日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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23 巻, 4 号
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  • 倉岡 節夫, 入沢 敬夫, 春谷 重孝, 金沢 宏, 小熊 文昭, 三浦 正道, 坂下 勲
    1994 年 23 巻 4 号 p. 223-229
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    大動脈弁手術203例で, 術後急性冠灌流不全を右冠動脈5例, 左冠動脈2例, 両冠動脈1例の8例 (4%) に経験した. 主症状は, 右冠動脈灌流不全では, 体外循環離脱困難な右心不全3例, 下壁梗塞による左心不全2例, 左冠動脈灌流不全では, 広範梗塞による左心ポンプ不全1例, 心室停止2例であった. 発症直後CABGを追加施行した4症例は全例救命された. Cabrol 手術1例, Piehler 法と弓部置換の同時手術1例の死亡2例では左冠動脈口に縫着した人工血管の血栓閉塞を認めた. 救命6例は術後冠動脈造影で新たな冠動脈病変は認めなかった. 発症原因として, 冠動脈 spasm と拡張障害を伴った左室肥大心における周術期冠予備量の不足が推測された. Piehler 法や Cabrol 手術では冠動脈吻合グラフトの圧迫や吻合部狭窄も示唆された. 救命措置は灌流不全の冠動脈に速やかにCABGを追加する方法が確実であった. 予防対策として適切な手術時間の決定と, 逆行性冠灌流法を含む確実な心筋保護法の応用が考慮された.
  • 段階的な房室ブロック作製と房室結節の焼灼程度
    足立 孝
    1994 年 23 巻 4 号 p. 230-238
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    房室結節を定量的に焼灼することによりI度からIII度房室ブロックまでを実験的に任意作製した. 開胸心外膜アプローチによる直流通電法を用い, 雑種成犬30頭を焼灼方法によりA, B, Cの3群に分けた. 白金電極を房室結節近傍に置き直流通電を行ったところ, 焼灼開始直後よりPQ間隔は段階的に延長し最終的にIII度房室ブロックとなった. III度房室ブロックに至る総熱量はC群が最大で平均900±599J, 次にB群で806±386J, 最小はA群で162±137Jであった. III度房室ブロックに至る時間はB群で最長であり平均61±10分, 次にA群で56±27分, 最短はC群で40±22分であった. いずれの方法においても数秒, 数分でIII度房室ブロックとなったものはなかった. 組織学的には凝固壊死であり, 房室結節焼灼率はI度房室ブロックでは平均66%, III度房室ブロックでは95%の焼灼であった. 目的とした全例でPQ間隔を段階的に延長しえた. この結果よりペースメーカーを植え込まなくとも上室性頻脈性不整脈を治療できる可能性があると考えられた.
  • 小野 裕逸, 百川 健, 成田 淳一, 小田桐 聡, 福井 康三, 鈴木 宗平, 鯉江 久昭
    1994 年 23 巻 4 号 p. 239-245
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    開心術後の上室性頻脈性不整脈は時として治療抵抗性であり, 電気的除細動や種々の抗不整脈剤を用いても術後管理に難渋することがある. そこで, 開心術後に上室性頻脈性不整脈を呈した6症例 (うち5例が心房細動, 残り1例は洞性頻脈) に対してジルチアゼムの持続静注 (3~5mcg/kg/min) を行った. いずれも心室拍数の著明な減少が得られた. 心房細動であった5例に関しては心室拍数の regularization を認め, R-R interval の不整が減少した. これにより各心周期にほぼ一定の前負荷を得ることができ, 開心術後の障害心筋にとっては望ましいことと考えられた. Swan-Ganz catheter を用いて得られた心血行動態諸指標の検討においても, 右心・左心の両機能とも改善が認められた. また, ジルチアゼム投与による副作用は認められなかった. 以上より, ジルチアゼム持続静注法は開心術後の上室性頻脈性不整脈に対して, 心機能の低下や副作用もなく, 有効な手段と考えられた.
  • 久我 貴之, 秋山 紀雄, 古谷 彰, 吉村 耕一, 竹中 博昭, 秋本 文一, 河内 康博, 藤岡 顕太郎, 江里 健輔
    1994 年 23 巻 4 号 p. 246-250
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    大動脈遮断を要する腎動脈下腹部大動脈瘤12例を対象に, 遮断および遮断解除前後に循環動態および各血液 chemical mediator を測定し, 遮断時間1時間未満例と以上例とに分け, その変動について検討した. 平均肺動脈圧比 (術前値で除した値) は遮断直後で以上群0.83±0.06で, 未満群の0.99±0.08と比較して有意に低値であった (p<0.01). 心拍出量および肺内水分量では両群間に有意差はなかった. 顆粒球エラスターゼ比は解除直後が以上群2.24±0.81で, 未満群1.19±0.45, 解除後1時間が以上群4.73±2.01で, 未満群2.06±0.80, 解除後4時間が以上群4.36±1.79で, 未満群1.27±0.49と比較してそれぞれ有意に高値であった (p<0.05). SOD比は解除後1時間が以上群0.78±0.13で, 未満群1.01±0.11と比較して有意に低値であった (p<0.05). 尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidase 比は解除直後が以上群1.31±0.38で, 未満群0.74±0.07と比較して有意に高値であった (p<0.01). 腎動脈下腹部大動脈瘤手術において, 大動脈遮断時間が1時間をこえる症例ではタンパク分解酵素上昇およびラジカル消去剤低下がみられ, 術後の臓器の組織障害に留意すべきである.
  • 山内 正信, 安藤 太三, 安達 盛次, 中谷 充, 川島 康生
    1994 年 23 巻 4 号 p. 251-256
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    1977年から1992年の8月まで国立循環器病センターで行った腹部限局型解離性大動脈瘤手術症例6例を検討した. これは同時期に手術を行った真性腹部大動脈瘤の1.1% (563例中の6例), 全解離性大動脈瘤の2.5% (242例中の6例) であった. 年齢は62歳から74歳, 平均70歳で, 性別は男2例, 女4例であった. 解離範囲は全例腎動脈分岐下部で, うち1例は3腔解離を呈していた. 全例術前診断可能で, 手術は人工血管置換術を行った. 本邦報告例は自験例を含め30例にすぎず, 解離性胸部大動脈瘤に比し, 発症が緩徐で, 高齢者に多く, また高血圧と動脈硬化を高率に合併した.
  • 骨ロウの使用が縦隔炎に及ぼす影響
    山口 敦司, 井野 隆史, 水原 章浩, 安達 秀雄, 井手 博文, 川人 宏次, 村田 聖一郎
    1994 年 23 巻 4 号 p. 257-260
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    胸骨正中切開のアプローチによる心臓外科手術338例のうち, 初期の233例には胸骨切開時に骨ロウを使用したが, 7例 (3.0%) の縦隔炎が発生した. 7例のうち6例の縦隔炎に対しては, 創部開放洗浄ののちに大網を充填するという治療を行った. これら6例において全例とも縦隔炎は治癒したが, 1例のみ脳梗塞, 肺炎のために失った. この反省から, その後の105例には骨ロウを使用せずアルゴンビームコアギュレーターにて止血を行ったところ, 縦隔炎の発生は皆無 (0%) となった. 骨ロウは, 縦隔炎の発生に大きく関与している可能性があり, その使用については再検討が必要である. 胸骨切離面の止血にはアルゴンビームコアギュレーターを使用したが, 術中出血量, 術後出血再開胸の頻度などに差は認められず, 有用であった.
  • 新開 雅彦, 藤原 洋, 那須 通寛, 薗 潤, 岡田 行功, 宮本 覚, 西内 素, 庄村 東洋
    1994 年 23 巻 4 号 p. 261-265
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    巨大な球状血栓を伴った特発性右房拡張症に対する1手術例を経験した. 症例は28歳, 女性. 8年前より心拡大を指摘されていたが, 自覚症状はなかった. 肺炎で近医入院中に施行された心エコー検査で異常を指摘, 当科に紹介された. 胸部X線では右第II弓は突出し, 心エコー検査では房室弁に逆流はなく, 右房の著明な拡張とその内部に高音響性腫瘤を認めた. 手術所見では右房は拡張し, その壁はきわめて薄く, 右房内腫瘤は器質化血栓であった. 血栓摘出術とともに右房縫縮術を行った. 特発性右房拡張症はきわめてまれな疾患であり, 従来その予後は良好であるとされていた. しかし心不全や不整脈を呈して予後不良の症例の報告もあり, また手術による危険性は低いことから, 有症状例や本症例のような合併症を伴う症例には積極的に手術を行うべきであると考える.
  • 片山 芳彦, 平野 竜史, 鈴木 仁之, 近藤 智昭, 小野田 幸治, 田中 國義, 新保 秀人, 矢田 公, 湯浅 浩, 草川 實
    1994 年 23 巻 4 号 p. 266-269
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞後の心室中隔穿孔 (VSP) に対しては急性期の手術を基本とし, 虚血心筋を更なる虚血に晒す危険の少ない心拍動下の手術を第一選択としておりその手術症例を報告する. 症例は60歳女性で心筋梗塞発症後4日目にVSPを発症し来院した. 入院後直ちにIABPを挿入し, 緊急手術にて心拍動下にてパッチ閉鎖と自由壁縫合部に対するパッチ補強を行った. 術後6日目にIABPより難脱でき, 術後経過は良好であった. 拍動下の手術は心停止下の手術に比べて技術的にやや困難であるが虚血心筋の保護という観点からは優れており, また, 心筋梗塞急性期の梗塞部周辺縫合部よりの出血に対しては追加吻合を加えるより, sealing 法は有効であると考えられた.
  • 紀 幸一, 杉山 悟, 中井 幹三, 杉山 章, 辻 和宏, 田辺 敦, 名和 清人, 内田 發三, 寺本 滋
    1994 年 23 巻 4 号 p. 270-275
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    腎機能障害を有する切除不能腹部大動脈瘤症例に対して, thromboexclusion 法を施行して救命したので報告する. 症例は慢性腎不全の既往を持つ68歳男性で, 腹部大動脈瘤 (AAA) は, 径10cmの嚢状瘤を合併し, 椎体を侵食していた. 瘤切除には腎動脈上大動脈遮断が必須であり, 放置も切除もともに選択し難い症例であった. 手術は8mm径, knitted Dacron T-graft を用いて左腋窩動脈-両側大腿動脈バイパスを作成した後, 総腸骨動脈を両側とも永久遮断した. 術後瘤内血栓化は末梢側より急速に進行し, 術後12日目に腎動脈直下で停止し, 腎血流は保持され, 腎機能は術前よりもむしろ改善した. 術後5日目に突然, 著明な線溶亢進に基づく術創出血をきたし, その診断にはα2PI, PICなどの線溶系指標が有用であり, 治療には tranexam acid および aprotinin が奏功した. 本法は手術操作は比較的低侵襲である反面, 術後凝固線溶系が急速に亢進し, その管理は決して容易とはいえない.
  • 本邦手術例15例の検討
    山本 典良, 今井 茂郎, 元廣 勝美
    1994 年 23 巻 4 号 p. 276-279
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は61歳の男性で, 失神発作を主訴に来院した. 心エコー検査, 血管造影にて大動脈弁閉鎖不全症と診断し, 手術を施行し, 大動脈四尖弁と判明した. Accessory cusp は左冠尖と右冠尖の間に存在し, 大きさはほぼ同大であった. SJM弁による大動脈弁置換術を行い, 経過は良好であった. 大動脈四尖弁はまれな疾患で, わが国での手術報告例は15例あり, 大動脈二尖弁と比較し, 大動脈弁閉鎖不全を呈し, 冠動脈異常を合併することが多く, また感染性心内膜炎の合併は少なかった. 術前診断が可能であった症例は15例中11例あり, 実際に術前に診断されていた症例は7例であった.
  • 原 陽一, 石黒 真吾, 黒田 弘明, 森 透
    1994 年 23 巻 4 号 p. 280-283
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    溶血性貧血のなかでも代表的な疾患である遺伝性球状赤血球症を合併した心房中隔欠損症に対する開心術を経験した. 症例は10歳, 女性. 8歳時に遺伝性球状赤血球症と診断され, 9歳時には溶血発作をおこした既往がある. 入院時検査で, 赤血球数411万, ヘモグロビン13.3g/dl, 網状赤血球26‰, 検鏡にて30~40%が球状赤血球であった. 脾臓はかなり肥大していたが, 摘脾は行わなかった. 開心術に際しては, 人工心として遠心ポンプを使用, 溶血防止剤であるポロクサマー188ならびにヒト精製ハプトグロビンを投与した. 体外循環中遊離ヘモグロビンの上昇はみられず, 予想外に溶血は軽度であり, 無輸血で経過, 術後2週で退院した. 本疾患に対する開心術は, 術中術後の溶血が最も心配されるところであるが, 体外循環を工夫することにより安全に行いうると考えられた.
  • 大谷 則史, 森本 典雄, 野坂 哲也, 郷 一知, 和泉 裕一, 稲葉 雅史, 笹嶋 唯博, 久保 良彦
    1994 年 23 巻 4 号 p. 284-287
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    血管外傷のうち上肢血管外傷の報告は少ない. 今回, 鎖骨骨折を伴った鈍的外傷による鎖骨下動脈断裂に対し, 受傷後3時間以内に胸骨正中切開に右鎖骨上切開を併用し, 右大伏在静脈による血行再建術を行ったので報告する. 症例は45歳, 男性で当院内での作業中に右前胸部に鈍的外傷を負った. 受傷後瞬時に顔面および頸部の浮腫, チアノーゼをきたし呼吸困難を呈したため気管挿管し呼吸管理などの初期治療を行った. 脳虚血のないことを確認し, 術前に血管造影を行い右鎖骨下動脈断裂の診断を得た. 直ちに胸骨正中切開に右頸部斜切開を併用し右総頸動脈-鎖骨下動脈バイパス術を行った. 術後は順調に経過し右上肢の機能障害もなく, 現在社会復帰している.
  • 上行大動脈および弁置換術の経験
    深山 雅寿, 椎谷 紀彦, 松浦 弘司, 合田 俊宏, 佐久間 まこと, 安田 慶秀
    1994 年 23 巻 4 号 p. 288-291
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    狭窄後拡張 (post stenotic dilatation) で上行大動脈が巨大に拡張した大動脈弁狭窄症に対し, 大動脈弁置換術と同時に上行大動脈の人工血管置換術を施行した1例を報告した. 症例は67歳, 男性で心エコー上左心室-大動脈圧較差が87mmHg, 上行大動脈径は85mmであった. 手術時, 弁は3弁が癒合して石灰化が著しく, リウマチ性と診断された. 23mmSJM弁で大動脈弁を置換し, 28mm, collagen-shield グラフトで上行大動脈を置換した. 大動脈の病理組織検査では炎症像はなく, 弾性線維の乱れもなく, 壁構造は整然と保たれていた.
  • 梅本 琢也, 細井 靖夫, 高木 寿人, 古沢 泰伸, 藤田 毅
    1994 年 23 巻 4 号 p. 292-295
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    外傷性大動脈破裂の大部分は大動脈峡部に発生するものであり, 弓部破裂の早期手術報告例は少ない. 今回われわれは外傷性大動脈弓部破裂の1例を早期診断による急性期手術にて救命したので報告する. 症例は66歳男子. オートバイ乗用中衝突し胸部打撲. 胸部単純写真にて縦隔陰影の拡大を認め, CTにて縦隔血腫と大動脈弓部内膜の flap を認めたため大動脈造影を施行し, 大動脈弓部の仮性動脈瘤を認めた. 脳分離体外循環下に手術施行したが, 大動脈弓部で中・内膜の断裂を認めたため損傷部を人工血管にて修復し, 左総頸動脈再建を行った. 術後経過は良好であった. 大動脈弓部損傷において手術手技が複雑となる場合, 脳分離体外循環の併用は有用と考える.
  • 野並 芳樹, 岡崎 泰長, 佐藤 幸治, 山本 彰, 山城 敏行, 小越 章平
    1994 年 23 巻 4 号 p. 296-299
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    62歳, 男性, 1年8か月前に腹部激痛の既往があり無痛性腹部腫瘤, 間歇性跛行を訴え来院した. CT, MRI検査で左腸腰筋を圧排する巨大後腹膜腫瘍を疑ったがカラードップラーエコー検査で大動脈と血腫の関係が明瞭となり後腹膜破裂血腫を伴う慢性腹部嚢状大動脈瘤破裂との診断を得た. 大動脈分岐部直上の後壁に楕円形 (横3.5×縦4.5cm) に punch-out された嚢状動脈瘤開口部を認め同部には凝血塊が充満していた. 腎動脈分岐部下大動脈をYグラフト置換した. 手術後1年の現在, 後腹膜破裂血腫はCT検査で消失している. 自験例は Jones らの“chronic contained rupture”の概念に該当するものと思われた.
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