日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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ISSN-L : 0385-7883
36 巻, 5 号
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原著
  • Toshio Masuda, Shunichi Shiozawa, Kenji Ogawa
    2011 年 36 巻 5 号 p. 745-751
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    Aim : The Aim of this experimental study was to investigate how lipid metabolism is altered in a rat obstructive jaundice model, focusing on cholesterol synthesis.
    Materials and methods : A rat obstructive jaundice model was prepared by bile duct ligation. Rats were sacrificed 1, 2, 3, and 4 weeks after bile duct ligation, and blood was collected, and the total liver was isolated. Normal control rats were also sacrificed, and samples were collected in the same manner. The profile of changes lipid metabolism was evaluated over time.
    Results and discussion : 1) Serum T–Chol level markedly increased at week 1. It subsequently declined, while being higher than the control level until week 4. Serum HDL–C level increased until week 2, and concurrently HMG–CoA reductase activity was elevated. These findings indicate increased hepatic cholesterol synthesis during the early stage of obstructive jaundice. 2) Serum HDL–C level, HMG–CoA reductase activity and LR m–RNA expression level all decreased during the period of complete obstructive jaundice at week 4. At this stage, impaired lipid metabolism and depressed hepatic cholesterol synthesis were observed, and these may be referred to liver disorder due to obstructive jaundice.
    Conclusion : Thus, lipid metabolism varied in degree of impairment with different stages of obstructive jaundice. Clinically, in the surgery for patients with obstructive jaundice, it is important to take into account such degrees of impairment in lipid metabolism.
臨床経験
  • 内野 基, 池内 浩基, 冨田 尚裕
    2011 年 36 巻 5 号 p. 752-757
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     【目的】クローン病(CD),在宅中心静脈栄養(HPN)の管理と中心静脈カテーテル(CVC)合併症について検討した.【方法】対象は2010年9月までにHPN導入し当科で経過観察を行ったCD 20例とし,CVC関連合併症は皮下埋没型ポート群(CVポート),CVC露出型非交換群,ガイドワイヤーを用いたCVC露出型定期的交換群のHPN管理方法別に比較した.【結果】露出型非交換では感染,逸脱が多かった.CVポートと定期的交換では感染率に有意差はなかったが,血気胸,CVC閉塞がCVポートで多く,逸脱が定期交換で多かった.【結論】CDにおけるHPN管理では頻回のCVC再留置を必要とすることが多いため,ガイドワイヤー下の定期的交換は手技が簡便なHPN管理法の一つとして推奨できると考える.
  • 松永 和秀, 朝村 真一, 森 一功, 和田 充弘, 磯貝 典孝
    2011 年 36 巻 5 号 p. 758-763
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     【目的】舌可動部亜全摘後,大胸筋皮弁にて即時再建を施行した舌癌患者9例の術後2カ月目における嚥下機能を評価した.【方法】評価は,ビデオ嚥下造影検査にて行った.【結果】嚥下時,皮弁と口蓋の接触が良好であった症例は6例で,不良は3例であった.喉頭蓋反転による気道閉鎖は7例が良好で,食道入口部の開大は9例とも良好であった.皮弁と口蓋の接触が良好であった6例は,咽頭残留が少なく,気管内侵入や喉頭侵入も認めなかった.皮弁と口蓋の接触が不良であった3例は,嚥下終了後咽頭残留を著明に認め,それに伴って気管内侵入もしくは喉頭侵入を認めた.【考察】気管内侵入や喉頭侵入の原因に,皮弁のボリューム不足による嚥下圧の低下が考えられた.早期嚥下機能の観点からも,舌可動部亜全摘では皮弁と口蓋が接触するように再建することが必要と考えられる.
  • 山下 公太郎, 藤谷 和正, 平尾 素宏, 辻江 正徳, 安井 昌義, 池永 雅一, 宮本 敦史, 三嶋 秀行, 中森 正二, 辻仲 利政
    2011 年 36 巻 5 号 p. 764-769
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     切除不能・再発胃癌に対しては化学療法が標準治療とされているが,再発病変を制御できないことも多い.本稿では腹部大動脈周囲リンパ節再発に対する治療手段としての外科切除の意義を検討した.対象は1993~2009年の間に,初発胃癌治癒切除後の腹部大動脈周囲リンパ節再発に対して化学療法施行後に再手術を行った4例.全例とも再発病変は腹部大動脈周囲に限局しており,化学療法の効果は3例でstable disease(SD)もしくはpartial response(PR)と再発病変は制御されていた.初回手術後の無再発期間が5カ月と比較的短かった1例は再手術後5カ月で死亡したが,他の3例は初回手術後1年以上経過した後の再発例で,再手術後の平均生存期間は25.7カ月であった.初回手術から再発までの期間が1年以上あり,病変が限局して化学療法で制御され,治癒切除が可能と考えられる場合には,安全性を十分に考慮した上で外科切除を行うことも選択肢の一つと考える.
  • 渡邉 貴紀, 松本 祐介
    2011 年 36 巻 5 号 p. 770-774
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     肝細胞癌に対するラジオ波焼灼術はその優れた局所制御能力のために,現在ではPEITやPMCTに代わり局所療法の主流となっている.一方,重大な合併症の一つとしては周囲組織の熱損傷が挙げられ,それを回避するために幾つかの工夫が報告されている.
     われわれは周囲隣接臓器への熱損傷を回避するための方法として,(1)経皮的に病変近傍を穿刺し病変部をマーキング,(2)腹腔鏡下に周囲組織との間にガーゼを挿入し距離を確保,(3)脱気の後経皮的に腫瘍を穿刺しラジオ波焼灼,(4)再気腹しガーゼを除去,を用いている.気腹後でも体表よりのエコーで観察・穿刺に特に問題を認めず,合併症なく十分な焼灼効果が得られた.本法は特別な器具を必要とせず,低侵襲で確実な治療が可能な方法と考えられた.
     重要臓器と近接している肝細胞癌に対する治療として本法は新たな選択肢の一つとなりうると考えられた.
症例報告
  • 細野 芳樹
    2011 年 36 巻 5 号 p. 775-780
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     乳腺血管肉腫は稀な疾患で診断に難渋する.MRIが診断に有用だった症例を報告する.主訴:右乳房痛.視触診:皮膚変化なく腫瘤は触知しなかった.マンモグラフィ:右C領域にFADを認めた.乳腺エコー:高エコーと低エコーが混在する境界不明瞭な腫瘤を認めた.MRI:辺縁が不整形で内部不均一に造影される腫瘤を認めた.同じ腫瘤内でもROIの設定部位によりrapid plateauとslow persistentの異なる造影パターンを示した.拡散強調画像はb値の上昇にて著明な減衰を示した.病理組織検査:血管肉腫(高分化型).手術:右乳房切除術と右腋窩センチネルリンパ節生検を行った.経過:術後1年半で遠隔転移を認め化学療法を行ったが,術後2年5カ月後に永眠された.乳腺血管肉腫は乳腺エコー,マンモグラフィのみの画像診断では診断に苦慮することがある.MRIはその診断の一助になりうるものと思われる.
  • 高橋 治海, 山本 悟, 石原 和浩, 徳山 泰治, 水井 愼一郎, 二村 学
    2011 年 36 巻 5 号 p. 781-786
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は63歳,女性.既往歴に右肺癌で手術,その後リンパ節転移,脳転移を認めた.2009年9月より右乳房に発赤,腫脹を伴う腫瘤を認め乳癌と診断され抗癌剤治療を受けたが,効果なく2010年9月当院紹介となった.右乳房の炎症性乳癌の像を呈し,転移性肺腫瘍,転移性脳腫瘍,右胸水貯留を認めた.乳腺部腫瘍と初発肺癌の摘出標本はともに腺癌の形態を呈していたためEGFRの遺伝子変異解析を行ったところ,exon21内チロシンキナーゼドメインの同一遺伝子変異を認めたことから肺癌の乳房転移と診断した.原発性乳癌と転移性乳癌の鑑別診断として,EGFRの遺伝子変異検索が極めて有効であった.
  • 三宅 亨, 清水 智治, 園田 寛道, 目片 英治, 村田 聡, 谷 徹
    2011 年 36 巻 5 号 p. 787-791
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は60代,男性で,既往歴は1年前肺扁平上皮癌に対し左肺上葉切除術を施行された.腹痛を自覚し近医を受診したところ腸閉塞を指摘され,当院入院となった.減圧目的でイレウス管を留置し,イレウス管造影で回腸末端の高度狭窄を認めた.腹部CT像で盲腸から上行結腸の壁肥厚と小腸の拡張を認めた.腫瘍マーカーではCEA,SCC,sIL2Rの上昇を認めた.大腸内視鏡検査で回腸末端の高度狭窄と盲腸粘膜の発赤を認め,発赤部の生検は低分化腺癌であった.消化管由来の上皮性腫瘍と診断し手術を行った.回腸末端の腫瘍に対し,右半結腸切除術を施行した.病理組織検査は扁平上皮癌で,肺癌小腸転移と診断した.術後に創感染,MRSA腸炎を認めたが軽快し,術後42日目に退院となった.肺癌術後患者のSCC上昇を伴う小腸腫瘍はたとえ生検が未分化であっても転移を念頭に置いて対応すべきと考えられた.
  • 田中 浩明, 小野田 尚佳, 平田 啓一郎, 仲田 文造, 六車 一哉, 久保 尚士, 澤田 鉄二, 大平 雅一, 平川 弘聖
    2011 年 36 巻 5 号 p. 792-795
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は74歳,男性で,2006年9月にStage III胃癌に対して幽門側胃切除施行.術後,TS-1+PSKによる補助化学療法を4投2休1コースとして施行していた.10コース施行中に,発熱,食欲不振,全身倦怠感,動機,息切れが出現し,胸部X線検査上,心拡大を認め入院となった.通常の保存的治療に抵抗性であったため,血性心嚢液を穿刺ドレナージして検査したところ,細胞診はClass IIであったが,ADA活性が高値を示し,結核性心膜炎と診断した.4剤による抗結核治療を開始すると症状は改善し退院した.外来通院していたが1年後に腹膜再発のため死亡した.胃癌術後補助化学療法中に結核が再燃するリスクがあることは容易に予想されるが,心嚢液貯留を伴った場合結核性心膜炎を疑うことも必要と考えられた.
  • 橋本 伊佐也, 梨本 篤, 藪崎 裕, 中川 悟, 松木 淳
    2011 年 36 巻 5 号 p. 796-801
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は60歳,男性.検診の胃透視検査にて異常を指摘され,二次検診の上部消化管内視鏡で胃体中部大彎前壁に1型腫瘍を認め,深達度T2(MP)以深が疑われ,生検ではtub2であった.CTにて胃周囲所属リンパ節,腹部大動脈周囲リンパ節およびVirchowリンパ節と多数のリンパ節転移陽性と診断した.胃癌M,Ant,Type 1,cT2,N+,M1(H0,P0,LYM),Stage IVと診断し,分割DCS療法(docetaxel 35mg/m2day1,day15/cisplatin 35mg/m2day1,day15 /S-1 80mg/m2day1-15,1コース28日)を2コース施行した.化学療法は奏効しPRが得られた後,幽門側胃切除術,D2+(No.12b,No.12p,No.13,No.16)郭清を施行した.病理組織学的所見では,原発巣,リンパ節ともに癌組織の遺残はなく,pathological CRと判定された(ypT0,N0,M0).第11病日で退院し,術後4カ月経った現在外来にてS-1による術後補助化学療法を施行し,無再発生存されている.
  • 石畝 亨, 石橋 敬一郎, 隈元 謙介, 芳賀 紀裕, 石田 秀行, 田丸 淳一, 加藤 真吾, 屋嘉比 康治
    2011 年 36 巻 5 号 p. 802-807
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     今回,小腸全域に多発する動静脈奇形の腸管切除範囲の決定に,術中内視鏡検査が有用であった1例を経験したので報告する.症例は66歳,男性.下血を主訴に近医入院.上部・下部消化管内視鏡検査では明らかな出血源を認めず,精査加療目的で当院紹介.経口小腸内視鏡検査では十二指腸から回腸に5mm以下の無数の暗赤色粘膜下腫瘍様病変を認めた.出血の責任病変を同定できなかったため,手術治療を選択した.回腸切開部から挿入したcorrugated tubeを通して大腸内視鏡で観察したところ,術前の小腸内視鏡検査で認めたものと同様の病変をTreitz靱帯から約160cmまでの小腸の間には無数,十二指腸水平脚とTreiz靭帯から160cm以上肛側の小腸にも数十個認めた.Treiz靭帯から200cmの小腸を切除・吻合し,残存小腸(約180cm)に散在する病変に対し,可及的に内視鏡的焼勺を行った.病理組織学的には動静脈奇形であった.術後3年目の現在,AVMの再発を認めていない.
  • 松橋 延壽, 舘 正仁, 櫻谷 卓司, 田島ジェシー 雄, 前田 健一, 田中 千弘, 西科 琢雄, 長尾 成敏, 河合 雅彦, 國枝 克行
    2011 年 36 巻 5 号 p. 808-812
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     58歳,男性.数年前より,時々腹痛を認めることがあったが,自然と軽快していた.2010年6月腹痛が軽快しないため当院救命センターを受診した.CT検査の結果,小腸腫瘍によるイレウスを疑い精査目的で当科に入院となった.造影CT検査において小腸に腫瘍性病変を認め,同部位が狭窄の原因と思われた.またPET-CT検査において小腸にmaxSUV6.9と強い集積を認め,術前診断は小腸癌と考え,臍部に12mm,左側腹部に5mm×2の合計3ポートで腹腔鏡下小腸切除術を施行した.手術所見はトライツ靱帯から30cmの空腸に,狭窄像を呈する腫瘍性病変を認めたため同部位を含めた小腸切除術を施行した.病理結果はwell~moderately differentiated adenocarcinomaであった.術後経過は良好で術後6日で退院となった.画像診断を含めて腹腔鏡で治療できたため文献的考察を加え報告する.
  • 飯田 直子, 田中 知行, 又井 一雄, 三澤 健之, 吉田 和彦, 矢永 勝彦
    2011 年 36 巻 5 号 p. 813-817
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は78歳,男性で,2008年7月にS状結腸癌に対しS状結腸切除術(D2郭清)を施行.術後7日目に突然右上腹部痛が出現,著明な貧血を認めた.緊急造影CTでは,右前腎傍腔に最大径16cmの血腫と20mm大の動脈瘤を認め,腹腔動脈起始部は尾側へ圧排されていた.緊急腹部血管造影検査で前後膵十二指腸動脈瘤破裂と診断.前後の膵十二指腸動脈と胃十二指腸動脈,さらに第一空腸動脈の塞栓術を計3回にわたり施行した.しかし完全な瘤消失には至らず,外科的治療も考慮したが,血腫増大に伴う圧迫により動脈瘤からの再出血はみられないため,術後74日目に退院した.動脈塞栓術後26カ月のCTでは血腫の最大径は約7分の1に縮小していた.膵十二指腸動脈瘤は腹部内臓動脈瘤の中でも比較的稀な疾患である.今回われわれは,腹腔動脈起始部圧迫症候群(CACS)に起因したと考えられる膵十二指腸動脈瘤を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 永易 希一, 河合 雅也, 嵩原 一裕, 丹羽 浩一郎, 神山 博彦, 小島 豊, 仙石 博信, 冨木 裕一, 坂本 一博, 岩本 志穂
    2011 年 36 巻 5 号 p. 818-822
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は53歳,男性,平成21年3月に近医受診し急性虫垂炎と診断され虫垂切除術を施行された.病理組織診断で杯細胞カルチノイド,虫垂根部切除断端陽性であったため当科を受診した.追加切除の適応と診断し,腹腔鏡下回盲部切除を行った.病理組織診断では虫垂杯細胞カルチノイドに相当する組織像であったが、組織学的にほぼ低分化腺癌と考え,大腸癌に準じStage II高危険群と診断し,術後補助化学療法を行った.術後2年以上を経過した現在も無再発生存中である.杯細胞カルチノイドは古典的カルチノイド腫瘍より悪性度が高く,近年では癌の一亜型と考えるべきと言われている.自験例においては,病理医と相談し,予後不良と診断したため術後の補助化学療法を行い,厳重なフォローアップを行っている.
  • 伊藤 元博, 大下 裕夫, 波頭 経明, 山田 誠, 足立 尊仁, 松井 康司, 森川 あけみ, 松井 聡, 田島ジェシー 雄, 操 佑樹
    2011 年 36 巻 5 号 p. 823-828
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     患者は28年前直腸癌にて低位前方切除術を施行された83歳,男性.突然の下腹部痛と嘔吐が出現し,救急外来を紹介受診した.左下腹部に圧痛,筋性防御,反跳痛を認め,血液検査所見でアミラーゼの上昇と軽度代謝性アシドーシスを認め,CEAは18.2ng/mlと上昇していた.また,腹部造影CT検査で門脈のガス像と左結腸壁の造影効果不良を認めた.以上より門脈ガス血症を呈した壊死型虚血性腸炎と診断し,緊急手術を施行した.開腹すると悪臭を伴う茶褐色の腹水を400ml認め,左結腸は壊死をきたしており,左結腸切除術,横行結腸人工肛門造設術を施行した.術直後にエンドトキシン吸着を施行.以後全身状態は安定し,術後36日目に退院した.病理所見では粘膜,粘膜下層の壊死を認めた.本症例は直腸癌手術による下腸間膜動脈の結紮に伴う血流量低下因子と便秘,浣腸による腸管内圧上昇因子が重複し,腸管壊死をきたし,その結果門脈ガス血症が生じた.その際にCEAに富む粘膜が壊死脱落し,血中にCEAが逸脱して高CEA血症を呈したと推察された.
  • 池辺 孝, 眞弓 勝志, 西岡 孝芳, 濱野 玄弥, 寺倉 政伸, 堀 高明, 竹村 雅至
    2011 年 36 巻 5 号 p. 829-834
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     患者は56歳の男性.直腸ポリープに対するポリペクトミーで内分泌細胞癌と診断された.切除断端が腫瘍細胞陽性と診断されたため,経肛門的に切除部に全層切除を追加した.病理組織学的にはsm,INFβ,ly2,v0で,垂直,水平断端ともに陰性であったが,8カ月後に局所再発および肝多発転移をきたした.局所再発に対して腹腔鏡補助下低位前方切除術を,肝転移に対してm-FOLFOX6+bevacizmabによる化学療法を行ったが,次第に肝転移は増悪し,初回手術後348日目,再手術後98日目に癌死した.直腸内分泌細胞癌は予後不良の疾患として知られており,症例数が少なく治療方針に関して一定の見解はない.今回ポリペクトミー後早期に局所再発,肝転移をきたした直腸sm内分泌細胞癌の1例を経験したので報告する
  • 高須 千絵, 島田 光生, 栗田 信浩, 岩田 貴, 佐藤 宏彦, 西岡 将規, 森本 慎也, 吉川 幸造, 宮谷 智彦, 柏原 秀也
    2011 年 36 巻 5 号 p. 835-839
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は30歳代の女性で,20歳代より子宮内膜症で内服治療を受けていた.2005年頃より月経時に下血・腹痛を認め,近医にて直腸子宮内膜症(AVから約20cmの部位)が疑われ当科紹介となった.挙児希望にて保存的治療を継続し,2010年に症状が持続するために再度手術目的にて当科紹介となった.腹腔鏡下低位前方切除術を施行し,術中術後合併症も認めず術後11日目に退院した.病理組織検査では,直腸粘膜固有筋層内から粘膜固有層にかけて,子宮内膜様の腺構造と固有間質が島状に散見されendometriosisの像であった.
     今回われわれは腹腔鏡下に切除した直腸子宮内膜症を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 澤井 利次, 五井 孝憲, 中澤 雅子, 飯田 敦, 片山 寛次, 山口 明夫
    2011 年 36 巻 5 号 p. 840-845
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     近年,癌に対する診断技術の進歩,手術成績の向上に伴い,重複癌の報告が増加傾向にある.しかし,外科的治療が行われた5重複癌の症例は極めて稀である.症例は49歳,男性.上行結腸癌にて,近医で右半結腸切除術を施行された.その後当院で66歳時に胃癌にて胃全摘術,70歳時に膀胱癌にて経尿道的膀胱腫瘍切除術,71歳時に直腸癌にて超低位前方切除術,72歳時に胆嚢癌にて拡大胆嚢摘出術を施行した.外科的治療された5重複癌の報告例は本邦では13例と非常に稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • Minoru Fujisawa, Toshiaki Kitabatake, Kuniaki Kojima
    2011 年 36 巻 5 号 p. 846-849
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    We encountered a patient with intrapelvic actinomycosis accompanied by sigmoid colon stenosis for which oral antibiotic treatment was effective. The patient was a 66–year–old female who visited a physician for a chief compliant of right lower abdominal pain. On abdominal CT, an irregular mass accompanied by right hydronephrosis was noted in the right pelvic cavity, and the patient was referred to our department. On the contrast enema of the sigmoid colon, serrated stenosis was noted in the sigmoid colon over the rectum, and a colonoscope could not be passed through. Thus, surgery was performed. Since dissection was difficult because of the sigmoid colon, rectum and swallowing origin was involved to the broad granulomatous mass, resection was gived up and colostomy was applied to the descending colon.
    Actinomycetes was detected in the excised sample, and intrapelvic actinomycosis was diagnosed, for which oral amoxicillin was continuously administered for 6 months. Then, the granulomatous mass disappeared, and right hydronephrosis improved on CT scan, colostomy was closed because sigmoid colon stenosis had improved on contrast enema.
  • 佐藤 雄生, 高坂 佳宏
    2011 年 36 巻 5 号 p. 850-855
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は52歳,女性.心窩部痛にて近医受診.上部消化管内視鏡にて胃潰瘍と診断され,超音波,CTにて肝腫瘤を指摘されたため,精査目的に当院受診.来院時は全身状態良好で,発熱,腹痛などの自覚症状も特に認めてはいなかった.血液検査上も好酸球増多の所見以外は特記すべき異常所見を認めず,腹部CTにて肝S5に直径26×24×20mm大の不整形腫瘤を認めた.FDG-PET CTを行ったところ,結果は早期MAX SUV 3.17,後期MAX SUV 3.34で肝内胆管癌などの悪性腫瘍を疑う所見であったため,確定診断のため針生検を強く勧めたが,本人の強い拒否のために行わなかった.十分なinformed consentの後に診断,治療目的に肝右葉切除術を施行した.病理組織学的検査および抗体による血清学的診断によって肝蛭症と診断された.
  • 根岸 宏行, 小林 慎二郎, 瀬上 航平, 佐々木 貴浩, 櫻井 丈, 小泉 哲, 朝倉 武士, 中野 浩, 大坪 毅人
    2011 年 36 巻 5 号 p. 856-860
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は60歳代の女性.腰痛を主訴に来院.腹部超音波検査およびCT検査で胆嚢は左上腹部に位置しており,内部に結石を認めた.MRCPを施行したところ胆嚢は肝左葉側に存在しており胆嚢捻転症が疑われたが,腹部異常所見はなく,血液生化学検査でも炎症所見は認めなかったため待機的に精査を進めた.後日ERCを施行すると胆嚢は通常の位置,すなわち総胆管の右側で肝右葉の肝床部と考えられる部位に位置していた.以上から遊走胆嚢および胆石症と診断し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.胆嚢間膜は胆嚢頸部にのみ存在し,大部分は肝床部から遊離しておりGross B型遊走胆嚢と診断した.遊走胆嚢は頻度としては少なくないが,その多くは捻転を起こし急性腹症となるまで発見されない.今回われわれは,捻転せずに発見することができたGross B型遊走胆嚢の1例を経験した.
  • 高橋 祐輔, 中川 国利, 鈴木 幸正, 遠藤 公人, 小林 照忠
    2011 年 36 巻 5 号 p. 861-864
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は38歳,女性.健診時の腹部超音波検査で膵尾部に嚢胞を指摘され当院を受診した.腹部CT検査で,膵尾部に壁が一部不整な径2.5cm大の嚢胞性病変を認めた.MRI検査では,嚢胞はT1強調画像で低信号域を,T2強調画像で高信号域を示し,膵嚢胞性腫瘍と診断した.悪性腫瘍が否定できないため,脾摘を伴う膵尾部切除術を施行した.摘出標本では,膵尾部に単房性嚢胞を認めた.病理組織検査では,膵実質内に嚢胞を伴う副脾が存在し,嚢胞の内腔面は一部重層化した扁平上皮で覆われていた.以上から,膵内副脾に発生したepidermoid cystと診断した.副脾は比較的多くみられるが,膵内副脾に嚢胞が発生することは稀である.今回われわれは,膵内副脾に発生したepidermoid cystの1例を経験したので報告した.
  • 石原 寛治, 藤井 祥貴, 田中 肖吾, 橋場 亮弥, 中村 有佑, 大野 耕一, 山本 隆嗣
    2011 年 36 巻 5 号 p. 865-869
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は7年前に虫垂切除歴のある20代の男性.発熱と右上腹部の腫脹・疼痛を主訴に受診し,腹壁あるいは腹腔内膿瘍を疑われ精査目的入院となった.抗生剤の投与で炎症所見が改善したのち膿瘍・膿瘍壁を一塊に切除摘出,病理検索で肉芽組織中に膿瘍を認め悪性の所見はなかった.術後経過は良好で術7病日に退院した.虫垂炎術後長期間経過して腹壁膿瘍を発症した報告は,1990年以降自験例を含め8例であり比較的稀と思われた2)~8).術後4年,再発兆候はない.
  • 田中 肖吾, 大野 耕一, 中村 有佑, 石原 寛治, 田中 さやか, 若狭 研一, 山本 隆嗣
    2011 年 36 巻 5 号 p. 870-876
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は75歳の女性で,平成22年9月突然左下腹部痛が出現し,増悪したため発症10時間後当院受診,緊急入院となった.既往歴に特記すべきことはなかった.腹部は左下腹部に圧痛を認めたが反跳痛や筋性防御は伴わなかった.造影CT像上,回腸に壁内の濃染を伴わない壁肥厚を認め,腸間膜血管は末梢まで造影されていたことより非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI)と診断し,発症21時間後に緊急開腹した.腹腔内には血性腹水を認め,回腸末端から70cm口側に20cmの虚血性変化を認めた.そして腸間膜動脈の拍動は末梢まで良好であったが,壊死部を含め前後70cmにわたり腸管付近の腸間膜の充血を認めたため,これらを含める形で回腸切除術を施行した.粘膜面は虚血・壊死を分節状に認め,組織学的に腸管は出血壊死をきたしていたものの腸間膜動静脈に著変は認めずNOMIと診断した.術後経過は良好で,術後13日目に退院となった.
  • 美島 利昭, 大谷 剛正, 朝長 哲弥, 坂本 いづみ, 平田 光博, 渡邊 昌彦
    2011 年 36 巻 5 号 p. 877-883
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は60歳,女性.右背部痛を主訴に近院を受診した.後腹膜腔から下大静脈内に広範囲に進展する腫瘤性病変を指摘されたため,当科へ紹介された.その他,CTで肝S3,S6に1.0cm大の腫瘤を認めた.後腹膜腔に発生した非上皮性腫瘍,下大静脈内進展,肝転移疑いと診断し,下大静脈合併後腹膜腫瘍切除術と肝S6腫瘍の生検を施行した.病理組織学的所見から後腹膜平滑筋肉腫,下大静脈内進展,肝転移と診断し,肝転移巣に対してRFAを施行した.その後,新規の肝転移,肺転移,腹膜転移を認めたため,これらに対してRFAを繰り返し施行した.しかしながら,その後も多発転移を認めたため,全身化学療法としてCYVADIC療法およびdocetaxel/gemcitabine(DG)併用療法を施行した.術後48カ月目に永眠された.根治には至らないものの,集学的治療により比較的長期間にわたり腫瘍の増大抑制効果が得られた.
  • 城島 久美子, 小池 洋介, 新見 正則
    2011 年 36 巻 5 号 p. 884-890
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
     症例は44歳,女性.疼痛を伴う右下腿潰瘍,右足部冷感および間歇性跛行を主訴に他院受診し,下肢血管形成異常にて当院紹介となった.母斑,先天性静脈瘤,脚長差の3徴を有するため,Klippel-Trenaunay症候群を疑い精査目的に入院した.血管造影検査で右下腿に動静脈瘻を認め,Klippel-Weber症候群と診断した.また腹部造影CTで腎静脈以下の下大静脈の欠損を認めた.潰瘍の診断的治療として,洗浄し,ラップ被覆を行い,弾性包帯で圧迫し,下肢挙上安静としたところ改善したため,静脈うっ滞性潰瘍と考えられた.また足部冷感と間歇性跛行の出現は,動静脈瘻の盗血による虚血症状と考えられた.静脈うっ滞性潰瘍はKlippel-Weber症候群の先天性静脈瘤と先天性下大静脈欠損症が影響を与えていると考えられた.下腿潰瘍の診察では,下肢だけではなく腹部の先天的な解剖学的形成異常も念頭に置くことが重要と思われた.
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