日本心臓血管外科学会雑誌
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38 巻, 6 号
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原著
  • 馬場 寛, 小川 真司, 深谷 俊介, 北村 英樹, 青木 雅一, 米田 正始, 大川 育秀
    2009 年 38 巻 6 号 p. 355-360
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    冠状動脈バイパス術(CABG)のグラフト選択およびデザインについて検討した.1999年5月より,2007年3月までの,単独CABG(耐術3枝バイパス以上)505例を対象とした.平均追跡期間3.3年,追跡率98.2%であった.吻合部位別では,遠位右冠動脈において大伏在静脈使用群が右胃大網動脈使用群より心イベントが少ない傾向にあった.左回旋枝では,右胃大網動脈使用群が不良であった.心イベントの危険因子は,血液透析(risk ratio 5.28,p<0.001),橈骨動脈グラフトの中枢吻合が右胃大網動脈(5.75,p=0.02),人工心肺非使用(1.62,p=0.03)であった.吻合部位別のグラフトは,右冠動脈末梢は橈骨動脈,大伏在静脈,左前下行枝は内胸動脈,左回旋枝は橈骨動脈,大伏在静脈,内胸動脈が適当であろう.右胃大網動脈についてはflow demandを考慮し,慎重に使用する必要がある.
症例報告
  • 大堀 俊介, 宮島 正博, 佐々木 昭彦
    2009 年 38 巻 6 号 p. 361-363
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.4年前に回旋枝領域の急性心筋梗塞後に発症した左室自由壁破裂に対してフェルトによる直接縫合閉鎖術が施行された.今回,鎖骨骨折で入院した際に施行されたCTにて偶然左室後壁に8×4 cmの腫瘤が認められた.心臓エコー検査にて左室内腔と腫瘤との間に交通孔を認め,左室仮性瘤と診断した.画像所見より仮性瘤が左室後壁に存在することから左開胸で再手術を行い,部分体外循環下に直腸温28度で心室細動として仮性瘤を切開した.左室との交通孔をダクロンパッチで閉鎖し,修復部を瘤化した心膜にてラッピングして手術を終了した.術後経過は良好で術後18日目に鎖骨骨折治療目的に整形外科に転科となった.左心破裂修復後の仮性瘤は遠隔期の合併症としては非常にまれであり,調べえる限りでは本邦で2例の報告があるのみである.急性心筋梗塞後の左室自由壁破裂術後は仮性瘤の発症の可能性を考え,CT,エコーなどの画像診断を含めた定期的な経過観察が必要であると考えられた.
  • 古田 豪記, 山下 重幸, 湖東 慶樹
    2009 年 38 巻 6 号 p. 364-367
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    非常にまれである成人まで無症状であった左冠動脈肺動脈起始症いわゆるBland-White-Garland(BWG)症候群に巨大右冠動脈瘤を合併した症例に対し,手術を施行し救命し得た.症例は心不全,心房細動を自覚後診断された51歳男性で,2008年5月14日に手術を施行した.まず,冠動脈瘤人工血管置換術を施行し,次に左冠動脈へ順行性に血流を送るための手技を行った.左冠動脈主幹部は主肺動脈背側,肺動脈弁直上左側に位置しており,人工血管-左冠動脈主幹部吻合は,右心室と肺動脈間に圧格差を残さないよう肺動脈左側壁に沿って垂直に人工血管を誘導するように行った.その後,主肺動脈前面をその人工血管部位を切り抜いた,パッチでドーム状に閉鎖した.なお,肺動脈壁前面は硬化しておりバイパスの材料として使用できなかった.術後心房細動,心不全ともに軽快し,左冠動脈の順行性の血流も確認された.未だ定型的な手術術式が確定されない当症例であるが,新たな術式で救命し得たBWG症候群症例を経験したので報告した.
  • 原田 真吾, 中村 嘉伸, 丸本 明彬, 佐伯 宗弘, 石黒 真吾, 西村 元延
    2009 年 38 巻 6 号 p. 368-371
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,男性.検診にて胸部異常陰影を指摘され,右側大動脈弓に伴うKommerell憩室(径45 mm)と診断された.心内奇形はなく,弓部分枝は鏡像的であり,血管輪は形成していないものと判断した.自覚症状は軽度であったが,食道・気管の大動脈憩室による圧排を認め,瘤化あるいは将来的な破裂の危険を考慮し手術適応とした.手術は右第4肋間開胸にてアプローチし,部分体外循環下に行う予定であったが,中枢側大動脈遮断部位からの出血のため,低体温循環停止下に大動脈憩室部を人工血管(HemashieldTM 24 mm)にて置換した.術後経過は良好であった.比較的稀な左鎖骨下動脈起始部異常を伴わない右側大動脈弓,Kommerell憩室に対する手術を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 畠山 正治, 小野 裕逸, 板谷 博幸
    2009 年 38 巻 6 号 p. 372-375
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性.1988年に閉塞性動脈硬化症の診断に対して,Y型Cooley double velour knitted Dacronグラフトを用いて腹部大動脈-両側大腿動脈バイパス術を受けた.2008年に左鼠径部の拍動性腫瘤を認め当科を受診した.CTで人工血管左脚末梢だけでなく,右脚末梢にも瘤を認めたため当科入院し,両側の人工血管断裂による動脈瘤を疑い手術を施行した.左側の瘤を切開すると人工血管断裂や吻合部の破綻はなく,病理検査でも動脈硬化性の真性瘤であった.古い人工血管左脚末梢と総大腿動脈の間を10 mmのexpanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)グラフトで置換した.右側の瘤を切開すると遠位吻合部は問題なく,その近位約1 cmの部位から長軸方向に1.5 cmにわたり人工血管が断裂して仮性動脈瘤を形成していた.人工血管断裂による非吻合部仮性動脈瘤と診断した.破綻部は左と同様10 mm ePTFEグラフトで置換し手術を終了した.術後の経過が長く,可動性の高い鼠径部に人工血管が存在する場合は,人工血管断裂による仮性動脈瘤の形成に留意する必要がある.
  • 早津 幸弘, 永谷 公一, 佐久間 啓, 垣畑 秀光, 長嶺 進
    2009 年 38 巻 6 号 p. 376-379
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    症例は70歳男性.平成20年2月に胸部大動脈瘤破裂を発症した.来院時CTで破裂に伴う後縦隔血腫により心臓が圧迫されていた.同日緊急手術となり弓部大動脈置換術を行ったが,胸骨ワイヤーで閉じると心臓が圧迫され血圧が著明に低下した.両側開胸とし後縦隔へ到達したが血腫を十分には除去できず胸骨を開けたままICU入室となった.術後3日目に再度閉胸を試み,40 mmHg程度の血圧低下を認めたが昇圧剤などで循環動態を保てるため,そのまま閉胸となった.その後も順調に経過し術後43日目に退院となった.
  • 中根 武一郎, 武田 崇秀, 金光 尚樹, 青田 正樹, 小西 裕
    2009 年 38 巻 6 号 p. 380-384
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    乳頭筋断裂は稀ではあるが重篤な急性心筋梗塞後の合併症である.今回われわれは急性心筋梗塞後の後乳頭筋部分断裂に対し僧帽弁形成術,冠動脈バイパス術を施行し良好な成績を得たので報告する.症例は85歳の男性で,急性心筋梗塞によるショックの診断で緊急入院した.緊急心臓カテーテル検査の結果,冠動脈3枝病変であり,責任病変の左回旋枝に経皮的冠動脈形成術を施行し再灌流を果たした.入院11日後に突然肺動脈圧が60台に上昇し収縮期雑音を聴取した.経食道心エコー検査にて僧帽弁前尖のA2からA3の逸脱と重度僧帽弁逆流を認めた.弁下に筋肉と思われる可動性のmassを認め後乳頭筋のanterior headの断裂と診断した.大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入し血行動態は安定し,4日後(入院15日後)に手術を施行した.後乳頭筋anterior headが断裂しており,健常なposterior headに再縫着しCarpentier Edwards classical ring M28人工弁輪で弁輪形成し逆流を制御した.また左内胸動脈にて左前下行枝にバイパスした.術後の心エコー検査にて僧帽弁逆流を認めず,術後43日目に独歩退院した.
  • 庄村 遊, 岡田 行功, 那須 通寛, 藤原 洋, 小森 茂, 井内 幹人, 小津 泰久, 橋本 孝司
    2009 年 38 巻 6 号 p. 385-388
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性で,僧帽弁狭窄症に対するPTMC施行12年後に労作時呼吸困難が出現した.精査の結果,僧帽弁狭窄兼逆流症および三尖弁逆流症のため手術適応と考えられたが,問診にて金属アレルギーが疑われ,パッチテストを施行した.亜鉛,マンガン,ニッケル,コバルト,重クロムにて陽性を示した.さらに,手術にて使用予定のハートワイヤー,胸骨ステンレスワイヤー,多くの機械弁,生体弁での金属部分のパッチテストでも陽性を示した.国内使用可能な人工弁のうち,SJM人工弁の一つがカーボン,タングステンのみで構成されており,人工弁のサンプルパッチテスト陰性のため使用可能と判断した.手術では,胸骨正中切開を避け右前第4肋間開胸下でアプローチし,左大腿動脈送血,上下大静脈脱血にて体外循環を確立後,SJMスタンダードカフ人工弁27 mmによる僧帽弁置換術,およびDuran flexible Band 27 mmによる三尖弁弁輪縫縮術を施行した.術後軽快退院し,1年6カ月後の現在,アレルギー症状はみられない.問診にて金属アレルギーが疑われ,パッチテストにて陽性と診断された金属は体内に埋め込まないように工夫すべきと考えられる.
  • 岩橋 英彦, 田代 忠, 森重 徳継, 林田 好生, 伊藤 信久, 竹内 一馬, 西見 優, 桑原 豪, 助弘 雄太
    2009 年 38 巻 6 号 p. 389-393
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    症例は72歳男性,不安定狭心症にて近医に入院した.薬剤溶解性ステント(DES)挿入目的にクロピドグレル300 mg/day,アスピリン200 mg/dayを投与されていた.冠動脈造影(CAG)にて冠動脈左主幹部と3枝病変を認め,CAG中に胸痛を認めたためIABPを挿入し,当院に緊急入院した.即日に緊急off pump CABG(OPCAB)6枝を施行した.出血対策としてトラネキサム酸は10 mg/kg/hで持続投与し,さらにアスコルビン酸を手術開始時2,000単位,冠動脈吻合後2,000単位の合計4,000単位をボーラス投与した.手術時間は6時間であり,手術中の出血量は220 gであった.また術後12時間の総出血量は190 mlと少量であった.術後経過は良好で,術後13日で退院となった.クロピドグレル投与中の患者でもトラネキサム酸を投与することにより,手術による出血を最小限に抑えることができるものと考えられた.
  • 長 知樹, 鈴木 伸一, 南 智行, 岩城 秀行, 磯松 幸尚, 益田 宗孝
    2009 年 38 巻 6 号 p. 394-397
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    症例は56歳男性.52歳時に活動期感染性心内膜炎の診断でステントレス人工弁にて大動脈弁置換術が施行された.その後外来経過観察中に経胸壁心エコーで左室流出路仮性瘤を疑われ造影CT,経食道心エコーで確定診断した.仮性瘤パッチ閉鎖,大動脈弁再置換術を施行し術後経過良好で退院となった.左室流出路仮性瘤はまれであり診断に苦慮することがある.手術前診断には経食道心エコー,造影CTが効果的である.破裂のリスクがあること,瘤による僧帽弁前尖圧迫による逆流や左冠動脈圧迫による虚血などを認めることがあるため,発見次第手術と考えられており,手術方法は仮性瘤切除と大動脈弁置換,症例によっては僧帽弁置換が必要となることがある.
  • 山崎 学, 渡邉 直, 阿部 恒平, 植西 倫子, 川副 浩平
    2009 年 38 巻 6 号 p. 398-401
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/04/14
    ジャーナル フリー
    症例は70歳男性.大動脈弁閉鎖不全症(AR)にて外来経過観察を受けていたが,その増悪のため手術適応と判断された.心エコー図にて右冠尖の逸脱による高度ARが認められ,CTにて上行基部大動脈の約50 mmまでの拡大が見られた.さらに冠動脈造影検査(CAG)で右冠動脈(RCA)#2の90%の狭窄が認められた.手術はaortic root remodeling および subvalvular circular annuloplasty と逸脱したRCCに対する leaflet suspension を用いた大動脈弁形成術を施行した.RCA#2の狭窄に対しては冠動脈バイパス術を併用した.術後経過は良好で無輸血管理で第10病日に独歩退院となった.
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