Stanford A型大動脈解離手術において左室心尖部より経左室的に上行大動脈送血を行う経心尖部大動脈送血法の有用性と術後早期成績について検討した.対象はStanford A型急性大動脈解離手術症例36例で,これらを経心尖部大動脈送血法を行ったA群(19例)とそれ以外のC群(17例)に分類し,比較検討を行った.術前背景,病態,術中・術後出血量,輸血量,ドレーン留置日数,術後入院期間はA群とC群で有意差はなかった.予定送血部位からの送血が困難で他の送血方法へ変更した症例はなかった.入室から体外循環までの時間(分)はA群74.2±16.2対C群88.8±12.5(
p=0.005),体外循環時間(分)はA群175.2±55.5対C群216.6±58.1(
p=0.036)でいずれもA群がC群より短かった.手術時間(分)はA群309.3±112.5対C群363.4±130.9(
p=0.198)で有意差はなかった.経心尖部大動脈送血法に直接起因する合併症はなかった.術後脳障害はA群1例(5.3%),C群5例(29.4%)でA群が少ない傾向にあった(
p=0.081).両群に術中死亡はなく,手術死亡はA群1例(5.3%)対C群4例(23.5%)で有意差はなかった(
p=0.167).経心尖部大動脈送血法は体外循環導入までの時間,体外循環時間,術後合併症の点で優れる傾向にあった.経心尖部大動脈送血法による手術は準備が簡易で,迅速かつ安全に行うことができ,手術侵襲が少ないため有用な方法と考えられる.
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