日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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ISSN-L : 0385-7883
44 巻, 2 号
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原著
  • 福島 尚子, 青木 寛明, 小川 匡市, 吉田 和彦, 矢永 勝彦
    2019 年 44 巻 2 号 p. 155-160
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    目的:小腸悪性腫瘍は稀な疾患であり,その臨床像の検討の報告は少ない.今回われわれは,小腸腫瘍の臨床像を検討するため,当院で手術を施行した小腸悪性腫瘍症例を検討した.

    方法:2007年6月から2016年10月に小腸悪性腫瘍に対して手術を施行した症例を対象にretrospectiveに検討した.

    結果:症例は26例で,平均年齢は66.0±14.0歳,男女比=10:16であった.有症候は25例(腹痛14例,嘔吐5例,腹部腫瘤触知3例,下血2例,貧血1例)で,術前に小腸腫瘍と確定診断しえたものは9例であった.腫瘍の存在部位は空腸14例,回腸9例,不詳3例であり,組織学的にはGIST9例,悪性リンパ腫6例,転移性小腸腫瘍6例,小腸癌5例であった.

    結語:小腸悪性腫瘍は腸閉塞や穿孔性腹膜炎の状態で発見され,予後不良であることが多く,急性腹症などの腹部症状の鑑別診断として念頭におく必要があると考えられた.

  • Yoshiko Bamba, Shimpei Ogawa, Michio Itabashi, Akiyoshi Seshimo, Shing ...
    2019 年 44 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    Objectives: The present study was performed to examine operative cases of perforated diverticulitis and to consider the corresponding treatments.

    Methods: In the 10-year period from January 2007 to December 2016, 20 cases of perforated sigmoid diverticulitis were treated surgically in our hospital. We examined the background factors, physical findings, preoperative diagnoses, surgical findings, and postoperative courses.

    Results: Twenty patients with sigmoid colon diverticulitis, eleven males and nine females with a median age of 67.5 years (25 to 87 years), were included in the analysis. Preoperative complications included chronic kidney failure, including post-transplantation failure in 4 cases (20%), among others. Surgery was performed using open methods, including 15 patients who underwent the Hartmann procedure and 5 patients who underwent colon resection or suture closure with stoma construction. Among the postoperative complications, stoma dropout, deep venous thrombosis with pelvic abscess formation, pneumonia, and wound dehiscence were detected in one case each. Postoperative polymyxin-direct hemoperfusion (PMX-DHP) was effective in 2 cases (10%). No deaths occurred.

    Conclusions: For perforated sigmoid diverticulitis, we performed colon resection or suture closure with stoma construction by open methods. The postoperative course was relatively favorable.

  • 近谷 賢一, 石橋 敬一郎, 近 範泰, 幡野 哲, 天野 邦彦, 石畝 亨, 福地 稔, 熊谷 洋一, 持木 彫人, 石田 秀行
    2019 年 44 巻 2 号 p. 167-175
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】実地医療における切除不能進行再発大腸癌に対するlate lineの治療成績を明らかにする.【対象・方法】2013年7月~2016年12月の間にlate lineとしてregorafenib,trifluridine / tipiracil(TFTD)の少なくとも1剤を使用した切除不能進行再発大腸癌41例を対象に,診療録からデータを抽出し,後方視的に解析した.【結果】Regorafenib先行群25例,TFTD先行群16例の間で無増悪生存期間,全生存期間ともに有意差を認めなかった.RegorafenibまたはTFTDのみが使用された22例より,2剤が使用された19例の方が全生存期間が延長していた(中央値20.8カ月vs.6.4カ月,p=0.02).【結語】大腸癌化学療法のlate lineにおいて,regorafenibとTFTDを使い切ることが,生存期間の延長に繋がる可能性が示唆された.

臨床経験
  • 菊池 真維子, 中島 政信, 室井 大人, 高橋 雅一, 山口 悟, 佐々木 欣郎, 土岡 丘, 加藤 広行
    2019 年 44 巻 2 号 p. 176-181
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    食道癌根治切除術は他の消化器癌手術と比べ侵襲の高度な手術となり,不整脈などの術後合併症が重篤化することもしばしばで周術期管理は特に重要である.当科にて右開胸または胸腔鏡下での食道癌根治切除術を施行した症例中,術中および術後に120回/分以上の頻脈性不整脈の発現を19例に認め,術前から心電図異常を認め(p=0.0001),循環器疾患の既往を認めた症例(p=0.0061)で有意に頻脈性不整脈の発生を認めた.当科では頻脈性不整脈に対する治療の中で,19例中12例に短時間作用型β1選択的遮断薬である塩酸ランジオロール投与を行っており,12例に対する後方視的な検討を行った.塩酸ランジオロール投与により10例(83.3%)が洞調律への改善を認め,全例に血圧低下や呼吸状態の悪化は認めなかった.投与基準に従った食道癌周術期における頻脈性不整脈に対する塩酸ランジオロール投与は副作用を生じることなく安全に投与可能であり,術後成績向上の一助になると思われる.

  • 小澤 修太郎, 狩野 契, 鋤柄 稔
    2019 年 44 巻 2 号 p. 182-186
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    目的:成人鼠径ヘルニア手術はメッシュを用いたtension-free-hernioplasty(以下:TFH)が標準である.術後のsurgical site infection(以下SSI)は決して多くはないが発症すると治癒に難渋することがある.われわれは本術式における術前抗菌剤投与の有無とSSIの関連性を後方視的に解析したので報告する.方法:2011年10月から2015年7月まで当院で行われた片側成人鼠径ヘルニア手術(メッシュ法)を行った88例の診療録を後方視的に集計し,主治医が症例毎に決定していた術前抗菌薬投与の有無で2群に分け,投与群33例と非投与群55例でSSIの発症頻度を比較した.結果:背景因子として年齢,肥満度,糖尿病有病率,手術時間,出血量などには両群間に有意差はなかった.3例にSSIを認め全て非投与群であった.しかし両群間のSSI発生に有意差はなかった.結語:SSI発生率に両群間で有意差はなかった.

症例報告
  • Hirokatsu Hayashi, Yoshito Kuroki, Hiroshi Nishino
    2019 年 44 巻 2 号 p. 187-191
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    Retropharyngeal hematoma is a rare and life-threatening due to the rapid progression of airway obstruction. We herein report a case of exacerbation of retropharyngeal hematoma after initial improvement.

    We report the case of a 93-year-old woman who presented to the emergency department complaining of anterior neck swelling. She was diagnosed as retropharyngeal hematoma without a preceding traumatic injury or coagulopathy. Computed tomography (CT) scan showed a hematoma extending from the retropharyngeal to the superior mediastinal space and slight extravasation near the right vertebral artery. She was conservatively managed at the intensive care unit, with improvement in neck size. On post-admission day 21, she suddenly developed dysphagia followed by dyspnea, her oxygen saturation decreased rapidly, and emergency tracheostomy was performed. A CT scan revealed exacerbation of the retropharyngeal hematoma. Twelve days after exacerbation, she moved to the general ward because her condition became stable. On post-admission day 60, she developed bacterial pneumonia, which worsened her respiratory condition. On post-admission day 80, she died of bacterial pneumonia.

    On encountering elderly patients with retropharyngeal hematoma-associated airway obstruction without preceding traumatic injury or coagulopathy, airway management and monitoring for hemorrhage are essential.

  • 篠田 智仁, 長尾 成敏, 田中 千弘, 仁田 豊生, 河合 雅彦, 國枝 克行
    2019 年 44 巻 2 号 p. 192-197
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【はじめに】降下性壊死性縦隔炎は主に上気道感染,歯性感染が進展し起こる致死性感染症である.治療に難渋することが多く以前は死亡率の高い疾患であったが近年の医療の総合的な進歩により治療成績は改善傾向にある.【症例】患者は38歳,男性.左頸部の腫脹,疼痛を主訴に近医を受診し頸部蜂窩織炎と縦隔膿瘍の診断で当院紹介となった.同日左頸部より深頸部および上縦隔のドレナージを施行した.口腔内常在菌をターゲットとした抗菌薬の投与と挿管管理下での集中治療を開始した.第7病日に施行した造影CT検査にて遺残膿瘍と左内頸静脈内の血栓を認め再度深頸部および上縦隔のドレナージ術を行った.膿瘍および血栓の消失を確認して第27病日に退院となった.【考察】感染性内頸静脈血栓症を伴った降下性壊死性縦隔炎に頸部ドレナージを含めた集学的加療により救命しえた1例を経験したため若干の文献的考察を含め報告する.

  • 堀岡 宏平, 藤本 崇聡, 中本 充洋, 荻野 利達, 中島 洋, 北原 光太郎, 中村 賢二, 八谷 泰孝, 福山 時彦
    2019 年 44 巻 2 号 p. 198-202
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は50歳の男性.1.5mの高さから転落し,左側胸部と右足関節を打撲した.X線検査で左多発肋骨骨折と左気胸および右足関節外果骨折を認めた.左気胸に対して胸腔ドレナージを施行し,第3病日にドレーンを抜去した.抜去直後から左胸部痛と呼吸苦が出現し,CT検査を施行したところ左血胸が出現していた.緊急手術を施行したところ,左第7肋骨骨折端部の肋間動脈からの出血を認め,開胸下に胸腔鏡を用いて止血と血腫除去を行った.合併症なく経過し術後15日目に退院した.胸部外傷による血胸の合併は比較的多いが,遅発性に血胸を発症することは稀である.今回胸腔ドレーン抜去後に急速に大量出血をきたした遅発性血胸の1例を経験したので報告する.

  • 村田 竜平, 小林 展大, 渡辺 義人, 越前谷 勇人
    2019 年 44 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,女性.以前より画像検査にて食道裂孔ヘルニアを指摘されていたが,症状が軽いため経過観察となっていた.その後,飲み込みにくさが持続するために手術を希望され,待機的に腹腔鏡下ヘルニア修復術を行う方針となった.術前の造影CT検査では,胃が間膜軸性(短軸性)に軸捻転し,前庭部および体下部が食道裂孔から縦隔内に逸脱してUpside Down Stomachを呈していた.腹腔鏡下に逸脱した胃を整復し,連続縫合よるヘルニア門閉鎖とNissen噴門形成術を行い,術後18カ月経過した今も再発は認めていない.食道裂孔ヘルニアは中高年の女性に好発する,比較的頻度の高い疾患である.しかし,軸捻転を生じた胃が縦隔内に逸脱するUpside Down Stomachを呈するものは稀であり,致命的状況になる可能性があることから,早期の治療介入が必要である.また,高度な逸脱症例でも腹腔鏡下の整復が可能であり,有用であった.

  • 鯨岡 学, 浅井 浩司, 渡邊 良平, 斉田 芳久, 榎本 泰典, 草地 信也
    2019 年 44 巻 2 号 p. 209-216
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,男性.慢性膵炎の経過観察中,膵頭部に分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)を認めた.囊胞径および,内部に充実性成分を有することから手術適応と判断し,膵胃吻合を伴う亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査結果は,膵管内乳頭粘液性腺腫であった.術後2年後に施行した上部消化管内視鏡検査で胃体中部後壁に約30mm大の粘膜下腫瘍様0-Ⅰ型腫瘍を認め,生検にて,腺癌と診断された.上部消化管内視鏡所見およびCTにて膵胃吻合と0-Ⅰ型腫瘍は正常粘膜を介在して3cm程度離れていることから残胃癌と診断し胃局所切除術を施行した.膵手術後5年,胃手術後3年が経過したが再発なく経過観察を行っている.膵頭十二指腸切除術後の長期生存が期待できるIPMN症例では,残胃に新たな異時性重複癌が発生する症例も報告されているため,術後は残胃に対する慎重な経過観察が重要であると考えられた.

  • 福島 尚子, 青木 寛明, 堤 純, 高山 澄夫, 矢永 勝彦
    2019 年 44 巻 2 号 p. 217-222
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は75歳女性.数年前より急性胃拡張による嘔吐,腹痛で入退院を繰り返しており,今回も同様の症状で入院した.CTで胃拡張を認め,胃前庭部が頭側に挙上し,胃底部が尾側に偏位していた.胃管挿入後,症状が改善し食事を開始したが,腹満が出現した.胃管を再度挿入すると血性の内容物を認め,上部内視鏡検査で,胃軸偏位と穹窿部に出血を認めクリッピングにて止血した.胃軸偏位は内視鏡にて整復できず,手術を施行した.開腹すると,肝十二指腸間膜欠損を認め,十二指腸が固定されていなかった.また,大網裂孔を認め,胃体部が大網裂孔に入り込んでいた.胃を整復した後に,噴門形成術を行い,十二指腸球部と後腹膜,胃大彎と腹壁を固定し,大網裂孔を縫合した.経過は良好で,再発を認めていない.肝十二指腸間膜欠損と大網裂孔が原因で発生した成人特発性胃軸捻転症を経験した.このような発症形式は過去に報告がなく,文献的考察を加えて報告する.

  • 鈴木 雄飛, 大貫 義則, 大石 康介, 内山 隆, 久保田 修, 新村 祐一郎
    2019 年 44 巻 2 号 p. 223-230
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳の女性で,貧血を主訴に精査したところ,十二指腸下行脚のVater乳頭対側に5×2.5cm大の粘膜下腫瘍を認めた.GIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)を疑い局所切除術を施行した.術前同部の欠損が半周以上になると判断し,術前より空腸漿膜パッチを加えて修復する予定とした.病理所見は低リスクのGISTであった.術後経過は良好で,変形や狭窄は認められなかった.また,術後上部消化管内視鏡検査では粘膜の再生の経過も追うことが可能であった.術後29カ月経過しているが,再発は認められていない.腫瘍径が大きい十二指腸GISTに対し部分切除術のみでは術後狭窄を起こしうる.本症例のように部分切除術に空腸漿膜パッチを追加することにより,機能温存や術後狭窄などの合併症を回避する面からも有用であると考えられた.本症例に関して若干の文献的考察を加え報告する.

  • 福久 はるひ, 喜島 祐子, 濵之上 雅博, 野口 智弘, 白濱 浩, 夏越 祥次
    2019 年 44 巻 2 号 p. 231-237
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は68歳男性,心窩部痛と全身倦怠感を主訴に他院を受診し,貧血を指摘され精査目的に当院に紹介受診された.CT検査で小腸腫瘍および腫瘍を先進部とする腸重積が疑われた.下部消化管内視鏡で回腸腫瘍が確認され,生検で平滑筋肉腫の診断を得た.手術所見では回腸末端より50cmに腸重積を伴う鶏卵大の小腸腫瘍を認めた.断端を確保し小腸腫瘍を切除し小腸端端吻合を行った.病理所見ではDesmin,αSMA陽性でKi67の発現率高値であり,小腸平滑筋肉腫の確定診断となった.術後経過は順調であり,術後28カ月無再発生存中である.

  • 大饗 園子, 島田 翔士, 中原 健太, 日高 英二, 石田 文生, 工藤 進英
    2019 年 44 巻 2 号 p. 238-243
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性.盲腸癌(cT4bN1M0cStage Ⅲa)に対して回盲部切除術(D3郭清),同時に卵巣莢膜細胞腫・子宮平滑筋腫・子宮内膜ポリープに対して子宮全摘+両側付属器切除術を施行後,Capecitabine単剤を8コース投与し経過観察していたところ,術後1年11カ月後の胸腹部造影CTで左前胸部皮下腫瘍を認めた.徐々に増大傾向にあったため,術後2年4カ月後に左前胸部皮下腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的検査では盲腸癌の皮下転移と診断された.術後は化学療法を施行せず経過観察している.

    大腸癌を含め,内臓癌の皮膚・皮下転移は全身転移の一所見として捉えられる.しかし自験例のような単発皮下転移は切除により長期予後を期待出来る症例もあるため,徐々に増大するような皮膚・皮下腫瘍を発見した際は積極的に切除することが望ましいと考える.

  • 山崎 僚人, 多田 雅典
    2019 年 44 巻 2 号 p. 244-249
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は68歳,男性.58歳時に,慢性硬膜下血腫に対するドレナージ目的で硬膜下腔-腹腔短絡術(S-Pシャント術)を施行された.術後10年が経過した2016年4月に,発熱を主訴に来院した.腹部CT検査でS-Pシャントチューブの下行結腸穿通,頭部MRI検査で右前頭葉脳膿瘍・右硬膜下膿瘍を指摘された.脳膿瘍・硬膜下膿瘍の原因はシャントチューブを通じた腸内細菌の逆行性感染と考えられた.全身状態不良のために二期的手術の方針とし,第1回手術で右前頭葉脳膿瘍・右硬膜下膿瘍に対して開頭脳膿瘍・硬膜下膿瘍摘出術,シャントチューブ感染に対して中枢側のチューブ抜去を行った.第2回手術で,腹腔鏡下に腹腔側のチューブ抜去,穿通部の閉鎖を施行した.術後は良好に経過し,転院となった.上記の治療戦略により,安全な治療が施行でき,良好な経過が得られた.

  • 田口 大輔, 池永 雅一, 太田 勝也, 上田 正射, 加藤 亮, 家出 清継, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 遠藤 俊治, 山田 晃正
    2019 年 44 巻 2 号 p. 250-255
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    内臓悪性腫瘍の臍転移はSister Mary Josephʼs Nodule(以下SMJN)と呼ばれる.今回,われわれは臍部腫瘤を契機に発見された下行結腸癌の1例を経験したので報告する.症例は50歳代,男性.臍部腫瘤を自覚し,腫瘤の出血,排膿を認めたため近医を受診し,臍炎の診断で当院形成外科を紹介受診した.臍部腫瘤は生検の結果,腺癌であった.腹部単純CTで下行結腸に壁肥厚を認め,内視鏡検査で全周性の2型病変を認めた.以上から臍部腫瘤は下行結腸癌の転移と診断した.臍部腫瘤が出血と排膿をきたしQOLを低下させていることから,同時に原発巣と臍部腫瘤の切除を行った.術後経過は良好で,全身化学療法を開始した.臍部腫瘤を発見した際は,SMJNを疑い,悪性腫瘍の検索を行う必要がある.

  • 後藤 俊彦, 村田 徹
    2019 年 44 巻 2 号 p. 256-261
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は45歳,男性.S状結腸憩室炎を保存的加療中に腸閉塞を発症した.腸閉塞が改善した後腹腔鏡手術を行う目的で,経肛門的にイレウス管を挿入した.翌日腸閉塞が悪化したため緊急手術を行った.イレウス管先端は瘻孔を通過し,回腸内に存在した.S状結腸切除,回盲部切除,回腸人工肛門造設を行った.S状結腸憩室炎は隣接する各種臓器に瘻孔を形成することが知られており,回腸への瘻孔形成も少数ではあるが報告を認める.経肛門的ドレナージは直腸S状結腸病変による腸閉塞に対して一般的な手技である.本症例ではイレウス管挿入後に造影による確認を行ったが,回腸内に挿入したことに気付かなかった.結腸憩室炎による腸閉塞に対して経肛門的ドレナージを行う際は,瘻孔形成の可能性を念頭に置く必要があると考えられた.

  • 濱野 玄弥, 西居 孝文, 井上 透, 日月 亜紀子, 西口 幸雄, 前田 清
    2019 年 44 巻 2 号 p. 262-268
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は33歳,女性.月経周期に一致する下腹部痛を繰り返していた.不妊治療中の前医で腹部CTを施行されS状結腸に腫瘤像を認めたため精査加療目的に当院を紹介受診となった.超音波内視鏡下穿刺吸引生検(endoscopic ultrasound guided fine needle aspiration;EUS-FNA)で腸管子宮内膜症と診断し腹腔鏡下手術を行った.手術は,骨盤内腹壁に散在するblueberry spotに対し焼灼術を行うとともに,右卵巣囊腫摘出術を施行した.S状結腸は腫瘤状の内膜症病変による引きつれと屈曲による狭窄を認め,S状結腸切除術を施行した.病理組織学的検査ではS状結腸の粘膜下層から漿膜下層に子宮内膜腺および間質細胞を認めた.

  • 石戸 保典, 根上 直樹, 山田 正樹, 高橋 由佳
    2019 年 44 巻 2 号 p. 269-274
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例1.60歳,男性.S状結腸癌の診断で腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.術後経過観察で施行したCT検査で小腸間膜に播種を疑われ,小腸部分切除・腫瘍摘出術を行った.病理結果は腹腔内デスモイド腫瘍の診断であった.

    症例2.47歳,男性.直腸癌の診断で腹腔鏡下低位前方切除術を施行した.経過観察で施行したCT検査で上直腸動脈切離部にリンパ節転移を疑う腫瘤を認め,腫瘍摘出術を行った.病理結果は腹腔内デスモイド腫瘍の診断であった.

    腹腔内デスモイドの発生はいまだ解明されていないが,腹部手術時の機械的刺激が誘因の一つとも考えられている比較的稀な疾患である.そのうち,手術による機械的刺激が少ないとされる腹腔鏡下手術後のデスモイド腫瘍は稀である.今回われわれは,大腸癌に対し腹腔鏡下手術を施行後に発生した腹腔内デスモイド腫瘍の2例を経験したので文献的考察を加え報告する.

  • 船水 尚武, 大楽 勝司, 中林 幸夫, 矢永 勝彦
    2019 年 44 巻 2 号 p. 275-279
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は51歳女性.検診で便潜血反応陽性を指摘され前医を受診した.下部消化管内視鏡検査で直腸に15mmのIsポリープを認め,内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理結果で高分化型腺癌,SM浸潤1,200µmとなり,追加切除目的で当科紹介となった.腹部造影CT検査で上腸間膜動脈が上腸間膜静脈(SMV)の右側に存在するSMV rotation signを認めた.従って,腸回転異常症を伴う直腸癌の診断で腹腔鏡下高位前方切除術を施行した.成人型の腸回転異常症は稀であり,文献的考察を含めて報告する.

  • 五十畑 則之, 遠藤 俊吾, 髙栁 大輔, 根本 鉄太郎
    2019 年 44 巻 2 号 p. 280-285
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,女性.検診で便潜血陽性を指摘され,精査で行った大腸内視鏡で下部直腸に25mm大の0-Ⅱa+Ⅱc型腫瘍を認めた.Pit patternはVN型でnon-lifting sign陽性であり,粘膜下層深部への浸潤癌と診断し,外科的切除の方針となった.また以前に右胸心を指摘されており,術前のCTで完全内臓逆位症と診断した.腹腔鏡補助下直腸低位前方切除術,D2郭清,一時的横行結腸人工肛門造設術を行った.解剖が左右鏡面像になるため,術前にCT colonographyで大腸の走行と腫瘍の位置を確認し,CT angiographyで血管走行を確認し,術前に十分にシミュレーションを行うことで安全に手術を行うことができた.完全内臓逆位症に対する腹腔鏡手術は稀であり,文献的考察を加え報告する.

  • 秋本 瑛吾, 須郷 広之, 宮野 省三, 渡野邉 郁雄, 町田 理夫, 児島 邦明
    2019 年 44 巻 2 号 p. 286-290
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    膵頭十二指腸切除術(PD)後,第2病日に仮性動脈瘤破裂による出血を認めた1例を経験したので,過去報告例の集計を加え報告する.症例は75歳,男性.遠位胆管癌の診断でPDを施行した.術後第1病日に膵液瘻を認め,第2病日にはドレーンからSentinel bleedingを認め緊急造影CTを施行した.膵空腸吻合部に造影剤の漏出を認め腹腔内出血の診断となった.緊急血管造影で背側膵動脈に仮性動脈瘤を認め動脈塞栓術による止血を行った.

    PD術後出血の本邦報告76例の集計ではSentinel bleedingを54%,先行する膵液瘻を63%,膵吻合近傍からの出血を66%,仮性動脈瘤を70%に認めた.発生時期は中央値第17病日であるが,術後第7病日までの早期発症も16%にみられた.術後早期であっても前述のような所見を認める場合には,本合併症の可能性を考慮すべきと思われた.

  • 正見 勇太, 松井 俊樹, 中橋 央棋, 春木 祐司, 谷口 健太郎, 下村 誠, 勝田 浩司
    2019 年 44 巻 2 号 p. 291-298
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性.急性膵炎発症を契機に膵精査を行い,分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と診断した.しかし手術適応はなく,アルコール多飲歴があり,まず禁酒指導にて経過観察とした.患者は完全に禁酒していたが,4カ月後に膵炎が再発.膵炎の原因となったIPMNの治療目的に亜全胃温存膵頭十二指腸切除を施行した.術中右肝動脈を損傷し縫合止血した.術後膵液瘻を認めた.術後16日目に胸痛後に下血を認め,内視鏡検査で胃空腸吻合部潰瘍が疑われ,露出血管にクリッピングを施行した.その後3回胸痛後に下血を認め,出血源を特定できなかったが,胸痛と出血との間に関連性が疑われた.術後37日目に胸痛を訴えた直後に造影CTを行い,挙上空腸内への仮性動脈瘤穿破を疑ったため,血管造影・動脈塞栓術を行った.膵切除後の消化管出血では,仮性動脈瘤の消化管穿破も考慮すべきであり,疑った場合は積極的に血管造影を行うべきである.

  • 鈴村 和大, 波多野 悦朗, 宇山 直樹, 飯田 健二郎, 岩間 英明, 裴 正寛, 植木 孝浩, 中正 恵二, 藤元 治朗
    2019 年 44 巻 2 号 p. 299-305
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳の女性で,1年前より膵尾部の分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)にて外来経過観察していたところ,超音波内視鏡にてIPMN内に結節性病変を指摘された.さらに膵頭部にも内部に結節性病変を認めるIPMNが出現した.膵頭部および膵尾部の膵管内乳頭粘液性腺癌(intraductal papillary mucinous carcinoma:IPMC)が疑われたため手術目的に当科入院.中央区域温存膵切除術(middle-segment preserving pancreatectomy:MSPP)を施行し,膵体部を約4cm温存できた.病理組織学的検査では膵頭部および膵尾部腫瘍ともにinvasive IPMCの診断であった.術後は膵液漏や耐糖能異常を認めず経過し,第28病日に退院.術後約14カ月の現在,明らかな再発は認めていない.今回われわれは,膵頭部および膵尾部IPMCに対して,MSPPを施行した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 佐々木 勇人, 林 桃子, 進藤 吉明, 田中 雄一
    2019 年 44 巻 2 号 p. 306-311
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳女性.8年前に食道癌で食道亜全摘,胃管再建術を施行.以前より膵頸部に分枝型IPMNを認めていたが,CA19-9値の漸増とMRCPで膵頭部主膵管の途絶を認め,EUSでは狭窄部に8mm大の腫瘤性病変を認めた.手術の方針となり術前に3D-CT血管再構築にて膵頭部,胃管周囲血管の走行を確認した.手術は胃管血流保持のために胃十二指腸動脈,右胃大網動静脈および右胃動静脈を温存した,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理診断は膵頭部ほぼ全域にわたってIPMAと考えられる乳頭状および管状増殖を認め,一部に異型腺管の浸潤性増殖ありIPMC,invasiveの診断であった.食道癌術後の膵頭部IPMCに対し,胃管温存頭十二指腸切除術を安全に施行しえた1例を経験したので報告する.

  • 北野 悠斗, 宮下 知治, 杉本 優弥, 牧野 勇, 田島 秀浩, 伏田 幸夫, 太田 哲生
    2019 年 44 巻 2 号 p. 312-318
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    インスリノーマには局在診断が困難な症例があり,多発病変も少なくない.局在診断に難渋した膵インスリノーマの1切除例を経験したので報告する.患者は37歳女性.発汗過多および意識障害を契機にインスリノーマと診断されたが,画像検査では病変を指摘できなかった.選択的動脈カルシウム負荷試験を行ったところ,脾動脈流域および胃十二指腸動脈から分岐する横行膵動脈流域でインスリン値の上昇が見られ,病変は背側膵領域に存在すると考えられた.手術は膵体尾部切除術を行った.標本の摘出と同時に血中インスリン値の低下および血糖値の上昇を認め,病変が切除できたことを確認しえた.病理所見から,機能性膵内分泌腫瘍(G1,insulinoma)と診断した.本症例では,選択的動脈カルシウム負荷試験により病変が背側膵領域に存在することが推定できた.また病変切除の指標として,術中インスリンモニタリングが有用であった.

  • 田伏 真理, 大平 豪, 木村 健二郎, 天野 良亮, 山添 定明, 大平 雅一
    2019 年 44 巻 2 号 p. 319-326
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    子宮体癌の肝転移脾転移切除症例を経験したので報告する.症例は69歳,女性.4年前に当院で子宮体癌に対して腹式単純子宮全摘出術,両側付属器摘出術,骨盤リンパ節郭清を施行.術後補助化学療法施行中,画像検査で肝S5に肝腫瘍を1箇所,脾門部に脾腫瘍を1箇所指摘された.他に転移巣がみられなかったことから根治切除可能と判断し,脾臓摘出術および肝S5部分切除術を施行した.病理診断では類内膜腺癌,ER陽性,p53陽性であり子宮体癌の肝転移脾転移と診断した.術後9カ月無再発生存中である.

  • Ryuta Taniguchi, Noritaka Minagawa, Koji Onitsuka, Yoshitaka Sakamoto
    2019 年 44 巻 2 号 p. 327-331
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    A 47-year-old woman underwent caesarian section at the age of 23 and 33. Subsequently, she underwent another operation for an umbilical hernia and abdominal-wall tumor of umbilicus when she was 39 years old. Abdominal-wall endometriosis of umbilicus was diagnosed based on the results of pathological examination. There was no post-operative recurrence. At the age of 44 years, two abdominal-wall tumors with cyclical lower abdominal pain were observed in the lower abdominal region. She presented with pain at our hospital and had a palpable abdominal-wall tumor along the caesarian section scar. Tumors were another legions at the age of 39 years. Contrast-enhanced computed tomography revealed that the two tumors had invaded the rectus abdominis muscle. Both tumors were 35 mm in size. Magnetic resonance imaging revealed blood component into tumors. We suspected abdominal-wall endometriosis based on these findings. Core-needle biopsy was not performed due to the risk of re-implantation and dissemination. Surgical excision was used to remove the tumors along with some surrounding tissues. Pathological analysis revealed that the tumors consisted of endometriosis with glands and endometrial stroma. Approximately 79% of abdominal-wall endometriosis occurs in the operative scar after a caesarian section.  As there are no treatment guidelines, wide excision with normal tissue surrounding the tumor is recommended.

  • 西澤 聡, 山本 隆嗣, 徳原 太豪
    2019 年 44 巻 2 号 p. 332-337
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は96歳,女性.突然の右下腹部痛で当院の救急外来に搬送された.血液生化学検査と単純CTでは診断がつかず,腹痛が増悪した.造影CTを施行したところ,盲腸周囲ヘルニアによる絞扼性腸閉塞が診断され,発症より16時間後に緊急手術を施行した.終末回腸から約60cm口側の回腸が約10cmにわたり盲腸背側の小孔から陥入していた.ヘルニア門を開放し絞扼壊死した回腸を部分切除した.術後経過は問題なく術20日目に退院となった.盲腸周囲ヘルニアは稀な疾患であり,既知でない場合術前診断は困難である.医学中央雑誌で検索した邦人報告例の28%は腸切除を要し,5%が死亡しており,いずれも80歳代で,手術待機中にショックに陥った症例の報告もある.画像で,盲腸背側に塊状の小腸を認めた場合,本症を念頭においた早急な手術治療が必要であると考えられた.

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