日本心臓血管外科学会雑誌
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41 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • ——Aortic modification か Device modification か?——
    青木 淳, 末澤 孝徳, 古谷 光久, 櫻井 淳, 多胡 護
    2012 年 41 巻 3 号 p. 107-112
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    中枢側ネック角度によるExcluder内挿術の成績を検討した.対象は51例.女性15例,平均年齢78歳.中枢側ネックと大動脈瘤の角度(Angle)は,60度以下(I群:31例,40度以下:Ia群15例,41~60度:Ib群16例),61~90度(II群:13例),91度以上(III群7例)であった.I・II群に対しては,stiff guide wireで中枢側ネックを直線化するaortic modificationを行い,III群に対しては,Bowing法を用いたdevice modificationを行った.III群のAngleは,97~137度であった.予定留置後のType Ia endoleak,Type Ia endoleakの対処の頻度,最終造影でのType Ia endoleakの頻度には3群間に有意差を認めなかった.Ia群とIb群では,予定留置後のType Ia endoleakは,Ia群:18%,Ib群:63%とIb群で有意に多く,Type Ia endoleak対処の頻度は,Ia群:7%,Ib群:50%と,Ib群で多い傾向があった.Angleは,3群とも,術後7日目に有意に減少し,その後は半年まで有意な変化を認めなかった.高度屈曲症例に対してもBowing法を用いたdevice modificationにより,Excluder内挿術が可能であった.40度以上の中枢側ネック屈曲症例に対しては,aortic modificationよりdevice modificationを行ったほうが,良好に留置できる可能性がある.
症例報告
  • 中里 太郎, 仲村 輝也, 関谷 直純, 内田 直里, 澤 芳樹
    2012 年 41 巻 3 号 p. 113-116
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    左鎖骨下動脈瘤を合併した弓部大動脈瘤の報告は稀であり,そのアプローチには工夫を要する.今回Open distal anastomosisによるステントグラフト内挿術(Frozen elephant trunk法)を施行し良好な結果を得たので報告する.症例は61歳男性.高血圧と腎機能障害(血清クレアチニン1.5~2.0 mg/dl)の既往あり.近医施行の胸部レントゲンにて異常陰影を指摘され,胸部CTにて遠位弓部大動脈瘤(52 mm),および左鎖骨下動脈起始部に動脈瘤(30 mm)を認めたため,手術目的に当科へ紹介された.手術は左hemi-collar incision,胸骨正中切開および左鎖骨下切開にてアプローチした.脳分離体外循環,循環停止にて大動脈を左総頸動脈分枝部でtransectionし,末梢側へステントグラフトを内挿することにより,左鎖骨下動脈瘤のinflowを閉鎖した.分枝付き人工血管にて弓部大動脈を再建した.左鎖骨下動脈瘤の末梢は椎骨動脈分岐部より中枢で結紮し空置した.術後経過は良好で,術後19日目に独歩退院となった.術後8カ月目のCTにて胸部大動脈瘤および左鎖骨下動脈瘤の血栓化,縮小を認めた.この術式は二つの瘤を空置するのみであるため,通常の弓部大動脈人工血管置換術に比べて左鎖骨下動脈瘤への直達が不要である,大動脈末梢吻合が容易であるなどの点において有用であるが,今後も定期的なフォローアップを要すると考えられた.
  • 逆井 佳永, 大坂 基男, 小石沢 正
    2012 年 41 巻 3 号 p. 117-120
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    胸部下行および胸腹部大動脈術後に生ずる対麻痺は合併症としてしばしば報告されているが,上行大動脈術後に生じる対麻痺は稀でありその報告例も非常に少ない.われわれは,Stanford A型急性大動脈解離に対する上行大動脈置換術後に生じた不全対麻痺の1例を経験したので報告する.患者は64歳男性で,Stanford A型急性大動脈解離・早期血栓閉塞型に対し保存的加療(安静および強力降圧療法)を施行後8日目に,上行大動脈偽腔への血流再開および瘤径拡大を認めたため,緊急上行大動脈置換術(超低体温循環停止,脳分離体外循環法併用)を施行した.術後4日目の人工呼吸器離脱後に不全対麻痺,膀胱直腸障害に気付かれ,脊髄MRIでは胸腰髄に梗塞の所見を認めた.リハビリテーションの継続により,術後約5カ月で神経学的に完全回復を認めた.これまでStanford A型急性大動脈解離術後に生じた対麻痺の明らかな原因は指摘されていない.本症例における不全対麻痺の原因はMRI所見や臨床経過から推測して,60分を超える循環停止による脊髄循環不全,脳分離体外循環による前脊髄動脈塞栓,上行大動脈entryの閉鎖に伴う下行大動脈偽腔内圧の変化による肋間動脈閉塞などが原因としてあげられる.上行大動脈術後の対麻痺は非常に稀であるが,可能な限りの予防策をとり手術を行う必要がある.
  • 岡本 実, 田中 睦郎
    2012 年 41 巻 3 号 p. 121-123
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳男性.増悪する左下肢の知覚異常を主訴に当院を受診した.身体所見上は左側腹部に拍動性腫瘤が認められたが,本人はそれを5年前から自覚していた.精査中のCT検査で8 cmの下腸間膜動脈瘤が認められ,その下腸間膜動脈瘤は他分枝動脈との交通形成などは認めず孤発性動脈瘤と判明した.治療は外科的切除を選択し,動脈瘤切除のみで血行再建は必要としなかった.術後経過は良好で術後3日目に食事を再開し,合併症なく20日目に退院となった.また病理組織検査では動脈瘤の原因は動脈硬化性と判明した.なお受診時の主訴である左下肢の知覚障害は術後も改善なく,腰椎疾患によるもので動脈瘤との因果関係は認められなかった.今後は切除断端の仮性動脈瘤形成や他動脈疾患の発症などのフォローが必要と考えられる.
  • 山火 秀明, 今中 和人, 松岡 貴裕, 河田 光弘
    2012 年 41 巻 3 号 p. 124-127
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    Stanford A型急性大動脈解離に伴う脳血流障害・意識障害がみられる症例は緊急手術の適応外とする意見も多い.今回われわれは右総頸動脈が解離の進展により完全閉塞して高度意識障害を呈したStanford A型急性大動脈解離症例に対し,発症早期の緊急手術を行い良好な結果を得たので報告する.症例は65歳男性,意識障害と左半身麻痺が持続した状態で搬送された.CTで上行~遠位弓部までの解離を認め,腕頭動脈から右総頸動脈は解離により閉塞していた.脳障害は必ずしも不可逆的ではないと判断して緊急手術を行った.速やかに脳血流の再開を得るため,まず左大腿動脈と解離・閉塞した右総頸動脈の真腔に送血管を留置し,それぞれに人工心肺側をクランプした分枝型人工心肺送血回路を接続したシャントにより脳血流を再開させた.この後に胸骨正中切開し上記2カ所からの送血でhemi-arch人工血管置換術を行った.術後6時間で覚醒,術翌日に抜管した.CTでは右中大脳動脈領域の脳梗塞がみられたが,退院時には麻痺もほぼ完全に回復し,術後46日目に独歩退院,6カ月で復職し完全に社会復帰している.高度意識障害を呈する全例に手術適応があるわけではないが,発症早期であれば確実で可及的速やかな脳血流再開の工夫をしながら緊急手術を行うことで,不良とされていた高度意識障害合併例の成績の向上につながると考える.
  • 野村 耕司, 阿部 貴行, 黄 義浩
    2012 年 41 巻 3 号 p. 128-131
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    症例は1カ月男児3.8 kg.在胎39週,正常分娩にて出生.日齢2に心雑音を指摘され精査目的に当院紹介となりCTにて右頸部大動脈弓を認めた.頸部動脈第2分枝(右総頸動脈)と第3分枝(右鎖骨下動脈)の間に縮窄(最小径3 mm)を認めたがエコー上,流速1.8 m/sと加速は軽度で,左室駆出率53%と許容範囲であった.気管食道の圧迫所見はなく哺乳も良好となったため退院,外来経過観察とした.また特異顔貌から染色体検査の結果,22q11.2欠失症候群と判明した.新生児期は無症状で経過したが生後1カ月を過ぎて喘鳴が出現するようになり外来受診,エコーにて縮窄部流速5.1 m/sと増強し,左室駆出率は24%と著しく低下していた.縮窄増強,後負荷増大による急性左心不全と診断し緊急手術を施行した.正中切開,人工心肺下に縮窄解除手術を行った結果,縮窄圧差は消失し左室駆出率は67%に改善,32病日に軽快退院した.乳児期早期に手術介入を必要とする稀な頸部大動脈弓縮窄症例を報告する.
  • 黒田 吉則, 内田 徹郎, 中嶋 和恵, 内野 英明, 島貫 隆夫
    2012 年 41 巻 3 号 p. 132-134
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    症例は68歳の女性.突然の背部痛にて発症し近医を受診,Stanford A型急性大動脈解離(DeBakey II型)の診断で当院に救急搬送された.CTでは解離の所見に加え,肺動脈にそった血腫の進展と左血胸の所見を認めた.手術は上行近位弓部置換術を施行,エントリーは近位弓部小弯側に認め,左血胸は認めなかった.人工心肺離脱後に多量の血性痰を認め,肺動脈周囲に波及した血腫の穿破の可能性も考えられた.術前CTで左血胸とされた所見は左胸膜外血腫と考えられた.術後は肺出血に伴う酸素化不良の状態が持続したが,おおむね順調に経過した.今回われわれは,II型急性大動脈解離に左胸膜外血腫を合併した稀な症例を経験した.
  • 山本 暢子, 岡村 吉隆, 西村 好晴, 打田 俊司, 戸口 幸治, 本田 賢太朗, 仲井 健朗
    2012 年 41 巻 3 号 p. 135-138
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    Lambl疣贅は弁接合部に発生する線維性構造物であり,通常は経過観察が適当であるが,脳塞栓発症例の報告もあり,その手術適応については賛否両論である.われわれはLambl疣贅を合併した3例を経験したので,切除の意義について検討した.2例は重度僧帽弁閉鎖不全症(MR)にLambl疣贅を合併しており,重度MRへの手術と同時にLambl疣贅切除を行った.他の1例は慢性心不全加療中,心臓超音波検査で7 mm大のLambl疣贅を発見したが,手術適応となる心病変を認めなかったため保存的に経過観察している.手術を施行した2例中1例は,術前心エコーにて感染性心内膜炎(IE)が疑われたが,経過中の血液培養は陰性で炎症反応も軽度上昇にとどまっており,切除した組織の病理学的検査にてLambl疣贅であることが診断できた.またLambl疣贅を切除しなかった1例では既往歴に原因不明の脳梗塞があり,Lambl疣贅が原因となっていることは否定できないが,抗血小板薬内服により塞栓症を発症することなく10年経過している.Lambl疣贅は,疣贅そのものより周囲に付着した血栓が原因で脳塞栓を発症するとの報告もあり,Lambl疣贅単独で手術適応とするのは躊躇されるが,同時手術施行例では積極的な切除を検討することが有用と考える.
  • 市原 有起, 川合 明彦, 齋藤 聡, 山崎 健二
    2012 年 41 巻 3 号 p. 139-143
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    高齢者の大動脈弁狭窄症など生体弁を用いた弁置換術が適応となる疾患に対し,従来のステント付き弁に代わり,耐久性および有効弁口面積といった点で優れるステントレス弁の使用が近年報告されている.今回われわれは2種類の代表的なステントレス弁,SJM-Toronto SPVとMedtronic Freestyle valveの再手術例を経験した.SJM-Toronto SPVでは自己組織との癒着・石灰化が著明で移植弁を可及的に摘出するにとどまり,結果的に小さいサイズの機械弁による再置換を余儀なくされた.一方,Medtronic Freestyle valveは癒着が軽度で,移植弁自体を容易に摘出することができ自己組織の温存が図れたことで,ステントレス弁による再置換が可能となった.いずれのステントレス弁も優れた10年前後の長期遠隔成績が報告されているが,近年は再手術症例も認められ始めており,より慎重な経過観察が必要である.
  • 御厨 彰義, 保科 克行, 加藤 雅明, 大久保 修和
    2012 年 41 巻 3 号 p. 144-147
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    症例は79歳男性.1999年に腹部大動脈瘤に対して瘤切除,Y型人工血管置換術を施行していたが,その後中枢側吻合部と左脚吻合部の吻合部瘤を指摘された.2008年2月より血尿を認め,尿管(腸骨)動脈瘻の診断で紹介された.感染リスクもあり開腹手術をすすめたが,すでに開腹手術の既往があり,また慢性心不全,腎不全があるため開腹手術はリスクが高く,また患者も血管内治療を希望したため,ステントグラフト脚をoff-labelで用い,瘻のsealingを行った.術中造影ではリークを認めなかった.術後炎症所見が鎮静化したのを確認し,1カ月後に中枢吻合部瘤に対して大動脈カフをoff-labelに用いて瘤のexclusionを行った.計2回の再治療を行い,最終的にエンドリークは消失した.退院後は瘤関連合併症を認めなかったが,4カ月後に感冒から肺炎の悪化を認め死亡した.尿管動脈瘻および吻合部瘤を有するハイリスク患者に対し,血管内治療を行い救命治療に成功した1症例を報告した.
  • 中村 賢, 川人 宏次, 長沼 宏邦, 田中 圭, 松村 洋高, 川田 典靖, 配島 功成, 橋本 和弘
    2012 年 41 巻 3 号 p. 148-151
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    胸部大動脈瘤に合併する慢性DICは線溶優位型を特徴とし,通常出血症状に乏しい代償性/非顕在性DICの状況で安定するといわれている.しかしながら,外的要因による出血を契機として,非代償性/顕在性DICとなり重篤な出血傾向を呈する症例がある.症例は66歳女性,7年前に急性大動脈解離(Stanford A, Debakey IIIb逆行性解離)に対し上行弓部置換術を施行した.その2年後から軽度の打撲をしただけでも容易に皮下出血を繰り返していた.2年前に右乳癌に対して乳房切除術,および右腋下リンパ節郭清の術中術後に血圧低下を伴う多量出血があり大量輸血を施行,これを契機に顕在性/非代償性DICとなった.今回,後腹膜出血,胸腔内出血を契機にDICとなったが,遺伝子組換えトロンボモデュリン製剤であるリコモジュリン® が著効を呈し,出血傾向から離脱した.従来の保存治療が無効である症例に対しては,リコモジュリン® が著効を呈することがある.
  • 高島 範之, 鈴木 友彰, 細羽 創宇, 木下 武, 乃田 浩光, 神原 篤志, 永吉 靖弘, 浅井 徹
    2012 年 41 巻 3 号 p. 152-155
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    Leriche症候群では,腹部大動脈以下が完全閉塞しており,下肢の血流を補うために内胸動脈から下腹壁動脈を介して豊富な側副血行路が形成される.また,Leriche症候群は高率に虚血性心疾患を合併すると報告されており,冠動脈血行再建(CABG)と下肢血行再建を必要とする症例も存在する.内胸動脈をCABGのグラフトとして使用する場合,側副血行路が失われ,術後下肢虚血の悪化が危惧され,手術の術式や時期を十分検討する必要がある.症例は52歳,男性.間欠性跛行,動悸を主訴に精査をしたところ重症虚血性心疾患を合併したLeriche症候群と診断された.長期成績や手術のリスクを考慮し,下肢への血行再建は上行大動脈をinflowとしたバイパスが最良であると判断した.また,内胸動脈から下肢への側副血行が非常に豊富であり,同時血行再建手術が必要であると考え,心拍動下冠動脈バイパスと上行大動脈-両側大腿動脈バイパスを一期的に行った.術後経過は良好で合併症もなく退院となった.
  • 松崎 寛二, 今井 章人, 今水流 智浩, 軸屋 智昭
    2012 年 41 巻 3 号 p. 156-159
    発行日: 2012/05/15
    公開日: 2012/07/05
    ジャーナル フリー
    タクロリムスによる関節リウマチの治療中に大動脈解離を発症した1例を経験した.タクロリムス服用例に対する大血管手術の報告は少なく,術後管理に工夫を要したので報告する.症例は関節リウマチのためタクロリムス(3 mg/日)とプレドニゾロン(10 mg/日)の内服治療を受けていた77歳の女性である.タクロリムスは重症関節リウマチに適応される免疫抑制剤の一つであり,プレドニゾロンの減量が可能であった.A型急性大動脈解離を発症したため,緊急に上行弓部置換術を施行した.術後はタクロリムスを再開せず,プレドニゾロン20 mg/日の内服のみで関節リウマチを制御した.関節リウマチに対する薬物治療の単純化が,難しい術後管理において有用であった.抵抗性胸水を伴う呼吸不全と廃用性症候群の克服に難渋したが,胸水穿刺による無気肺の軽減と非侵襲的陽圧換気を組み込んだ呼吸リハビリテーションも有効であった.
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