日本心臓血管外科学会雑誌
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33 巻, 1 号
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  • 上久保 康弘, 村下 十志文, 國重 英之, 椎谷 紀彦, 安田 慶秀
    2004 年 33 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    活動期感染性心内膜炎の外科治療成績と危険因子を検討した.対象は活動期感染性心内膜炎69例.年齢は平均47.3歳(5ヵ月~88歳),男性51例,女性18例.自己弁感染(NVE)59例,人工弁感染(PVE)10例.術前心不全はNYHA I度9例,II度13例,III度21例,IV度18例.術前逆流はI度4例,II度11例,III度28例,IV度22例.罹患弁は大動脈弁単独26例,僧帽弁単独24例,大動脈弁・僧帽弁13例.膿瘍形成22例.起炎菌が同定された症例は44例でStreptococcus19例,Staphylococcus16例が一般的であった.起炎菌が同定されなかった症例は36.2%であった.転帰は生存53例(76.8%),在院死亡13例(18.8%),遠隔期死亡2例(2.9%).在院死亡の死因は心不全6例,敗血症5例と多く,遠隔期死亡の死因は脳梗塞,腎不全各1例であった.年齢70歳以上(p=0.02),術前心不全(p=0.02),術前起炎菌未同定(p=0.02),膿瘍・瘻孔に対する追加手術(p=0.04)が有意な危険因子であり,また人工弁感染(p=0.11)が境界領域の危険因子であった.さらにこれらの危険因子について多変量解析を施行したところ,術前心不全(p=0.02,odds ratio=18.1,CI=1.49~220.1),術前起炎菌未同定(p=0.02,odds ratio=7.45,CI=1.44~38.5)が病院死亡の独立した危険因子であった.成績向上には術前感染および心不全のコントロールが重要であると考えられた.
  • 熱希釈法との比較において
    木村 知恵里, 国元 文生, 森下 靖雄
    2004 年 33 巻 1 号 p. 6-8
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,Fickの原理に基づき呼気再呼吸法を利用した心拍出量計測装置(non-invasive cardiac output monitor,以下,NICOモニター)によって計測される心拍出量と,従来の熱希釈法で同時に測定した心拍出量とで比較し,非侵襲的な心拍出量測定の臨床評価を行った.当ICUで人工呼吸管理下にあり,かつ肺動脈カテーテルが挿入されていた17症例を対象とした.NICOモニターで測定した心拍出量(以下,NICO)と,肺動脈カテーテルで従来の熱希釈法で計測した心拍出量(以下,TDCO)との値をBland-Altman法により比較検討した.完全調節呼吸管理下にある症例では,両測定法の相関は良好でNICOとTDCOの較差は小さく,NICOモニターの有用性は高いと思われた.一方,自発呼吸がある症例では,NICO値がTDCO値より高く算出される傾向にあった.この要因として,自発呼吸下では,NICOモニターが再呼吸前後での呼気終末二酸化炭素濃度の差を過少評価する可能性が示唆される.
  • 小長井 直樹, 矢野 浩己, 前田 光徳, 工藤 龍彦, 石丸 新
    2004 年 33 巻 1 号 p. 9-12
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    人工弁置換術後の患者は,一生涯warfarinによる抗凝固療法が必要となるため,出血性合併症を生じずに血栓塞栓症を予防できる至適warfarin治療域の設定が必要である.当センターにて定期的外来加療を受けている機械弁による単弁置換137例を対象として,人工弁置換術後の抗凝固療法を凝固線溶活性の面から検討した.凝固活性の指標としてTAT (thrombin antithrombin III complex)を,線溶活性の指標としてFDPとD-dimerを測定したところ,PT-INR目標値1.5~2.0では,TAT3.0ng/ml以上の高値を示す症例は30例であった.この30例は抗凝固療法不良のため凝固活性が亢進していると考え,PT-INR目標値を2.0~2.5に強化して凝固線溶活性を再検討した.PT-INRは1.63±0.27から2.25±0.44へ有意(p<0.01)に上昇し,TATは7.58±6.65から2.81±2.80ng/mlへと有意(p<0.01)に低下して正常範囲に入った.FDP,D-dimerもそれぞれ低下して,凝固線溶活性が抑制されたことを示した.人工弁置換術後の抗凝固療法は,出血性合併症を生じずに凝固線溶活性を正常化させる最低限のwarfarin投与量を設定することが重要であり,われわれはPT-INR2.0~2.5を推奨する.
  • 馬瀬 泰美, 矢田 真希, 片山 芳彦, 庄村 赤裸
    2004 年 33 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    当施設で経験した脳分離体外循環使用症例は40例で,年齢45~79歳(平均67.2±8.1),男性29例,女性11例であった.40例のうち,緊急症例は21例(緊急群),待機症例は19例(待機群)で,緊急群,待機群につき比較・検討を行った.術式は,緊急群では,上行置換術15例,弓部全置換術5例,弓部部分置換術1例,待機群では,上行置換術2例,弓部全置換術17例で,待機群は,弓部全置換術が多かった.また,選択的脳灌流時間のみ有意差をもって待機群が長かった.在院死亡は,緊急群5例(23.8%),待機群1例(5.2%)で,脳神経障害に関しては,一過性の脳神経障害は,緊急群1例,待機群3例で,永続性の脳神経障害は,緊急群1例,待機群1例であった.われわれは,可能なかぎり体外循環の体送血を順行性とし,一貫して順行性選択的脳分離体外循環を用いてきたが,良好な成績であった.
  • 住吉 辰朗, 石原 浩, 内田 直里, 小澤 優道
    2004 年 33 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    保存的治療により治癒しえた,下肢虚血および全周性解離による高度真腔狭小化をきたした急性B型解離を経験した.発症当日のCT検査で遠位弓部大動脈から右総大腿動脈までの急性B型解離と診断された.真腔は偽腔に圧排され,高度狭小化をきたしていた.軽度の下肢虚血を認めたが,肥満,睡眠時無呼吸症候群を合併し慢性高度気道狭窄を認めたことより周術期のリスクが高いと判断し,初期治療として降圧治療を開始した.無呼吸発作も血圧コントロールのリスクファクターと考え陽圧呼吸管理を開始し,呼吸状態が改善するとともに血圧コントロールも良好になった.発症12日目に血便を認め,上部消化管内視鏡検査により胃潰瘍からの出血と診断されたが,その2日後より血小板数の増加,PT活性度の上昇を認めた.発症14日目のCTでは胸部下行大動脈の偽腔は血栓化しておらず,真腔は高度狭小化したままであったが,発症39日目のCT検査で全偽腔の血栓化および真腔の良好な拡張を認めた.本症例の保存的治療成功の要因として厳重な血圧管理以外に,胃潰瘍出血による凝固機能亢進と,高血圧,胸腔内圧変動の原因と考えられた睡眠時無呼吸症候群の治療が重要であった.
  • GRF glue使用後の2症例
    菅原 由至, 今井 克彦, 河内 和宏, 岡田 健志, 渡橋 和政, 末田 泰二郎
    2004 年 33 巻 1 号 p. 22-25
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    Gelatin-resorcin-formalin (GRF) glueは急性大動脈解離の外科治療に広く使用されているが,近年,本剤の影響が示唆される遠隔期再解離が報告されている.われわれは,本剤使用後の大動脈基部再解離の修復に成功した2症例を経験したので報告する.症例1は57歳,男性であった.2年6ヵ月前に他施設でA型急性解離に対して弓部全置換術を施行されたが,中枢側吻合部の断端形成にこのglueが用いられた.術後2年目のCT検査で大動脈基部に解離の所見を認め,以後,偽腔が拡大傾向を示した.今回composite graftを用いた基部置換術によりこれを修復した.解離血管壁に認めた特異な変性所見が印象的であった.症例2は71歳,男性であった.3年前に当科でA型急性解離に対して緊急手術を施行した.右および無冠尖側のValsalva洞に解離が及んでいたので,この部分をGRF glueで閉鎖し大動脈弁の吊り上げ術を行ったのち,上行置換術を施行した.今回,無冠尖洞の再解離による大動脈弁逆流のため心不全を生じた.これを大動脈弁置換術により修復した.文献的検討より,大動脈弁吊り上げ術への本剤の使用は回避すべきであり,さらに本剤を用いて修復した急性解離症例にはとくに注意深いfollow upが必要と思われた.
  • 緑川 博文, 小川 智弘, 佐藤 晃一, 小山 正幸, 星野 俊一
    2004 年 33 巻 1 号 p. 26-29
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.胸部X線にて異常陰影を指摘され入院となった.精査にて胸部下行大動脈瘤を認め,ステントグラフト内挿術を施行し,良好な結果を得た.その2時間後突然の胸背部痛および右下肢虚血症状を認め,造影CTおよび血管造影にて左鎖骨下動脈分枝直後にエントリーを有する急性B型解離を認めた.ただちに再ステントグラフト内挿術にてエントリー閉鎖に成功し,術後6ヵ月にて完全に解離腔は消失した.胸部下行大動脈瘤に対しステントグラフト内挿術直後に急性大動脈解離を合併した希な症例を経験したので報告した.
  • 古川 貢之, 桑原 正知, 中村 栄作, 松山 正和, 鬼塚 敏男
    2004 年 33 巻 1 号 p. 30-33
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    Stanford A型大動脈解離に対してentryの完全閉鎖を目指しopen stent法を併用した全弓部置換術が施行されている.しかしentryが気管分岐部レベル以遠に及ぶ場合,ステントグラフトの留置部位が下位胸椎レベルに及ぶことでの脊髄虚血の可能性があり,open stent法の適応には慎重な姿勢が必要となる.今回,上行大動脈entry部と下行大動脈気管分岐部レベル以遠re-entry部の瘤状化を認めたA型大動脈解離に対して,ダイレクトエコー検査で確認した下行大動脈re-entry部よりわずかに末梢を半周切開,同部へガイドワイヤーを用い弓部離断部より人工血管を引き抜くように誘導し,内挿法で末梢側吻合を行った.この方法では正確に病変部の確認がなされ下位胸椎レベルに及ぶことなく末梢側吻合が可能であり,脊髄虚血の予防に有効であった.また人工血管を引き抜くように誘導し,内挿法で末梢側吻合を行うことで下行大動脈への処置が簡略化され,従来の手術に比し低侵襲裏に手術が完結され,open stent法では対応が困難な症例にも有用な術式と思われた.
  • 一関 一行, 伊東 和雄, 棟方 護, 小山 正幸, 鈴木 保之, 福井 康三, 高谷 俊一, 福田 幾夫
    2004 年 33 巻 1 号 p. 34-37
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    胸部および腹部の破裂性動脈瘤に対するステントグラフト内挿術ではエンドリークが問題となる.2000年6月から7月にかけて,当科においてステントグラフト内挿術を施行した破裂性動脈瘤2例について検討した.症例1:79歳女性,胸部大動脈瘤破裂.弓部末梢からステントグラフトを留置したが,術翌日に急変し,死亡.剖検にてステントグラフト中枢側からのリークによる胸腔内への破裂が原因と判明した.症例2:84歳女性,腹部大動脈瘤破裂に対してステントグラフト内挿術を施行した.術後下腸間膜動脈(IMA)からの2型エンドリークと左内腸骨動脈からの瘤内逆流を認め,6ヵ月目のCTにて瘤の増大傾向を認めた.開腹的にIMAの結紮を試みたが,同定しえず,左内腸骨動脈のみ閉鎖したが,IMAからのリークは残存.初回手術から10ヵ月目に再破裂をきたし,人工血管置換術を施行し,退院した.破裂性動脈瘤に対する治療として,ステントグラフト内挿術は侵襲も小さく,優れた手法と思われるが,エンドリークが生じた場合には瘤内圧を血栓のみで抑える形となる.破裂性動脈瘤でのステントグラフト内挿術後のエンドリークは,できるかぎり早期にかつ完全に対処すべきと考えられた.
  • 山岸 正明, 春藤 啓介, 松下 努, 高橋 章之, 藤原 克次, 新川 武史, 宮崎 隆子, 北村 信夫, 戸田 省吾
    2004 年 33 巻 1 号 p. 38-41
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    左房および左室内に転移巣を認めた左肺原発の悪性肺芽腫症例の6歳,男児に対して胸骨正中切開,体外循環下に腫瘍浸潤を認めた左房左側後壁を残して心臓を体外に摘出した.体外にて心内残存腫瘍を摘出し,腫瘍が付着した僧帽弁を切除後,人工弁による僧帽弁置換術を行った.体外での心内操作と並行して胸骨正中切開創より左房左側後壁を含む左肺全摘出術,後縦隔リンパ節郭清を行い,原発巣の完全摘出を行った.術後心機能は良好であった.自家心臓移植法による心内腫瘍摘出と肺原発巣摘出の同時手術は,根治性確保のほかに手術侵襲低減,手術時間短縮,術中視野確保の容易さ,リンパ節郭清の容易さなどの利点を有する.
  • 吉戒 勝, 村山 順一, 蒲原 啓司, 久松 泰
    2004 年 33 巻 1 号 p. 42-44
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    孤立性僧帽弁閉鎖不全症を呈したMarfan症候群の38歳女性に対し弁形成術を施行し良好な結果を得たので報告する.20歳ごろより僧帽弁閉鎖不全症を指摘されており3ヵ月前から息切れが出現.僧帽弁後尖の著明な逸脱によるIV度の僧帽弁閉鎖不全症を認め,左室拡張末期径は60mmと拡大していた.術中所見にて僧帽弁後尖は全体的にredundantで逸脱しており逸脱部を2ヵ所,矩形に切除した.後尖が高く術後の前尖収縮期前方運動が危惧され,弁尖基部を楔形に切除し,sliding leaflet techniqueを用いて弁尖を縫合したのち,人工弁輪を縫着した.術後,僧帽弁閉鎖不全症は消失し,左室拡大の改善を認めた.現在,術後3年経過しているが僧帽弁閉鎖不全症の再発を認めていない.成人Marfan症候群に伴う孤立性僧帽弁閉鎖不全症に対しては,対象症例が比較的若年であり,遠隔期の大動脈病変に対する手術の可能性が高いため,弁形成術を積極的に施行すべきである
  • 弁損傷の4例
    横山 幸房, 玉木 修治, 加藤 紀之, 横手 淳, 六鹿 雅登, 大畑 賀央, 鈴木 登士彦
    2004 年 33 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    非穿通性鈍的外傷による弁損傷4例を経験した.年齢は24~72歳で,男性3例,女性1例であった.いずれも胸部打撲の既往を有し,受傷から手術までの期間は,4時間が1例,6ヵ月以上が3例であった.損傷形態は,大動脈弁閉鎖不全の2例で弁尖損傷,僧帽弁閉鎖不全の1例で乳頭筋断裂,三尖弁閉鎖不全の1例では腱索断裂であった.大動脈弁閉鎖不全の2例,僧帽弁閉鎖不全の1例に対して人工弁置換術,三尖弁閉鎖不全の1例に対しては弁形成術を行った.全症例とも術後経過は良好で軽快退院した.心外傷を疑われる症例では,早期から心臓超音波検査などを用いて注意深い観察が必要であると思われた.
  • 渡辺 裕之, 中野 秀幸, 田村 敦
    2004 年 33 巻 1 号 p. 50-52
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,女性.心房中隔欠損症および頻拍性心房細動による心不全の入院加療中に特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrmbocytopenic purpura: ITP)が発見された.ステロイド治療の効果が不十分であったため,γ-グロブリン大量療法(400mg/kg/day)を術前5日間施行した.血小板数は5.4万/mm3から14万/mm3まで上昇したため,心房中隔欠損症および心房細動に対する根治手術を施行した.出血性合併症対策として切開,縫合線が少ない両側心耳温存maze(bilateral appendage preserving (BAP) maze)に準じた術式でmaze手術を施行した.出血は術中出血量100ml,術後ドレーン出血量270mlであり,術中の血小板輸血以外に輸血を必要としなかった.術後10ヵ月を経過した現在も正常洞調律は維持されている.ITPに対する術前γ-グロブリン大量療法は有用な治療法であり,maze手術も出血性合併症なく安全に施行しえた.
  • 水元 亨, 日置 巌雄, 木下 肇彦, 藤井 英樹, 加藤 憲幸, 平野 忠則
    2004 年 33 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は16歳,男性.1999年11月12日,スクーター運転中,車と衝突.当院救急外来へ搬送された.多発外傷(左上腕骨骨折,左大腿骨開放骨折,骨盤骨折,尿道断裂,外傷性小腸狭窄)を伴った外傷性胸部大動脈瘤と診断された.敗血症,DIC,肝機能障害が認められたため手術は困難と判断し,外傷性胸部大動脈瘤に対しては血圧コントロールしつつ慢性期にステントグラフト内挿術を行った.術後32ヵ月現在,瘤再発などなく良好に経過している.
  • 登坂 有子, 金沢 宏, 高橋 善樹, 中沢 聡, 山崎 芳彦
    2004 年 33 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    特発性大動脈破裂は,瘤形成や急性解離,感染,外傷などを伴わない大動脈破裂と定義され,きわめて希な疾患である.今回,若年者特発性腹部大動脈破裂の1例を経験したので報告する.症例は14歳男児,下腹部激痛で発症し救急搬送された.腹部CTでは大量の後腹膜血腫が存在し,腹部大動脈周囲に造影剤が漏出していたが,動脈瘤や動脈解離は認めなかった.腹部大動脈破裂と診断し,緊急手術を施行した.左開胸下に胸部下行大動脈を遮断し,出血をコントロールしたのち開腹した.腹部大動脈分岐部に直径8mmの穿孔を認めたが,瘤形成や解離,感染の所見はなかった.径10mmのダクロングラフトでI型人工血管置換術を施行した.病理組織所見では,中膜弾性線維が部分的に減少し,きわめて限局性に中膜が解離していたが,炎症や嚢胞性中膜壊死の所見はなかった.本例は発症年齢や破裂部位,瘤形成や急性解離を伴わない大動脈破裂という点で希有な1例である.
  • 濱中 荘平, 種本 和雄, 正木 久男, 森田 一郎, 田渕 篤, 石田 敦久, 宍戸 英俊, 久保 裕司
    2004 年 33 巻 1 号 p. 61-63
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.遠位弓部大動脈内に可動性を有する腫瘤を指摘され,手術目的にて紹介来院した.胸部CT検査では,瘤状変化などは認められず,大動脈内部に突出する腫瘤状陰影が確認された.経食道超音波検査で,内膜から連続する可動性を有する腫瘤状陰影を認め,待機的に手術にて摘除術を行った.手術は分離肺換気麻酔下,部分体外循環下に行い,付着する大動脈壁とともに摘除し,大動脈欠損部は人工血管でパッチ形成術を行って修復した.病理組織検査の結果,内部に石灰化を伴う血栓であり,腫瘤付着部の大動脈壁は,内膜の肥厚と中膜の変性が認められ,動脈硬化の像であった.遠位弓部に存在する可動性を有する腫瘤状血栓の報告は非常に希で,ほとんどの報告例は1例報告である.また,われわれが検索したかぎり,本症例は本邦での第1例目であるので報告する.
  • 吉田 正人, 向原 伸彦, 大保 英文, 中桐 啓太郎, 南 裕也, 花田 智樹, 圓尾 文子, 松久 弘典, 森本 直人, 志田 力
    2004 年 33 巻 1 号 p. 64-67
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性,他院にて肝膿瘍のドレナージと抗生剤の投与を受けていたが,心不全ならびに菌血症に伴うショックとなり,その経過中に心エコー検査にて感染性心内膜炎(以下,IE)による僧帽弁閉鎖不全症と診断され,本院に救急搬送され緊急手術を行った.僧帽弁の弁尖ならびに弁輪部には感染所見は認められず腱索に疣贅が存在し,疣贅から離れた前乳頭筋,後乳頭筋および周囲の心筋内に多発性の心筋内膿瘍を形成していた.手術は,前尖を腱索ならびに乳頭筋とともに一塊として切除し,そのほかの心筋内膿瘍は可及的に切開排膿したのちに僧帽弁置換術を施行した.疣贅と心筋内膿瘍の細菌培養では,肺炎桿菌が検出された.乳頭筋ならびに周囲の心筋内に膿瘍を合併したIEは非常に希であり,本症例では弁や弁輪部とは離れた部位に多発性に膿瘍が認められたことや膿瘍部の心内膜が保たれていたことから,IEから菌血症となり血行性に心筋内へ感染が波及したものと考えられた.
  • 数井 利信, 金 一, 神垣 佳幸, 大久保 正
    2004 年 33 巻 1 号 p. 68-71
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性.突然の右下肢痛を主訴に当院を受診した.既往歴には膀胱癌があり,手術適応とされていたが本人が手術を拒否したため以後未治療であった.血管エコーにて右下肢急性動脈塞栓症と診断され血栓除去術を行った.術後第2病日に突然意識消失をきたした.心エコー検査を行ったところ左室流出路に可動性を有する4.1×2.5cmの腫瘍を認めた.緊急で人工心肺使用下に腫瘍摘出術を行った.術直後の経過は良好であったが,開心術後第14病日に突然左下肢急性動脈塞栓症を発症し血栓除去術を施行した.心エコー検査では,再度左室内腫瘍の増大を認めた.その後全身状態の急激な悪化をきたし,肺炎を契機に開心術後第23病日に永眠された.病理組織所見では膀胱癌の転移の可能性が示唆され,また,剖検所見では心臓内を含め癌の全身転移が認められた.本症例は膀胱癌の心臓転移というきわめて希な症例であった.
  • 北村 惣一郎
    2004 年 33 巻 1 号 p. i-iv
    発行日: 2004/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
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