日本心臓血管外科学会雑誌
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41 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • ——日本成人心臓血管外科手術データベースの利用——
    友滝 愛, 宮田 裕章, 大久保 豪, 本村 昇
    2012 年 41 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    近年データベースを利用した臨床試験が推進されている.本研究では,日本成人心臓血管外科手術データベース(JACVSD)のデータを治験における臨床試験のヒストリカルコントロール群として用いた事例から,データベースを臨床試験で用いる場合に必要なプロセス,および,それによるデータ収集の効率化について検討し,解析で使用する変数に対して利用可能だったJACVSDの既存データ,データの欠損や不整合に関する問い合わせについて分析した.JACVSDをヒストリカルコントロールとして用いる際には,通常の臨床試験データの収集プロセスに加えて,JACVSDの既存データの利用の程度や治験群とのデータ統合ルールを策定した.対象症例は,JACVSD登録症例から既存データを利用して,事前に抽出しておいた.解析で使用した76変数のうち63.2%はJACVSDの既存データが使用可能であった.追加で収集したのは主に対象疾患の臨床所見に関する情報であった.データの欠損や不整合の割合は低かった.JACVSD登録症例やJACVSDの既存データをヒストリカルコントロール群として利用することにより,データ収集の効率化を図ることができた.また,JACVSD登録症例から臨床試験の対象者を抽出することで,症例選択に伴う医療機関の負担軽減や対象症例の選択バイアスを防ぐことが可能となった.
症例報告
  • 古舘 晃, 樗木 等, 内藤 光三, 村山 順一, 高松 正憲
    2012 年 41 巻 1 号 p. 8-11
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は68歳女性.2007年11月より食事の後に心窩部痛あり,上部消化管内視鏡検査を施行したところ多発性胃潰瘍を認めたため,内服加療を受けていた.その後も同症状が出現するとのことで2008年4月に腹部CTを施行し腹腔動脈,上腸間膜動脈の起始部に高度狭窄を認めたため手術目的に当科入院となった.大伏在静脈を用いて右外腸骨動脈—上腸間膜動脈バイパスを行った.術後には食事での腹痛を認めないようになった.腹腔動脈,上腸間膜動脈の高度狭窄を呈する腹部アンギーナに対して大伏在静脈を用いた右外腸骨動脈—上腸間膜動脈バイパスを行い良好な結果を得た.周術期の評価のためにMultirow detector computed tomography(MDCT)およびflow meter® が有用であった.
  • 内田 徹郎, 内野 英明, 黒田 吉則, 中嶋 和恵, 島貫 隆夫
    2012 年 41 巻 1 号 p. 12-15
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    骨軟骨腫(外骨腫)は最も頻度の高い良性の骨腫瘍であり,若年者の大腿骨遠位部に好発する.骨軟骨腫の血管系の合併症は膝窩動脈領域の報告が散見されるが,仮性動脈瘤形成は比較的稀である.症例は48歳,女性で,右膝窩部の拍動性腫瘤を主訴に紹介された.MD-CTで膝窩動脈の仮性瘤と診断され,疼痛と拡大傾向を認めるため,手術を施行した.仮性瘤内腔に膝窩動脈に通じる約1 mmの交通孔を認め,膝窩動脈に近接して鋭利な骨軟骨種の突起を認めた.交通孔を含む膝窩動脈を部分的に切除した後,端々吻合を行った.仮性瘤の発生機序として,大腿骨の骨軟骨腫が隣接した膝窩動脈に接触し,損傷を受けた結果,出血をきたし,仮性瘤を形成した可能性が示唆された.大腿骨遠位部に骨軟骨腫を指摘されている症例は,膝窩動脈が損傷を受ける可能性ひいては仮性動脈瘤の形成を念頭に置いて経過観察する必要があると考えられた.
  • 松葉 智之, 四元 剛一, 向原 公介, 上野 隆幸, 松本 和久, 福元 祥浩, 豊平 均, 山下 正文
    2012 年 41 巻 1 号 p. 16-20
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.10代のときに腎結核で右腎摘出の既往があった.2011年,1月初旬から微熱・食欲不振があり,呼吸苦が出現したため当院へ紹介入院となった.心エコーと単純CTで上行大動脈の拡大と心嚢液貯留を認め,心タンポナーデと診断し心嚢穿刺を行った.心嚢液の塗抹培養およびpolymerase chain reaction(PCR)で結核菌は検出されなかったが,adnosine deaminase(ADA)活性が高値であったため結核性心膜炎として4剤併用抗結核療法を開始した.しかし加療中の第32病日,夜間突然の背部痛が出現した.急性A型大動脈解離と診断し,緊急手術にて大動脈基部および上行置換術を施行した.病理検査の結果,上行大動脈外膜にLanghans型巨細胞を伴う肉芽腫性炎症所見が認められた.術後経過は良好で4剤併用療法を2カ月間施行し,現在リファンピシン,イソニアジドの2剤併用療法を継続中である.術後70日以上経過中で,グラフト感染などは合併していないが注意深いフォローが必要である.
  • 植木 力, 島本 健, 坂口 元一, 小宮 達彦
    2012 年 41 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    68歳,男性.64歳時に大動脈弁置換術および上行大動脈人工血管置換術を施行され,その後弁機能をはじめ問題なく経過していた.悪寒を伴う39℃台の発熱を主訴に当科外来を受診した.血液培養からレンサ球菌が検出され,心エコーおよび心臓CTで大動脈弁輪周囲の膿瘍を認めた.弁機能不全の所見は認めなかったため,抗菌薬投与による内科的治療を行う方針とし,アンピシリン,ゲンタマイシンの投与を開始した.抗菌薬投与により速やかに炎症反応や白血球が正常化した.治療開始6週間後では膿瘍腔は画像上消失し,アモキシシリンの内服に切り替えた上で外来での経過観察に移行した.発症後5カ月の段階で感染徴候はなく抗菌薬投与を終了したが,発症後20カ月後まで膿瘍腔の再発を認めずに経過している.膿瘍形成をきたした感染性心内膜炎への内科的加療が奏功した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
  • 久本 和弘, 外山 雅章, 加藤 全功, 古谷 光久, 加藤 雄治, 杉村 幸春
    2012 年 41 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は72歳女性.2000年にリウマチ性連合弁膜症による僧帽弁狭窄症および大動脈弁閉鎖不全症に対して,ステントレス生体弁(Freestyle弁)とMosaic生体弁による大動脈弁および僧帽弁の2弁置換術を施行した.Freestyle生体弁による大動脈弁置換術はmodified subcoronary implantation法を用いて行った.術後経過良好で14PODに退院後,外来で経過を観察していた.フォローアップ中の検査にてSinotubular junction(STJ)径の拡大傾向を認めていた.術後9年目の経胸壁心臓超音波検査にて重度大動脈弁閉鎖不全症を認めたため,再手術を行った.術中所見ではFreestyle生体弁の弁尖に異常所見はなく,STJの拡大に伴う大動脈弁閉鎖不全症が疑われた.ステントレス生体弁を用いたSubcoronary法による弁置換術後は,STJ径やARの出現に留意すべきと思われる.
  • 木村 聡, 上野 安孝
    2012 年 41 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    胸部大動脈人工血管置換術後の仮性動脈瘤は稀ではあるが,いったん起こると致命的な合併症の一つであり,再手術時には,開胸操作,体外循環の確立,到達法に工夫を要する.症例は,64歳男性.17年前に部分弓部大動脈人工血管置換術を施行された.前胸部痛および胸骨左縁に拍動性腫瘤を触知し,CT検査にて弓部大動脈再建人工血管より派生する仮性動脈瘤形成を認めた.再開胸前に大腿動静脈送脱血にて人工心肺を確立した後,経胸壁心尖部左室ベントを挿入し,高度低体温,脳分離送血下に再胸骨正中切開を行い,再弓部置換術を行った.術後経過は良好であった.文献的考察を含めて報告する.
  • 佐藤 公治, 村上 達哉, 牧野 裕, 杉木 孝司
    2012 年 41 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は70歳男性.生下時より右胸心,完全内臓逆位を指摘されていた.前胸部絞扼感を主訴に来院し,心電図上II,III,aVf 誘導でST上昇,V3からV6誘導でST低下,および採血上CKの上昇を認めた.緊急冠動脈造影を施行したところ,解剖学的右冠動脈の閉塞を認め,急性下壁梗塞の診断となり,IABP補助下にICUに入室した.解剖学的左冠動脈は入口部の偏位を伴い造影困難であったため,冠動脈CTを行った後,再造影を施行した.解剖学的左冠動脈は主幹部,前下行枝,対角枝,および中間枝に病変を認め,冠動脈バイパス術の適応と診断した.体外循環心停止下に5枝バイパス術(右内胸動脈-左前下行枝,大伏在静脈-第1対角枝,大伏在静脈-中間枝-左後側壁枝,大伏在静脈-右房室結節枝)を施行した.術前に左右反転した冠動脈造影を作製し冠動脈の解剖を詳細に検討し,冠動脈吻合中,術者は患者の左側に立った.完全内臓逆位に対する冠動脈バイパス術は比較的稀であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 山田 裕, 三浦 拓也, 河村 拓史, 九鬼 覚, 大竹 重彰
    2012 年 41 巻 1 号 p. 38-42
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は61歳の女性で,2008年10月定期受診の際の心エコーにおいて左室心尖部に径1 cm大の腫瘤を指摘された.血栓を疑い抗凝固療法を実施したが腫瘤は縮小せず,手術を行った.手術では胆道鏡を用いて心尖部中隔側に腫瘤を確認し,経僧帽弁的に切除を行った.術中迅速病理検査で粘液腫と診断し,さらに切除断端に腫瘍残存がないことも組織学的に確認した.術後13日目に退院し,術後2年を経過し現在も再発なく経過観察中である.本邦での左室粘液腫の報告は自験例が25例目であった.左心系の手術例23例のうち到達法の記載のあるものは20例で,17例はinitial approachで切除を達成し,術中到達経路を変更したものは1例であった.切除断端の評価の記載は3例に見られるにとどまるが,術後の再発報告例は見られなかった.術前診断では心エコーの有用性を強調する報告が多く,これは術後再発の検索にも非常に有用である.
  • 藤宮 剛, 高橋 皇基, 丹治 雅博
    2012 年 41 巻 1 号 p. 43-45
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,女性.50歳時に子宮間質性肉腫で単純子宮全摘および両側附属器切除を施行,その後骨盤内転移があり化学療法中であった.胆石症で入院した際,術前の経胸壁心エコー検査で右室内腫瘤および三尖弁逆流を認め,当科紹介となった.心エコー上腫瘍の増大傾向があるため手術を施行した.右房を切開すると多房性の腫瘍は乳頭筋に付着し,腱索を巻き込む形で存在し,一部は三尖弁を越え右房内へ突出していた.腫瘍を腱索と一塊にして摘出,三尖弁に人工腱索をたて,人工弁輪を用いて三尖弁形成術を行った.病理組織では肉腫細胞を認め,原発巣と同様の組織であり子宮肉腫右室転移と診断された.術後三尖弁逆流は消失し,良好な結果が得られた.
  • 天願 俊穂, 横山 淳也, 中須 昭雄, 安元 浩, 本竹 秀光
    2012 年 41 巻 1 号 p. 46-48
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    血液培養陰性の感染性心内膜炎の原因として猫ひっかき病の起因菌であるBartonella henselaeが知られている.われわれは血液培養陰性の大動脈弁感染性心内膜炎の患者に対して大動脈弁置換術を施行した.入院前に,患者が猫との接触歴があったため原因菌はB. henselaeを疑い,PCR法とWarthin-Starry(WS)銀染色により確定診断した.詳細な病歴の聴取により正確な診断と適切な抗生剤使用を可能にした.
  • ——Carpentier-Edwards PERIMOUNT MAGNA 生体弁の使用経験——
    西岡 成知, 森本 直人, 中桐 啓太郎, 松島 峻介, 田内 祐也, 福隅 正臣, 村上 博久, 吉田 正人, 向原 伸彦
    2012 年 41 巻 1 号 p. 49-52
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2012/03/14
    ジャーナル フリー
    狭小弁輪症例に対する大動脈弁置換術(AVR)施行の際にCarpentier-Edwards PERIMOUNT MAGNA生体弁(以下MAGNA)を使用し,左冠動脈主幹部(LMT)流入障害をきたし,冠動脈バイパス術(CABG)を急遽追加した症例を経験した.MAGNAを使用する上でのピットフォールと考えられたため,報告する.
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