日本心臓血管外科学会雑誌
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43 巻, 6 号
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巻頭言
原著
  • 堀尾 直裕, 手嶋 英樹, 池淵 正彦, 入江 博之
    2014 年 43 巻 6 号 p. 305-309
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    [目的]急性心筋梗塞(AMI)後の機械的合併症である左室自由壁破裂(LVFWR),心室中隔穿孔(VSP)に対する手術成績を検討した.[方法]2001年から2012年までに手術を実施した26例(女性14例,平均年齢74歳)を検討した.LVFWRはBlow-out型が2例,Oozing型が5例であった.搬入後4例でIABP,2例でECMOを使用した.VSPの原因は前壁梗塞が14例,下壁梗塞が5例であった.16例でIABPを使用した.手術はLVFWRにおいて縫合またはパッチ閉鎖を5例,タココンブによる止血を2例に施行した.VSPではInfarct exclusion法を17例,縫合またはパッチ閉鎖を2例に施行した.[結果]手術死亡率はLVFWR 14.3%,VSP 15.8%であった.LVFWRの死亡例は来院時心肺停止のBlow-out型症例で,低拍出量症候群を認めた.VSPの死亡例は低拍出量症候群の2例,術後8日目に心室細動で死亡した1例であった.2例のVSPにて再手術を実施した.5年生存率はLVFWR 85%,VSP 62%であった.入院後にLVFWRおよびVSPの診断が確定してからIABP始動に至るまでの時間は,使用20例中,17例の生存群にて103±45(48~120)分,3例の手術死亡群にて259±174(122~455)分で,2群間に有意差を認めた(p=0.04).[結論]来院後の迅速な診断,早期IABP導入,的確な手術介入などの治療戦略が,LVFWRやVSPに対して予後を改善させる可能性があると考えられた.
症例
  • 佐野 俊和, 手嶋 英樹, 田井 龍太, 池淵 正彦, 入江 博之
    2014 年 43 巻 6 号 p. 310-312
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    症例は24歳女性.非定型うつ病で精神科通院中.裁縫針が胸部に刺さり抜けなくなったことを主訴に受診した.胸部X線撮影および単純CT検査で心内に金属針を認め,穿通性心損傷の診断で入院となった.気胸,心タンポナーデは認めず,循環動態も落ち着いていたため,入院翌日に左肋間小切開で異物除去術を予定していた.しかし,術前経胸壁心臓超音波検査で偶然心房中隔欠損症(ASD)を診断したため,心臓異物除去術とASD閉鎖術の同時手術の方針とした.胸骨正中切開にて心嚢に達すると,裁縫針は左前胸部から心臓に穿通する状態で確認できた.心停止後,右房を切開し,右室を三尖弁越しに確認したが,肉柱の影響もあり裁縫針は右室内腔から確認できなかった.裁縫針を抜去し,多孔性ASDは直接縫合閉鎖を行った.裁縫針の長さは35 mmであった.術後経過は良好であり,術後4日目に精神科病院へ転院となった.
  • 植木 力, 坂口 元一, 秋本 剛秀, 新谷 恒弘
    2014 年 43 巻 6 号 p. 313-317
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    冠動脈バイパス術後遠隔期に発症した虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対し,右開胸アプローチ,中等度低体温心室細動下での僧帽弁置換術を施行した症例を経験したため報告する.症例は81歳女性.他院で53歳,68歳の時点で冠動脈バイパス術を施行された.以後,当院循環器内科にて経過観察されていたが,呼吸困難感を伴う心不全増悪による入院加療を繰り返すようになった.心エコーでは弁尖のテザリングを伴う重症僧帽弁閉鎖不全症と後下壁の壁運動異常を認め,虚血性僧帽弁閉鎖不全症による心不全と考えられた.手術目的に当科紹介となった.再度の胸骨正中切開のリスクを考慮し,右肋間開胸アプローチ,中等度低体温心室細動下での僧帽弁置換術(Mosaic弁27 mm)を施行した.術後経過は良好で,心不全症状もNYHA1度まで改善し,術後19日目に退院となった.右開胸アプローチは十分な僧帽弁位の視野を確保できるとともに,再度の正中切開に伴うリスクを回避できることから,冠動脈バイパス術後の僧帽弁再手術において有用であった.
  • 大崎 隼, 柚木 純二, 田中 厚寿, 山元 博文, 佐藤 久, 諸隈 宏之, 蒲原 啓司, 古川 浩二郎, 森田 茂樹
    2014 年 43 巻 6 号 p. 318-321
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    症例は61歳男性.冷汗を伴う胸痛に対し,前医で右橈骨動脈アプローチによる冠動脈造影(CAG)および右冠動脈高度狭窄部への経皮的カテーテルインターベンション(PCI)を施行した.その後右頸部痛・膨瘤が出現したため,造影CTを施行したところ,右鎖骨下動脈の起始異常と縦隔内へのextravasationを認めた.当院搬送後,右鎖骨下動脈損傷に対して緊急ステントグラフト内挿術を施行した.術後経過は良好で,術後CTでもステントグラフト部に問題なく,ステント周囲の血腫も減少し,明らかなextravasationは認めず独歩退院となった.右鎖骨下動脈起始異常および医原性損傷に対して緊急ステントグラフト内挿術を施行した症例は調べ得た限りでは認められなかった.血管損傷の際,ステントグラフト治療は考慮すべき治療であり,特に開胸手術では到達しにくい部位の出血に対しては有効だと考えられる.
  • 上平 聡, 山内 正信, 北野 忠志, 中山 健吾
    2014 年 43 巻 6 号 p. 322-325
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    症例は71歳男性,10年以上前に胸部X-Pで右側大動脈弓,Kommerell憩室,軽度漏斗胸と診断.無症状で他の合併症を認めず経過観察された.他疾患で救急受診の際,憩室の拡大を指摘され当科を紹介された.CTでは左鎖骨下動脈起始異常を伴わない鏡像的な右側大動脈弓であり,弓部大動脈の角度が急峻であった.手術は全麻下に左右腋窩-右総頸動脈を8 mm径のリング付きT字型e-PTFE製人工血管でバイパス作製した.右大腿動脈アプローチで企業製造ステントグラフト(Conformable GORE® TAG® 37 mm径-200 mm長)で左腕頭動脈起始部よりステントグラフト内挿術を施行した.留置後のDSAではendoleakを認めず術後経過は順調であった.きわめて稀な左鎖骨下動脈起始部異常を伴わない右側大動脈弓,Kommerell憩室に対するステントグラフト内挿術を経験したので報告した.
  • 山内 早苗, 川田 博昭, 盤井 成光, 荒木 幹太, 小森 元貴, 岸本 英文
    2014 年 43 巻 6 号 p. 326-330
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    乳児期早期より心筋虚血症状をきたした右室依存性冠循環を伴う純型肺動脈閉鎖(PA/IVS)の2例の外科的治療を検討した.症例1は胎児期にPA/IVSと診断され,在胎40週,3,078 gで出生,右冠動脈(RCA)は#1で途絶し末梢は右室から灌流されていた.左冠動脈(LCA)に途絶はなかったが,右室-前下行枝瘻を認めた.生後1カ月頃から哺乳,啼泣時のST低下を認めたが経過とともに改善し,生後3カ月時に両方向性Glenn手術(BDG)を施行し,4歳時にFontan手術を施行した.以後も心筋虚血症状を認めず,経過良好である.症例2は在胎39週,3,062 gで出生,RCAは#3で途絶し末梢は右室から灌流されていた.LCAは大動脈から起始しておらず,すべて右室から瘻を介して灌流されていた.2カ月時,心室頻拍となり,回復後も左室駆出率(LVEF)は36%と低値であった.動脈管による心室容量負荷も心機能低下の原因と考え,3カ月時にBDGおよび動脈管結紮術を施行した.術直後の中心静脈圧は21 mmHg,橈骨動脈圧76/53(62)mmHgであったが,動脈血酸素飽和度50%,右房静脈血酸素飽和度16%,LVEF 10%と低値で,術後2日にECMOを装着したが,心機能は改善せず,脳出血も合併し,術後5日で失った.冠灌流域のほとんどが右室依存の症例では,早期から心機能低下を起こしやすく,冠血流の酸素化不良がさらに心機能を低下させるという悪循環に陥るため,救命が困難であった.
  • 林 奈宜, 古川 浩二郎, 田中 秀弥, 諸隈 宏之, 伊藤 学, 蒲原 啓司, 森田 茂樹
    2014 年 43 巻 6 号 p. 331-335
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    開心術後収縮性心膜炎は稀な疾患であり,診断に難渋することもある.また,手術法もさまざまであり(人工心肺の使用の有無,開胸方法など),術後再発の報告もある.今回,開心術後収縮性心膜炎に対し,体外循環を使用し正中切開アプローチによる心膜切除術を行い良好な結果を得たので報告する.症例は67歳男性.2005年に僧帽弁閉鎖不全症に対し僧帽弁形成術を受けた.2010年1月より易疲労感を自覚し,下腿浮腫も認め内科的加療を受けていた.2012年7月より倦怠感が増悪し,精査を施行した.心エコーでは特徴的所見がなかったが,CT・MRIで右室前面~左室全周の心膜肥厚を認めた.両心カテーテル検査では右室拡張期圧波形のdip and plateauがあり,両心室の拡張末期圧が呼気・吸気時にほぼ等しかった.以上の所見より収縮性心膜炎と診断し手術を行った.手術は再胸骨正中切開で,人工心肺を使用し心拍動下に施行した.ほぼ完全に心膜を切除した.横隔神経の損傷を避けるため,左胸膜を切開し左胸腔より直視下に横隔神経を確認し心膜を一部温存した.心外膜との強い癒着が認められた左室前壁基部は心膜を残しwaffle procedureを追加した.心係数は術前1.5 l/min/m2 から術後2.7 l/min/m2 まで改善し,中心静脈圧も術前17 mmHgから術後10 mmHgまで改善した.術後,両心カテーテル検査でdip and plateauは消失,拡張障害は改善した.開心術後収縮性心膜炎の治療には胸骨正中切開で人工心肺を使用し,可能な限り心膜を切除することが望ましい.
  • 渋川 貴規, 田内 祐也, 奥田 直樹, 山田 光倫, 佐藤 尚司, 松田 暉
    2014 年 43 巻 6 号 p. 336-339
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    症例は胸痛を主訴とする64歳男性.心エコーで大動脈弁狭窄症と診断され,外科治療目的で紹介された.術前CTで大動脈弓部の低形成,遠位弓部での狭窄,狭窄後の下行大動脈の瘤形成(52 mm)と蛇行を認めた.大動脈弁狭窄を合併する偽性大動脈縮窄+胸部大動脈瘤と診断し,clamshell切開での一期的手術を行った.大動脈弁は2尖弁で機械弁による置換を行い,大動脈については上行大動脈も将来の瘤化も考え上行から下行大動脈まで人工血管置換術を施行した.成人での偽性大動脈縮窄における合併大動脈瘤の外科治療で大動脈弁置換との同時手術の報告は少ない.また,大動脈基部から下行大動脈までの同時手術でのclamshell切開についても考察した.
  • 帯刀 英樹, 中野 俊秀, 檜山 和弘, 夷岡 徳彦, 松前 秀和, 町田 大輔, 庄嶋 賢弘, 五十嵐 仁, 富永 隆治, 角 秀秋
    2014 年 43 巻 6 号 p. 340-343
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    症例は3カ月男児,左心低形成症候群と胎児診断され,36週6日2,115 gで出生し当院を紹介され,4生日に両側肺動脈絞扼術を施行,2カ月時,体重3.2 kgでノーウッドグレン手術を行った.術後循環呼吸状態は落ち着いており,術後6日目に人工呼吸器より離脱,肺動脈圧も10 mmHg程度で経過していたが,術後10日目より感染を契機にグレン循環が破綻,全身管理を行うも改善せず,術後13日目にグレン吻合解除および右BTシャント術を施行した.術中より肺出血を認め,術中,術後頻回の気管内吸引,高気道内圧での人工呼吸器管理を必要とした.再手術後8日目より気胸が出現し,ドレナージを行うも改善せず,再手術後32日目に自己血注入による胸膜癒着術を施行,34日目にも自己血量を増量し胸膜癒着術を行い気胸は改善した.気胸の改善とともに呼吸状態も改善を認め,再手術後70日目人工呼吸器より離脱できた.自己血による胸膜癒着療法は,乳児期早期の心臓開心術後に生じた持続性難治性気胸に対して有用な方法と考えられた.
  • 大谷 悟, 山本 剛, 山田 有紀, 松本 泰一郎
    2014 年 43 巻 6 号 p. 344-346
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.47歳時,リウマチ性大動脈弁閉鎖不全症に対しCarpentier-Edwards pericardial prosthesis(CEP)25 mmを用いた大動脈弁置換術(AVR)を施行した.2012年7月,突然の胸痛にて救急外来を受診した.急性心不全を呈していたため心精査を施行したところ心臓超音波検査にて高度大動脈弁閉鎖不全症を認めた.原因としてはCEPの構造的破壊が強く疑われた.薬物治療による心不全コントロール困難であったため準緊急で再AVRを施行した.術中所見では無冠尖に相当する人工弁尖が両側のステントポストから断裂し左室に逸脱していた.断裂した弁尖は石灰化が軽微であったが他の二弁尖は高度に石灰化しほとんど可動性を認めなかった.感染所見は認めなかった.術後は速やかに心不全の改善を認め,術後16日目に退院となった.生体弁断裂による急性大動脈弁閉鎖不全症を呈した稀な疾患を経験したので報告した.
  • 藤宮 剛, 高橋 昌一
    2014 年 43 巻 6 号 p. 347-350
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    Corynebacterium striatumによる人工弁感染性心内膜炎は稀である.僧帽弁置換術後に人工弁感染性心内膜炎を生じた1例を経験したので報告する.症例は77歳女性.入院4カ月前に僧帽弁置換術,三尖弁輪形成術を施行されたが,今回意識消失,ショック状態で当院に救急搬送された.経胸壁心臓超音波検査で人工弁の離開が認められ,それに伴う急性僧帽弁閉鎖不全を呈していた.経皮的心肺補助装置を導入し,緊急手術を行った.生体弁は僧帽弁輪から2/3周程度脱落し,一部僧帽弁輪が破壊されていたためウシ心膜パッチで僧帽弁輪を形成し,再僧帽弁置換術を施行した.術前の血液培養および疣贅からはC. striatumが検出された.術後6週間バンコマイシンおよびミノサイクリン投与を行い,発熱や炎症反応の上昇なく経過し退院した.
  • 秋好 沢林, 井上 政則, 田村 智紀, 福西 琢真, 尾原 秀明
    2014 年 43 巻 6 号 p. 351-356
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    腸骨動脈瘤を伴う破裂性腹部大動脈瘤をAmplatzer Vascular Plug(AVP)IIを併用してステントグラフト内挿術(EVAR)で治療し得たので報告する.症例は73歳男性.他院でCTにて破裂性腹部大動脈瘤と診断されて当院へ搬送された.前医CTで70 mm大の破裂性腹部大動脈瘤(Fitzgerald III型)と30 mm大の右総腸骨動脈瘤を認めた.ただちに救急外来より手術室に搬送し,AVPでの右内腸骨動脈塞栓を伴うEVARで治療した.総手術時間は138分であった.患者は順調に回復し,術後2日目にICUを退室した後,発症より9日目に退院した.破裂性腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(EVAR)の有用性は本邦においても認識されつつある.しかし,腸骨動脈瘤を合併し内腸骨動脈塞栓術を要する症例ではコイル塞栓中に全身状態の増悪を招く恐れがあるゆえにEVARは第一選択とはなりにくい.AVPはnitinol製シリンダー型自己拡張塞栓物質である.現在AVPIとAVPIIが使用可能であるが,従来のコイルと比較すると,特にAVPIIは塞栓力が高いうえに短時間で留置可能であり,緊急時には有用である.今回,われわれは腸骨動脈瘤を合併した破裂性腹部大動脈瘤に対してAVPIIで内腸骨動脈塞栓術をし,迅速にEVARを施行し得た症例を経験した.AVPは日本における市販後調査中で限定施設でのみ使用できる段階ではあるが,AVPの併用は破裂性腹部大動脈瘤に対するEVARの適応拡大と成績向上につながると期待される.今回の経験を文献的考察も踏まえて報告する.
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