日本心臓血管外科学会雑誌
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34 巻, 3 号
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  • 垣 伸明, 今関 隆雄, 入江 嘉仁, 木山 宏, 村井 則之, 吉田 浩紹, 権 重好, 汐口 壮一, 齋藤 政仁, 岡田 修一
    2005 年 34 巻 3 号 p. 163-166
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    Full sternotomyによる心臓再手術では,胸骨との癒着剥離に伴う心損傷が大きな問題点としてあげられる.当科では胸骨との癒着剥離を減らす試みとして,minimally invasive cardiac surgeryの手法を利用し,胸骨部分切開による僧帽弁位再手術を行っているが,これがアプローチの一手段になるのか検討した.1997年7月から2002年3月に行ったpartial lower hemisternotomyによる僧帽弁位再手術は,20例あり,P群とし,1990年4月から1997年6月に行ったfull sternotomyによる僧帽弁位再手術は,13例あり,F群とし,両群間において周術期因子,成績などの比較検討を行った.手術は両群ともに全例人工弁置換術を行ったが,P群ではMaze同時手術が有意に多かった(P群:8例,F群:1例).大動脈遮断時間はP群で有意に長かったが(P群:110±5分,F群:87±11分),体外循環時間,手術時間に差を認めなかった.術中の出血量と他家血輸血量はP群で有意に少なかった(P群:666±100ml,3.1±1.2単位,F群:2,405±947ml,8.5±2.5単位).術後の挿管時間,ICU滞在時間はP群で有意に短かったが(P群:18±2,60±9時間,F群:38±12,96±10時間),術後在院日数には差を認めなかった.成績は,F群では術中に胸骨との癒着剥離のさいの心損傷を2例認め(15%),いずれも術後にMOFより死亡したが,P群では,開胸のさいの心損傷や手術死亡は認めず,全例軽快退院した.よって僧帽弁位再手術において,partial lower hemisternotomyはfull sternotomyに対し,術中出血量が削減され,開胸のさいの心損傷が起きにくいと考えられ,また,術後成績も良好であることから,アプローチの一手段になると思われた.
  • 伊藤 智, 川人 宏次, 田中 正史, 野口 権一郎, 山口 敦司, 村田 聖一郎, 安達 晃一, 安達 秀雄, 井野 隆史
    2005 年 34 巻 3 号 p. 167-171
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    狭小大動脈弁に対する各種19mm機械弁の遠隔期心機能および予後について検討した.1990年から2002年9月までに施行した単独大動脈弁置換術(AVR)295例中で大動脈弁狭窄症(AS)に対し19mm機械弁を使用した46例を対象とし,予後について検討した.また,5年以上経過した25例中22例(5~9年:12例,10年以上:10例)に心臓超音波検査を施行した.左室駆出率(LVEF),左室拡張末期短経(LVDd),後壁厚(PWT),心室中隔厚(IVST),人工弁圧較差(PG)をそれぞれ計測し左室心筋重量(LVm),左室心筋重量係数(LVMI)を算出し,術前と遠隔期での結果を比較検討した.平均観察期間は63.1±43.5ヵ月.在院死亡はなく,10年生存率が81.4%と良好であった.心機能に関しては保たれNYHAの悪化もなかった.また,遠隔期に25.0mmHg程度のPGの残存を認めたもののLVm,LVMIの有意な減少を認めた.比較的高齢者や女性が多く,体表面積(BSA)が小さいこと,日常生活での運動負荷が少ない患者が多かったことが要因とも考えられるが,狭小大動脈弁患者の多くは,小柄な高齢女性であることから,19mmサイズの弁置換術でも遠隔期のquality of lifeは保たれると思われた.
  • 弁輪サイズによる相違も含めて
    安田 冬彦, 半田 充輝, 高森 督, 鈴木 友彰, 三宅 陽一郎, 金森 由朗, 岡部 学
    2005 年 34 巻 3 号 p. 172-175
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    当施設において過去5年間にrigid ringを使用した僧帽弁形成術63例を対象に術後僧帽弁閉鎖不全症(MR)およびleft ventricular diastolic dimension (LVDd)を追跡し,rigid ring使用の是非を検証した.術式は腱索再建20例,quadrangular resection42例,ring annuloplastyのみ15例であり,これら全例にCarpentier-Edwards ringを使用した.これらの症例において手術成績,手術前後のMR,LVDdを追跡し,平均追跡期間41.2ヵ月までの再手術率,弁関連合併症回避率,生存率につき検討を行った.また人工弁輪サイズによる遠隔期でのMR制御能およびring縫着後の弁口面積についても検討した.結果として,入院死亡はなく,心エコー上,退院時II度以上のMR残存例は認めなかった.MRは術前平均3.13度から術後0.28度へと減少し,LVDdは術前平均58.4±6.71mmから術後平均48.7±6.3mmへと減少した.術後平均追跡期間41.2ヵ月での再手術例は2例(32%),mortalityは3/63,4.8%であり,死亡例はいずれも他疾患によるものであった.術前と術後遠隔期のMR(0~4度)を人工弁輪サイズ30mm以上のL群と28mm以下のS群で比較すると,L群で術前3.17度,術後遠隔期0.42度,S群で術前3.13度,術後遠隔期0.25度であり,S群において遠隔期のMR制御能は良好であった.Rigid ring縫着後の弁口面積を心エコーで調べた結果,CE26で平均2.85±0.62cm2,CE28で2.95±0.38cm2,CE30で3.09±0.49cm2であり,臨床上MSが問題となった症例は認めなかった.MRに対する残存MRを制御することを目的にrigid ringを使用した弁形成術の成績は良好であった.
  • 鈴木 友彰, 岡部 学, 安田 冬彦, 三宅 陽一郎, 田中 哲文
    2005 年 34 巻 3 号 p. 176-179
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    現在最も低侵襲で長期予後の望める術式とされるin situ all arterial OPCABを目指して,重要な要素である内胸動脈の使用法について検討した.2000年10月から2004年3月までの単独CABGで内胸動脈を使用した217例を対象とした.2002年8月より積極的に両側内胸動脈を使用しはじめ,とくにexclusion criteriaは設けなかった.片側使用(UITA)104例,両側使用(BITA)113例.平均年齢は(UITA vs.BITA)68.1歳vs.67.5歳,糖尿病48vs.43,緊急準緊急例24vs.33,左主幹部病変37vs.38,その他術前因子で両群間に差は認めなかった.全吻合箇所はUITA 314 vs.BITA 410,平均バイパス3.02/人vs.3.63.人,動脈のみの再建例66(63%)vs.104(92%),内胸動脈のin situ使用率100%(104/104本)vs.96%(216/226本),OPCAB率は98例(94%)vs.112例(99%)であった.術後合併症は脳血管障害0vs.1,PMI 0vs.1,腎機能障害3vs.5,呼吸不全2vs.2,胸骨感染1vs.0,手術死亡0vs.1(腸管虚血),グラフト開存率は98.7%vs.99.4%であった.内胸動脈の片側使用例と両側使用例を比較検討した.両側内胸動脈を使用したCABGは技術的に十分可能で安全であり,良好な早期成績が得られた.Sequential吻合などの技術の進歩とともにin situ all arterial OPCABは将来標準術式化されることが予想される.
  • 古川 貢之, 中村 都英, 矢野 光洋, 矢野 義和, 松山 正和, 児嶋 一司, 榎本 雄介, 鬼塚 敏男
    2005 年 34 巻 3 号 p. 180-184
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    B型解離性大動脈瘤に対して外科的またはステントグラフト留置によるエントリー閉鎖術を施行した症例について治療成績および術後の瘤径と偽腔の状態を検討した.対象は1996年より2003年までにエントリー閉鎖術を施行した8例(外科的閉鎖5例,ステントグラフト留置3例).全例慢性期症例で,DeBakey分類ではIII a型1例,III b型7例,男女比4:4,平均年齢63.8±10.9歳.エントリーは全例下行大動脈に存在した.術後観察期間40±29ヵ月で,在院死亡,脊髄および腹部臓器障害は認めなかった.初回手術後3例にリークを認め,手術群1例で下行大動脈置換術,ステント群1例でステントグラフト追加留置を施行した.遠隔期に瘤破裂症例や瘤径拡大に伴う追加手術症例は認めず,遠隔死亡は癌死を1例認めるのみであった.下行大動脈置換術を施行した症例を除く7例中6例で下行大動脈偽腔の血栓化が得られたが,血栓化後も縮小化しないものが存在し,縮小傾向はあるものの最大瘤径は術前後で有意差を認めなかった(術前68±8mm,術後59±17mm,p=0.22).エントリー閉鎖術では3例にリークを認めたが,ステントグラフト追加留置症例を含めると下行大動脈偽腔は高率に血栓化され,中期遠隔期の瘤破裂や瘤径拡大に伴う追加手術例は認めなかった.しかし,瘤径の縮小化が進まない症例も存在し,今後も慎重な経過観察を要する.
  • EuroSCOREを用いて
    廣瀬 圭一, 三和 千里, 仁科 健, 池田 義, 米田 正始
    2005 年 34 巻 3 号 p. 185-189
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    過去6年間の単独coronary artery bypass grafting(CABG)症例223例を人工心肺非使用CABG(off-pump CABG: OPCAB)と人工心肺使用CABG(conventional CABG: CCABG)に分け,EuroSCOREを用いて比較検討した.当初,ハイリスク症例はOPCAB除外としていたが,徐々に適応を広げ,2000年以降本格導入した.現在はOPCABを第1選択とし,血行動態が不安定な症例にCCABGを行った.症例数はOPCAB:CCABG=129:94であったが,OPCAB本格導入後は94:42であった.平均EuroSCOREはOPCAB 5.8点,CCABG 4.1点と,ハイリスク症例にOPCABを多く選択した.入院死亡は3例で心臓と関係なく,OPCAB導入前のCCABG症例であった.中期遠隔死亡は5例で,心臓と関連なかった.近接期合併症は長期人工呼吸がOPCAB群で有意に高率であったが,ほかは両群で差はなかった.平均再建箇所数はOPCAB 2.1ヵ所,CCABG 2.8ヵ所であり,ハイブリッド治療導入の影響と考えられた.単独CABG症例を検討したが,ハイリスク症例をOPCABが担うことで全体として良好であった.OPCAB本格導入後は入院死亡例がなく,術式選択が妥当と考えられた.
  • 鈴木 仁之, 金光 真治, 徳井 俊也, 金森 由朗, 木下 肇彦
    2005 年 34 巻 3 号 p. 190-193
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    開心術後MRSAおよびMRSE感染症に対して,VCM投与中に遅発性過敏反応を示した4例を経験したので報告する.症例1はARに対してAVRを施行したのちに敗血症,前縦隔炎を発症した.症例2はCABGを施行したのちに前縦隔炎を発症した.症例3は感染性心内膜炎に対してAVRを施行したのちに肺炎を発症した.症例4はCABGを施行したのちに敗血症を発症した.いずれもVCM投与によりいったんは感染が鎮静化したが,VCM投与後12~13日目に突然の発熱・発疹・好酸球増加を認め,VCM投与中止により諸症状は軽快した.文献上VCMによる遅発性過敏反応の報告も散見されるため,長期に使用せざるをえない場合には,好酸球の推移に注意して感染との鑑別を行って使用するべきである.
  • 安田 治正, 阪越 信雄
    2005 年 34 巻 3 号 p. 194-197
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    抗リン脂質抗体陽性の全身性エリテマトーデス(SLE)に合併したaortic root aneurysmに対してFreestyle人工弁を使用して大動脈基部再建術を施行した若年女性の症例を経験した.症例は32歳,女性.1997年,胸部不快感を自覚した.精査にて大動脈弁逆流を伴う大動脈基部の拡大を指摘された.2001年7月大動脈の拡大傾向を認めたため,手術適応と判断され当科へ紹介となった.既往歴として17歳時にループス腎炎にてSLEを発症し,以後15年間,ステロイド治療を継続中であった.自己抗体検査にて,ループス型抗凝固因子陽性,抗cardiolipin抗体IgG抗体が検出された.心臓超音波検査にて大動脈弁逆流はIII度,胸部CT・MRIにて大動脈基部は最大60mmと拡大し洋梨状を呈していた.術式として大動脈基部再建術が適当と考えられた.本症例は若年女性で将来の妊娠を希望していた.機械弁の使用は避け,生体弁を選択する必要があった.このような状況では,FreestyleTMによる大動脈基部置換は妥当な手術方法の一つであると考えられた.
  • 花田 智樹, 向原 伸彦, 森本 直人, 松久 弘典, 圓尾 文子, 南 裕也, 中桐 啓太郎, 吉田 正人, 大保 英文, 志田 力
    2005 年 34 巻 3 号 p. 198-201
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,男性.A型大動脈解離に対して全弓部置換術を行った.術中の経過は安定していたが,術後7時間目ころから洞性頻脈となり,続いてPaCO2が上昇,PaO2が低下し,代謝性アシドーシスが進行した.その後39.7℃までの急激な体温上昇とともに血圧が低下した.全身冷却にて体温は低下傾向となったが,意識障害,無尿と低酸素血症は持続した.悪性高熱と診断しダントロレンを投与したが,多臓器不全が進行し術後7日目に死亡した.血中CPKは最高12,446IU/lまで上昇,血中ミオグロビンは術後2日目で36,500ng/mlと非常に高値であった.開心術後に悪性高熱を発症することはきわめてまれであるが,原因不明の急激な体温上昇を認めたときには念頭におかなければならない.
  • 久貝 忠男, 宗像 宏, 長田 信洋
    2005 年 34 巻 3 号 p. 202-204
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    90歳以上の開心術を2例経験したので報告する.症例1は90歳8ヵ月の男性で,大動脈閉鎖不全症(AR)III度を伴う60mmのroot aneurysmに対して,Bentall変法(Carrel patch法)による大動脈基部置換術を行った.症例2は91歳7ヵ月の男性で,大動脈弁狭窄症(AS)とSeg.12の90%狭窄に対して大動脈弁置換術(AVR)(CEP® 21mm)と冠動脈バイパス術(CABG)(LITA-Seg.12)を行った.2症例とも術後経過良好で術後3~4週目に退院,術前同様の日常生活に復帰した.90歳以上の超高齢者に対しても暦年齢のみでなく,生活状態,活動性の高さ,本人の意思,家族の希望に留意して手術適応を判断すれば心臓手術は有効であり,術後もQOLを維持できる.
  • 衣笠 誠二, 磯部 文隆, 岩田 圭司, 野村 幸哉, 斉藤 素子, 秦 雅寿
    2005 年 34 巻 3 号 p. 205-208
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.2001年4月人工弁(Freestyle弁)感染性心内膜炎,僧帽弁閉鎖不全症,陳旧性心筋梗塞に対し再大動脈弁置換術,僧帽弁形成術,冠血行再建術を施行した.2002年1月中旬から下痢,タール便を認め当院消化器科へ入院,絶飲食,高カロリー輸液を行っていた.1月下旬から発熱が持続,抗生剤投与を行い改善傾向にあったが,経食道心臓超音波検査にて上行大動脈に可動性を有する異常エコーを認め,β-Dグルカンの上昇,血液培養検査にてCandida parapsilosisを認め,真菌性心内膜炎の疑いにて4月5日手術を行った.大動脈を切開すると無冠洞近傍の大動脈壁に疣贅の付着を認め,機械弁による再々大動脈弁置換術,および疣贅とともに大動脈壁の一部を切除,大動脈壁欠損部の再建を行った.摘出標本からC.parapsilosisが検出され,抗真菌剤を経静脈的に8週間投与した.術後,意識覚醒遅延,一過性の左半身麻痺の合併を認めたが,術後133日目に脳梗塞後遺症なく退院,抗真菌剤内服を継続し,術後24ヵ月の時点で感染の再燃は認めていない.
  • 天野 宏, 土屋 幸治, 中島 雅人, 小林 健介, 滝澤 恒基
    2005 年 34 巻 3 号 p. 209-211
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.両側交連部の腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症に対し両側交連部のfolding plastyとCarpentier ringによる弁輪形成を行った.術後の心エコーでは僧帽弁逆流を認めず弁口面積も良好に保たれていた.Folding plastyは交連部腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症の弁形成にも有用な術式と考えられた.
  • 田口 真吾, 坂本 吉正, 高倉 宏充
    2005 年 34 巻 3 号 p. 212-215
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性.4年前他院にて僧帽弁閉鎖不全症に対し手術を予定されたが,術中所見で上行大動脈の石灰化が著しく体外循環が確立できずに手術中止となった.その後心不全が進行し,腎不全の併発や心臓悪液質によると思われる著しい体重減少が認められるようになり手術を再考慮することになった.術前CT検査では上行大動脈から総腸骨動脈にいたるまで散在性に石灰化を認め,また超音波検査では右腋窩動脈に狭窄が疑われたため,左腋窩動脈送血,中等度低体温・心室細動下に僧帽弁置換術(MVR)および三尖弁輪縫縮術(TAP)を施行した.術後に脳合併症を発症することなく,また透析を行うこともなく経過した.上行大動脈の著しい石灰化が画像診断で確認された場合は通常の体外循環確立法以外にいくつかの手段をあらかじめ検討し,そのための検査を行っておく必要性を確認した症例であった.
  • 福本 淳, 夜久 均, 土井 潔, 沼田 智, 林田 恭子, 小川 貢, 井上 知也, 北村 信夫
    2005 年 34 巻 3 号 p. 216-219
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    慢性透析患者の冠動脈バイパス術(CABG)症例においては,その周術期管理のさまざまな問題により,合併症発症頻度,早期死亡率とも依然高いのが現状である.そこでわれわれは,慢性透析患者に対し,手術リスクを下げ,かつ周術期合併症を予防する目的で,off-pump CABG (OPCAB)の術中に血液濾過透析(HDF)を施行した.手術開始時よりHDFを開始し,OPCAB(LITA-#8~#10)を施行した.吻合中は,血行動態への影響を軽減するため,透析装置の血液流量を下げ,除水を中断した.吻合終了後は,ヘマトクリット30~35%,中心静脈圧3~5mmHg,血清K+濃度3.0~3.5mEq/lを目標に,開胸のまま,輸血を十分行いながらHDFを続行した.目標達成後,HDFを終了し,術野の出血がないことを十分確認したのちに閉胸を行い,手術を終了した.ICU入室後90分で抜管,翌朝より食事を開始し,術後2日目に一般病室へ転室した.術後3日目から透析室にて週3回の維持透析を再開し,合併症もなく術後11日目に退院となった.OPCABの術中にHDFを施行したことにより,早期抜管,早期離床が可能となり,術後経過がきわめて良好であった慢性透析患者の1例を経験した.
  • 三浦 崇, 丁 毅文, 押富 隆, 佐藤 一樹, 丁 栄市
    2005 年 34 巻 3 号 p. 220-224
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.70歳時に前壁梗塞,71歳時に後壁梗塞を発症した.72歳時の心臓カテーテル検査で,低心機能(駆出率38%,心係数2.0l/min/m2),3枝病変,III度僧帽弁閉鎖不全症,III度三尖弁閉鎖不全症を認めた.NYHA III度,BNP599ng/dl,薬剤抵抗性の心不全状態で手術加療の方針となった.手術待機中に下壁急性心筋梗塞を発症し,経皮的冠動脈形成術を施行した.術前心電図は,洞調律,QRS幅は120msecであった.手術は,生体弁による僧帽弁置換術,三尖弁形成術,5枝冠状動脈バイパス術に両心室ペーシング埋め込み術を同時施行した.術後心電図のQRS幅は心臓再同期療法on,off時ともに120msecであった.心臓カテーテル圧データは,術前後で肺動脈圧が53/35(42)mmHgから33/20(26)mmHg,肺動脈楔入圧が30mmHgから18mmHg,心係数は2.0l/min/m2から2.7l/min/m2へ改善した.心筋組織ドップラー検査では中隔と後壁の収縮期相のずれが改善(CRT off時212msec→on時58msec)し,拡張期相に認められた中隔の局所心筋収縮が収縮期相へ改善した.術後21日目に独歩退院し,術後9ヵ月でNYHA I度である.
  • 松崎 寛二, 海野 英哉
    2005 年 34 巻 3 号 p. 225-228
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性,陳旧性心筋梗塞に対する冠動脈バイパス術後に胸骨骨髄炎を合併した.本例は心機能が悪く精神的にも不安定であったため,侵襲の低いvacuum-assisted closure (VAC)を選択した.VACは創面を密封して持続的に陰圧吸引することで創傷治癒を促す方法である.難治創に対する新しい治療法として紹介され,縦隔炎に対する有効性も報告されている.しかし本邦では,既製のVACシステムは入手しがたく,医療器具としても認可されていない.われわれはポータブル低圧持続吸引システム(J-VAC®)を用いて簡易システムを作り,本例に対して試行した.その結果,約3週間の治療にて良好な創傷治癒を得ることができた.軽量な簡易システムは携行性に優れており,治療に関わる苦痛,ストレス,労力,時間,経費の軽減効果も期待できる.VACは術後胸骨骨髄炎に対する有用な治療法の一つであり,とくにハイリスク例には第1選択になりうる.また,われわれが試みた簡易システムは,患者の移動制限を解除できる点で優れている.
  • 小澤 優道, 内田 直里, 柴村 英典
    2005 年 34 巻 3 号 p. 229-232
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    65歳,男性が眩暈などを主訴に受診し,DSA検査にて左鎖骨下動脈起始部の閉塞による鎖骨下動脈盗血症候群(subclavian steal syndrome: SSS)と診断した.本症例は比較的若年かつ全身状態良好であり,画像検査上,左鎖骨下動脈以外の大動脈弓部分枝・脳動脈に他病変を認めなかったため,人工血管を用いて左総頸動脈-鎖骨下動脈バイパス術を施行した.術前に認めた症状および上肢血圧左右差は改善し,術後15日目に退院,日常生活に復帰した.脳虚血発作を有するいわゆるSSSに対して外科的治療,非開胸アプローチによる非解剖学的血行再建術を行い良好な結果を得たので,術式などに考察を加え報告する.
  • 日置 巌雄, 澤田 康裕, 小野田 幸治, 下野 高嗣, 新保 秀人, 矢田 公
    2005 年 34 巻 3 号 p. 233-236
    発行日: 2005/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.近医にて細菌性髄膜炎にて加療後,背部痛および腰痛精査中に見つかった感染性胸腹部および腹部大動脈瘤の疑いで当科紹介となった.術前は感染活動期であり,抗生剤を中心とした全身管理を行ったが保存的治療の限界と考え,感染活動期に体外循環補助下に感染動脈瘤切除および郭清,in situにリファンピシン浸漬人工血管置換術を施行し,術後集学的治療を必要としたが救命しえたので報告した.
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