日本外科系連合学会誌
Online ISSN : 1882-9112
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ISSN-L : 0385-7883
44 巻, 5 号
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原著
  • 沼田 幸司, 渡邊 勇人, 加藤 綾, 佐伯 博行, 利野 靖, 益田 宗孝
    2019 年 44 巻 5 号 p. 865-870
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    【目的】大腸癌術後再発例における早期再発危険因子を明らかにする.【対象と方法】当科で2000~2016年に根治度A手術を行ったStage Ⅱ/Ⅲ大腸癌のうち,再発を認めた164症例.1年以内の再発の有無で早期(E群),晩期(L群)の2群に分け検討した.【結果】早期再発は74例(45.1%)で,pT4,静脈侵襲中・高度(V1b/1c),pN3,の症例で有意に早期再発が多かった.これらの項目に対する多変量解析の結果,「pT4(Odds ratio 1.89,95%CI:1.09~3.61,p=0.038)」,「pN3(Odd ratio 5.66,95%CI:1.17~27.5,p=0.029)」が独立した早期再発危険因子であった.【結論】Stage Ⅱ/Ⅲ大腸癌においてpT4,pN3症例は術後早期再発リスクが高く,術後の経過観察や補助化学療法について検討が必要と考えられた.

  • 須藤 隆之, 藤原 久貴, 梅邑 晃, 木村 拓, 佐々木 章
    2019 年 44 巻 5 号 p. 871-877
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    目的:transabdominal preperitoneal repair(TAPP)法における鼠径床に対する浸潤麻酔の鎮痛効果を前向きに検討した.

    方法:2018年8月より2019年4月までの成人片側性鼠径ヘルニアに対してTAPP法を行った104例をロピバカインによる浸潤麻酔を付加した群(IA群)と付加しない群(Non-IA群)の2群に単純ランダム割付を行った.術後1,14病日に患側鼠径部痛と創部痛を術後14病日に患者満足度をvisual analog scale(VAS)で評価した.

    結果:1,14病日患側鼠径部痛,創部痛VASスコア,術後鎮痛剤追加使用回数,14病日満足度VASスコア,手術時間,出血量,術後在院日数においてIA群とNon-IA群の両群間で有意差を認めなかった.

    結語:TAPP法における鼠径床に対するロピバカインの浸潤麻酔は,鼠径部痛に対して明らかな鎮痛効果を認めなかった.

症例報告
  • 村野 明彦, 海瀬 博史, 勝又 健次, 土田 明彦
    2019 年 44 巻 5 号 p. 878-882
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は前立腺癌でリュープロレリン酢酸塩を投与中の79歳の男性で,重複癌である大腸癌術後の経過観察中に胸部CT検査で左腋窩リンパ節腫大を指摘された.乳房の触診で腫瘤は触知せず,胸部造影CT検査で左乳頭直下に直径8mm大の造影効果のある腫瘤を認めた.乳房エコーでも乳頭直下に直径8mm大の腫瘤を認め,左腋窩の腫瘤は,低エコーの直径4cm大のリンパ節(LN)が描出できた.骨シンチでは転移を認めず,腫瘍マーカーは陰性であった.左腋窩腫瘤のコア針生検で浸潤性乳管癌を認めたため,左乳癌のLN転移と診断して乳房全切除術および左腋窩LN節郭清術(Ⅰ)を行った.術後病理所見では浸潤性乳管癌(充実腺管癌),腋窩LN転移陽性(1/2),PSAは陰性,ERは陽性で,PRは弱陽性およびHER2陰性,Ki-67 31.1%であった.術後,タモキシフェン20mg/日を投与し,現在無再発で経過観察中である.

  • 長内 孝之, 中川 剛士, 滝口 典聡
    2019 年 44 巻 5 号 p. 883-888
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    74歳 女性.44歳時に右乳癌に対して乳房切除およびリンパ節郭清実施(1.5×1.4×1.3cm 浸潤性乳管癌(硬癌),リンパ節転移なし).術後補助治療なし.術後29年目に呼吸苦と嚥下困難のため精査加療目的入院.胸部単純レントゲン検査では胸腔内に多量の胸水貯留を認めた.食道造影では,下部食道の狭小化を認めた.内視鏡検査では,食道には隆起性病変なく壁外性の圧迫を全周性に認めた.PET/CT検査では,胸部食道の全集性腫瘤と縦隔リンパ節と右胸膜,心外膜にも集積を認めた.胸膜生検実施し転移性乳癌と診断した.抗がん剤治療Epirubicine・cyclophosphamaide(以下 EC)×4(triweekly),Docetaxel(以下Doc)×4(triweekly)実施.cPRを得たのちCDK4/6阻害剤(Palbociclib)とaromatase阻害剤(letrozole)開始し,内服3カ月後の画像評価ではnearly clinical complete remission(以下CR)の所見であり,現在も内服継続治療中である.

  • 谷田部 沙織, 坪井 一人, 市原 恒平, 良元 和久, 梶本 徹也, 柏木 秀幸
    2019 年 44 巻 5 号 p. 889-894
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は74歳の男性で,胃癌の診断に対し腹腔鏡下胃全摘・Roux-Y再建を行った.術後2日目に背部痛が出現,急激な呼吸不全をきたし精査にて食道空腸吻合部の縫合不全から左胸腔内穿破に伴う膿胸との診断に至り,速やかに人工呼吸管理と胸腔穿刺によるドレナージ治療を開始した.術後9日目から胸腔ドレーンチューブを用いた灌流療法を導入し,第14日目には人工呼吸器管理から離脱できた.引き続き灌流療法を継続し,術後29日目には瘻孔の閉鎖が確認され第30日目より経口摂取を開始した.その後再燃なく経過し,第44日目に退院となった.胃全摘後の縫合不全から胸腔内穿破をきたし縦隔炎・膿胸を発症した症例の報告は少なく,灌流療法は同病態において再手術を回避しうるひとつの治療オプションと考えられたため,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 中橋 央棋, 松井 俊樹, 正見 勇太, 春木 祐司, 谷口 健太郎, 下村 誠, 勝田 浩司
    2019 年 44 巻 5 号 p. 895-902
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は63歳男性.39歳時,膵頭部癌に対して膵頭十二指腸切術除(Child変法再建)が施行された.腹部膨満感を主訴に近医を受診し,上部消化管内視鏡検査にて残胃癌と診断され当科紹介となった.腹部造影CTでは癌の膵空腸吻合部への浸潤が疑われた.膵頭十二指腸切除後の残胃癌の診断で手術を施行した.開腹時,残胃癌は膵空腸吻合部に直接浸潤しており,胆管空腸吻合は温存し,残胃全摘に加え膵空腸吻合部を切除し,残膵空腸吻合+食道空腸吻合術を行った.術後Grade Bの膵液瘻を認めたが,術後32日目に退院となった.術後9カ月目に腹膜再発をきたし,10カ月の現在生存中である.本例のように膵頭十二指腸切除後の残胃癌切除例の報告は9例のみで,うち膵消化管吻合部を合併切除した報告は2件でいずれも膵胃吻合例であった.膵空腸吻合部を合併切除した報告例はなく,貴重な症例と考え報告する.

  • 海老沼 翔太, 川村 秀樹, 吉田 雅, 市川 伸樹, 本間 重紀, 清水 亜衣, 武冨 紹信
    2019 年 44 巻 5 号 p. 903-910
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は50歳男性.胃癌Stage Ⅳ(傍大動脈リンパ節,左鎖骨上窩リンパ節転移)に対し,S-1+Oxaliplatinを9コース施行した.リンパ節転移の消失・縮小を得て,開腹胃全摘術D2-No.10+No.16郭清を施行した.病理検査ではypT3N0M0,ypStage ⅡAであった.術後補助化学療法としてS-1を1年間内服した.術後1年目に腹部CTで孤立性脾臓転移を指摘,Capecitabin+Oxaliplatin療法を1コース,Paclitaxel+Ramcirumab療法を8コース施行してSDであった.根治切除可能と判断され開腹脾臓摘出術を施行した.術後補助化学療法としてPaclitaxel+Ramcirumab療法を行い,その後無再発生存で経過している.Stage Ⅳ胃癌に対するConversion Surgeryについて検討を行う上で参考になる1例と考えられた.

  • 中村 直彦, 藤田 秀人, 西木 久史, 富田 泰斗, 宮田 隆司, 木南 伸一, 上田 順彦, 小坂 健夫
    2019 年 44 巻 5 号 p. 911-915
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は37歳,男性.腹部膨満・嘔吐を主訴とし来院した.腹部CT検査では回腸狭窄による腸閉塞を認めた.イレウス管を留置し,イレウス管からの小腸造影にて回腸に狭窄病変が疑われた.経肛門小腸内視鏡では回盲弁より75cmの部位に狭窄を伴う潰瘍瘢痕を認めた.非特異的小腸潰瘍による狭窄を疑い,小腸内視鏡にて病変部に点墨によるマーキングを行った後,単孔式腹腔鏡補助下手術を施行した.手術所見では単孔式腹腔鏡視下にて点墨部に回腸狭窄に伴う漿膜陥凹を確認できた.狭窄病変部より約10cm口側回腸にも壁肥厚を有した狭窄部位を認めたため,2カ所の狭窄部位を含む小腸部分切除術を行った.摘出標本では粘膜に限局する炎症細胞浸潤を伴う,2カ所のUL-Ⅱの潰瘍性病変を認め非特異的小腸潰瘍と診断した.非特異的小腸潰瘍による狭窄に対し,小腸内視鏡によりマーキングを行った後,単孔式腹腔鏡補助下手術で切除しえたので報告した.

  • 力石 健太郎, 小村 伸朗, 佐々木 敏行, 平林 剛
    2019 年 44 巻 5 号 p. 916-920
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は70代女性.2018年3月X日昼食後に嘔吐,その後38度台の発熱があり経口摂取が出来ない状態となったため前医を受診,腸閉塞の疑いにて当院を紹介受診となった.腹部単純CTにて,脂肪腫が先進部となった小腸重積とそれに伴う腸閉塞を認めた.同日経鼻イレウス管を留置したが改善乏しく,第2病日緊急手術を行った.開腹したところ,血性の腹水を認め,腸管は約60cmが暗赤色に変色していた.全小腸を検索し明らかな異常がないことを確認後,壊死した小腸を切除した.術後経過は良好で,術後6日目より経口摂取を再開,術後14日目に退院となった.

  • 夏木 誠司, 井関 康仁, 永原 央, 福岡 達成, 渋谷 雅常, 大平 雅一
    2019 年 44 巻 5 号 p. 921-925
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳,男性.4年前に左腎細胞癌に対して腎摘出術を施行後,肺・骨・皮膚転移および腹膜播種にて当院泌尿器科に通院中であった.腹部膨満感および嘔気・嘔吐を自覚し当院を受診され,腹部造影CT検査にて小腸重積およびそれに伴う腸閉塞を認めたため同日入院の上,当科紹介となった.腸管虚血は認めなかったため,イレウス管にて腸管減圧を行った後に手術を施行した.術中所見では,回腸末端より90cm口側で小腸が重積しており,先進部に腫瘤性病変を認め,小腸部分切除術を施行した.腫瘤性病変は病理組織診断で腎癌の小腸転移と診断された.術後表層切開創SSIを認めたが,その他に大きな問題なく,術後27日目に退院となった.転移性小腸癌は比較的稀な疾患であり,なかでも腎癌原発の小腸転移は非常に稀であるため,当科での転移性小腸癌の経験例を加えて報告する.

  • 出口 惣大, 仲田 文造, 﨑村 千恵, 増田 剛, 天道 正成, 堀 武治, 石川 哲郎
    2019 年 44 巻 5 号 p. 926-930
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は67歳男性.上腹部痛を主訴に前医を受診し,注腸造影検査と上部消化管内視鏡検査を施行されたが,十二指腸までの観察範囲内には明らかな病変は認めなかった.しかし貧血を認め小腸病変の精査のため小腸カプセル内視鏡検査を施行したところ,近位空腸に腫瘍性病変を認めた.カプセル内視鏡服用7日後も排泄を認めず,上腹部痛と嘔吐を繰り返したため前医を受診した.腹部CT検査にて小腸腫瘍による狭窄にカプセル内視鏡が滞留し自然排出の見込みがないと診断され,カプセル内視鏡服用17日目に当院で腹腔鏡補助下小腸部分切除とカプセル内視鏡の回収を行った.術中所見ではトライツ靭帯から20cmの空腸に漿膜面に露出する腫瘍性病変を認め,その口側に存在するカプセル内視鏡を鉗子にて触知した.カプセル内視鏡が口側に落ち込まないように腸管クリップにて切除予定空腸を閉鎖した上で空腸部分切除をすることにより,空腸腫瘍とともにカプセル内視鏡を回収しえた.

  • 田嶋 久子, 中山 裕史, 宇田 裕聡, 末永 雅也, 伊藤 将一朗, 宮﨑 麻衣, 杉谷 麻未, 加藤 公一, 片岡 政人, 竹田 伸
    2019 年 44 巻 5 号 p. 931-936
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は61歳女性.嘔吐に対する精査目的で施行した腹部CT検査で小腸腸重積を認めた.上部消化管内視鏡検査でTreiz靭帯付近の空腸に全周性に発育した隆起性病変を認め,上部消化管造影検査では同部に全周性の狭窄を認めた.空腸腫瘍による腸重積と診断し手術を施行した.術中所見ではTreiz靭帯から15cmの空腸に腫瘍を先進部とする腸重積を認め,腹腔鏡下補助下空腸部分切除術を施行した.病理組織学的検査では空腸腫瘍は一部に高分化腺癌を伴う小腸絨毛腺腫であった.小腸絨毛腫瘍による腸重積症は極めて稀であるが,成人腸重積症の原因の一つとして考慮する必要がある.

  • 木村 友洋, 日髙 英二, 風間 暁男
    2019 年 44 巻 5 号 p. 937-941
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は57歳,女性.健康診断で左腎腫瘤を指摘され,当院泌尿器科を受診.精査の腹部CTで盲腸外側に約28mm大の腫瘤を認め,当科紹介となった.精査の結果間葉系腫瘍を疑い,手術を施行した.手術所見では盲腸壁外に有茎性に発育する約25mm大の腫瘤を認め,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.病理組織学的には平滑筋線維束の錯綜が認められ,免疫組織染色ではα-SMAおよびDesmin陽性,c-kit,S-100陰性で,管外発育型大腸平滑筋腫と診断した.有茎性で管外発育型大腸平滑筋腫は非常に稀で,術前診断も困難であった.悪性を否定できないために,外科的切除が必要であった.

  • 早野 恵, 須藤 隆之, 梅邑 晃, 藤原 久貴, 中村 聖華, 池田 健一郎, 佐藤 綾香, 石田 和之, 菅井 有, 佐々木 章
    2019 年 44 巻 5 号 p. 942-949
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    90歳男性,貧血の精査で近医を受診した.下部消化管内視鏡検査で右結腸曲に全周性の2型腫瘍を認めた.注腸造影で,横行結腸以外に上行結腸にもapple core signを認め,多発結腸癌の診断で腹腔鏡補助下結腸右半切除術を施行した.術中所見で上行結腸と十二指腸の固定不良を認め,小腸の腹側に上行結腸が存在したため腸回転異常症のmalrotation typeと判断した.膵下縁をメルクマールに中結腸動脈右枝を切離し,上腸間膜動脈を末梢に追いながら回結腸動脈,右結腸動脈をそれぞれ根部で処理し,上腸間膜静脈を視認しながらD3郭清を腹腔鏡下に施行した.術後経過は良好で術後22日目に退院した.腸回転異常症に合併した大腸癌では,解剖学的位置異常のため腹腔鏡下のリンパ節郭清と血管処理に難渋することが多い.本症例は,上腸間膜動脈を同定して中枢側から血管処理を行うことで安全に手術を完遂可能であった.

  • 岩佐 陽介, 西沼 亮, 中尾 武, 福本 晃久, 堤 雅弘, 青松 幸雄
    2019 年 44 巻 5 号 p. 950-955
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,女性.1カ月前から右側腹部の膨隆を自覚していた.前日から続く下血を主訴に近医を受診し,血液検査で貧血の進行を認め当科に救急搬送された.腹部造影CTで上行結腸腸間膜側に約8cmの血液の貯留した囊胞性病変を認め,重複腸管からの出血を疑い,輸血を含む保存的加療を行った.注腸造影検査で上行結腸の交通性重複腸管と診断し,開腹手術を施行した.術中所見では上行結腸間膜側に連続する囊状腫瘤を認め,腫瘤を含む上行結腸部分切除術を施行した.病理組織検査では異所性胃粘膜などは認めず,切除した上行結腸と筋層を共有する結腸構造を認めた.重複腸管に矛盾しない所見であり,また囊胞性病変の内部には炎症性ポリープを認めた.下血を伴う結腸重複腸管症は成人では極めて稀な症例と考えられ,文献学的考察を加えて報告する.

  • 船水 尚武, 原田 愛倫子, 石山 哲
    2019 年 44 巻 5 号 p. 956-959
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性.2週間前より持続する歩行時のふらつきに対して当科を受診した.血液検査で貧血と腹部単純CTで上行結腸の壁肥厚と左精巣の腫大を認めた.大腸癌疑いで下部消化管内視鏡検査を予定したところ,受診しなかった.7カ月後に左鼠径部痛,および腫脹を訴え,当科に救急搬送された.診察時,左鼠径部の著明な膨隆と疼痛を認め,左鼠径ヘルニア嵌頓の診断で緊急手術を施行したが,ヘルニア囊を認めず,精巣腫瘍であることが判明し,左高位精巣摘除術を施行した.病理組織学的検査およびその後の下部消化管内視鏡検査より,上行結腸癌の精巣への転移性病変と診断された.大腸癌精巣転移の本邦での報告は自験例を含め7例と稀であり,文献的考察を含めて報告する.

  • 佐藤 彩, 吉田 雅, 本間 重紀, 市川 伸樹, 川俣 太, 柴崎 晋, 武冨 紹信, 福井 秀章, 松野 吉宏
    2019 年 44 巻 5 号 p. 960-965
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    術前診断が困難であった傍大動脈リンパ節腫脹を伴う早期横行結腸癌の1例を経験した.症例は69歳男性.下部消化管内視鏡で早期横行結腸癌を認め,当院消化器内科にてESDを施行した.VM1のため,追加切除の適応と考えられ,当科紹介となった.術前身体所見で表在リンパ節は触知しなかった.腹部造影CT,PET-CTでは所属リンパ節腫大や肝・肺などへの遠隔転移を疑う所見を認めなかったが,#216リンパ節の腫大・高度集積(SUVmax 7.4)を認めた.血液検査でCEA,IL-2Rは基準範囲内であった.腹腔鏡下横行結腸切除術D2郭清,#216リンパ節摘出術を施行し,術後合併症なく退院した.病理組織学検査では横行結腸癌pT1bN0M0 Stage Ⅰ,#216リンパ節は濾胞性リンパ腫(Grade 1~2)の所見であり,遺残腫瘍なく,経過観察の方針となった.孤立性傍大動脈リンパ節腫脹で発症した濾胞性リンパ腫と早期大腸癌が併存した稀有な1例であった.治療方針決定のため,鑑別診断目的に積極的に生検することは有用であると考える.

  • 長田 梨比人, 針原 康
    2019 年 44 巻 5 号 p. 966-970
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    77歳男性.筋萎縮性側索硬化症のために在宅人工呼吸管理が導入され,S状結腸軸捻転に対して2回の内視鏡的整復の既往があった.3回目の発症時に腸管虚血を否定できず,Hartmann手術を施行した.S状結腸軸捻転は基礎疾患を有する高齢者に多く,低侵襲性から内視鏡下の整復が好まれるが,腸管壊死や穿孔例,整復困難例は緊急手術適応となる.また高率に再発するため,整復後の待機的手術も推奨される.筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性の全身骨格筋の筋力低下により,最終的に自発呼吸困難となる疾患であり,全身麻酔管理に特別の注意を要し,患者の意思決定や介護者の負担についても課題が多い.本症例への外科処置は高リスクかつ,人工肛門の受容が必要であったが,S状結腸軸捻転症の根本治療を達成し,患者の尊厳を守りながら介護者の負担を軽減し,両者の生活の質(QOL)を向上できた点で有意義であった.

  • 上松 孝, 山田 卓也, 辻本 浩人, 東 敏弥, 池庄司 浩臣
    2019 年 44 巻 5 号 p. 971-978
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳の女性.黄疸で発症し,精査のため入院した.肝門部胆管の狭窄を認め,肝門部胆管癌Bismuth Ⅲaと診断した.門脈再建を伴う肝右3区域切除+尾状葉切除,肝外胆管切除,リンパ節郭清を施行した.術後3日目に肝性脳症を発症したため造影CTを施行したところ,門脈吻合部は血栓で閉塞していた.同日,経腸間膜静脈アプローチで門脈血栓を除去して,中心静脈カテーテルを門脈内に留置した.カテーテルからウロキナーゼの持続静注を継続したが血栓は再発し,術後6日目には,留置したカテーテルを血管内シースに置き換え,留置した.シースとシース内に挿入したカテーテルからウロキナーゼの持続静注を行い,術後14日目に血栓は完全に消失した.局所麻酔下でシース抜去を行い,以後の経過は良好で56日目に退院した.術後6カ月で播種再発,肝転移再発のため原病死したが,経過中門脈血栓の再発は認めなかった.

  • 福島 尚子, 薄葉 輝之, 伊藤 隆介, 小川 匡市, 吉田 和彦, 矢永 勝彦
    2019 年 44 巻 5 号 p. 979-984
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性.閉塞性黄疸のため当院紹介.遠位胆管癌の診断で,膵頭十二指腸切除術を施行した.膵液瘻は認めなかったが,術後7日目に肝管空腸吻合部の縫合不全による胆汁瘻を認めた.腹腔ドレーンを用いた保存的治療によって軽快し,術後27日目に退院したが,退院後17日目に少量の吐血を認めたため外来を受診.腹部造影CTで直径6cm大の仮性動脈瘤を認めたため,同日緊急で経カテーテル的動脈塞栓術を施行した.術中術後に合併症を認めず,再出血の兆候もなく,術後5日目に軽快退院となった.膵頭十二指腸切除術後の仮性動脈瘤の報告は多いが,6cmもの巨大な内臓動脈瘤の報告例はない.肝円索による血管被覆の動脈瘤破裂予防効果が示唆されたため,文献的考察を加え報告する.

  • 西田 広志, 鈴村 和大, 末岡 英明, 裴 正寛, 波多野 悦朗, 岡田 敏弘, 宇山 直樹, 木原 多佳子, 中正 恵二, 藤元 治朗
    2019 年 44 巻 5 号 p. 985-990
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は82歳の男性で,既往に慢性C型肝炎,肝細胞癌がある.当院内科で肝細胞癌の術後経過観察中,CTで膵尾部に18mm大の乏血性腫瘍と,腫瘍より尾側膵管の拡張を指摘された.FDG-PETでは膵尾部腫瘍に淡いFDGの集積を認め,血液検査ではCEA,CA19-9,Span-1の上昇を認めたため,膵尾部癌と診断され手術加療目的で当科紹介.膵体尾部脾合併切除術を施行した.病理組織学的検査では,膵尾部の腫瘍は中分化型管状腺癌,膵尾部の囊胞性病変は真性囊胞であった.また膵尾部癌のやや膵頭側近傍に,偶発的に膵神経内分泌腫瘍を認めた.術後経過は特変なく,術後第11病日に退院.術後は補助化学療法としてS-1を6カ月間内服し,術後13カ月の現在,無再発生存中である.膵管癌と膵神経内分泌腫瘍が同時に重複して存在する症例は稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 鈴村 和大, 波多野 悦朗, 多田 正晴, 玉川 慎二郎, 岩間 英明, 中正 恵二, 藤元 治朗
    2019 年 44 巻 5 号 p. 991-998
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は91歳の男性で,17年前より当科で膵頭部の分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)にて経過観察中であったが,MRCPおよび超音波内視鏡にて囊胞内に結節性病変を認め,膵管内乳頭粘液性腺癌(IPMC)が疑われ手術目的に入院.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行.病理組織学的検査ではnoninvasive IPMCの診断であった.術後は特変なく経過し第15病日に退院.術後12カ月の現在,明らかな再発は認めず外来で経過観察中である.分枝型IPMNに対しては経過観察期間に一定の見解はない.また本症例はわれわれが検索しえた限りでは,本邦におけるIPMNに対する最長期間経過観察例かつ最高齢の亜全胃温存膵頭十二指腸切除術施行例であった.今回われわれは,17年という長期間の経過観察後に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した超高齢者のIPMCの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

  • 土屋 朗之, 成島 陽一, 伊豆川 翔太, 川崎 修平, 北村 洋, 百目木 泰, 藪内 伸一, 杉田 純一, 丹野 弘晃
    2019 年 44 巻 5 号 p. 999-1003
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は36歳,女性.一年前に右足の付け根の膨隆に気づいた.容易に用手還納可能だったが,徐々に還納しづらくなったため当院受診.鼠径靭帯より尾側の大腿動脈近傍に膨隆を認め,右大腿ヘルニアの診断で手術目的に入院となった.腹腔鏡下ヘルニア根治術を施行.ヘルニア門は大腿輪で大腿ヘルニアの所見であり,囊胞性腫瘤が嵌頓していたため体外より用手的に還納した後,切除しヘルニア門を修復した.囊胞壁の病理組織学的検査では一部の領域において,腺管構造を認め,ER陽性を示す子宮内膜症病変と考えられた.子宮内膜症に合併する大腿ヘルニアは極めて稀であり,腹腔鏡手術を施行した症例は本邦初の報告例である.

  • 關口 奈緒子, 太田 勝也, 吉岡 慎一, 加藤 亮, 上田 正射, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 松山 仁, 池永 雅一, 山田 晃正
    2019 年 44 巻 5 号 p. 1004-1009
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は66歳の女性で右鼠径部腫張を主訴に当院を受診した.血液検査で炎症反応の上昇は認めず,腹部造影CTで虫垂が嵌頓した右大腿ヘルニアを疑い,緊急手術の方針とした.腹腔鏡で腹腔内を観察すると,大腿ヘルニアのヘルニア門へ盲腸脂肪垂が嵌頓しており,腹壁からの圧迫と鉗子による牽引で嵌頓は解除した.茶色の汚染腹水の流出と脂肪垂の黒色壊死を認めたため,感染制御後にヘルニア修復術を行う予定とし,脂肪垂切除および虫垂切除術を行った.初回術後40日目にTAPP法で右大腿ヘルニア修復術を施行した.術後合併症および再発,感染徴候はなかった.大腿ヘルニア嵌頓の内容物として盲腸脂肪垂は報告例がなく,稀である.また感染徴候が疑われたため,2期的に腹腔鏡下ヘルニア修復術を行った.大腿ヘルニア嵌頓症例に対して2期的腹腔鏡手術が有効であった症例を経験したので報告する.

  • 中島 啓吾, 安田 淳吾, 丸口 塁, 古川 賢英, 柴 浩明, 矢永 勝彦
    2019 年 44 巻 5 号 p. 1010-1013
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    患者は77歳,女性.右下腹部膨隆を主訴に当院を受診した.腹部CTで二カ所のヘルニア門を認め,右Spigelヘルニア,右鼠径ヘルニア合併の診断で手術を施行した.両ヘルニア門は近接しており,1枚のダイレクトクーゲルパッチで同一創から修復した.現在術後1カ月であるが,再発は認めていない.今後,高齢化とともにSpigelヘルニアは増加し,鼠径ヘルニアとの合併例も増加していくことが予想され,術前の正確な診断や治療が重要である.本法は1枚のメッシュで修復でき,簡便で有用な方法であると考えられた.

  • 佐藤 和秀, 松本 晶, 三森 教雄, 矢永 勝彦
    2019 年 44 巻 5 号 p. 1014-1020
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性.急激な腹痛を主訴に前医を受診し,腸管穿孔による腹膜炎の診断で当院へ転送された.来院後に汎発性腹膜炎から敗血症性ショックとなり,意識混濁のため詳細な問診はできなかった.身体所見・腹部CTで小腸穿孔による汎発性腹膜炎と診断し,同日緊急開腹手術を行った.2年前に他院で腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術の既往があった.術中,中部小腸にcaliber changeを認め,拡張した腸管が腹壁瘢痕ヘルニア手術時に腹腔内に留置したメッシュとの接触部位で穿孔していたため,穿孔部位からcaliber changeの部位までの小腸部分切除を行った.手術後,検体を切開すると狭窄部にPress-Through Package(PTP)を認め,これが今回の急性腹症の原因と診断した.高齢者の急性腹症で原因が特定できない場合,PTPなどの異物誤飲の可能性も念頭に置き,問診,術式の選択を行うことが必要である.

  • 江藤 誠一郎, 小村 伸朗, 河原 秀次郎, 松本 倫, 平林 剛, 矢永 勝彦
    2019 年 44 巻 5 号 p. 1021-1027
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    腹腔鏡下手術にて良好な治療結果が得られた横行結腸脱出を伴うupside-down stomachに対する腹腔鏡下手術例を経験したので報告する.症例は72歳の女性,身長150cm,体重52kg,BMI 23.1kg/m2.既往歴に腰椎圧迫骨折がある.白内障の手術目的に胸部レントゲンを撮影したところ,縦隔内に胃泡を認め,食道裂孔ヘルニア疑いにて消化器内科へ紹介となった.胸腹部CT検査では,全胃と横行結腸の一部の縦隔内脱出を認めた.上部消化管エックス線造影検査では,食道は左側へ大きく変位し,長軸捻転を伴うupside-down stomachの所見であった.上部消化管内視鏡検査ではびらん性食道炎は認めなかった.食道裂孔ヘルニアや胃食道逆流症に伴う症状はほとんど呈さなかったものの,絞扼,出血,穿孔などのリスクを考慮し手術適応と判断した.手術は腹腔鏡下にアプローチし胃と横行結腸を腹腔内に還納後,食道裂孔ヘルニア修復術ならびにToupet法による胃食道逆流防止手術を併施した.食道裂孔は著明に開大していたため,裂孔縫縮後にメッシュによる裂孔補強を追加した.手術時間は217分,術中合併症なく出血量も少量で輸血は施行しなかった.術後経過は良好で,術後第2病日より食事を開始し,第7病日に軽快退院となった.術後3カ月目に施行した上部消化管エックス線造影検査では,食道裂孔ヘルニアは修復され再発を認めなかった.また食道から胃への造影剤の流出も良好で,つかえ感などの症状もなかった.

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