日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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34 巻, 4 号
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原著
  • 勝木 健文, 小西 鉄巳, 永田 貴久, 鶴留 洋輔, 中山 善文, 山口 幸二
    2009 年 34 巻 4 号 p. 549-555
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     【目的・方法】色素法単独によるセンチネルリンパ節(SLN)生検の有用性を検証するため,2001年7月から2006年2月に根治手術を施行した原発性乳癌101例を対象に本法によるセンチネルリンパ節生検とバックアップ腋窩リンパ節郭清を施行した.色素はインジゴカルミンを使用し,その成績を検討した.【結果】101例中89例(88.1%)でSLN同定が可能で,高齢者では同定率が低率であった.又同定率は前半(50例)の84.0%に対して後半(51例)は92.2%と向上し,学習効果が認められた.SLN転移陰性でnon-SLNに転移を認める症例はなかったが,術中迅速診断では転移陰性で永久標本で転移が判明した偽陰性例を2例認めたため,感度は92.9%,特異度は100%,偽陰性率は7.1%であった.【結語】色素法単独に夜SLN生検の有用性が示唆され,本法に基づく腋窩リンパ節郭清の省略は可能と考えられる.
  • 大島 久徳, 小澤 壯治, 荒川 敏, 熱田 幸司, 川瀬 仁, 永田 英俊, 白石 天三, 川辺 則彦, 梅本 俊治
    2009 年 34 巻 4 号 p. 556-561
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     目的:GISTの手術症例について診断,治療,予後の特徴を明らかにする.方法:2002年1月から2008年10月の間に手術を施行したGIST 25例の診断,手術,化学療法,予後について検討した.結果:年齢は61.8±13.5歳,男女比は14:11.発生臓器は胃18例,十二指腸・小腸5例,直腸2例で,腫瘍径の中央値はそれぞれ3.4cm,6.5cm,6.8cmであった.術前の組織学的な確定診断は,超音波内視鏡下穿刺吸引生検で7例中6例,通常生検4例中3例において可能であった.胃GIST症例において腹腔鏡下手術では開腹術に比べて出血量が少なく(p=0.004),術後在院期間が短かった(p=0.033).リスク分類は7例(28%)が高リスクであり,高リスク群は4年無再発生存率25.1%と不良であった.結語:胃GISTは予後がよく,術中出血量が少なく術後の早期回復が得られるので,腹腔鏡下手術のよい適応である.
  • 徳山 泰治, 長田 真二, 眞田 雄市, 井川 愛子, 田中 善宏, 奥村 直樹, 坂下 文夫, 高橋 孝夫, 山口 和也, 吉田 和弘
    2009 年 34 巻 4 号 p. 562-565
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     腹腔鏡下胆嚢摘出術における開腹術への移行症例につき検討した.2004年6月~2008年12月の腹腔鏡下胆嚢摘出術134例を対象とし,腹腔鏡手術完遂(LC群)と開腹移行(OC群,9例;6.7%)について比較した.LC群とOC群では年齢,性別,BMI,手術既往に差はなかったが,入院時白血球数(/μl)はLC群が6,333±2,007に対しOC群は7,960±4,021と高かった.術中出血量(ml)と手術時間(分)では,LC群が27±58.4と126±51であるのに対し,OC群は181±68と173±48.7とそれぞれ有意に不良で,術後合併症の発現に差はなかったが在院期間に影響がみられた.術前処置として胆嚢ドレナージは腹腔鏡手術の完遂に有用であった.また術前画像を再評価したところ,胆嚢壁の肥厚や頸部での結石嵌頓症例では開腹への移行傾向が強かった.
臨床経験
  • 錦織 英知, 小川 淳宏, 田中 亮, 浅井 哲, 柳 英雄, 廣岡 紀文, 森 琢児, 小川 稔, 門脇 隆敏, 渡瀬 誠, 刀山 五郎, ...
    2009 年 34 巻 4 号 p. 566-570
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     対象・方法:当院で経験したLA 142例,OA 62例を対象として虫垂炎分類別,肥満率別に手術時間,術後在院日数,術後合併症,創部感染率について比較・検討を行った.結果:手術時間は,OA群49.5±3.3分,LA群58.7±1.8分とLA群が有意に長かった.術後入院期間はOA群9.8±1.7日に対し,LA群6.4±0.5日と有意にLA群で短かった.創部感染率は,OA群で29%(18/62),LA群で2.8%(4/142)とLA群が有意に低率であることが示された.肥満率別では肥満率0%以下の痩せ型では手術時間がOA群で40.3±3.1分,LA群で53.8±3.5分とOA群が有意に短かった.肥満率0~20%の肥満型では術後在院日数がOA群17.3±5.8日,LA群7.1±0.9日とLA群で有意に短かった.結語:LAはOAに比べ術後入院日数が有意に短く,術後合併症,創部感染率についてもLAがOAより有意に低率であったことより,LAは虫垂炎手術術式として有用であると考えられた.特に肥満率の高い症例でLAの有用性が示された.
症例報告
  • 二本柳 康博, 蛭田 啓之, 朴 英進, 岡住 慎一
    2009 年 34 巻 4 号 p. 571-576
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     68歳,女性.2005年左腋窩部の腫脹に気づき当科受診.触診上乳房に異常所見を認めず,左腋窩に3cm大の腫瘤を触知した.腋窩リンパ節転移を疑い原発巣検索としてマンモグラフィ,乳腺・腹部・頸部超音波検査,胸部X線,頸部・胸部・腹部CT,便潜血,上部消化管内視鏡,婦人科的精査をするも明らかな原発巣は認めなかった.同部位のcore needle biopsyを施行し浸潤性乳管癌の転移およびエストロゲンレセプター(ER)陽性と診断された.潜在性乳癌を疑い左胸筋温存乳房切除術を施行した.組織学的には3mmと200μ大の病変を認め,後者に間質浸潤があり原発巣と考えた.潜在性乳癌を疑った場合確定診断に苦慮することが多い.今回われわれは腋窩リンパ節腫脹の精査において乳癌以外の原因を除外しリンパ節のER陽性を確認したため潜在性乳癌を疑い,手術を施行し組織学的に確定診断が得られた潜在性乳癌の1例を経験したので報告する.
  • 松井 聡, 長田 真二, 長尾 成敏, 浅野 奈美, 小森 充嗣, 坂下 文夫, 山口 和也, 吉田 和弘
    2009 年 34 巻 4 号 p. 577-581
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     食道に多発する扁平上皮癌の一部に癌肉腫を伴った症例を報告する.症例は72歳の男性,胃切除と回盲部切除の既往がある.嚥下困難を主訴に検索の結果,胸部食道に有茎性で6cm大の腫瘍を認め,生検の結果から食道癌との診断のもとで,3領域リンパ節郭清を伴う右開胸開腹食道亜全摘術と左結腸による食道再建術を施行した.摘出標本においてIIc病変より脆弱な茎を経て連続する長径12cmの隆起性腫瘍を認めた.病理組織検査では,隆起性病変は上皮性腫瘍成分と間葉系腫瘍成分の移行像がみられ癌肉腫と診断され,深達度sm3であった.他に島状に広範囲に広がるdysplasiaを認め,その一部に扁平上皮癌の多発を認めた.術後経過は良好で,術後64日目に退院され,12カ月間再発徴候を認めていない.多発扁平上皮癌に食道癌肉腫を合併した症例は検索し得た限りでは1例のみで稀少である.
  • 鈴村 和大, 王 孔志, 飯室 勇二, 山中 潤一, 黒田 暢一, 平野 公通, 岡田 敏弘, 宇山 直樹, 佐竹 真, 藤元 治朗
    2009 年 34 巻 4 号 p. 582-586
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     食道癌術後に発生した再建胃管癌の1例を経験したので報告する.症例は62歳,女性.胸部食道癌に対して,右開胸胸部食道全摘,胸骨後経路胃管再建術を施行.術後3年6カ月後の内視鏡検査で,再建胃管下部に5mm大の0-IIc病変を認め,生検の結果高分化型腺癌と診断.内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理検査結果は高分化型腺癌,深達度m,ly0,v0断端は陰性であった.治療後約1年が経過した現在,明らかな再発を認めていない.再建胃管癌に対する胃管切除術は手術侵襲が大きく手術操作も困難であることから,可能であれば早期発見し内視鏡的切除術をすることが望ましい.食道癌術後は胃管癌の発生を念頭におき,早期発見のため定期的な内視鏡検査が重要であると考えられた.
  • 二村 洋平, 加藤 貴吉, 東 健一郎, 村川 眞司
    2009 年 34 巻 4 号 p. 587-590
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は55歳,女性,肺癌にて胸腔鏡下右上葉切除術およびリンパ節郭清術を施行された.抜管後に呼吸困難をきたし再挿管が試みられたが換気不能のため,緊急気管切開術が施行された.呼吸困難は改善し,術後の経過は良好と思われたが第5病日より発熱,開胸創よりの排膿を認めた.施行されたCT,食道造影により,頸部食道穿孔による縦隔洞炎,膿胸と診断された.食道損傷部閉鎖,筋肉充填術および縦隔ドレナージ術が施行され,再手術後57病日に独歩退院した.本症例は肺癌根治術後の医原性食道穿孔であり頸部膿瘍がリンパ節郭清された縦隔内を経由して,胸腔へドレナージされたため頸部腫脹などの局所炎症を認めず,臨床所見が非特異的なものとなった.そのため診断は遅れたが,適切な治療により治癒させることができた.
  • 木村 準, 牧野 洋知, 佐藤 勉, 永野 靖彦, 藤井 正一, 田辺 美樹子, 佐々木 毅, 野沢 昭典, 小林 洋二, 國崎 主税
    2009 年 34 巻 4 号 p. 591-596
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は52歳,男性.上腹部痛を自覚し近医を受診し,腹部computed tomography(CT)検査で腹腔内に最大径20cmの腫瘤を指摘され,当センター紹介受診となった.腹部CT,magnetic resonance imaging(MRI)検査で胃と茎で連続する径20cmの腫瘍を認め,有茎性に発育する胃粘膜下腫瘍の診断で開腹手術を施行した.術中所見では血性腹水を認め,術中迅速細胞診で間葉系細胞を認めclass IVであり,腹膜播種陽性と診断した.腫瘍は胃前庭部前壁と径1.5cm,長さ2.0cmの茎で連続しており胃部分切除により腫瘍を摘出した.摘出標本は大きさ21×18×8cmで,病理組織学的には紡錘形細胞が錯綜配列を示し,核分裂像は1/50HPFであった.免疫組織学的にはKIT,CD34陽性であった.以上より胃GISTと診断された.有茎性に発育した胃GISTの本邦報告例は29例と稀なので報告する.
  • Minoru FUJISAWA, Toshiaki KITABATAKE, Kuniaki KOJIMA
    2009 年 34 巻 4 号 p. 597-600
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
    We encountered a patient with a perforated duodenal ulcer, who developed multiorgan failure after resuscitation from cardiopulmonary arrest, but was able to resume a normal life after emergency surgery. The patient was a 60–year–old woman who was emergently admitted to a previous hospital because of epigastric pain and fatigue. Several hours later, she showed a loss of consciousness, followed by cardiopulmonary arrest. However, since the heartbeat resumed after tracheal intubation and 15 min of resuscitative efforts, she was emergently referred to our hospital at the request of the previous hospital. After admission to the ICU, she showed post–resuscitation encephalopathy, and received initial intravenous fluids and blood transfusions for hemorrhagic shock, and hemodialysis for hyperkalemia secondary to acute renal failure. Because of the physical findings of marked abdominal distention and the passage of large amounts of tarry stools, plain abdominal CT was performed, showing ascites and free air mainly in the upper abdominal cavity. Although recovery to a normal state seemed very unlikely, emergency surgery was performed at the earnest request of her family. After the aspiration of a dark–red, purulent ascetic fluid, a 2–cm perforated ulcer was identical in the anterior wall of the duodenum. Extensive gastrectomy with Billroth II anastomosis was performed. The patient underwent tracheostomy for mechanical ventilation on the third postoperative day, but was removed from the ventilator on the ninth postoperative day, and started oral feeding on the 19th postoperative day. She started walking training on the 36th postoperative day, and was discharged on the 52nd postoperative day without any neurological deficit or organ impairment. She is currently being followed–up on a regular outpatient basis.
  • 西森 英史, Amy Neville, Rene P.Michel, Peter Metrakos
    2009 年 34 巻 4 号 p. 601-606
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は48歳,女性.2003年11月にS状結腸癌閉塞にてHartmann手術を施行された.切除不能の同時性多発肝転移を認めたが,二段階肝切除術(two-stage hepatectomy)による治癒切除の可能性を考慮し,まず術前全身化学療法としてFOLFIRI療法を6クール,重篤な副作用なく完遂した.化学療法に良好な反応を認めたため,2004年6月に肝外側区切除術を施行した.術後全身化学療法(FOLFIRI療法6クール)および右門脈枝塞栓術を施行し,同年11月に肝右葉切除術を施行し,すべての肝転移巣を切除し得た.同手術より4年経過し,原発巣局所再発,残肝再発および肝外遠隔転移を認めずに生存中である.集学的治療により長期生存中である初発切除不能大腸癌肝転移症例を経験したので文献的考察を加え報告する.
  • 植田 真三久
    2009 年 34 巻 4 号 p. 607-611
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     直腸癌術後局所再発(膀胱浸潤)に対してTUR-Btを施行後,FOLFOX4+放射線療法を行い画像上CRとなり,1年後に肺転移巣を切除し得た1例を経験した.症例は68歳,男性,難治性下痢を主訴に来院した.CTにて骨盤内に10cm大の腫瘤を指摘され,CFにて直腸癌と診断し手術となった.腫瘍は10×7cmで直腸S状結腸部より発生していた.腫瘍口側の腸管の拡張が著明であったため術式はハルトマン手術となった.病理診断はT2N1M0 stage IIIAで術後5FU-LV療法4コース→UFT-LV療法を行った.術後9カ月目に血尿を主訴に来院しCTにて局所再発と左肺転移と診断した.止血と組織診のためTUR-Btを施行し,その後にFOLFOX4+放射線治療(骨盤60Gy)同時療法を行った.放射線療法終了後はFOLFOX4を合計11コース(アレルギーにて中止)行った.その後PET-CTにて骨盤内再発部に異常集積を認めず,左肺に単発の集積が確認されたため,初回手術より24カ月後,局所再発より15カ月後に左肺部分切除を行った.その後縦隔リンパ節転移を来したが,初回手術から42カ月が経過した現在,PS0で外来にて化学療法を継続している.
  • 西江 学, 岩垣 博巳
    2009 年 34 巻 4 号 p. 612-615
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は60歳,女性.貧血の精査にて近医で下部消化管内視鏡検査を施行し,進行盲腸癌と診断され当院受診予定となった.検査終了後より腹部に違和感を訴え,徐々に痛みを伴うようになったため,当院緊急入院となった.腹部CT検査で上行結腸に同心円状の多層構造を認め,盲腸癌を先進部とする腸重積と診断した.癌細胞の血液,リンパ液,腹膜中への散布を予防すべく整復は行わず,緊急で結腸右半切除術を施行した.先進部の盲腸癌の肉眼型は2型,大きさは4×3.8cmで,深達度はpSSで,所属リンパ節には転移を認めず,ly1,v1の中分化腺癌であった.大腸癌に対する内視鏡検査後に腹痛をきたした場合には,腸重積を鑑別のひとつにあげる必要があると考えられる.
  • 中尾 健太郎, 松井 伸明, 林 征洋, 長山 裕之, 角田 明良, 渡辺 誠, 村上 雅彦
    2009 年 34 巻 4 号 p. 616-620
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は30歳,男性.上行結腸肝曲部に狭窄を認めるクローン病症例で難治性痔瘻からの滲出液を訴えていた.十分なインフォームドコンセントの後,抗TNF-α抗体(Infliximab)の投与を行った.2回目を施行後より臀部からの膿汁の排泄がなくなり,アザチオプリンを併用した.その後諸検査で狭窄部の拡張を認め,QOLの改善がみられた.クローン病に合併する痔瘻は難治であることが多いがInfliximabを投与することでQOLの改善が著しくみられるようになった.しかし狭窄を合併する症例に関しては症状増悪からInfliximabの使用が控えられることが多い.
     今回,われわれはクローン病による上行結腸狭窄と痔瘻を合併する症例に対し,Infliximabを使用し痔瘻とともに狭窄部の改善を認めた症例を経験したので報告する.
  • 松津 賢一, 藤井 義郎, 藤川 寛人, 斉藤 紅, 林 勉, 藤井 慶太, 小島 康幸, 成井 一隆, 蘆田 明雄, 池 秀之
    2009 年 34 巻 4 号 p. 621-625
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は63歳の男性で,下痢を主訴に近医を受診した際に血液生化学検査で肝機能障害を指摘され,精査目的に当院を紹介された.腹部CTおよびMRCPでは左葉を中心とする肝内胆管と総胆管の拡張が認められたが,肝内および胆道系に腫瘍および結石は認められなかった.ERCPでは下部胆管の壁不整と狭窄が認められ,その中枢の総胆管は拡張していた.下部胆管癌を疑って膵頭十二指腸切除術を行った.切除標本では下部胆管に1.3×1.0cmの全周性の隆起性病変が認められた.病理組織学的検査では異型性のない腺管構造と平滑筋線維の増生が認められ,総胆管腺筋腫と診断された.術後経過は良好で,第33病日に退院し,現在まで術後3年6カ月間再発は認められていない.稀な総胆管腺筋腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 大山 正人, 守本 芳典, 池田 博斉, 河本 和幸
    2009 年 34 巻 4 号 p. 626-630
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     腹腔鏡下胆嚢摘出術は広く行われているが,術後合併症のひとつに胆汁漏があり,重篤例では再手術を要することがある.今回われわれはENBD留置にもかかわらず術後胆汁漏をきたした傍乳頭憩室を伴う総胆管結石症を経験したので報告する.症例は72歳,男性.総胆管結石にて前医を受診し,endoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)を施行するも傍乳頭憩室のためにendoscopic sphincterotomy(EST),採石ともに困難でendoscopic retrograde biliary drainage(ERBD)を留置した状態で当院紹介となった.入院後EST施行し16×7mm大の結石を除去し5FrのENBDを留置した.その後腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行したが,術後1日目の夕方よりドレーンから大量の胆汁流出を認めENBD造影にて胆嚢管切離断端から造影剤の流出が確認された.ENBDチューブは傍乳頭憩室のために鋭角に屈曲し閉塞していたため5Frから6FrのENBDに交換したところ胆汁漏は消失した.胆汁漏の原因のひとつとして,傍乳頭憩室のためにENBDのドレナージ効果が不十分であったことが判明し,このような症例ではチューブ管理を厳重に行うことが必要と考えられる.
  • 南 裕太, 永野 靖彦, 上田 倫夫, 杉森 一哉, 沼田 和司, 田辺 美樹子, 河内 香江, 野沢 昭典, 藤井 正一, 國崎 主税
    2009 年 34 巻 4 号 p. 631-635
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は68歳の男性.2004年12月心窩部痛,嘔吐を主訴に当院を受診した.血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認め,腹部超音波検査で胆嚢底部に2cm大の腫瘤を,内視鏡的逆行性膵胆管造影検査で胆嚢底部に陰影欠損像を認めた.造影超音波検査で腫瘤に蛇行した血流を認めることから,胆嚢癌T2N0M(-) Stage IIの診断で肝床切除術,D2リンパ節郭清を施行した.切除標本では胆嚢底部に20×17mmの乳頭浸潤型腫瘍を認めた.組織学的には印環細胞癌が浸潤性に増殖しており,漿膜浸潤を認めたが肝実質への浸潤はなかった.また,1群リンパ節に転移を認め,pT3pN1M(-) fStage IIIであった.術後18カ月にCTで肝門部再発を認め,Gemcitabineを投与したが,術後34カ月で原病死した.本邦における胆嚢印環細胞癌の報告例は20例と稀で,文献的考察を加えて報告する.
  • 山下 信吾, 江口 礼紀, 吉利 賢治, 古川 健司, 高橋 学, 大池 信之
    2009 年 34 巻 4 号 p. 636-641
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     今回,われわれは発育形態の特異な退形成性膵管癌破骨細胞型の1例を経験したので報告する.症例は71歳,女性で,主訴は上腹部痛,黒色便であった.上部消化管内視鏡では十二指腸下行部の内腔を占める弾性軟で易出血性な径5cm大球形の隆起性病変を認めた.腹部CT検査,MRI検査では膵原発やファーター乳頭部原発よりも十二指腸原発の腫瘍性病変が強く疑われたが,上部消化管内視鏡による生検では未分化な悪性細胞と共に破骨細胞様巨細胞を認め,退形成性膵管癌が示唆された.幽門輪温存膵頭十二指腸切除術施行し退形成性膵管癌破骨細胞型と診断した.術後5カ月目に多発肝転移を発症した.局所再発は認めず,肝転移に対して5FUによる肝動注療法を選択し動注ポート造設下外来化学療法施行した.現在術後2年経過し,リンパ節再発をきたし外来にて全身化学療法継続中である.
  • Kojun OKAMOTO, Isamu KOYAMA, Mitsuo MIYAZAWA, Masayasu AIKAWA, Katsuya ...
    2009 年 34 巻 4 号 p. 642-645
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
    We report a case in which hepatectomy was performed to treat a patient with metastatic liver cancer 12 years after nephrectomy for renal cell carcinoma. The patient was a 56–year old man. Abdominal CT and MRI showed tumors with diameters of 8.5 cm and 2.5 cm in S2 and S4, respectively, of the liver, and many nodules with a diameter of 1 cm or less, all in the left hepatic lobe. FDG–PET/CT revealed a SUVmax of the tumors of 35, suggesting very high accumulation of FDG. Based on the history of renal cell carcinoma and normal hepatitis virus marker values a diagnosis of metastatic liver cancer from renal cell carcinoma was made. Distant metastasis was found only in the liver. Extended left hepatectomy was carried out, and the histologic findings confirmed metastasis by renal cell carcinoma. The patient had a good surgical postoperative course and was discharged on postoperative day 7. No signs of recurrence were observed at the 20 month follow–up examination. Hepatic metastasis by renal cell carcinoma generally has a poor prognosis, and since no specific, effective pharmacotherapy has been established, hepatectomy is an option, if the safety of surgery can be assured.
  • 鄭 充善, 池田 正孝, 水島 恒和, 山本 浩文, 関本 貢嗣
    2009 年 34 巻 4 号 p. 646-650
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     直腸癌術後局所再発の診断で切除した大網原発デスモイドの1切除例を経験したので報告する.症例は60歳代の男性で肛門部違和感を主訴に当科を受診した.直腸癌・肛門転移の診断で術前化学放射線療法施行後,2006年5月に腹会陰式直腸切断術・骨盤内大網充填術を施行した.切除標本の病理組織診断はtub2,pMP,pN0,pM1(肛門),pStage IVで,術後補助療法としてUFT/LVを5クール施行した.術後8カ月後のCTで左精嚢近傍に15mm大の腫瘤を認めたが,PET/CTではFDGの取り込みを認めず経過観察となった.さらに,4カ月後のCTでは腫瘤は28mmまで増大し,PET/CTにてFDGの異常集積を認めたため直腸癌術後局所再発と診断,2007年5月に骨盤内腫瘤を切除した.腫瘍は25×18×32mmで,病理組織診断は腹腔内デスモイドであった.今回われわれは,術前に診断できなかった直腸癌術後の大網原発デスモイドの1切除例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 向出 将人, 鶴井 茂, 田中 広章, 鈴木 啓一郎, 土田 明彦, 青木 達哉
    2009 年 34 巻 4 号 p. 651-656
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は61歳,男性.腹痛に対して前医で内服加療していたが,徐々に増悪し当院受診.受診時の腹部所見より急性腹症と診断し緊急手術を行った.手術所見では小腸の浮腫と虚血性変化を認めたが,壊死性変化はなく試験開腹となった.術後第5病日より関節痛を認め,次第に腹痛と下肢の紫斑も出現した.血液検査所見で炎症を認めた.Henoch-Schoenlein紫斑病(以下,HSP)を疑い,安静加療とした.紫斑,腹痛,血液検査所見ともに緩解,増悪を繰り返しながら改善したため第35病日に退院となった.成人例のHSPの発症は皮疹が先行する場合が多く,腹部症状が先行して発症する例は極めて少ない.急性腹症での発症例に対しては,手術を選択することがやむを得ない場合がある.腹部症状が先行した場合には本疾患も念頭において画像診断する必要があり,手術の適応を見極める必要がある.
  • 西條 文人, 土井 孝志, 鈴木 秀幸
    2009 年 34 巻 4 号 p. 657-660
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     絞扼性イレウス術後MRSA血症に起因したと考えられる化膿性脊椎炎を経験した.症例は82歳の男性で絞扼性イレウスにより小腸大量切除術を施行した.術後呼吸状態の改善がみられず人工呼吸器管理となった.術後4病日に人工呼吸器から離脱し,術後7病日には食事摂取も可能となった.しかし術後17病日に39.6°Cの発熱を認め,中心静脈カテーテルによる発熱を疑いカテーテルを抜去すると同時にカテーテル先端を培養に提出した.培養の結果MRSAが検出された.術後20病日には解熱したが,腰痛が出現し,術後50病日に胸腰椎MRIを施行したところ化膿性脊椎炎を認めた.安静,抗生剤投与を行い軽快し,術後80病日に退院した.術後菌血症に引き続く腰痛を認めた場合,化膿性脊椎炎を考慮し,適切な治療を行うことが必要であると考えられた.
  • 朝蔭 直樹, 山本 哲朗, 塚田 健次, 鈴木 貴久, 原口 美明, 小林 滋
    2009 年 34 巻 4 号 p. 661-664
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は1歳11カ月の男児.2007年12月右鼠径部の膨隆を主訴に当科初診.右鼠径ヘルニアの診断で2008年4月に手術予定とした.手術予定1週間前に右鼠径部膨隆,嘔吐が出現したため当科受診.右鼠径部に小鶏卵大の硬い腫瘤を触知し,鼠径ヘルニア嵌頓と診断した.発症後4時間経過しており用手還納を試みたが整復できず,手術目的に緊急入院となった.術前の腹部CT検査で嵌頓腸管内に楕円形の異物を思わせる高吸収域を認めた.手術はLucas-Championniere法で,鼠径管を開放すると脱出腸管に血行障害は認めず,異物を触知したがまもなく自然還納した.第1病日には発熱,血便,free-airは認めず,第2病日から経口摂取を開始.第2病日の便中に2.3×1.5cm大の異物が認められ,ご両親に確認したところプルーンの種であることが判明した.プルーンの種が誘因となって嵌頓を来たした幼児鼠径ヘルニアの1例を経験したので報告する.
  • 北川 敬之, 黒水 丈次, 大倉 充久, 高橋 一昭, 山崎 誠
    2009 年 34 巻 4 号 p. 665-668
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     子宮広間膜裂孔ヘルニアは稀な疾患であり,今回われわれは子宮摘出後を含む2例の子宮広間膜裂孔ヘルニアによる絞扼性イレウスを経験したため報告する.症例1は50歳,女性.妊娠および出産は2回.腹部手術の既往はなく,腹痛,嘔気,嘔吐を主訴に受診し,CTにて内ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断され緊急開腹手術を行った.左子宮広間膜裂孔ヘルニアを認め,裂孔部の閉鎖と腸切除を必要とした.症例2は85歳,女性.妊娠回数不明,出産3回で,40代に子宮付属器摘出術を施行されていた.術前検査で詳細な部位は不明であったが内ヘルニアによる絞扼性イレウスの診断にて開腹手術を施行した.残存した右広間膜に裂孔を認め同部への小腸の嵌頓を確認した.裂孔は切開開放し,小腸切除は不要であった.稀な疾患ではあるが,他種の手術後を含め,女性における内ヘルニアの鑑別疾患の一つとして考慮の必要がある.
  • 前多 力, 北村 大介, 関 英一郎, 権田 厚文
    2009 年 34 巻 4 号 p. 669-673
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/09/25
    ジャーナル フリー
     症例は36歳,女性.下腹部腫瘤触知,同部位の疼痛を主訴に当院を受診した.下腹部の帝王切開術瘢痕部に約2.5cm大の圧痛を伴う腫瘤を認めた.Schloffer腫瘤,腹壁子宮内膜症を疑い,切除術を行った.病理組織検査で子宮内膜に類似した間質細胞に富む間質内に,1層円柱上皮からなる管腔構造を認め子宮内膜症と診断した.腹壁子宮内膜症は皮膚子宮内膜症に分類され,比較的稀な疾患である.婦人科系手術の瘢痕部腫瘤においては本疾患を念頭におき,充分な切除を行うことが肝要である.
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