日本心臓血管外科学会雑誌
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28 巻, 5 号
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  • 左室形態および左室局所壁運動の及ぼす影響について
    馬場 寛, 大川 育秀, 外山 真弘, 田中 常雄, 橋本 昌紀, 松本 興治
    1999 年 28 巻 5 号 p. 293-298
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    虚血性僧帽弁閉鎖不全症 (IMR) のメカニズムとして, 左室形態, 局所壁運動が注目されているが, これらが外科治療後にいかなる影響を及ぼすかは明らかでない. IMRに対して外科治療を施行した30例について血行動態, 左室局所壁運動, 左室形態, 遠隔期成績を検討した. 左室形態の評価は左室造影より長軸短軸比を求め, その拡張末期の値をDR, 収縮末期の値をSRとした. また, 球形度 (左室容積/長軸を直径とする球容積) を求め, 拡張期をDSI, 収縮期をSSIとした. 5年生存率は10.5%で, 術後心臓死症例と生存例では術前のIABP使用, 術前よりのICU滞在, 複数回の心筋梗塞の既往, DR, DSI, SSIにおいて有意差を認めた. 多変量解析で心臓死の単独危険因子はDRの低値, 前基部および心尖部の左室壁運動の低下であった. 左室が球形に近い症例ではIMRに対する外科治療成績は不良で, そのさいには左室形態をも考慮に入れた左室形成術を含む新たな手術法の開発が必要と考えられた.
  • 三井 幾東
    1999 年 28 巻 5 号 p. 299-305
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    腸骨動脈と大腿動脈の慢性閉塞に対して施行されたバイパス術, 経皮的血管形成術 (PTA), アテレクトミー (ATE) の早期成績, 遠隔期成績の点より有用性を検討した. bypass 群の早期開存率 (96.7%) は, PTA群の初期成功率 (76.2%) に比し, 有意に良好であったが (p=0.002), 他に有意差は認められなかった. 遠隔期の累積開存率では, bypass 群 (83.2%) は他の2群 (PTA群: 23.8%, ATE群: 39.1%) に比し有意に良好であった (いずれもp=0.0001). PTA群とATE群の間には有意差はなかった. 病変別でも, 腸骨動脈病変, 大腿動脈病変いずれにおいても, 同様の結果であった. 早期, 遠隔期ともにPTA群とATE群の成績はほぼ同等で, bypass 群の成績はおおむねPTA群, ATE群より良好であった. 腸骨動脈と大腿動脈の慢性閉塞に対する治療としてはバイパス術がPTAやアテレクトミーより優れた方法と考えられた.
  • 服部 玲治, 大北 裕, 安藤 太三, 高本 眞一
    1999 年 28 巻 5 号 p. 306-311
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    右鎖骨下動脈起始異常を合併した弓部大動脈瘤に対し, 人工血管置換術を施行した3例の術式, 術後管理に対する問題点について検討した. 症例は心筋梗塞を合併した急性A型大動脈解離, 遠位弓部大動脈瘤破裂, 右鎖骨下動脈瘤を伴った遠位弓部大動脈瘤であった. 2例は緊急手術で, 1例は待機手術であった. 全例, 胸骨正中切開, 咽頭温18度の超低体温循環停止下逆行性脳循環を用いた. 再建術式は上行弓部置換, 弓部3分枝再建, エレファントトランク留置1例, 遠位弓部置換, および左右鎖骨下動脈再建2例であった. 右鎖骨下動脈の再建は1例で同経路で, 他方では上行大動脈に右鎖骨下動脈を再建した. 手術死亡はなかったが, 2例が病院死亡した. 1例は術後肺合併症, 気管切開カニューラの事故により死亡. 他の1例は小脳梗塞, 食道穿孔を合併し死亡した. 食道穿孔は胃管と右鎖骨下動脈瘤による内外からの圧迫がおもな原因と考えられた. 右鎖骨下動脈起始異常症は稀な疾患であり, 手術を必要とした弓部大動脈瘤との合併例の報告は少ないが, 弓部大動脈置換のさい, とくに緊急手術において右鎖骨下動脈起始異常の可能性を考えておく必要がある.
  • 竹内 功, 吉田 聖二郎, 伊東 和雄, 皆川 正仁, 大徳 和之, 鈴木 宗平, 田中 茂穂
    1999 年 28 巻 5 号 p. 312-316
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    再手術時の心筋保護はしばしば難しく, 良好な手術視野の確保ということに加え十分な心筋保護効果を得るためにしばしば広範な剥離が必要とされる. しかし, これはときおり術中術後の出血の原因となる. 心筋保護法の中心概念は冷却による代謝の抑制にあるが, 近年虚血中の代謝の維持を目的とする心筋保護が用いられるようになってきた. 今回われわれは虚血中の嫌気下解糖亢進を基本概念とした心筋保護液 (histidine buffered solution; HBS) を再手術症例5例に用いた. 剥離を必要最小限にとどめ局所冷却を用いず, 手術時間の短縮と出血量の軽減, 良好な心機能回復を得ることが可能であった. 持続的なカリウム投与による高カリウム血症とそれに伴う心機能抑制もなく, 簡便で有用な方法であると考えられた.
  • 尾形 敏郎, 金子 達夫, 大林 民幸, 佐藤 泰史, 村井 則之, 垣 伸明, 森下 靖雄
    1999 年 28 巻 5 号 p. 317-319
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例はエホバの証人信者の45歳の女性で, 動悸および息切れを主訴とした. 右室流出路狭窄を伴うバルサルバ洞動脈瘤破裂の診断のもとに, 手術を施行した. 術中所見からは, 右室二腔症と心室中隔欠損症を合併したバルサルバ洞動脈瘤破裂であった. 無輸血下にバルサルバ洞動脈瘤切除およびパッチ閉鎖, 異常筋束切除および右室流出路パッチ拡大, 心室中隔欠損直接閉鎖を行った. 先天性心疾患の中でバルサルバ洞動脈瘤破裂と成人の右室二腔症はおのおの頻度が少なく, 両者の合併はさらに稀である. 両者を合併したエホバの証人信者の手術症例を経験したので, 若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 尾形 敏郎, 金子 達夫, 大林 民幸, 佐藤 泰史, 村井 則之, 垣伸 明, 柴崎 郁子, 森下 靖雄
    1999 年 28 巻 5 号 p. 320-323
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は69歳の男性で, 主訴は炎症所見を伴う腹痛であった. 冠動脈左主幹部病変を伴った腹部大動脈瘤と診断し, 冠動脈バイパスと腹部大動脈Yグラフト置換を施行した. 術中所見より“炎症性腹部大動脈瘤”が疑われ, 病理組織所見で確定した. “炎症性腹部大動脈瘤”と冠動脈疾患, あるいは他の動脈硬化性疾患との合併について, 文献的考察を加え報告した.
  • 尾崎 喜就, 脇田 昇, 志田 力
    1999 年 28 巻 5 号 p. 324-326
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    抗薬剤抗体陽性のため他家血輸血が不可能な狭心症例に対し, 自己血輸血を行うことにより冠動脈バイパスを安全に行えたので報告する. 症例は62歳, 女性で, 狭心症のため当院に入院した. 精査の結果3枝病変と診断されたが, 術前の不規則抗体スクリーニングにて抗薬剤抗体および抗P1抗体 (冷式抗体) 陽性となり, 予約血すべてとの交差適合試験で不適合と判定された. 貧血があったため手術を延期し, エリスロポエチンを併用しながら自己血を800ml採血後手術を行った. 手術は左冠動脈前下行枝および回旋枝へ大伏在静脈を用いて2枝バイパスとした. 総出血量は580gであった. 術後ヘモグロビンは7~10g/dlで経過し, 溶血性貧血等の重篤な合併症もなく無輸血で順調に経過した.
  • 後藤 博久, 天野 純, 中野 博文, 長谷川 朗, 渡辺 邦芳, 高野 環, 西牧 敬二
    1999 年 28 巻 5 号 p. 327-330
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は76歳男性. 6年前に直腸癌で Miles 手術が施行されており, 左下腹部に人工肛門が存在した. 今回突然の上腹部痛が出現し, ショック状態となり, CTで大動脈瘤破裂と診断され, 緊急手術を施行した. 人工肛門を避けて皮切をおき, 左 spiral incision で腹直筋左側より後腹膜経路で瘤に到達した. 左大腿動静脈カニュレーションによる常温下部分体外循環で, Crawford 法により胸部下行から左腎動脈までの大動脈を人工血管で置換した. 動脈壁が非常に脆弱で, 肋間動脈再建は断念したが, 豊富な側副血管のためか, 下半身麻痺もなく, 徒歩で退院した. 本症例は, 左下腹部に人工肛門を有していたが, 皮膚切開の工夫により, 術後創感染を予防できた. また, 術前ショック状態ではあったが, 破裂による出血が胸膜外および後腹膜に限局し, 出血がコントロールされたことが幸いしたと考えられる.
  • 宇野 吉雅, 堀越 茂樹, 江本 秀斗, 鈴木 博之
    1999 年 28 巻 5 号 p. 331-334
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    細菌感染による感染性腹部動脈瘤は腹部動脈瘤疾患において比較的稀とされており, またその手術時期や血行再建法に関して種々の見解が議論されている. 今回われわれは, 二期的に手術を施行し良好な経過を得た感染性腹部動脈瘤症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する. 症例は56歳, 男性. 糖尿病管理目的にて通院中のところ, 全身倦怠, 発熱が増強. 精査目的にて入院し施行した腹部CT, 腹部大動脈造影検査において, 左総腸骨動脈に曩状の動脈瘤が認められ, また血液培養検査にてサルモネラ菌が検出されたため, 同菌による感染性動脈瘤と診断した. 手術は, 初回術中所見よりまず感染巣の処置と extraanatomical bypass を行い, ついで anatomical grafting とする二期的手術を施行, 術後は6週間抗生剤治療を継続した. 術後経過は良好で軽快退院となり, 術後6カ月を経た現在も感染再燃徴候はみられていないが, 今後も感染症の再燃に対する慎重な経過観察が重要と考えられた.
  • 佐々木 達哉, 大沢 暁, 皆川 幸洋, 中島 隆之, 菰田 研二, 川副 浩平
    1999 年 28 巻 5 号 p. 335-338
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は53歳の男性. 狭心症の精査のさい juxtarenal type の腹部大動脈瘤を指摘された. 瘤径は7.2cmであったが3枝病変であったため冠動脈バイパス術を優先し, 2期的に腹部大動脈瘤に対しY型人工血管置換術を施行した. 術前のCTにて瘤の後面を走行する大動脈後性左腎静脈を認めたが術中損傷は認めず順調に経過した. 大動脈後性左腎静脈の発生頻度は2%程度であるが, 大動脈後面を腰静脈, 奇静脈または半奇静脈との吻合静脈が複雑に走行し, これらは非常に脆弱であるため腹部大動脈の不用意な剥離により予期せぬ大出血をきたす可能性があり, 死亡例も報告されている. このため的確な術前診断および慎重な術中操作が重要である. さらに本疾患は血尿などを主徴候とする大動脈左腎静脈瘻, 左腎静脈補捉症候群と関連することも念頭におく必要がある.
  • 有泉 憲史, 坂 晶, 橋本 良一, 多田 祐輔
    1999 年 28 巻 5 号 p. 339-342
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎と大動脈炎症候群の合併例, いわゆる overlapping syndrome の1例を経験した. 28歳, 女性. 潰瘍性大腸炎にて通院中に頸部血管痛を主訴に当科を受診した. 精査にて大動脈炎症候群と診断し, ただちにステロイド投与を開始した. 炎症反応は鎮静化したが, 左総頸動脈狭窄が徐々に進行し, 発症後約1年で左顔面のしびれ, 意識障害, 記銘力の低下が生じた. 右鎖骨下動脈-左総頸動脈非解剖学的交叉バイパスによる血行再建を行い, 症状の改善を得た. HLA typing では両疾患の合併例で高頻度にみられるBW52が検出された.
  • 榎本 直史, 川野 博, 米須 功, 丸山 寛, 林田 信彦, 田山 栄基, 有永 康一, 押領司 篤茂, 川良 武美, 青柳 成明
    1999 年 28 巻 5 号 p. 343-346
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    高齢者の Lutembacher 症候群の1例に対して外科治療を行い, 良好な結果を得たので報告する. 症例は71歳, 女性. 高度心不全を呈し, Qp/Qs=3.08の心房中隔欠損症に僧帽弁狭窄症, 三尖弁閉鎖不全症, 心房細動および肺高血圧症を合併していた. 手術は僧帽弁置換術, 心房中隔欠損パッチ閉鎖術, 三尖弁輪縫縮術を施行した. 術後一時的に呼吸不全に陥ったが, 厳重な術後管理により軽快し退院した. 高齢者の Lutembacher 症候群の手術報告例はきわめてまれであり, 本症例は, 本邦における手術報告例では最高齢と思われた. 本症候群に対しては, 高齢者においても術後臨床症状の著明な改善が得られるため, 十分な手術適応の検討のもと外科治療を行うことが望ましいと考えられた.
  • 残存偽腔の感染
    服部 浩治, 清水 幸宏, 高梨 秀一郎, 西澤 慶二郎, 南村 弘佳, 福井 寿啓, 文元 建宇, 野口 正仁
    1999 年 28 巻 5 号 p. 347-350
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    Annuloaortic ectasia を伴うII型大動脈解離に Bentall 手術を行った後, 遠位側の残存偽腔に vegetation を伴う人工血管感染を合併したまれな症例を経験した. 症例は16歳, Marfan 症候群の男性. 15歳時に急性大動脈解離のため当院で Bentall 手術を施行した. 術後5カ月頃から発熱が出現し再入院した. 経食道心エコーでは, 人工血管末梢側の吻合部に近接してエントリーを認め, 偽腔は開存していた. また vegetation はエントリー部に付着していた. その後, 右下肢に急性動脈塞栓症を併発し, vegetation の一部が消失したので, 緊急手術を行った. 術中所見では, 内膜は大動脈末梢側吻合部の縫合線において一部脱落しており, vegetation は同部位に付着し偽腔内に充満していた. 弓部大動脈部分置換術, 大網充填, 右下肢の塞栓摘除を施行した. 術後20カ月目の現在, 発熱および炎症所見はなく, 社会復帰している.
  • 西森 秀明, 広瀬 邦彦, 福冨 敬, 小田 勝志, 山城 敏行
    1999 年 28 巻 5 号 p. 351-354
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤切除術後の虚血性大腸炎からS状結腸-皮膚瘻を合併した症例を経験した. 症例は65歳男性で, 手術危険因子として腎機能障害と陳旧性心筋梗塞による心機能低下を認めた. 腹部大動脈瘤は juxtarenal type で腎動脈上遮断によりY型人工血管置換術が行われた. 下腸間膜動脈と左内腸骨動脈はすでに閉塞しており右内腸骨動脈を温存した. 術中より低心拍出量症候群を呈し, 肝障害, 腎障害および末梢循環不全を合併した. 術後7日目より下痢, 腹部膨満が出現し, 16日目にS状結腸-皮膚瘻が出現した. 局所処置とともに成分栄養剤を用いた経腸栄養法および中心静脈栄養法を併用することにより瘻孔は閉鎖した. 原因として低心拍出量症候群の遷延に伴う非閉塞性腸管壊死が考えられた.
  • 真鍋 隆宏, 近藤 治郎, 井元 清隆, 戸部 道雄, 平野 克典, 岩井 芳弘, 鈴木 伸一, 磯田 晋, 中村 光哉, 岡本 雅彦
    1999 年 28 巻 5 号 p. 355-358
    発行日: 1999/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    基礎心疾患や薬物乱用歴のない49歳男性. 発熱を主訴に受診し, 抗生物質を投与するも, 軽快と再発を繰り返し入院した. 血液培養にて Str. agalactiae が検出され, 経食道心エコーにて三尖弁に疣贅と, 中等度の逆流を認めた. 感染が遷延したため活動期であったが手術を施行した. 疣贅を含む前尖2/3と後尖の一部を切除, 弁輪縫縮と弁切離断端同士を縫合, さらにDeVega法により弁輪径を2横指に縫縮し, 感染性心内膜炎の治癒と, ほぼ三尖弁逆流を消失せしめることができた.
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