日本心臓血管外科学会雑誌
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39 巻, 5 号
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総説
  • 真鍋 晋, 高梨 秀一郎
    2010 年 39 巻 5 号 p. 235-241
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    これまでの高齢者に対する冠状動脈バイパス術(CABG)の基本戦略は主に1990年以前の報告に基づいており,75歳以上では手術リスクが高い(死亡率10%前後)ため,より慎重な手術適応が必要と考えられてきた.ところが,最近10年間の報告を見ると,高齢者のCABGの治療成績は飛躍的に向上している.欧米の臨床レジストリーをみると過去10年間で死亡率は約半減し,また大規模な比較試験では遠隔期成績におけるCABGの優位性はむしろ高齢者においてより顕著であることが示されている.またCABGの手術手技についても,off pump CABGの積極的な導入が短期成績をより改善する可能性が示され,遠隔期成績では若年者同様にITAの使用や完全血行再建がやはり望ましいことがいくつかの報告で示されている.このように現在は高齢者CABGの治療方針の再考の時期にあると考えられ,最近の報告を中心に,高齢者に対するCABGの現状を検討する.
症例報告
  • 南 智行, 松木 佑介, 長 知樹, 笠間 啓一郎, 岩城 秀行, 鈴木 伸一, 磯松 幸尚, 益田 宗孝
    2010 年 39 巻 5 号 p. 242-245
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    両大血管右室起始症(DORV)や修正大血管転位症(cTGA)に対する心室内トンネル作製時には左室流出路狭窄をきたさないようにすることが重要である.Expanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)flat patchを心室内トンネルに使用し,早期遠隔期に左室流出路狭窄をきたした2例を経験した.症例1は10歳男児.DORVに対して5歳時にRastelli型手術が施行された.5年後圧較差70 mmHgの左室流出路狭窄を認めた.症例2は13歳女児.cTGAに対して7歳時にdouble switch手術が施行された.6年後圧較差55 mmHgの左室流出路狭窄を認めた.両症例に対してePTFE graftをドーム状に形成し,これをreroutingに使用した.心室内reroutingの際にePTFE graftを使用することによって長期的な左室流出路狭窄予防が可能と考えられた.
  • 廣瀬 友亮, 阿部 毅寿, 多林 伸起, 吉川 義朗, 早田 義宏, 山下 慶悟, 亀田 陽一, 谷口 繁樹
    2010 年 39 巻 5 号 p. 246-249
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    鈍的胸部外傷による三尖弁閉鎖不全は稀な合併症ではあるが,近年その報告例が散見されるようになった.我々は,弁形成術を行い良好な結果を得た2症例を経験した.症例1:22歳,男性.18歳時に転落事故による全身打撲で救命センターに入院した既往がある.19歳時に大学の検診で心電図異常と心雑音を指摘された.心エコーで高度の三尖弁閉鎖不全が認められたため当科に紹介となった.手術所見では,前尖の亀裂と弁輪拡大が認められたため,弁尖亀裂部の直接縫合と弁輪形成術を施行した.症例2:54歳,男性.18歳時に転落事故の既往がある.31歳時に全身倦怠感と労作時呼吸困難を自覚した.心雑音を指摘され,心エコーで三尖弁閉鎖不全が認められた.54歳時に全身倦怠感が出現したため精査したところ,肝機能障害,うっ血肝が認められ,手術目的で当科に紹介となった.手術所見では,前尖・中隔尖の逸脱と弁輪拡大が認められた.前尖・中隔尖の腱索置換,自由縁の縫合と弁輪形成術を施行した.本邦での外傷性三尖弁閉鎖不全に対する手術報告例についてまとめ考察を加え報告する.
  • 佐多 荘司郎, 鈴木 龍介, 渡辺 俊明, 松川 舞, 廣重 恵子, 大幸 俊司, 小柳 俊哉, 竹村 隆広
    2010 年 39 巻 5 号 p. 250-253
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    弁付きグラフト(Aortic Valved Graft)を用いてapico-aortic conduit bypass(ACB)を行ったので報告する.症例は狭小弁輪を伴う大動脈弁狭窄症の60歳,女性で,胸部大動脈は上行から下行まで石灰化が著しく陶器様大動脈であった.通常の大動脈弁置換術は困難と判断し,ACBを行った.手術は左開胸で行い,下行大動脈送血,肺動脈脱血で人工心肺を確立した.下行大動脈を遮断し,人工血管を下行大動脈に吻合した.心室細動を誘導し,左室心尖部を人工血管と同等の径になるように切除し,馬心膜パッチで補強し人工血管を縫着した.除細動後に,Aortic Valved Graftを人工血管に吻合しバイパスを完成した.ACBにAortic Valved Graftを用いることは,弁付きグラフトを作製する手間と時間を省くことができ,同じ種類の人工血管吻合が可能になるという利点があると考えられる.
  • 奈良原 裕, 尾頭 厚, 村田 登
    2010 年 39 巻 5 号 p. 254-257
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.3日前からの胸部圧迫感を主訴に近医受診,急性心筋梗塞(AMI)の診断にて当院紹介となった.当院循環器内科にて緊急冠動脈造影検査を施行し,seg. 7 100%閉塞,seg. 1 90%の狭窄病変を認め,経皮的冠動脈形成術(PCI)が施行され再灌流を得られた.ICU入室後,心タンポナーデからショック状態となった.心嚢穿刺ドレナージによっても直にショックとなるため大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入した後,緊急開胸手術とした.手術台上で無脈性電気活動(PEA)となり,開胸したところ心嚢内には多量の血腫を認め,これを除去すると左室心尖部付近の前壁3カ所より多量の血液噴出を認めた.前壁のblow out型左室破裂(LVFWR)であった.手術は,非ヘパリン化,非体外循環下にTachoComb®,fibrin glueの重層法+馬心膜パッチ+GRF glueによるsutureless techniqueを用いた.Blow out型LVFWRに対して非体外循環下にsutureless techniqueを用いて救命し得た症例は報告例が少ない.
  • 関根 裕司, 池田 義, 古武 達也, 安 健太, 中塚 大介, 野中 道仁, 岩倉 篤, 山中 一朗
    2010 年 39 巻 5 号 p. 258-261
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    症例は11歳の男児.大動脈縮窄症に対して,生後8日(左鎖骨下動脈-下行大動脈),11カ月(上行大動脈-前回人工血管),2歳時(2回目人工血管-下行大動脈)に人工血管バイパス術を施行した.遺残縮窄部の増悪,心肥大の進行,上行大動脈の拡大傾向を認め再手術の方針となった.胸骨正中切開による上行-下行大動脈バイパス術を選択した.横隔膜直上の後面心膜を切開することで下行大動脈の良好な視野を得た.大腿動脈送血,右房脱血にて部分体外循環を確立し心拍動下に手術を行った.まず,14 mmのWoven Dacron graftを下行大動脈に吻合後,下大静脈,右側肺静脈の上面,右房の右側を通し上行大動脈右側に吻合した.術後上下肢血圧較差は改善し,内服降圧剤も不要となった.本術式はさまざまな解剖学的形態を持つ遺残大動脈縮窄症に対する再手術時の重要な選択肢の一つと成り得るが,多少の圧較差は残存しており,また成長に伴う今後の問題点もあり注意深いフォローが必要である.
  • 田中 秀弥, 中山 義博, 大西 裕幸, 柚木 純二
    2010 年 39 巻 5 号 p. 262-264
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    症例は65歳男性.2007年6月にARに対してAVR(SJM Regent 19 mm)を施行した.2008年3月から経胸壁心臓超音波検査で,大動脈-左室圧較差の増大を認め(peak PG : 46 mmHg, mean PG : 27 mmHg),6月に施行した同検査で開放制限が増悪(peak PG : 93 mmHg, mean PG : 58 mmHg).ワーファリンコントロール不良であったため,血栓弁を疑い,t-PAによる血栓溶解療法を施行した(80万単位).溶解療法施行の約1時間30分後に胸痛の訴えがあり,心電図検査で広範囲にわたるST上昇を認め,心臓カテーテル検査を施行した.Seg 7は完全閉塞しており,血栓吸引療法で再灌流した.金属弁の可動性は改善しており,弁に付着していた血栓が溶解し,冠動脈に塞栓したと推測された.血栓溶解療法中の厳重なモニタリングの必要性を再確認させられる症例であった.
  • 田口 隆浩, 前場 覚, 渡邊 慶太郎
    2010 年 39 巻 5 号 p. 265-268
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid syndrome : APLS)は,リン脂質に対する自己抗体を有し,動脈系および静脈系に血栓症を起こし,習慣性流産,血小板減少を主徴とする症候群である.心臓弁膜病変を合併することが多い反面,大動脈病変の合併は非常に稀である.症例は44歳女性.全身性エリテマトーデスおよびAPLSに対し,近医でステロイドおよび免疫抑制剤,ワーファリンが投与されていた.背部痛を主訴に搬送され,造影CTにて急性A型大動脈解離と診断し,緊急上行大動脈人工血管置換術を施行した.周術期において血栓塞栓症のリスクの増大,ステロイドや免疫抑制剤による易感染性が問題となった.
  • 今井 章人, 平松 祐司, 金本 真也, 徳永 千穂, 松原 宗明, 加藤 秀之, 金子 佳永, 榊原 謙
    2010 年 39 巻 5 号 p. 269-272
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    症例は1歳8カ月,5.7 kgの女児.出生後間もなく先天性二尖弁の大動脈弁狭窄症および前尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症と診断された.生後40日目に大動脈弁バルーン拡張術が行われたが,その後有意な大動脈弁閉鎖不全を生じ,僧帽弁逆流も徐々にIV度へと悪化した.1歳過ぎから体重増加なく,内科的心不全管理の限界に達し手術となった.Glutaraldehydeで前処理した自己心膜によるleaflet extension法により大動脈弁を形成し,僧帽弁は機械弁置換を行った.術後大動脈弁の圧較差40 mmHgを残したが,大動脈弁閉鎖不全は消失した.僧帽弁周囲逆流による溶血と低左心機能による心不全が遷延したものの,やがて改善し術後6カ月目に退院した.狭小弁輪で低左心機能の乳幼児の大動脈弁疾患においては,leaflet extension形成術は選択肢の一つとなり,本術式によって危機回避し得る症例があると考え報告した.
  • 西村 謙吾, 宮坂 成人, 森本 啓介, 谷口 巌
    2010 年 39 巻 5 号 p. 273-275
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    冠動脈バイパス術(CABG)後に急性大動脈解離を発症する症例は稀であり,文献的報告例も少ない.また再手術では開存している残存グラフトの存在が問題となる.今回CABG後に発症したStanford A型急性大動脈解離の1例を経験したので報告する.症例は68歳,男性.2007年12月に不安定狭心症にて心拍動下CABG3枝(左内胸動脈-左前下行枝,部分遮断鉗子を用いて左橈骨動脈にて大動脈-左回旋枝,右胃大網動脈-後下行枝)を右大腿動脈送血,右心房脱血での経皮的心肺補助法(PCPS)下に施行した.2009年5月突然前胸部痛が出現したため近医より救急搬送された.Stanford A型急性大動脈解離と診断し,右総大腿動脈送血,上下大静脈脱血で人工心肺を開始して低体温・逆行性脳灌流にて上行大動脈置換術を施行した.大動脈前壁に吻合したグラフトを術中いったん離断し,人工血管の側枝に再建した.術後経過は良好で術後22日目に退院した.
  • 名村 理, 島田 晃治, 大関 一
    2010 年 39 巻 5 号 p. 276-280
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    症例は79歳女性.僧帽弁形成術・三尖弁輪縫縮術中,人工心肺離脱時に大量の気道内出血が発生した.ただちに人工心肺の脱血量を増やして肺血流量を減らし,二腔式気管チューブと気管支ブロッカーを用いて,出血部位である中間幹以下を孤立させ,気管支内タンポナーデ法を行って,止血効果を得た.その後,自己肺のガス交換不良のため,人工心肺装置をヘパリンコーティングシステムのV-A ECMOに移行し,手術を終了した.V-A ECMOは抗凝固剤非投与下に約11時間施行し,さらに止血が促進され,術後約14時間に気管支ブロッカーを抜去し,約19時間でV-A ECMOを離脱することができた.術後第26病日に退院したが,術後の胸部CTでは,右肺動脈(A5b)に仮性瘤を認め,気道内出血の原因は肺動脈カテーテルによる肺動脈損傷と診断した.
  • 寺崎 貴光, 高野 環, 五味渕 俊仁, 福家 愛, 駒津 和宣, 高橋 耕平, 和田 有子, 瀬戸 達一郎, 福井 大祐, 天野 純
    2010 年 39 巻 5 号 p. 281-284
    発行日: 2010/09/15
    公開日: 2010/12/03
    ジャーナル フリー
    発熱と神経症状を契機に発見された動脈管開存(PDA)患者に発症したIEを経験し,良好な治療結果を得たので報告する.症例は51歳,男性.39℃台の発熱と全身の関節痛,左半身の痺れを主訴に他院を受診した.CT検査でPDAと,肺動脈における開口部に腫瘤像を認め,脳,肺,腎臓,脾臓に多発性の梗塞像を認めた.心エコーでは大動脈弁は二尖弁の形態で,大動脈弁,僧帽弁ともに疣贅の付着を認め,細菌培養検査でIVHカテーテル培養からStaphylococcus aureusを検出した.PDAおよび感染性心内膜炎の診断で抗生剤治療を開始したが,大動脈弁閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全による心不全増悪傾向を示したため緊急手術を施行した.手術は上行大動脈送血,上・下大静脈脱血で人工心肺を開始し,PDA開口部に付着した疣贅を切除し,PDAは自己心膜プレジェット付き5-0ポリプロピレン糸で直接閉鎖,つづいて二弁置換を施行した.術後抗生剤治療に苦慮したが神経所見の明らかな増悪なく軽快転院した.聴診や経胸壁心臓超音波で診断が困難な動脈管開存については,CT検査が形態や病態を把握する上で有用と考えられた.
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