日本心臓血管外科学会雑誌
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38 巻, 5 号
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総説
原著
  • 本多 祐, 向原 伸彦, 吉田 正人, 中桐 啓太郎, 志田 力
    2009 年 38 巻 5 号 p. 314-318
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    開心術後の心臓リハビリテーション(CR)の早期導入の有用性について検討した.患者本人に早期CRの効果を理解してもらうため教育用ビデオを作製した.毎日ICUにて多職種参加の合同カンファレンスを開催し,術翌日よりCRを開始した.2004年6月から2007年9月の間に当施設で行った開心術症例179例(平均年齢:65.4歳,女性51例,CABG:91例,弁手術:53例,その他:35例)を対象とし,早期CR開始前をA群(n=73),早期CR導入後をB群(n=106)とし比較検討を行った.CR開始(日)はA群4.3 vs. B群1.5,50 m歩行達成(日)はA群5.4 vs. B群3.1とB群で有意に短縮(p<0.01)した.B群症例の90%が自力歩行可能な状態でICUを退室した.回復期における歩行距離の達成期間(日)は,100 m:A群6.9 vs. B群4.9(p<0.01),200 m:A群8.5 vs. B群6.5(p<0.01),300 m:A群10.2 vs. B群8.1(p<0.01),500 m:A群14.5 vs. B群11.9(p<0.05)と全ての距離でB群の有意な短縮を認めた.早期CR施行中に致死性不整脈などの合併症もなく,平均在院日数(日)もA群:31.0からB群:25.9と有意に短縮(p=0.03)した.退院時のアンケートで,B群症例の91%が早期CRは有用であったと回答した.開心術後CRの早期導入により,歩行能力が早期に回復し,在院日数の短縮につながった.早期CRを有効に行うには,術前の患者教育と多職種参加のカンファレンスが必須である.
症例報告
  • 小津 泰久, 那須 通寛, 井内 幹人, 小森 茂, 庄村 遊, 藤原 洋, 半田 宣弘, 岡田 行功
    2009 年 38 巻 5 号 p. 319-322
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    大動脈縮窄症に対する胸部下行大動脈置換術後27年目に,吻合部中枢から末梢側全体に及ぶ仮性瘤と左鎖骨下動脈根部の拡大が発見された47歳,男性に対して手術を行った.左側方開胸では高度な癒着が予想され,左肺を瘤壁とする仮性瘤と考えられ,術中破裂を起こすことなく遠位弓部から下行までの瘤のアプローチは不能と考えた.胸骨正中切開で低体温循環停止下に全弓部,下行大動脈置換を行った.末梢側へは心嚢を切開して下行大動脈に到達し,瘤壁を残して人工血管を中枢側から末梢側へ挿入し,pull-through法で行った.左鎖骨下動脈は拡大部の遠位側で閉鎖し,弓部4分枝人工血管の側枝より左腋窩動脈へバイパスを行った.術中所見では中枢および末梢吻合部の組織切れにより縫合糸はほぼ全周にわたって外れていた.術後は経過良好であった.下行置換術後に生じた仮性瘤の手術例を若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 鈴木 博之, 藤松 利浩, 大沢 肇, 高井 文恵, 橋本 昌紀
    2009 年 38 巻 5 号 p. 323-326
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    症例は74歳女性.平成16年に回旋枝(Seg. 13)の完全閉塞による急性心筋梗塞を発症し緊急PCIを施行し再還流に成功した.しかしその2日後にoozing type左室自由壁破裂(LVFWR)を発症し,人工心肺装置を使用し心停止下にLVFWR部位にGRF glueを塗布後にTachoCombを貼付して補強を行う,Patch-and-Glue Repair術を施行した.手術は無事に終了し退院後外来にて経過観察していたが,術後約2年が経過したころから左室補強部位が仮性瘤化して拡大傾向を呈し,さらにその瘤内に血栓形成も認めたため初回手術から4年経過して再手術を行った.菲薄化した仮性瘤壁を切開して血栓を除去し瘤入口部にFontan's stitchをかけて結紮・縫縮し,さらに瘤口を縫合閉鎖した.切開した左室壁もフエルト帯にて補強しながらmattless surtureおよびOver and Over法にて縫合閉鎖した.梗塞壊死した心筋は瘢痕化しており破綻することなく確実に縫合閉鎖できた.術後経過は順調であり軽快退院した.急性心筋梗塞後のLVFWR症例に対するPatch-and-Glue Repair術は,遠隔期に左室仮性瘤を形成する可能性があることを考慮しても,その再手術時には梗塞心筋が瘢痕化しており急性期に懸念される運針・縫合による心筋破綻の危険性が回避できるため,救命手段として有用な手術方法であると考えられた.
  • 小池 則匡, 金子 達夫, 江連 雅彦, 佐藤 泰史, 長谷川 豊, 岡田 修一, 滝原 瞳, 竹吉 泉
    2009 年 38 巻 5 号 p. 327-331
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    症例は59歳女性.感染性心内膜炎による僧帽弁閉鎖不全症のため僧帽弁置換術を行った.手術後6日目に突然下血がみられた.内視鏡で肛門から5~10 cmの部位に多量の凝血塊とともに直腸粘膜の糜爛/潰瘍が認められた.抗凝固療法として投与していたワーファリンを直ちに中止した.下血後2日目,ヘパリンを開始した.下血後8日目の内視鏡所見で肛門から10 cm付近まで連続性に続く全周性の出血性潰瘍病変がみられたため,潰瘍性大腸炎を疑いmesalazineを開始した.下血後14日目に行った大腸粘膜生検で潰瘍性大腸炎(直腸型)と診断し,betamethasone坐薬も追加した.その後の経過は良好で術後第36病日前医に転院した.僧帽弁閉鎖不全を伴う感染性心内膜炎に対して僧帽弁置換術を施行した6日後に,出血性直腸潰瘍を呈する潰瘍性大腸炎を併発した稀な1例を経験したので報告する.
  • 田中 睦郎, 安藤 誠, 片山 雄三, 澤田 貴裕, 盧 大潤, 和田 直樹, 高橋 幸宏
    2009 年 38 巻 5 号 p. 332-335
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    症例は22歳女性.10年前に基部大動脈瘤に対してRoss手術を施行されていた.外来フォロー中に自家肺動脈の拡張を認め,それによる圧迫のために右室流出路再建に使用されたexpanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)3弁付人工血管の圧較差(25 mmHg)が認められた.手術は機械弁を用いたBentall手術および右室流出路再建にはePTFE3弁付人工血管の再置換術を施行した.現在,術後経過は良好である.Ross手術は多くの報告で有用性が認められているが,自家肺動脈の拡張,大動脈弁閉鎖不全などが長期的には問題視される.本症例は22歳とまだ若年であり,機械弁およびePTFE 3弁付人工血管の長期的なフォローを必要とする.
  • 山内 英智, 佐藤 浩之, 山下 知剛, 松居 喜郎
    2009 年 38 巻 5 号 p. 336-339
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    症例は64歳女性.2005年より完全右脚ブロックにて他院にてフォローされていたが,2007年7月より心不全症状が出現し,精査にて心サルコイドーシスの診断となる.UCGにて心室中隔基部の菲薄化と右室側への瘤化の進行を認めたため当科を紹介された.UCG上EF40%と壁運動の低下を認めたが,特に中隔基部の右室側へのdyskinesisが心不全の原因と考え手術施行した.右房,右室,大動脈切開にて菲薄化部分を特定し,これを切除したのち,4×3 cmのダクロンパッチにて修復した.完全房室ブロックに対しては両室ペーシングができるように右室と左室後面にリードを置いたDDDペースメーカーを移植した.術後経過は良好であった.病理所見では正常心筋と菲薄化した部分の境界部に非乾酪性類上皮肉芽腫を認め,心サルコイドーシスの診断であった.心サルコイドーシスの外科治療はまれであり,特に中隔切除を必要とする場合外科手技上種々の問題を有するため報告する.
  • 加藤 秀之, 吉田 英生, 久持 邦和, 柚木 継二, 毛利 亮, 徳永 宜之, 鈴木 登士彦, 大庭 治
    2009 年 38 巻 5 号 p. 340-343
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    三尖弁の感染性心内膜炎に対して自己心膜を用いて三尖弁形成術を行い,良好な経過を得た1例を報告する.症例は27歳女性.39℃の発熱と咳嗽で発症した.炎症反応の高値と肺野の多発結節陰影を指摘され,敗血症性肺炎の診断で緊急入院となった.心エコー検査で三尖弁に疣贅と三尖弁逆流III度を認め,感染性心内膜炎と診断された.抗生剤治療を行うも感染のコントロールが困難であったため手術となった.三尖弁前尖の20 mm大の疣贅と後尖の5 mm大の疣贅を付着した弁腹とともに切除し,前尖は残存弁尖をslidingさせ,生じた欠損部に無処理の自己心膜を補填する形で弁形成を行った.術後に抗血小板剤や抗凝固薬の内服を必要とせず,感染の再燃もなく良好な経過であった.術後心エコー検査でTRはI~II度で1年の観察期間でも変化はなかった.同症例では遠隔期のTRの経過観察を要するが,感染の強い症例において異物を用いない形成術として有効な手術手技の1つと考えられた.
  • 八丸 剛, 渡辺 正純, 川口 悟, 中原 秀樹
    2009 年 38 巻 5 号 p. 344-348
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    症例は72歳男性.腰痛・間歇性跛行・両下肢萎縮・陰萎を認めたため,2007年8月10日に当科をコンサルトされた.血液検査で炎症所見を認め,さらに,CTにて大動脈終末部の高度狭窄を伴った大動脈瘤を認めたため,感染性大動脈瘤と診断し,抗生剤治療を開始した.入院時の血液培養でListeria monocytogenesが検出された.同年9月6日に瘤切除・in situリファンピシン浸漬人工血管置換術・大網充填術を施行した.術後,下肢症状は劇的に改善し,陰萎も改善した.長期間の抗生剤投与を継続し,CRPは陰性化して,CTでも感染所見は認めなかった.術後18カ月を経過し,感染の再燃などなく外来通院中である.
  • 畠山 正治, 小野 裕逸, 板谷 博幸
    2009 年 38 巻 5 号 p. 349-353
    発行日: 2009/09/15
    公開日: 2010/04/13
    ジャーナル フリー
    軽度大動脈閉鎖不全を合併した,非破裂の心外型右Valsalva洞動脈瘤に対して,partial aortic root remodelingを施行した.症例は55歳男性で,背部痛を主訴に近医で精査したところ,偶然右Valsalva洞動脈瘤を指摘され,手術目的で当科紹介となった.右Valsalva洞に限局した約4.5 cmの非破裂心外型のValsalva洞動脈瘤に軽度の大動脈閉鎖不全を合併していた.大動脈弁輪の拡大を認めず,弁尖もほぼ正常であったため,右Valsalva洞のみをトリミングした人工血管で再建するpartial aortic root remodelingを行い,右冠動脈はCarrel patch法で再建した.術後の経過は順調であり術後12日目に独歩退院した.術後の心臓カテーテル検査でValsalva洞動脈瘤は消失し,右冠動脈は良好に開存していた.本術式はARの進行に注意が必要であるが,大動脈弁と正常な他のValsalva洞を温存でき,血行動態上パッチ閉鎖より生理的な再建法と考えられた.
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