している.本症例は,巨大な虫垂結石を伴ったが虫垂先端に存在したため炎症が軽度であったと考えられた.本症の重症化の指標は,結石の大きさよりも存在部位に依存すると考えられた.
  • 深田 一平, 大目 祐介, 池田 博斉, 守本 芳典, 河本 和幸
    2009 年 34 巻 1 号 p. 86-90
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     特発性S状結腸穿孔に伴い,後腹膜から皮下,縦隔まで広範に気腫を形成した1例を経験したので報告する.症例は73歳,男性,2006年2月下旬腹部膨満を自覚したために近医を受診.CTにて腹腔内遊離ガスと前胸部皮下,縦隔および後腹膜気腫を指摘され,当院救急外来に搬送された.来院時下腹部全体の腹膜刺激症状と頸部から前胸部に皮下気腫を認めた.S状結腸穿孔の術前診断で緊急手術(ハルトマン手術)を施行した.S状結腸腸間膜側の穿通により後腹膜膿瘍と気腫をきたし,腸間膜の一部が破綻したため腹膜炎を起こしたものと判断した.病理組織学的に特異的な所見はなく特発性S状結腸穿孔と診断した.術後経過は良好であり,術後第58病日に退院した.
  • 荒瀬 光一, 平田 敬治, 中山 善文, 永田 直幹, 山口 幸二
    2009 年 34 巻 1 号 p. 91-95
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     機能的端々吻合(functional end-to-end anastomosis;FEEA)術後に吻合部再発をきたしたS状結腸癌の1例を経験したので報告する.症例は85歳,女性,2006年5月S状結腸癌に対しFEEAを用いたS状結腸切除術を施行した(S, 1型, 30×20 mm,mp,n0,H0,P0,M0:stage I ).術後13カ月後に下血を認め,下部消化管内視鏡検査およびCT検査で吻合部に隆起性病変を認めた.2007年9月初回手術時の吻合部を含めた直腸S状結腸切除術を施行した.病理組織検査では,吻合部を中心に発育する初回手術時と同様の中分化型腺癌がみられ,吻合部再発と診断した.直腸癌手術時には吻合部再発予防として器械吻合前の腸管内洗浄が一般的であるが,結腸癌に対するFEEAでも腫瘍細胞のimplantation予防のため,吻合前に腸管内の清拭などの予防策が必要と思われる.
  • 斉藤 光徳
    2009 年 34 巻 1 号 p. 96-99
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は72歳,男性.LST型の直腸腫瘍に対しESD目的に入院した.内視鏡的にアプローチを開始したが,粘膜下層の剥離困難にて断念した.翌日,下腹部痛のほか前胸部の疼痛を訴え触診すると,体幹部の広範囲に握雪感を触れ,CT検査では陰嚢から後腹膜,腹壁,胸壁,縦隔,頸部に至るまでの全身に気腫を呈していた.直腸壁は浮腫性肥厚と炎症性変化を伴っており,血液検査では炎症反応の上昇を認め,また発熱も生じたため,緊急手術を施行した.腫瘍は直腸Ra後壁に位置しており,気腫はESDの剥離操作により後腹膜へ穿通し,そこから送気により全身に拡がったものと判断した.手術は腫瘍と穿通部を含む直腸部分切除とし,一期的吻合を行った.一方,全身気腫は保存的に治療した.
  • 加藤 孝章, 片桐 聡, 吉利 賢治, 有泉 俊一, 小寺 由人, 高橋 豊, 山本 雅一
    2009 年 34 巻 1 号 p. 100-104
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は43歳,男性.C型慢性肝炎,アルコール性肝障害で近医にて経過観察中,腹部超音波検査でS2/3に46mmの低エコー結節を認めた.腹部CTは単純相で低吸収域,動脈相で強く濃染され,平衡相で低吸収域となる境界明瞭な4cmの腫瘍であった.HCV抗体陽性で,腫瘍マーカーは正常であった.2005年12月,肝細胞癌の診断にて外側区域部分切除術を施行した.肉眼所見では被膜を伴い,境界明瞭で膨張性に発育する軟らかい4.2×3.0cmの黄褐色調の腫瘍であった.病理組織学的所見では非結節部は肝硬変で,結節部に肝細胞の異型はみられず,動脈系の血管を認めた.正常の索構造,類洞の拡張を呈し,多核好中球が浸潤していた.以上よりアルコール性肝硬変に発生した過形成結節と診断した.アルコール多飲者の径4cmの過形成結節は稀であり,肝細胞癌と術前鑑別困難であった1例を経験したので報告する.
  • 樋口 亮太, 片桐 聡, 太田 岳洋, 濱野 美枝, 竹下 信啓, 梶山 英樹, 谷澤 武久, 新井田 達雄, 安田 秀喜, 山本 雅一
    2009 年 34 巻 1 号 p. 105-111
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     肝細胞癌リンパ節転移再発は比較的稀な再発様式である.今回われわれは肝切除後の腹腔内孤立性リンパ節転移再発に対し2回の摘出術を施行し得た1例を経験したので報告する.60歳代,男性,1997年2月に肝細胞癌に対し肝外側区域切除術を施行した.病理所見では中分化型肝細胞癌,vp1,vv0,im0,非癌肝は慢性肝炎であった.3年後の2000年4月に膵体部上縁径5cm大の,5年後の2002年4月に膵体部下縁に径3cm大の孤立性リンパ節転移再発を認め,2度のリンパ節摘出術を施行した.病理所見ではいずれも中分化型肝細胞癌であった.治療を継続したが2回目のリンパ節摘出術から3年7カ月後(初回リンパ節摘出から5年7カ月後)の2005年11月に,残肝再発,骨転移のため癌死した.肝細胞癌術後の孤立性リンパ節転移再発に対し2回の切除を行い得た報告はなく貴重な症例と思われ,若干の文献学的考察を加え報告する.
  • 池田 博斉, 河本 和幸, 大目 祐介, 深田 一平, 守本 芳典
    2009 年 34 巻 1 号 p. 112-116
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     門脈大循環短絡による肝性脳症は猪瀬型肝性脳症と呼ばれている.症例は73歳,女性.記銘力低下および手指振戦が出現し,脳血管性痴呆および症候性てんかんと診断され経過観察されていたが,意識消失にて当院に救急搬送された.血性アンモニア値が472μg/dlと高値を示し,CTにて下腸間膜静脈―左卵巣静脈短絡路が認められたため,猪瀬型肝性脳症と診断した.内科的治療により脳症は改善したものの,アンモニア値は正常化しなかったため短絡路閉鎖術の適応と判断した.当初IVRによる短絡路閉塞術を試みたが,短絡路の完全閉塞に至らず,外科的に短絡路閉鎖術および静脈瘤切除術を施行した.術後アンモニア値は正常化し,経過良好であった.門脈大循環短絡路の閉塞術において現時点ではIVRが第一選択となりうるが,IVRで閉塞に至らない例に対しては現在もなお外科手術が有用であると考えられた.
  • 安藤 敏典, 菊池 淳, 田中 直樹
    2009 年 34 巻 1 号 p. 117-120
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/03/30
    ジャーナル フリー
     症例は71歳,男性.胆嚢結石症にて腹腔鏡下胆嚢摘出術(以後ラパ胆)を施行した.10mmポート孔の臍上部および剣状突起の創は,それぞれ筋膜を縫合閉鎖し手術終了した.術後第4病日腸閉塞を発症し一時改善するも,第9病日再度腸閉塞を来した.臍上部ポート部に軽度の圧痛を認め,腹部超音波検査にてポート部直下にhypoechoic massを認め,腸管が疑われた.腹部CT検査にて正中創に嵌頓する小腸を認めたため,Richter型ヘルニアの診断で手術を施行した.小腸が腸間膜側中心に嵌頓するも,血流障害がないため腸切除なく手術終了した.術後経過は良好で退院となった.本症例は,十分に腹膜と筋膜を縫合できていなかった可能性が考えられ,確実な筋膜縫合閉鎖が必要と考えられた.
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