日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
Print ISSN : 0385-7883
ISSN-L : 0385-7883
42 巻, 1 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
原著
臨床経験
  • 多賀谷 信美, 菅又 嘉剛, 斎藤 一幸, 平野 康介, 奥山 隆, 大矢 雅敏
    2017 年 42 巻 1 号 p. 6-12
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    単一孔より2疾患に対し,同時に腹腔鏡下手術を施行する単孔式同時性腹腔鏡下手術を経験したので,その成績について報告する.最近の5年間に同手術を行った5例を対象にした.平均年齢は63.6歳,男性2例,女性3例で,対象疾患の内訳は,胆囊結石+肝囊胞が2例,胆囊結石+慢性虫垂炎,胆囊結石+胃粘膜下腫瘍および胃粘膜下腫瘍+右鼠径ヘルニアが各1例であった.方法は臍部に約2.5cmの縦切開を施し,そこから5mmポートを3本挿入した手袋法で行った.全例,手術は完遂され,術式は胆囊摘出+肝囊胞開窓が2例,胆囊摘出+虫垂切除,胆囊摘出+胃局所切除および胃局所切除+右鼠径ヘルニア修復が各1例で,平均手術時間は120.8分,平均出血量は13.6ml,平均術後在院期間は4.8日であった.本法は適応疾患を限定し,単孔式での経験のある術者が施行すれば,大きな時間延長もなく,安全に施行可能な術式である.

  • 八田 浩平, 前田 耕太郎, 勝野 秀稔, 小出 欣和, 遠藤 智美
    2017 年 42 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    【目的】便失禁患者に対し,仙骨神経刺激療法(Sacral Neuromodulation;SNM)を保険収載された早期より導入し,その背景と短期成績を検討した.【方法】保存的治療で改善が得られずSNMを施行した7名に術前の肛門内圧検査を施行し9名の健常者の肛門内圧と比較を行った.周術期の評価と術後の改善度をCleveland Clinic Florida Fecal Incontinence Score(CCF-FI score)を用いて評価した.【結果】健常者とSNM対象者の術前の肛門内圧をWilcoxon検定で二変量解析し,vector volume(p=0.026),high pressure zone(HPZ)(p=0.006),maximum resting pressure(MRP)(p=0.026)で有意差を認めた.男性に限ると,vector volume(p=0.034)のみ有意差を認め,女性に限った場合ではHPZ(p=0.027)のみ有意差を認めた.年齢およびmaximum squeeze pressure(MSP)については全体および男女別の全てにおいて有意差は認めなかった.CCF-FI scoreの平均は術前14.6点から術後9.3点と有意に改善した(p=0.033).【結語】難治性便失禁患者にSNMを早期導入し検討を行った.短期成績は全体でCCF-FI scoreの有意な改善を得た.今後さらなる症例蓄積と長期検討が必要である.

手技・機器の開発
  • 川崎 誠康, 豊田 翔, 山本 堪介, 今川 敦夫, 前平 博允, 小川 雅生
    2017 年 42 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下腹壁ヘルニア手術において,最初にヘルニア門直上を小切開で開腹して第1ポートを留置する「ヘルニア門先行アプローチ」を定型化した.腹壁の薄いヘルニア門から開腹することにより最短距離で腹腔内に到達できるうえ,安全な腹腔内操作やメッシュの固定などにも小切開創を活用することができる.さらに前方アプローチでは標準的に施行していた漿液腫予防のための余剰サックの処理操作が可能である.腹腔内に容易に到達でき,またメッシュ固定や術後合併症の予防処置が確実に施行できる本術式は,腹腔鏡手術の低侵襲性を保ちながら開腹術式の優位点をあわせ持つhybrid手術として,特に肥満症例では有用な術式であると考えている.

症例報告
  • 中田 泰幸, 柳澤 真司, 西村 真樹, 小林 壮一, 岡庭 輝, 海保 隆
    2017 年 42 巻 1 号 p. 24-31
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例1は92歳の女性.脳梗塞,認知症の既往があった.昼食中にパンを食べていたところ下顎の総入れ歯を飲み込んでしまい前医を受診された.胸部X線にて胸部上部食道に有鈎義歯を認め,当院消化器内科にて内視鏡的に摘出を試みるも困難にて当科紹介された.手術は,右開胸食道異物摘出術,胃瘻造設術を施行した.症例2は82歳女性.脳梗塞,認知症の既往があった.2日前より部分入れ歯がないことに気づいたが症状なく経過をみていた.その後,胸のつかえ感を訴えるようになり,前医を受診された.胸部X線にて胸部上部食道に有鈎義歯を認め,内視鏡的に摘出を試みるも困難にて当科紹介された.手術は,右開胸食道異物摘出術,胃瘻造設術を施行した.認知症高齢者にとって,食道異物(有鈎義歯)に対する右開胸術は極めて高度侵襲的である.しかし,術中に胃瘻を造設することが,一般病棟での周術期管理,さらには,療養型病院への転院を容易にする上で重要であると思われた.

  • 荻澤 佳奈, 西森 武雄, 中本 健太郎, 竹村 哲, 櫻井 康弘
    2017 年 42 巻 1 号 p. 32-39
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,女性.左乳房痛にて来院.諸検査にて左乳房中央部乳癌(小葉癌,ER/PgR/HER2 +/-/1+ Ki-67 30% T4bN3bM1(LYM,SKI) Stage Ⅳ)と診断した.根治手術不可と判断し内分泌療法を開始したが,増悪を認めたため,化学療法を行った(FEC→DTX→ERI→PTX+BEV).約1年後に飲水時に咳嗽が著明に出現したため,食道造影を行ったが異常は認めなかった.その2カ月後に食物が詰まり,上部消化管内視鏡検査を実施したところ,門歯より約25cmの食道に全周性の狭窄を認めたが,食道粘膜は正常であった.CT検査で食道周囲リンパ節転移がみられ,これにより食道狭窄と診断した.狭窄に対しバルーン拡張術・食道ステント留置を施行したが,症状の改善を認めなかった.S-1の投与で腫瘍の縮小を認めたが,ステント留置の4カ月後に腫瘍のovergrowthにより食道狭窄が出現したため,ステントを留置した.その6カ月後にCT検査で食道気管瘻がみられた.左声帯麻痺も出現した.6カ月後に吐血がみられ,CT検査で食道下端と大動脈との交通を認めた.最終的に大量の吐血・喀血を呈し死亡された.

  • 伊藤 想一, 上村 卓嗣, 阿部 隆之, 佐藤 耕一郎
    2017 年 42 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は60歳,男性.貧血の精査目的に当院に紹介された.上部消化管内視鏡にて出血性の1型胃腫瘍を認め,EMRを施行した.病理組織学的検査にて胃癌,垂直断端陽性の診断となり,追加的外科治療として胃全摘を施行した.術中,十二指腸が右腹部に下行し,小腸が右腹部に偏在していることが判明した.盲腸,上行結腸は後腹膜に固定されておらず,全結腸は正中から左腹部に存在していた.Ladd靱帯を認め,腸回転異常症と診断した.胃全摘を施行したのち,Ladd靱帯を切離した.次いで上行結腸の右側を通る経路で空腸を挙上し,R-Y再建を行った.また虫垂切除術も施行した.腸回転異常症を伴った胃癌の手術の場合,腸回転異常症に対する処置や胃切除後の再建方法などについて検討を要する.しかし同様の症例は非常に稀であり,標準的な手術方法は確立されていないため,文献的考察を加えて本症例を報告する.

  • 田 鍾寛, 國崎 主税, 木村 準, 牧野 洋知, 遠藤 格
    2017 年 42 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は35歳女性.持続する嘔気を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で胃体上部後壁に径50mmの0-Ⅱc病変を認め,生検でMALTリンパ腫と診断され,精査加療目的に当院消化器内科を紹介され受診した.当院での上部消化管内視鏡検査では,胃角対側大彎に径25mmの0-Ⅱc病変の合併を認め,生検で印環細胞癌が検出された.尿素呼気試験は陽性でH. Pylori陽性と診断した.術前診断は胃MALTリンパ腫がLugano分類Stage Ⅰ,胃癌がL,PostLessGre,0-Ⅱc(25mm),sig,T1a(M),N0,H0,P0,M0,Stage ⅠAで,リンパ腫の範囲の確実な同定が困難であったこと,患者本人の希望があったことから治療は腹腔鏡下胃全摘術,D1+郭清,Roux-en-Y再建を施行した.最終診断は胃MALTリンパ腫がLugano分類Stage Ⅰ,胃癌がL,PostLessGre,0-Ⅱc(17×13mm),sig,T1a(M),N0,H0,P0,M0,Stage ⅠAであった.胃MALTリンパ腫合併胃癌では治療後のQOLとMALTリンパ腫に対する治療の確実性について十分に検討し治療法を決定することが重要である.

  • 奥野 倫久, 田中 涼太, 池谷 哲郎, 城月 順子, 村橋 邦康, 澤田 鉄二
    2017 年 42 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    患者は85歳男性.心窩部痛にて当院受診した.上部消化管内視鏡検査にて胃体下部大彎に潰瘍性病変と,同部より食道胃接合部まで連続した萎縮を伴う陥凹発赤部を後壁小彎に認めた.発赤調粘膜部からは悪性所見は認めなかったが,潰瘍病変から,生検にて高分化型腺癌を認めた.精査の結果,早期胃癌L 0Ⅱ-c(UL+)N0 M0と診断.しかし発赤調病変の悪性所見を否定できず,胃全摘術およびD1+リンパ節郭清,Roux-en-Y再建施行した.病理結果では,発赤調病変に一致してびまん性の粘膜下異所腺を認め,術前判明していた癌部(M癌)以外にも2箇所の粘膜内癌を認めた.

  • 坂本 譲, 今 裕史, 岩崎 沙理, 梅本 浩平, 小池 雅彦
    2017 年 42 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,男性,狭心症疑いで当院へ搬送され,精査の後血管内治療は施行せず入院となった.入院後状態は安定するも,翌日激しい腹痛と血圧低下および,造影CTで腹腔内に液体貯留と胃体中部に局在した造影剤漏出を認め,腹腔内出血と出血性ショックの診断で同日緊急手術を施行した.開腹所見では,腹腔内に多量の血腫と左胃大網動脈末梢からの活動性の出血を認め,同血管を含む大網を結紮切離し止血した.術後は再出血なく軽快退院となった.摘出標本の病理組織所見では,左胃大網動脈における急性動脈解離と,背景病変としてsegmental arterial mediolysis(SAM)の所見を認めた.腹部内臓領域の動脈瘤は比較的稀だが破裂すると予後不良であり,この成因の一つにSAMという概念が提唱されている.今回われわれは,SAMによる胃動脈瘤破裂の1例を経験したので報告した.

  • 萩尾 浩太郎, 飯室 勇二, 鈴木 修
    2017 年 42 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    76歳男性.持続する嘔吐を主訴に近医より紹介受診した.腹部腫瘤を触知し,CT検査にて,長径約20cmの巨大な腫瘤と,腫瘤と連続する空腸にwhirl signを認め,その口側腸管が著明に拡張していた.腫瘤は,囊胞状で一部内腔に突出する乳頭状の壁在結節を認めた.一方,FDG-PETで囊胞性腫瘤に集積は認めず,横行結腸肝彎曲に異常集積を認め,横行結腸癌の併発が疑われた.腫瘤に伴う小腸捻転と診断し,待機的に開腹手術を施行した.トライツ靭帯から約10cmの空腸に連続した巨大な囊胞性腫瘍を認め,腸間膜を軸として約180度空腸が回転していた.囊胞を含めた空腸部分切除術を施行し,横行結腸には癌を認め結腸切除術D3郭清を施行した.病理診断上,囊胞性腫瘍はC-kit陽性の小腸GIST,横行結腸癌はT3(SS)N0M0Stage Ⅱであった.小腸GISTによる小腸軸捻転の本邦報告例は自験例を含め9例である.

  • 太田 勝也, 池永 雅一, 小西 健, 中島 慎介, 中川 朋, 遠藤 俊治, 山田 晃正, 奥 正孝, 西嶌 準一
    2017 年 42 巻 1 号 p. 73-77
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は66歳女性.下腹部痛を主訴に当院へ搬送された.腹部CT検査で腹腔内遊離ガス,子宮腔内ガス像を認め,壁肥厚したS状結腸を認めた.S状結腸腫瘍による消化管穿孔および子宮破裂と診断し,緊急手術の方針とした.開腹すると,壊死した子宮から悪臭を伴う白色膿性腹水が流出していた.S状結腸腫瘍は子宮に強く癒着し,さらに子宮底部は穿孔していた.術式は子宮膣上部切断,両側付属器切除およびS状結腸切除とした.最終診断はS状結腸癌を契機とした子宮留膿腫穿孔による急性汎発性腹膜炎であった.婦人科悪性腫瘍はなかった.子宮留膿腫は高齢者に多く,子宮腔内分泌物の排泄障害が原因で発生する.本症例はS状結腸癌が子宮へ強く癒着し,子宮を圧迫し排泄障害を惹起したことで子宮留膿腫を形成した.それらを放置したため,子宮穿孔を併発したと考えられた.

  • 植木 智之, 園田 寛道, 清水 智治, 三宅 亨, 生田 大二, 竹林 克士, 貝田 佐知子, 飯田 洋也, 山口 剛, 谷 眞至
    2017 年 42 巻 1 号 p. 78-84
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は45歳女性.左下腹部痛を主訴に紹介受診となった.下部消化管内視鏡検査では,直腸S状部に狭窄所見を認めたものの,粘膜面に上皮性変化を認めず,生検では炎症細胞浸潤のみであった.また,腹部造影CT検査・骨盤部MRI検査では,子宮頸部背側に境界不明瞭で不整な腫瘤像を認めた.臨床経過・検査所見により,腸管子宮内膜症を強く疑ったが,通常内視鏡が通過困難なほどの狭窄をきたしている点を考慮して腹腔鏡下高位前方切除術を施行した.病理組織学的検査では粘膜下層・固有筋層・外膜組織内に子宮内膜腺と子宮間膜の両成分を認めた.術後経過は良好で術後9日目に退院となった.腸管子宮内膜症における腹腔鏡手術は,従来の開腹手術より低侵襲で詳細に腹腔内を観察することが可能であり,有用であると考えられた.

  • 松下 公治, 小西 文雄, 吉田 卓義, 前田 徹, 米神 裕介
    2017 年 42 巻 1 号 p. 85-90
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は81歳男性.主訴は全身倦怠感,便秘.採血でHb 8.3g/dLと貧血を認め入院した.大腸内視鏡検査で直腸Rbに全周性の潰瘍を伴う腫瘍性病変を認めた.CTとMRIで前立腺浸潤の所見と仙骨浸潤を疑う所見を認め,T4b(前立腺,仙骨),N0,M0,cStage Ⅱと診断した.S状結腸双孔式人工肛門造設術を施行し,mFOLFOX6療法を6回施行した.6回目の化学療法後に,腫瘍部穿通による殿部膿瘍,DICを合併した.その後のCTとMRIで,前立腺浸潤の所見と仙骨浸潤を疑う所見が消失しており,根治的切除が可能と判断し,化学療法終了から7週後に腹会陰式直腸切断術を施行した.組織学的効果判定はGrade 2で,病理診断はT3,N0,M0,pStage Ⅱで,癌の遺残は認めなかった.術後20カ月現在,再発なく外来フォロー中である.局所進行直腸癌に対しての術前化学療法は術前化学放射線療法に匹敵する局所効果が得られる可能性が期待できると思われた.

  • 松崎 太郎, 小川 正文, 伊藤 厳太郎, 高垣 敬一, 福岡 達成, 山本 時彦
    2017 年 42 巻 1 号 p. 91-96
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例1は66歳男性.倦怠感,食思不振にて当院救急搬送された.腹部CTにて気腫性胆囊炎が疑われ,緊急で経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gall bladder drainage:PTGBD)を施行した.第11病日にPTGBDチューブをクランプし退院した.胆囊炎が再燃し,クランプ開放し第37病日に開腹胆囊摘出術施行した.病理診断は急性胆囊炎であった.

    症例2は60歳男性.上腹部痛にて紹介受診となった.腹部CTにて気腫性胆囊炎を認め,緊急でPTGBDを施行した.第11病日にPTGBDチューブをクランプしたが胆囊炎が再燃し,第19病日に腹腔鏡下胆囊摘出術を行った.病理診断は急性壊死性胆囊炎であった.いずれも胆汁の細菌培養でClostridium perfringensが検出された.術後経過は順調で,それぞれ術後15日目と8日目に退院となった.

    気腫性胆囊炎はガイドライン上,特殊な急性胆囊炎に分類され重篤な状態に陥りやすいと言われており,重症胆囊炎に分類される合併症を有するハイリスクな症例ではPTGBDも有用であると考えられた.

  • 矢田 章人, 鈴村 和大, 田中 肖吾, 裵 正寛, 黒田 暢一, 平野 公通, 岡田 敏弘, 栗本 亜美, 波多野 悦朗, 藤元 治朗
    2017 年 42 巻 1 号 p. 97-101
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は57歳,女性.40歳時に無症候性の原発性胆汁性肝硬変(PBC)と診断され,経過観察されていた.今回,黄疸を主訴に近医を受診.閉塞性黄疸を認め,精査にて遠位胆管癌と診断され,ERBDチューブ留置による減黄処置が行われた後,手術目的で当院紹介となった.CTでは,遠位胆管閉塞およびその肝側胆管の拡張が認められ,MRCPでは遠位胆管に約2.5cmの欠損像が認められた.手術は,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術およびPBC組織学的病期分類目的での肝生検を施行した.切除標本では遠位胆管に2.5cmの結節浸潤型の腫瘍を認めた.病理組織学的検査所見では,遠位胆管腫瘍は中分化型管状腺癌であり,肝はScheuer分類Ⅱ-Ⅲ期のPBCであった.術後経過は良好で,術後37病日に退院となった.しかし術後12カ月目に肝転移が出現し,手術より28カ月後に死亡した.PBCの悪性腫瘍併発率は高率と報告されているが,胆管癌併発例の報告は稀である.今回,われわれはPBCに合併した遠位胆管癌の1切除例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 島田 恵, 笹原 孝太郎
    2017 年 42 巻 1 号 p. 102-108
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は48歳の男性.黒色便を主訴に受診.上部消化管内視鏡にて十二指腸下行脚に潰瘍性病変を認めた.腹部造影CTにて膵頭部に拡張した血管構造を認め,腹腔および上腸間膜動脈造影では膵頭部に不整な濃染領域ならびに,門脈の早期濃染を認めた.血管奇形もしくは多血性の腫瘍の診断で膵頭十二指腸切除を施行した.組織学的に膵動静脈奇形と診断された.膵動静脈奇形は稀な疾患であり,今回上部消化管出血を契機に発見された膵動静脈奇形の手術症例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

  • 加納 英人, 石坂 和博, 立岡 慎一郎, 中村 圭輔, 永田 将一
    2017 年 42 巻 1 号 p. 109-114
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    ロボット支援前立腺全摘術(RALP)は低侵襲性,良好な視野,操作性など多くの長所を持ち,本邦でも急速に普及が進みつつある.一方,手術方法の特性により,適応を慎重に判断すべき症例も存在する.当科では2014年6月11日よりRALPを開始したが,初期症例25例を施行する間にRALPは不適切であると判断された症例が3例あった.1例は前立腺容積が60mLと大きく,膀胱内への突出著明であった.2例目は経尿道的前立腺切除術後症例で,未破裂脳動脈瘤経過観察中であることが判明した.3例目は左鎖骨下動脈に血栓が存在し,また,両側腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術後のメッシュが膀胱上までかかっていた.前2例は小切開手術による前立腺全摘術を施行.他1例は高線量外照射を施行した.われわれのRALP回避症例選択は導入期としては妥当であったと考えるが,術式の改良により,導入期も含めた適応が拡大していくことに期待する.

  • 田中 秀治, 波頭 経明, 山田 誠, 原 あゆみ, 多和田 翔, 福田 哲也, 八幡 和憲, 松井 康司, 足立 尊仁, 西科 琢雄
    2017 年 42 巻 1 号 p. 115-121
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は84歳,男性.3年前より左鼠径部腫瘤を自覚するも放置していた.徐々に増大し,左下腹部にも及ぶ巨大腫瘤となったため,精査加療目的で当院紹介受診となった.術前CT検査では,左後腹膜から左鼠径管を占拠する長径19cmの巨大腫瘤を認め,PET-CT検査ではSUVmax:4.58の集積を認めた.MRI検査ではT1強調像で低信号,T2強調像で大部分が高信号で不均一な造影効果を示し,悪性間葉系腫瘍・肉腫などが疑われた.腫瘍播種の可能性のため生検は施行せず,診断および治療の目的で手術の方針となった.手術は後腹膜腫瘍摘出術を施行した.病理組織検査では,腫瘍は紡錘形の腫瘍細胞および大型多形細胞の増殖からなり,免疫染色ではCDK4(+),MDM2(+),p16(+),MIB-I陽性率 30%であり,脱分化型脂肪肉腫と診断された.術後経過は良好であり,術後第16病日に退院となった.術後1年6カ月経過し無再発生存中である.

  • 佐々木 義之, 明石 諭, 杉森 志穂, 山田 行重
    2017 年 42 巻 1 号 p. 122-126
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代女性.2014年9月に腹痛のため内科を受診.腹部はやや膨満し左下腹部に圧痛を認めた.腹部造影CT検査では小腸の軽度の拡張を認め,イレウス疑いで入院加療となった.翌朝,腹痛の増強を認め,当科紹介となった.再度CT検査が施行され,小腸の拡張像の増強,S状結腸間膜内側から外側に向かい小腸が貫通している像を認め,S状結腸間膜裂孔ヘルニア嵌頓と診断し,同日緊急手術を施行した.術中所見では左側腹部に拡張した小腸を認めた.検索するとS状結腸間膜に裂孔を認め,術前画像診断と同じく,内側から外側へ小腸が嵌頓していた.嵌頓小腸を引き出し,裂孔を閉鎖した.嵌頓部小腸の切除は行わなかった.S状結腸間膜裂孔ヘルニアは稀な疾患であり,本邦での報告は15例のみである.術前診断は困難とされ本例の様に術前に診断された報告例はなく,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 端山 軍, 塩谷 猛, 小峯 修, 南部 弘太郎, 渡邉 善正, 渋谷 肇, 清水 貴夫, 范姜 明志, 山田 太郎
    2017 年 42 巻 1 号 p. 127-133
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は80歳代の男性.腹痛,腹部膨満,嘔吐を主訴に近医を受診し,腹部単純X線撮影で小腸の拡張を認めイレウスと診断されたが近医では対応困難のため,当院へ紹介された.当院受診後に施行した腹部単純CTで小腸の拡張を認めた.しかし腹部所見は圧痛のみで腹膜刺激症状も認めなかったため,保存的加療を行う方針とし緊急入院となった.なお,既往歴は高血圧のみで開腹歴はなかった.入院後にイレウス管を挿入し保存的加療を開始した.しかし,入院3日目にイレウス管造影検査を行ったところ,造影剤の通過が悪い部位を認め,その後も症状改善を認めなかったため,入院後9日目に手術療法に移行した.腹腔鏡にて腹腔内を観察するとS状結腸間膜後葉の異常な陥凹に小腸が嵌頓しており,S状結腸間膜窩ヘルニアと診断した.まずはヘルニア門を切開して小腸の嵌頓を解除した.嵌入していた小腸を確認すると色調は良好で壊死所見を認めなかったため,腸切除はせずヘルニア門を広く開放し,完全腹腔鏡下で手術を完遂した.術後経過は良好で,術後7日目に退院となった.

  • 佐野 修平, 本間 重紀, 吉田 雅, 下國 達志, 崎浜 秀康, 川村 秀樹, 岡田 宏美, 武冨 紹信
    2017 年 42 巻 1 号 p. 134-138
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は64歳女性.右臀部違和感を主訴に近医受診し,精査にて後腹膜悪性腫瘍が疑われ,当科紹介.CTにて,直腸右背側に約15cm大の囊胞性腫瘍を認めた.壁の一部に造影効果を伴う充実部と,それに一致してFDG-PETにてSUVmax 6.09の集積亢進を認めた.腫瘍が増大傾向を示したことから悪性腫瘍を疑い,腹腔鏡下と会陰操作の併用し,外肛門括約筋と尾骨を合併切除して腫瘍を切除した.術後合併症なく18日目に退院となった.組織診にてepidermoid cystと診断し,悪性所見は認めなかった.成人前仙骨部epidermoid cystの術前診断は困難で,稀に悪性化することが知られている.腫瘍の大きさや局在によって,腹腔鏡下と会陰操作の併用といった術式の工夫が重要であり,手術による完全切除が望まれる.

トピックス
feedback
Top