日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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40 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 高橋 大輔, 島本 光臣, 山崎 文郎, 中井 真尚, 三浦 友二郎, 糸永 竜也, 岡田 達治, 野村 亮太, 阿部 陛之, 寺井 恭彦
    2011 年 40 巻 3 号 p. 81-85
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    ASに対するAVRにおけるCarpentier-Edwards PERIMOUNT Magna(Magna)とCarpentier-Edwards PERIMOUNT(CEP)の術後早期弁機能を比較検討した.2005年1月から2010年5月に当科で施行したASに対する生体弁によるAVR(僧帽弁合併手術は除外)164例(Magna 68例,CEP 96例)を対象とした.これらの症例に対して術後2週間以内に経胸壁心エコーを施行し弁機能を評価した.全体の術後peak velocityはMagna群2.59±0.36 m/s,CEP群2.75±0.47 m/sとMagna群が有意に低かった(p=0.022).Mean PGでは両群間に差はなかった.弁サイズ19 mmにおいて術後mean PGはMagna群16.4±4.5 mmHg,CEP群19.7±6.4 mmHgと有意にMagna群が低く(p=0.034),peak velocityでもMagna群2.70±0.36 m/s,CEP群3.03±0.49 m/sとMagna群が有意に低かった(p=0.008).また有効弁口面積(EOA)でも19 mmでMagna群1.29±0.18 cm2,CEP群1.11±0.24 cm2 と有意に大きかった(p=0.007).他のサイズのEOAは21 mm : 1.46±0.23 cm2 vs. 1.42±0.18 cm2p=0.370),23 mm : 1.70±0.34 cm2 vs. 1.52±0.25 cm2p=0.134)とMagna群が大きいものの有意差は認めなかった.有効弁口面積係数0.85 cm2/m2 以下と定義するpatient-prosthesis mismatch(PPM)は,Magna群26.8%,CEP群47.2%とMagna群で有意に少なかった(p=0.018).ASに対する生体弁を用いたAVRにおいて,CEP Magnaの使用により有意にPPMが減少した.特に狭小弁輪を伴うASに対する生体弁でのAVRにおいてCEP Magnaは有用と考えられた.
  • 白石 学, 山口 敦司, 由利 康一, 根本 一成, 内藤 和寛, 野口 権一郎, 安達 秀雄
    2011 年 40 巻 3 号 p. 86-88
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    Leriche症候群の手術症例を対象として虚血性心疾患(IHD)の合併率を検索し,IHD合併時の治療方法について検証した.Leriche症候群33例のうち術前に冠動脈造影検査(CAG)を施行した26例を対象とした.冠危険因子では糖尿病・高血圧の合併が多く,冠動脈有意狭窄病変も14例(53%)に認められた.治療方法としては冠動脈バイパス術(CABG)が7例で必要とされ,2例で下肢バイパスとの二期的治療を,5例で一期的治療を施行した.下肢血行再建は,大動脈-両側大腿動脈バイパス15例,腋窩-大腿動脈バイパス術9例であり,遠位側への血行再建追加を3例で行った.下肢動脈へのグラフトは3例(11.5%)が遠隔期に閉塞し,うち2例は腋窩-大腿動脈バイパスでありCABGとの同時手術であった.Leriche症候群の半数以上にIHDの合併が認められ,CAGによる術前評価の重要性が示唆された.CABGとの同時手術では遠隔期に腋窩・両側大腿動脈バイパスのグラフト閉塞が認められた.術前状態から手術リスクを検討した上で,長期成績も考慮した下肢血行再建術が必要である.
  • 青木 淳, 末澤 孝徳, 寒川 顕治, 多胡 護
    2011 年 40 巻 3 号 p. 89-93
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    大動脈瘤破裂,急性大動脈解離破裂,外傷性大動脈損傷,大動脈気管支瘻・腸管瘻等による出血などの大動脈緊急症に対する外科治療は困難で,死亡率も高い.我々は2003年12月からステントグラフト(SG)を用いた治療を試み,15例(大動脈破裂または外傷性大動脈損傷9例,外傷性腸骨動脈損傷1例,大動脈気管支瘻3例,大動脈腸管瘻3例)に対して施行した.大動脈破裂または外傷性大動脈損傷9例中1例を外傷性脳出血のため失ったが,他の8例は合併症を生じることなく生存退院した.大動脈気管支瘻は,3例とも喀血は消失したが,一次性の1例を術後肺炎で失い,二次性の1例を多臓器不全で失った.大動脈腸管瘻は,一次性の1例は,術後SG感染を来すことなく良好に経過したが,二次性の2例はいずれも二期的な人工血管切除を要し,1例は感染の再発により死亡した.大動脈緊急症に対するSG治療は止血効果は優れていた.しかし,感染源が残存している場合は,二期的手術を必要とする症例がある.市販SG導入により,胸部大動脈の屈曲部および腹部大動脈にも対応可能となり,わが国でも大動脈緊急症に対するSG治療が増加すると思われる.
症例報告
  • ——優先順位と補助手段——
    中山 泰介, 加納 正志, 一色 真吾, 富永 崇司, 石戸 谷浩, 平谷 勝彦, 澤田 貴裕, 黒部 裕嗣, 北川 哲也, 堀 隆樹
    2011 年 40 巻 3 号 p. 94-97
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    著明な肺換気能低下を伴った外傷性右横隔膜ヘルニアと大動脈峡部仮性瘤の治験例について報告する.症例は24歳の女性で,交通事故による多発外傷で受診した.右横隔膜破裂部から肝の2/3程度が胸腔内に脱出し,右肺を圧迫していた.受傷から2カ月後に大動脈峡部瘤を指摘され,人工血管置換術を施行した.手術は右下側臥位で左開胸から下行大動脈にアプローチした.左大腿静脈脱血,左大腿動脈送血で人工心肺(以下FFバイパス)を開始し分離肺換気を行うと右示指経皮酸素飽和度(以下SpO2)と前頭部の脳内酸素飽和度監視装置(in vivo optical spectroscopy,以下INVOS)の局所脳内酸素飽和度(以下rSO2)が著明に低下した.そこであらかじめ右腋窩動脈に縫着しておいた人工血管からの送血を追加したところSpO2 とrSO2 は上昇し,以後安全域内で推移した.術後は神経学的な異常はなく,順調に経過した.瘤は病理組織学的に仮性瘤と診断された.大動脈瘤切除後30日目に右横隔膜ヘルニアに対して,肝臓の還納を伴う横隔膜ヘルニア修復術を行った.右肺換気能低下を伴う患者の胸部下行大動脈瘤手術では,右腋窩動脈送血を併用することによって安全に手術を行える.
  • 椎谷 紀彦
    2011 年 40 巻 3 号 p. 98-99
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
  • 芝本 愛, 榊 雅之, 山田 裕, 北林 克清, 河村 拓史, 荒木 幹太, 大竹 重彰
    2011 年 40 巻 3 号 p. 100-103
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は76歳女性.胃ポリープに対して内視鏡的切除後,消化器内科外来へ通院中,腹部超音波検査で偶然に心臓腫瘍を指摘され当科へ紹介となった.精査の結果,右室流出路に茎を持ち可動性に富む34×25 mm大の腫瘍を認め,粘液腫が疑われた.収縮期に腫瘍は肺動脈弁を越えており,塞栓症や嵌頓の危険性が高いと判断し,翌日準緊急手術を行う方針とした.手術は人工心肺下に施行した.大動脈遮断後肺動脈本幹を縦切開し右室流出路まで延長したところ,肺動脈弁直下に腫瘍を確認できた.腫瘍の茎は三尖弁前尖の腱索および乳頭筋付着部から連続していたため,一部合併切除する形で腫瘍を摘出し,断端に腫瘍の遺残がないことを確認した.さらに右房を切開し観察すると,三尖弁逆流を認めたため,前尖腱索を人工腱索により再建したのち弁輪縫縮を追加し逆流の消失を確認,手術を終了した.術後特記すべき合併症は認めず良好に経過し,術後13日目に退院となった.
  • 森 秀暁, 柴田 正幸
    2011 年 40 巻 3 号 p. 104-107
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,既往歴に心筋梗塞があり,近医で通院加療を行っていた.半年前から腹部膨隆感が出現した.CTスキャンで卵巣腫瘍と最大横径68 mmの腹部大動脈瘤と診断され,当院を紹介受診した.骨盤・腹腔を占拠する巨大卵巣腫瘍摘出術と腹部大動脈瘤人工血管置換術の同時手術を施行した.卵巣腫瘍の病理診断はmucinous cysticadenomaの所見であった.術後経過は良好で術後第13病日に軽快退院した.骨盤・腹腔内を占拠する腹部腫瘍を合併し,腹部大動脈瘤に対する早期手術を要する症例であり,術式に検討を要し文献的考察を行った.巨大卵巣腫瘍摘出と腹部大動脈瘤人工血管置換術の同時手術報告例は稀であり報告した.
  • 喜瀬 勇也, 神谷 知里, 新垣 涼子, 前田 達也, 盛島 裕次, 新垣 勝也, 山城 聡, 國吉 幸男, 新垣 和也, 加藤 誠也
    2011 年 40 巻 3 号 p. 108-111
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    81歳,女性.転倒による右大腿骨頸部骨折治療前の経胸壁心臓超音波検査で大動脈弁左冠尖に付着する10 mm大の可動性腫瘤を認めた.大腿骨頸部骨折手術8日後に人工心肺下に腫瘤摘出術を行った.術中所見では左冠尖弁縁中央部に10 mm大のシダ状にのびた腫瘍を認め,弁を温存する形で腫瘍切除のみ行った.病理検査では乳頭状弾性線維腫の診断を得た.術後合併症はなく順調に軽快し,現在,再発なく経過している.乳頭状弾性線維腫は比較的稀な心臓腫瘍であるが,非侵襲的検査や外科的治療の進歩により経験される症例も増加していくものと思われ,文献的考察を加えて報告する.
  • 加藤 寛城, 矢鋪 憲功, 飯野 賢治, 富田 重之, 渡邊 剛
    2011 年 40 巻 3 号 p. 112-114
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    へパリン起因性血小板減少症(HIT)を合併した症例に対する心臓手術のさいには,抗凝固管理が重要となる.今回我々はアルガトロバンとメシル酸ナファモスタットを併用した人工心肺下再手術を経験した.今回,アルガトロバンは0.25 mg/kgのbolus投与と5~10 μg/kg/minの持続投与,またメシル酸ナファモスタットは100 mg/hで使用した.人工心肺中や周術期に血栓症などの合併症は認めなかった.アルガトロバンとさらに半減期の短いメシル酸ナファモスタットを使用したにもかかわらず,抗凝固作用が遷延し多量の輸血を要することとなったが術後経過は良好であった.
  • 五十嵐 崇, 佐戸川 弘之, 高瀬 信弥, 佐藤 善之, 山部 剛史, 横山 斉
    2011 年 40 巻 3 号 p. 115-119
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は48歳女性.平成12年に不全型ベーチェット病と診断され,下肢深部静脈血栓症の既往もあるためコルヒチンおよびワルファリンを投薬され,症状は安定していた.平成22年に行われた検診での大腸内視鏡検査で虫垂腫瘍を指摘され,その術前精査として行われた胸部造影CT検査で下大静脈・右房内に存在する腫瘤を認めた.血管ベーチェット病による静脈血栓を疑ったが,虫垂腫瘍に関連した転移性の腫瘍あるいは原発性心臓腫瘍との鑑別は困難であった.有茎性で先端が右房内を浮遊しており肺塞栓発症が懸念されたため準緊急的に腫瘤摘除を行った.体外循環補助下に右房を切開し直達的に腫瘤を摘除した.腫瘤根部は下大静脈内膜に付着していた.標本は病理所見上血栓組織であった.術後は重篤な合併症を認めず,第16病日に独歩退院した.1カ月後に虫垂腫瘍に対し回盲部切除術が施行されたが,病理診断は粘液性嚢胞腺腫であった.血管ベーチェット病に併発する心内血栓症は稀であり,心内腫瘤の鑑別診断として重要である.
  • ——冠動脈バイパス術後,仮性瘤形成を繰り返し感染性心内膜炎を合併した症例——
    幾野 毅, 榎本 栄, 山本 賢二, 坂本 泰三
    2011 年 40 巻 3 号 p. 120-124
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性.2002年,不安定狭心症に対し冠動脈バイパス術4枝(LITA-LAD#8, Ao-SVG-#9-HL-#4PD)を施行した.2005年9月,グラフト中枢吻合部に仮性瘤を認め,大伏在静脈グラフトが閉塞した.仮性瘤に対しパッチ閉鎖術を行うとともに,右内胸動脈に離断した前回の大伏在静脈グラフトを再建した(RITA-SVG-#9-HL-#4PD).2006年6月,仮性瘤再発を認め,超低体温循環停止下に人工血管(Gelweave®)を用いて広範囲にパッチ閉鎖を行った.組織培養は陰性であった.8月に仮性瘤再発を認めた.超音波では上行大動脈内に可動性のある腫瘤を認めた.Bentall手術を施行し,大動脈弁まで及んでいた疣贅および暗紫色の膿を可及的に除去し,大網を充填した.術中組織からAspergillusが培養された.腎障害がありMicafunginを使用したが,β-Dグルカンも300 pg/ml以上とコントロールが付かず,Amphotericin Bに変更した.しかし,敗血症にて13日目に死亡した.Aspergillusによる心大血管系への感染は稀で,診断後1年以上生存した報告は数例である.文献的生存例は,感染部の切除と早期診断により抗真菌剤を強力に長期間にわたり行っていた.本症の救命には早期診断と治療が有効であり,文献的考察を踏まえて報告する.
  • 青木 雅一, 神谷 賢一, 小川 真司, 馬場 寛, 大川 育秀
    2011 年 40 巻 3 号 p. 125-129
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤に対するステントグラフト留置後6年目にステントグラフト感染を起こした症例に対して,リファンピシン浸漬人工血管を用いて血行再建を行い良好な結果が得られたので報告する.症例は69歳男性,2004年6月に他院で腹部大動脈瘤に対して井上式ステントグラフトを挿入した.2009年6月,不明熱で近医受診,腹部CTにて動脈瘤後壁に膿瘍を認めステントグラフト感染と診断され,手術目的で当院転院となった.手術は腹部正中切開アプローチ,腎動脈下で大動脈遮断して動脈瘤を切開,ステントグラフトを除去し,リファンピシンに浸したGelweaveにてin-situによる血行再建を行った.人工血管全体を大網で被覆・固定して閉腹した.術後16日目に抗生剤を内服に変更し,27日目に独歩で退院した.術後約2カ月で抗生剤の内服を中止し,1年後の現在も感染の再発は認めていない.
  • 高橋 英樹, 莇 隆
    2011 年 40 巻 3 号 p. 130-134
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は46歳男性.リウマチ性疾患・梅毒の既往歴はない.Marfan症候群の診断基準には該当しない.2008年7月頃より労作性呼吸困難が出現した.心エコーにおいて大動脈弁輪径:28 mm,ST-junction径:45 mm,上行大動脈径:50 mmであり,大動脈弁中央よりsevereのARを認めていた.以上の結果から大動脈弁輪拡張症による大動脈弁閉鎖不全症と診断され,手術目的にて当科紹介となった.大動脈弁は無冠尖と右冠尖が癒合した明瞭なrapheを伴う二尖弁であった.SJM社製27 mm Aortic Valved Graftを用いてModified Bentall手術を施行した.経過は良好であり,現在NYHA分類class Iへ改善し,経過している.
  • 砂田 将俊, 伊藤 敏明, 前川 厚生, 藤井 玄洋, 吉住 朋, 星野 理
    2011 年 40 巻 3 号 p. 135-139
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    弓部置換術後の人工血管感染は重篤な合併症であり,治療抵抗性の場合が多い.しかし,人工血管の再置換は侵襲が大きく高齢者,全身状態不良な患者には困難である.今回,我々は弓部置換術後の人工血管感染2症例に対し前胸部小開胸ドレナージ,間歇的胸腔洗浄を施行し良好な結果を得たので報告する.手術は左第三肋間開胸でアプローチ.人工血管周囲組織を剥離後に洗浄ドレナージを施行した.人工血管中枢側,末梢側に1本ずつ洗浄用ドレーンを留置した.左胸腔内に洗浄用ドレーンを留置し終了.術後,イソジン希釈液,ピオクタニン希釈液を用いて胸腔洗浄を行った.症例1は82歳,男性.2005年11月に弓部大動脈瘤破裂にて弓部置換術を施行した.2008年3月から発熱があり,前医にて人工血管感染の診断で当科へ紹介された.4月9日に前胸部小開胸アプローチにてドレナージを施行した.術後9日間イソジン希釈液を用いて胸腔洗浄を施行した.10日目からは生理食塩水で胸腔洗浄を施行した.術後13日目で洗浄を終了した.術後30日目で退院となった.症例2は58歳,男性.弓部大動脈瘤にて12年前に弓部置換術を施行した.2009年3月16日から発熱,下肢筋肉痛があり近医を受診した.精査にて人工血管感染の診断で当科へ紹介された.3月24日前胸部小開胸にてドレナージを施行した.血液培養からはMSSAが検出された.術翌日からイソジン,ピオクタニン液で胸腔洗浄を施行した.術後10日目からイソジン液洗浄に変更した.炎症反応が軽快したため術後34日目で胸腔洗浄を終了した.術後64日目に退院となった.2症例ともドレナージ施行後,持続洗浄と抗生剤使用にて炎症反応軽快,全身状態の改善を認めた.また両症例とも2010年9月15日現在まで感染の再発はみられていない.弓部置換術後人工血管感染に対する前胸部小開胸アプローチは低侵襲であることに加え,胸骨再正中切開を回避できる,弓部人工血管全長に対し良好な視野を得ることができるなどの利点があり有効と考えられた.
  • 瀬戸 夕輝, 佐戸川 弘之, 佐藤 洋一, 高瀬 信弥, 若松 大樹, 黒澤 博之, 坪井 栄俊, 五十嵐 崇, 山本 晃裕, 横山 斉
    2011 年 40 巻 3 号 p. 140-143
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は83歳男性.2006年に,他院にて高度房室ブロックに伴うAdams-Stokes syndromeのため左鎖骨下から経静脈的にペースメーカー(pacemaker : PM)(DDD)を移植された.2008年にPM電池留置部の創部離開を生じた.滲出液の培養は陰性であり,PMの金属によるアレルギー性皮膚潰瘍疑いと診断された.PM電池をpolytetrafluoroethylene(PTFE)シートで被覆し左鎖骨下に移植されたが再び創部の離開を生じ,対側の右鎖骨大胸筋下にPM再移植術を受けた.その後,電池感染のためPM電池を摘出された.高度房室ブロックによる徐脈を認めたため,同年12月10日当院紹介となり救急搬送された.同年12月18日に全身麻酔下に季肋部正中切開による心筋リード植え込み術(VVI)を施行した.感染による縦隔洞炎のリスクも考慮し小切開としたため,心室リードのみの留置とした.また皮膚部分で生じやすいPM金属との免疫反応を予防するためにPM電池とリードの両方をPTFEシートで被覆し,PM電池は腹直筋下に留置した.術後経過は良好で創部離開を認めなかった.また術後4カ月後のパッチテストではニッケルとシリコンに対してのアレルギー反応を認めたため,本症例の皮膚離開がPMの素材に対するアレルギーが原因であったと診断した.PM素材に対するアレルギー患者へのPM電池植え込み術の1例として報告した.
  • 三重野 繁敏, 小澤 英樹, 大門 雅広, 佐々木 智康, 禹 英喜, 勝間田 敬弘
    2011 年 40 巻 3 号 p. 144-149
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    Kommerell憩室(KD)と鎖骨下動脈起始異常(ASA)に対してKD切除とASA再建を3例に行った.2例は,右側大動脈弓のKDに対して,右第4肋間後側方開胸で遠位弓部から下行大動脈まで人工血管置換を行い,KD切除後,食道背側を走行する左ASAに人工血管側枝を端端吻合する解剖学的再建を行った.残る1例は,左側大動脈弓のKDに弓部大動脈瘤を合併した症例で,胸骨正中切開施行後,全弓部大動脈人工血管置換と右ASAに対して右腋窩動脈に人工血管側枝を端側吻合する非解剖学的再建を行った.全症例において,体外循環使用,直腸温18度の深低体温下に大動脈吻合を行った.全例合併症なく,軽快退院となった.
  • 奈良原 裕, 尾頭 厚, 村田 升
    2011 年 40 巻 3 号 p. 150-154
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は66歳男性.2009年8月下旬に尿路感染症の診断で近医に約2週間入院していた.10月下旬に経口摂取不能となり当院救急外来受診となった.心エコーで,大動脈弁に10 mm大の疣腫の付着を認め,またこれにより重度の大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症を生じていた.全身状態は不良で敗血症,DICを呈していた.翌日,準緊急的に手術を行った.弁輪部の1/3周および心室中隔側に膿瘍形成を認めた.十分な郭清の後,ウマ心膜パッチにて修復し,大動脈弁置換術+三尖弁輪形成術を施行した.後日,膿瘍からはPeptostreptococcus spp.が検出された.感染性心内膜炎の起炎菌としてPeptostreptococcus spp.の報告例は少ない.術後7カ月余を経過した現在も感染の再燃を認めていない.
  • 西村 善幸, 石井 利治, 大川 育秀
    2011 年 40 巻 3 号 p. 155-158
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/08/24
    ジャーナル フリー
    馬蹄腎を伴う腹部大動脈瘤は,動脈瘤の前面を馬蹄腎が覆うため術野展開のための工夫が必要である.今回,我々は馬蹄腎を伴う腹部大動脈瘤に対し,ハーモニックスカルペルを使用した1例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.腹部正中切開にてアプローチした.動脈瘤は最大径64 mmで,異所性腎動脈は右に1本,左に2本あった.脂肪組織に覆われたこれらの分枝を,ハーモニックスカルペルで脂肪組織を除去しながら同定した.ストレート型人工血管で人工血管置換術を施行した.中枢吻合部位は,全ての腎動脈の下で吻合できたので,すべての腎動脈を温存することができた.術後,尿流出は良好で腎梗塞や腎機能の悪化をきたすことなく,術後12病日に退院した.
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