日本心臓血管外科学会雑誌
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42 巻, 5 号
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巻頭言
第43回日本心臓血管外科学会学術総会理事長講
総説
原著
  • 高松 正憲, 廣谷 隆, 大坪 諭, 竹内 成之
    2013 年 42 巻 5 号 p. 359-363
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    急性A型大動脈解離(AAAD)術後の遠隔期に,近位側や遠位側の大動脈に対する再手術が必要であった症例の検討を行った.AAADに対して,当院ではエントリーの位置にかかわらず,弓部大動脈に解離がある症例では,緊急上行弓部大動脈置換術を基本術式としている.1996年から2010年までの15年間に108例のAAAD手術を施行,在院死亡を除く94例のうち,大血管再手術7例を対象とした.初回手術時年齢60±9.3歳,男性4例.初回手術時に全例エントリーを切除できている.再手術時期は初回手術より6.1±3.5年(0.9~13.7年)後,手術内容は遠位弓部置換4例,基部置換2例,大動脈弁置換+上行置換1例.再手術による在院死亡なし.切除された大動脈病理所見は,急性解離1例,慢性解離2例,そのほかは動脈硬化性変化のみで,geratin-resorcin-formalin-glutaraldehyde(GRF)glueの影響と思われる中膜組織の変化は認めなかった.遠隔期再手術回避率は5年で96%,10年で89%,同期間内の解離関連と思われる遠隔死亡は4例で,解離関連遠隔死亡+再手術の回避率は5年で93%,10年で83%であった.GRF glueによる組織毒性は,再解離例などに対する関与は否定できないが,その症例数は少なかった.また,AAADに対するルーチン上行弓部大動脈置換術は,弓部のエントリーおよび偽腔の遺残を回避して,遠隔期の大動脈拡大の予防となり,良好な再手術回避率につながると考える.
  • 瀬尾 浩之, 堤 泰史, 門田 治, 沼田 智, 山崎 祥子, 吉田 昇平, 大橋 博和
    2013 年 42 巻 5 号 p. 364-368
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    近年,手術の低侵襲化や機器の進歩もあり,CABG手術における大伏在静脈グラフト(SVG)採取は内視鏡下での採取が普及している.内視鏡下大伏在静脈採取(EVH)は,創部合併症や美容的な面での利点が多いが,中長期において従来の直視下グラフト採取法と比べるとグラフトの開存率が低下するとの報告もあり,まだその評価は定まっていないのが現状である.当院でも2011年4月以降,EVHを積極的に導入しており,その初期成績を直視下開創採取(OVH)群と比較検討した.対象は2011年4月~2012年12月にCABG手術を施行した115症例で,うち62例がEVH群,53例がOVH群であった.EVH群は男性50例,女性12例で,平均年齢は71.3±7.8歳であった.冠動脈バイパス総吻合数は211カ所であり,そのうちSVGを用いて吻合した109カ所を退院前に冠動脈造影検査または造影CT検査を行ってグラフトの開存性を評価した.EVHによるSVG採取時間は26.0±8.1分で,修復を要する枝ぬけ本数は0.34±0.59本であった.グラフトの早期開存率は95.4%(104/109)であり,創部合併症は1例(1.6%)に皮下血腫を認めた.OVH群ではグラフトの早期開存率は92%(92/100)で,EVH群との間に有意差は認められなかったが(p=0.235),創部合併症においては感染3例,リンパ漏3例,皮下血腫1例の計7例(13.2%)認め,EVH群と比べて有意に多かった(p=0.038).EVHの初期成績は良好で,OVHと比べて美容,創部合併症において優れており有用であると考えられる.
  • 「冠動脈バイパス手術における内視鏡的大伏在静脈採取術の初期成績」(364~368ページ)に関する討論
    山中 一朗
    2013 年 42 巻 5 号 p. 369-370
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
  • 税所 宏幸, 有永 康一, 庄嶋 賢弘, 平田 雄一郎, 古野 哲慎, 赤須 晃治, 小須賀 智一, 友枝 博, 明石 英俊, 田中 啓之
    2013 年 42 巻 5 号 p. 371-376
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    【背景】2011年の日本透析医学会からの現況報告によると,透析患者数は年々増加しており,長期透析患者の増加,透析導入年齢の高齢化を認めている.したがって慢性透析を有する弁膜症手術は増加していくことが予想される.しかし慢性透析と弁膜症手術には人工弁選択を始めさまざまな問題がある.【目的】当科における慢性透析患者に対する弁膜症手術の成績を明らかにし,人工弁の選択および今後の問題点を検討した.【対象・方法】2001年1月から2011年6月までに慢性透析患者の弁置換術施行症例29例(再手術症例3例を含む)を対象とした.平均年齢は67.3±9.3歳,男性17例(65%),平均透析期間は7.9±6.4年であった.腎不全の原因疾患は慢性糸球体腎炎8例(31%),腎硬化症8例(31%),糖尿病性腎症3例(12%)であった.【結果】院内死亡を2例(7.7%)に認め,腸管虚血,心不全による多臓器不全であった.全体でのフォローアップ中の死亡は12例(46%)に認めており,5年生存率は30.6%と諸家の報告どおり不良であったが,透析導入時からの5年生存率は87.1%と2010年の日本透析医学会の報告(60%)と比較すると良好であった.手術時年齢は生体弁使用症例が機械弁使用症例と比較して有意に高齢であったが(p=0.02),術後生存率は有意差を認めなかった(p=0.75).弁関連合併症回避率は5年で機械弁27.5%,生体弁23.4%で有意差を認めなかった(p=0.9).脳出血を機械弁において3例認め,また人工弁劣化による弁機能不全(SVD)を生体弁において1例認めた.【結語】慢性透析患者に対する弁膜症手術成績は5年生存率が30.6%と諸家の報告と同様不良であったが,透析開始時からの生存率で検討すると(5年生存率:87.1%)とけっして不良ではなかった.また人工弁間での生存率に有意差を認めず,生体弁では早期劣化による再手術の危険性もあるが,弁関連合併症回避率で有意差を認めなかったことより,個々の症例に応じて人工弁は選択されるべきであると考えられた.
  • ——サーベイランスを用いた院内感染対策室(ICT)と外科医の連携——
    庄村 遊, 岡田 行功, 新改 法子, 那須 通寛, 藤原 洋, 小山 忠明, 湯崎 充, 村下 貴志, 福永 直人, 小西 康信
    2013 年 42 巻 5 号 p. 377-383
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    当科では感染対策室(Infection Control Team, ICT)と協調して,2009年より手術部位感染(Surgical site infection, SSI)対策およびサーベイランスを開始したが,2011年よりICTと外科医の連携を強め,新たな対策を講じた.その取組みと結果について報告する.2011年1~6月に,当科にて施行した心臓血管外科手術118例(A群)を対象とし,過去2年間の469例(B群)と比較した.以前からの対策は1)術前鼻腔MRSAスクリーニング,2)術前口腔内ケア,3)予防抗菌剤プロトコール,4)周術期血糖管理,5)ドレーン早期抜去であった.2011年からの追加対策は6)対策遵守率およびサーベイランスの定期的な公表,7)術中2重手袋および毛髪/耳を覆う追加シール材の着用奨励およびICTと外科医による創部回診,8)血糖管理の強化である.患者背景には両群で差を認めなかったが,手術時間はA群400±116,B群434±145 minとA群で有意に短縮した.対策遵守において術中抗菌剤プロトコール遵守率はA群99,B群93%,術後1日目の血糖コントロール遵守率はA群81,B群71%で,A群で有意に高く,ドレーン挿入期間はA群2.9±1.8,B群3.6±2.9日とA群で有意に短縮した.SSI発生率はA群0.8%で,B群6.0%と比べ有意に減少した.SSI対策およびサーベイランスの活用を通して,ICTと外科医の連携を強化することが,SSI減少につながる.
  • 佐藤 克敏, 渡橋 和政, 森田 悟, 岡田 健志, 三井 法真, 今井 克彦, 内田 直里, 末田 泰二郎
    2013 年 42 巻 5 号 p. 384-390
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    小伏在静脈が深部静脈に合流するレベルや形態は大伏在静脈に比べて変異が多く,手術法や予後にも影響を与えうるが,術前評価と手術結果を詳細に検討した報告は少ない.今回,われわれが行っているダブルルート造影法を用いた三次元CT venographyによる小伏在静脈瘤の術前評価および手術における有用性について検討し報告する.対象は,三次元CT venographyで術前評価し手術を行った小伏在静脈瘤15例,15肢(男性4例,50~80歳,平均66歳)である.CEAP分類はC2 : 3例,C3 : 4例,C4 : 6例,C5 : 2例であった.大,小伏在静脈に造影剤注入ルートを確保し(ダブルルート),10倍希釈の造影剤を同時注入しながらCTで撮影した.全例で下肢静脈を明瞭に描出でき,小伏在静脈の深部静脈合流部は膝関節後面の大腿骨顆間窩レベル以下で浅く走行する部位が11例(74%),深く走行する中枢側部分が4例(26%)であった.前者ではGiacomini veinを介し大伏在静脈に交通する症例や合流部直前で腓腹筋静脈が小伏在静脈に合流する症例が,後者では合流部直前で血栓を伴った限局拡張部や複数に分岐して深部静脈に流入する症例も診断できた.われわれの三次元CT venographyでは静脈の詳細な走行や合流部位,病的変化などを明瞭に描出することが可能で,全例術中所見で評価が正確であることを確認し得た.逆流の評価や手術用のマーキングには超音波が必須だが,正確な診断をもとに局所麻酔のみで手術を行うことができ,術中合併症や再発などによる追加処置の回避に有用であると考える.
症例報告
  • 青木 正哉, 吉田 正人, 村上 博久, 邉見 宗一郎, 松島 峻介, 西岡 成知, 森本 直人, 本多 祐, 中桐 啓太郎, 向原 伸彦
    2013 年 42 巻 5 号 p. 391-394
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    症例は71歳男性,201×年2月22日に他院にて腹部大動脈瘤破裂に対し人工血管置換術が施行された.術後3カ月目,外来の採血検査でHb 7.0 g/dlの貧血を認めたため,再入院となった.CTならびに上部消化管内視鏡検査にて,Aortoenteric Fistula(以下AEF)と診断され,手術目的にて当科転院となった.手術待機中に,吐・下血後,出血性ショックとなり,緊急でステントグラフトによる血管内治療(Endovascular aneurysm repair : EVAR)を施行した.術後,感染の再燃や消化管出血も認めず,術後58日目に軽快退院した.現在術後1年が経過しているが,再感染の兆候なく,外来にて厳重に経過観察中である.二次性AEFは予後不良であり,外科的根治術が原則である.しかし,出血からショックに陥った症例では,血管内治療はその低侵襲性と迅速性を活かしてbridge to open surgeryとして治療のオプションとなりうる.また,再感染がなく,消化管出血を認めないなどの条件が整っていれば,最終的な治療にもなりうるが,再感染および再出血のリスクを念頭に置いた観察が必要である.
  • 水野 史人, 秋田 利明, 森岡 浩一, 三上 直宣, 野口 康久, 小畑 貴司, 四方 裕夫
    2013 年 42 巻 5 号 p. 395-398
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    症例は31歳,女性.胸痛,呼吸苦を主訴に来院,右房内腫瘍を認め,循環器内科入院となった.入院後,心タンポナーデとなり,心嚢ドレナージを施行された.上大静脈の高度狭窄および三尖弁への腫瘍の嵌頓が危惧され,組織診断未定のまま準緊急的に右房亜全摘および上大静脈切除,Xenomedica patchによる右房再建,人工血管による上大静脈再建を行った.病理所見は血管肉腫であった.心臓原発血管肉腫は稀な腫瘍であり,生存期間4~9カ月と予後不良であるが,本症例では手術を行うことでいったん退院でき,術後約5カ月間の生存期間を得ることができたので報告する.
  • 三井 法真, 濱中 喜晴, 岡田 健志, 濱石 誠, 平井 伸司
    2013 年 42 巻 5 号 p. 399-402
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    左室破裂は心臓手術の際に生じうる重症な合併症のひとつであり,僧帽弁置換術に伴っておこることが多いとされる.われわれは僧帽弁形成術の施行中,人工心肺終了後の止血中に左室破裂を生じ,再度の人工心肺装着,補助下に破裂部直接縫合閉鎖を行い救命し得た症例を経験したので報告する.症例は58歳男性,健診で心雑音を指摘され近医受診,心エコーにて僧帽弁逸脱による3度の僧帽弁閉鎖不全と診断された.胸骨正中切開,人工心肺使用,心停止下にゴアテックス糸による腱索再建を行い,人工弁輪を縫着して僧帽弁形成を行った.人工心肺からの離脱は容易であったが,その後の止血中に心嚢内出血が増加,左室後壁にoozing出血部を認め,左室破裂と診断した.再度人工心肺を装着,心拍動下にフェルトストリップで破裂部を挟み込むように縫合閉鎖し,フィブリンシート,PGAシート,フィブリン糊にて補強して止血した.IABPを挿入して手術を終了,7日目にIABPを抜去,その後著変なく経過した.術後13日目に心房粗動を発症し薬剤抵抗性であったため,高周波アブレーションを施行し,術後44日目に独歩退院された.左室破裂の原因として乳頭筋の過剰切除,乳頭筋切除によるmitral loopの破綻,弁輪組織の過剰な切除等のほか,乳頭筋の強い牽引や吸引管等の接触による左室内面の損傷,人工心肺離脱時の左室の過負荷なども考えられることから,僧帽弁形成術においても左室破裂が起こりうることを認識したうえで,注意深い心内操作を心がけることが必要と考えられた.
  • 正木 直樹, 深沢 学, 外山 秀司, 川原 優, 稲毛 雄一
    2013 年 42 巻 5 号 p. 403-407
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    遠位弓部大動脈瘤の手術のさいに,末梢側吻合に苦慮することがしばしば経験される.そのため,末梢側吻合を省略したオープンステント法が考案された.さらに最近はステントグラフトによる血管内治療の普及も目覚ましい.ただし,これらの治療における遠隔期のエンドリーク,ステントmigrationは依然として残された問題である.今回われわれはオープンステント法術後のエンドリーク,ステントmigrationに対する開胸下下大動脈置換術を3例経験した.瘤中枢側の剥離は,瘤内のグラフトを遮断できる程度で十分であり,それほど時間を要さなかった.2例ではグラフト長が十分であり,ステント除去後に直接下行大動脈に吻合可能であった.残り1例は,ステントを除去後,グラフトを延長し,下行大動脈に吻合した.視野は良好であり,吻合や止血に難渋することはなかった.術後合併症もなく,良好な結果が得られた.血管内治療の進歩が目覚ましい現在においても,何らかの理由で血管内治療を施行できない症例もあると考えられる.開胸下下行大動脈置換術もオープンステント法術後のエンドリークに対する治療法の選択肢になりえる手技であると考えられる.
  • 阿久澤 聡, 石神 直之, 鈴木 一周
    2013 年 42 巻 5 号 p. 408-411
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    症例は66歳男性,間欠的な腹背部痛を主訴に当院を受診した.白血球上昇,炎症反応陽性,IgG4高値,上腸間膜動脈や腎動脈に及ぶ大動脈周囲組織の全周性肥厚所見を認めた.特発性後腹膜線維症と診断され,プレドニゾロン(PSL)の内服が開始された.PSLの内服に伴い大動脈周囲の軟部組織は縮小を認めたが,腹腔動脈分岐部を中心とする胸腹部大動脈瘤(Crawford IV型)を認め当科初診となった.その後瘤の急速拡大を認め,PSLを漸減し早期手術の方針とした.慢性大動脈周囲炎に伴う瘤状変化が疑われたが,経過より感染瘤の合併が否定できず,リファンピシン浸透人工血管を使用した.術後,大動脈瘤周囲組織,限局解離していた偽腔内,瘤壁より肺炎球菌が陽性と判明し,抗生剤投与を厳重に行い良好な経過を得た.
  • 山中 勝弘, 大村 篤史, 白坂 知識, 宮原 俊介, 野村 佳克, 坂本 敏仁, 井上 武, 南 一司, 岡田 健次, 大北 裕
    2013 年 42 巻 5 号 p. 412-415
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    症例は67歳男性.CTで上行大動脈瘤を指摘され手術目的で当科紹介となった.経胸壁心エコー検査で大動脈弁輪拡張症を伴う重症大動脈弁閉鎖不全症を指摘され,経食道心エコー検査で大動脈四尖弁と診断された.手術は自己弁温存基部置換術を施行後,超低体温循環停止下に,逆行性脳灌流法を併用し上行大動脈瘤人工血管置換術を施行した.術後半年経過するが大動脈閉鎖不全症の再発は認めず経過良好である.
  • 家村 順三, 山本 芳央, 神原 篤志, 藤井 公輔
    2013 年 42 巻 5 号 p. 416-419
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    僧帽弁置換術時に弁下組織を温存することは心機能維持に広く受け入れられている術式である.しかし今回,全弁下組織温存僧帽弁置換術後に乳頭筋断裂を合併し,摘出術を施行した1例を経験した.症例は67歳,男性.腱索断裂による急性心不全で救急搬送され,生体弁による全弁下組織温存僧帽弁置換術を施行した.術後経過は順調であったが,心エコー検査で僧帽弁弁輪に付着し心周期に一致して左室から大動脈弁尖を超えて浮遊する有茎の腫瘤が認められた.初回術後57日目に大動脈切開,経大動脈弁的に摘出術を行った.腫瘤は後交連寄りの前尖に腱索を連ねていた後乳頭筋の一部であった.弁輪への逢着に伴う弁下組織の過度の緊張と乳頭筋局所の虚血を避けるよう注意が必要と考えられた.
  • 増田 貴彦, 大場 淳一, 宮武 司, 吉本 公洋, 安達 昭, 奥山 淳, 青木 秀俊
    2013 年 42 巻 5 号 p. 420-424
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    心臓血管肉腫は稀な疾患であり,生命予後はきわめて不良とされている.われわれは,術後放射線治療が奏功し長期生存が得られている症例を経験したので報告する.症例は71歳,女性.主訴は全身倦怠感,下腿浮腫.経胸壁心エコーおよびCTで多量の心嚢液貯留と右房に腫瘤を認め,手術を行った.右房と下大静脈接合部に大きな血腫を伴う腫瘍を認め,右房壁,下大静脈,横隔膜,右側心膜に浸潤していた.完全切除を断念し,体外循環下に右房壁を一部切除し右房壁の欠損部をウシ心膜パッチで修復した.術後病理検査で,心臓血管肉腫の診断であり,切除断端陽性であった.術後11日目から術後放射線療法(回転原体照射10MV-X線,54 Gy/18回/4.5週間の分割照射(通常分割64 Gy相当))を行った.照射終了後1カ月のCTで腫瘍の縮小が見られ,照射18カ月後の心エコーでは腫瘍は痕跡程度の残存のみでほぼ消失していた.放射線治療の発達により,術後放射線療法が原発巣の局所制御に有効である可能性があり,完全切除が不可能であっても,術後放射線療法を行うことでquality of lifeの維持および生命予後の改善が期待できると考えられた.
  • 元松 祐馬, 園田 拓道, 大石 恭久, 田ノ上 禎久, 西田 誉浩, 中島 淳博, 塩川 祐一, 富永 隆治
    2013 年 42 巻 5 号 p. 425-429
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    症例は23歳女性.18歳時に感染性心内膜炎に対して生体弁による僧帽弁置換術(Carpentier-Edwards Perimount® 27 mm)を施行され良好に経過していた.術後5年目に妊娠したが,妊娠21週目より呼吸困難感が出現し,しだいに症状が増悪したため精査を行ったところ重症僧帽弁狭窄症による心不全と診断された.妊娠23週2日に当院に緊急搬送された際にはNYHA IV度の重度の心不全の状態であり,内科的治療抵抗性であり手術適応となった.母体救命を最優先としつつ可能な限り妊娠の維持・継続を行う方針とし,妊娠23週4日に緊急的に再僧帽弁置換術を施行した.母体側管理として,母体体温を常温に維持し,人工心肺は拍動流・高流量・高灌流圧とし,高K血症を避ける,等の対策をとることで胎盤循環維持に努めた.術中は胎児心拍を常時モニタリングした.ICU入室後に突如,子宮収縮を認めそのまま経腟分娩で出産となったが,児は待機していた新生児科医にて挿管のうえNICUへ搬送し救命された.母体は術直後より循環動態の著明な改善を認め,術後24日目に独歩退院した.児は出生時体重520 gであり,治療経過中に水頭症を合併したものの全身状態は安定しており,脳室-腹腔シャント作製の後,日齢137に紹介元へ転院となった.生体弁劣化に伴う人工弁不全により重度の心不全を来し,妊娠中に再手術が必要となるケースは非常に稀である.胎児救命に対する周術期管理の特殊性がゆえに,治療方針決定については他科を含めた集学的対策が必要である.
  • 青木 雅一, 伊藤 敏明
    2013 年 42 巻 5 号 p. 430-433
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    大動脈弁に対する低侵襲手術は胸骨部分切開や右傍胸骨切開といったアプローチが主流であるが,新たな方法として右腋窩小切開アプローチによる大動脈弁置換術を開始した.手術は7 cmの右腋窩縦切開による第4肋間開胸,第6肋間から5 mmのフレキシブル内視鏡を挿入して行った.体外循環は大腿動静脈にて確立した.この方法で5例の大動脈弁置換術を行い,平均手術時間312分,平均人工心肺時間217分,平均大動脈遮断時間139分,術後人工呼吸管理時間は平均4.2時間で,手術死亡は認めず,術後入院期間は平均14.8日であった.右腋窩小切開アプローチによる大動脈弁置換術は,従来の方法と比べ骨を切開する必要がなく,傷も目立たないため,早期社会復帰が期待できる新たな低侵襲の術式と考える.
  • 松村 仁, 和田 秀一, 藤井 満, 大住 真敬, 桑原 豪, 助弘 雄太, 峰松 紀年, 西見 優, 田代 忠
    2013 年 42 巻 5 号 p. 434-437
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.5年前に他院にて大動脈弁閉鎖不全症およびそのさいの術中大動脈解離に対して,大動脈弁置換術および上行大動脈人工血管置換術が施行された.以後CT検査などの経過観察がされていなかった.2012年2月胸背部痛のため近医を受診し,CT検査にて最大径16 cm大の胸腹部大動脈瘤を認め,切迫破裂の疑いで当科紹介となり緊急手術施行となった.手術は左開胸,左心バイパス下で施行した.瘤壁は胸壁まで達し,肺と強固な癒着を認めた.肺と瘤壁の癒着部位に血管壁がなく,被覆破裂の所見であった.腹部四分枝再建を伴う胸腹部大動脈人工血管置換術を行ったが,肺瘻修復に難渋し,残存した瘤壁を使用し修復し得た.術後の経過は良好で,術後16日目軽快退院した.下行大動脈人工血管置換術後の肺瘻の残存は,感染や呼吸管理に難渋する原因となりうる.そのため治療戦略においてさまざまな工夫が必要とされる.本症例を中心に文献的考察を含めて報告する.
  • 庄村 遊, 那須 通寛, 岡田 行功, 藤原 洋, 小山 忠明, 水元 亨
    2013 年 42 巻 5 号 p. 438-441
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    総腸骨静脈へ穿破し,動静脈瘻を形成した内腸骨動脈瘤の手術を経験したので報告する.症例は79歳,男性.全身倦怠感にて当院を受診した.外来精査にて左内腸骨動脈瘤(69×67 mm),左水腎症,脱水,腎機能低下を認めた.入院治療後の造影CT検査にて,内腸骨動脈瘤から左総腸骨静脈へ穿通する動静脈瘻の合併を認め手術を施行した.まず,左総腸骨動脈,左外腸骨動脈を切断後スタンプ閉鎖し,右左外腸骨動脈バイパス術を行った.次に,左大腿静脈よりオクルージョンバルーンカテーテルを挿入し,瘻孔部位でバルーンを拡張させ,さらに用手的に大動脈分岐部近傍の総腸骨静脈を圧迫することにより出血をコントロールしながら動脈瘤を切開した.瘤内腔から瘻孔(18×3 mm)を直接縫合閉鎖し,動脈瘤壁を縫縮処理した.術後軽快退院し,術後4年目の現在,経過良好である.
  • 白石 修一, 高橋 昌, 渡邉 マヤ, 大久保 由華, 土田 正則
    2013 年 42 巻 5 号 p. 442-446
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    症例は女児.在胎41週1日,体重3,032 gで仮死なく出生し,生直後より心雑音とチアノーゼを認め心エコー検査にて総動脈幹症・大動脈弓離断症と診断された.同日よりプロスタグランディン製剤の持続静注が開始され,当院NICU緊急搬送された.肺血流増多に伴う多呼吸・尿量減少がみられたため,11生日に両側肺動脈絞扼術を施行した.術後に心不全症状は改善し体重増加が得られ,生後2カ月時に根治手術を行った.胸骨再正中切開下に心・大血管周囲を剥離した後に,腕頭動脈および下行大動脈送血を併用した上下半身分離体外循環下に大動脈弓再建(拡大直接吻合)し,心停止下に右室切開を置きVSDを閉鎖した.大動脈遮断解除後にあらかじめ作製しておいた二弁付12 mmGoreTex人工血管を用いて右室流出路再建を行った.人工心肺離脱は特に問題なく,開胸状態で手術を終了し3病日に閉胸し4病日に人工呼吸器を離脱した.術後に右横隔膜の軽度拳上に伴う頻呼吸があったが徐々に改善し,49病日に退院した.
  • 松村 祐, 中山 祐樹, 八巻 文貴
    2013 年 42 巻 5 号 p. 447-451
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/10/16
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,女性.肘部管症候群に対して尺骨神経前方移行術が施行されたが,術後5日目になっても止血せず,播種性血管内凝固症候群(DIC)が疑われた.CT検査で腹部大動脈瘤(AAA)を認め,凝固能異常との関連が疑われ,紹介入院となった.腹部造影CT検査で腎動脈分岐部末梢から両側総腸骨動脈に達する最大短径91 mmのAAAを認め,血液検査所見も含め,DIC合併AAAと診断した.著しい出血傾向を認めたため,メシル酸ガベキサートを2週間投与した後,EVARを施行した.術後すみやかにDICより脱し,術後12日目に独歩で退院された.EVARは出血傾向を呈すDIC合併AAAに対する治療法として,選択肢のひとつになりうると考えられた.
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