日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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45 巻, 6 号
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巻頭言
症例報告
[先天性疾患]
  • 小嶋 愛, 岡村 達, 鹿田 文昭, 泉谷 裕則
    2016 年 45 巻 6 号 p. 259-261
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    症例は57歳の女性.就学前より心雑音を指摘され,ファロー四徴症(TOF)と診断された.30代より他院外来で手術を勧められたが拒否していた.経過中に心房細動が出現し,心不全の増悪による入退院を繰り返すため,当院紹介となった.精査の結果,外科的治療の方針となり,内科的治療により心不全コントロールを行った後に手術を施行した.術式は心室中隔欠損パッチ閉鎖術,肺動脈弁置換術(Epic生体弁23 mm),右室流出路形成術,Maze手術を施行した.術後右室圧は左室圧の4割程度に改善した.術翌日に人工呼吸器より離脱し,術後約1カ月で自宅退院となった.成人期のファロー四徴症に対し根治術を施行し,良好な結果を得たので報告する.

  • 夷岡 徳彦, 橘 剛, 浅井 英嗣, 新井 洋輔
    2016 年 45 巻 6 号 p. 262-266
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    新生児Ebstein奇形に対する一期的両心室修復としてのcone手術の報告はほとんどない.症例は日齢14の女児,胎児エコーで重症Ebstein奇形と診断され帝王切開で出生した.プロスタグランジンが開始され当院に搬送となった.CTRは74%,三尖弁逆流はsevere,肺動脈弁は機能的閉鎖であった.プロスタグランジンを離脱しても動脈管は縮小せず,むしろ肺血管抵抗低下に伴い心不全が悪化したため新生児期での手術介入となった.三尖弁は前尖も高度にplasteringしており,弁の形態的にはCarpentier type Cに相当するものであった.しかしcone手術により三尖弁逆流は制御され,右心機能は改善し,肺血流は右室の順行性拍出のみで維持できた.術後6日目に抜管し,術後8日目に集中治療室を退室した.CTRは58%と縮小し,三尖弁逆流はmoderate以下であった.右室機能は良好であり,心房間交通は右左シャントではあるがSpO2 は90%以上であった.Cone手術は三尖弁前尖が低形成で,両心室修復の可否がborder lineであるような新生児Ebstein奇形に対しても有効であった.

[成人心臓]
  • 坂田 朋基, 黄野 皓木, 渡邊 倫子, 田村 友作, 阿部 真一郎, 稲毛 雄一, 上田 秀樹, 松宮 護郎
    2016 年 45 巻 6 号 p. 267-271
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    重症心不全のなかでも循環不全による臓器障害を伴う最重症症例では,補助人工心臓を用いた機械的な両室補助を要することがある.今回,拡張型心筋症を基礎疾患とするcrash and burn(INTERMACS Profile 1)の重症心不全症例に機械的両室補助を行い,臓器障害が改善した146日後に一期的に植込み型補助人工心臓装着へ移行ができた症例を経験したので報告する.症例は27歳男性で来院数日前から進行する呼吸困難を主訴に近医を受診した.著明な左室収縮力低下と左室内血栓に加え,肝障害,腎障害も進行していたため,当院へ紹介搬送となった.転院同日に緊急手術を行い,左室内血栓除去ののちに両室補助を装着した.肝障害はすみやかに改善したものの無尿の状態が続いたため,臓器障害がすべて改善するまでは両室補助を継続する方針とした.十分な尿量が得られ腎機能が正常に戻った後の術後140日目に移植申請が承認され,術後146日目に右室補助を離脱し,左室は植込み型補助人工心臓HeartMate IIへと切り替えた.その後も右心不全の再燃は認めず,植込み手術から78日目に独歩退院し,自宅にて移植待機中である.臓器障害を伴う最重症例であっても,早期の両室補助の導入と臓器障害改善後の植込み型左室補助人工心臓への移行により,移植待機が可能となる.

  • 仁科 大, 藤井 正大, 別所 竜蔵
    2016 年 45 巻 6 号 p. 272-276
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    症例は61歳女性.意識消失発作に対し行われた心臓超音波検査にて左室流出路に12×13 mm大の円形で辺縁は平滑,内部は低エコーの腫瘤を認め,左室流出路狭窄に伴う意識消失発作と診断し腫瘤摘出術を行った.腫瘤は左冠尖弁輪下部から僧帽弁前尖弁輪にかけて認め,表面は平滑,弾性軟で内部には黄色クリーム状の内容物が充満していた.病理検査では中央は融解変性し嚢胞状で粗大顆粒状の石灰化沈着の周囲に炎症性細胞浸潤と線維芽細胞の増生を認めた.腫瘍性細胞は認めなかった.術前の臨床症状,血液データ,培養所見より膿瘍は否定的であることより,乾酪様石灰化病変と判断した.乾酪様石灰化病変は僧帽弁輪石灰化の亜型と考えられている稀な非腫瘍性病変であり文献的考察を加えて報告する.

  • 八板 静香, 野口 亮, 蒲原 啓司, 柚木 純二, 諸隈 宏之, 古賀 秀剛, 田中 厚寿, 古川 浩二郎, 森田 茂樹
    2016 年 45 巻 6 号 p. 277-280
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    中枢性尿崩症(central diabetes insipidus : CDI)は下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が消失あるいは減少することにより尿量増加をきたす疾患である.一般的にCDIに対しては抗利尿ホルモン(ADH)補充により治療を行うが,手術侵襲により体液量や電解質などが変動する周術期のCDI患者の管理法に関しては報告も少なく確立したものはない.今回,われわれはCDIを合併した弁膜症の手術症例を経験したので報告する.症例は下垂体腫瘍の摘出術後に続発性のCDIを発症していた72歳の女性で,大動脈弁置換術と僧帽弁形成術が施行された.CDIに関しては酢酸デスモプレシン内服で術前の尿崩症のコントロールは良好であった.術直後よりバソプレシンの持続静注を開始し術翌日よりバゾプレシンの内服を再開したが術後3日目頃より急激な尿量増加をきたした.バソプレシンの静注から皮下注射に切り替え,尿量に応じたスライディングスケールで投与量を決めてコントロールを図った.経過中,バゾプレシン過剰による水中毒を認めたが,日々の尿量と電解質バランスを注意深く観察しつつスライディングスケールに従ってバゾプレシンを漸減することで酢酸デスモプレシン内服へ切り替ることができた.尿量に応じたバゾプレシン皮下注のスライディングスケールは開心術後のCDIのコントロールに有効であった.

[大血管]
  • 加藤 寛城, 上田 秀保, 野 宏成, 西田 洋児, 鷹合 真太郎, 山本 宜孝, 新谷 佳子, 飯野 賢治, 木村 圭一, 竹村 博文
    2016 年 45 巻 6 号 p. 281-283
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    症例は62歳,女性.突然の胸痛と呼吸苦を主訴に救急搬送され,造影CTにて心嚢水貯留を伴う早期血栓閉鎖型急性大動脈解離と診断した.若年で,血性心嚢水貯留も認めるため緊急手術の適応と判断した.術中,上行大動脈に約1cmの亀裂を認め,大動脈壁の解離は認めず,外膜血腫を認めたため,特発性大動脈破裂と診断した.手術は上行大動脈置換術を施行した.術後経過は良好で術後18日目に自宅退院となった.術前診断に難渋する稀な疾患である特発性大動脈破裂に対する手術症例を経験したため報告する.

  • 盛島 裕次, 新垣 勝也, 國吉 幸男
    2016 年 45 巻 6 号 p. 284-289
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    急性A型大動脈解離(AAAD)に対する上行置換術後,中枢側上行大動脈仮性瘤および末梢側弓部-下行大動脈解離拡大のため,再手術を要した1例を経験したので報告する.症例は47歳,男性.AAAD発症に対し,初回手術で上行置換術および大動脈弁置換術を行った.術後3カ月目に人工血管中枢側上行大動脈仮性瘤形成および末梢側弓部-下行解離性大動脈拡大を認めたため,再手術で大動脈基部から弓部-下行大動脈までの一期的広範囲人工血管置換術を施行した.手術では,胸骨再正中切開に左前側方開胸を追加するDoor open法にてアプローチを行った.大動脈基部再建後はcomposite graftより順行性持続的血液冠灌流を行い,高カリウム濃度心筋保護液による心停止とせず末梢側弓部-下行大動脈置換術を行った.長時間の体外循環時間を要したが心筋虚血時間は短縮でき,術後心機能は良好に保持されていた.術後1年半後の現在,特に問題なく外来通院中である.本症例のような大動脈基部から下行大動脈までの広範囲胸部大動脈置換手術では,Door open法は有用なアプローチ法であった.また順行性持続的血液冠灌流により高カリウム濃度心筋保護液による心停止とせず弓部-下行大動脈置換術が可能であり,心筋虚血時間の延長を回避しうる有用な心筋保護手段であった.

  • 迫田 直也, 柚木 継二, 服部 滋, 内野 学, 川畑 拓也, 佐伯 宗弘, 藤田 康文, 久持 邦和, 吉田 英生
    2016 年 45 巻 6 号 p. 290-294
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    症例は60歳の男性.42歳時に発症したStanford A型の大動脈解離に対して2回の開胸歴および縦隔炎に対する大網充填術の既往があるMarfan症候群の患者である.60歳時に胸部下行大動脈の再解離(Stanford B型)を発症し,瘤径の急速な拡大を認め手術加療目的に当院へ紹介となった.Marfan症候群であり本来であれば開胸開腹による人工血管置換術の適応であるが,開胸歴と間質性肺炎による低呼吸機能から人工血管置換術はhigh riskであると判断し,胸部・胸腹部に分割しdebranch法,chimney法を用いてTEVARを施行し,エンドリークなく偽腔の血栓化が得られた.Marfan症候群患者に対するdebranch法やchimney法を用いたTEVARはhigh risk症例に対する適応としては考慮できる可能性が示唆された.

  • 池内 博紀, 榎本 吉倫, 阿部 真一郎, 須藤 義夫
    2016 年 45 巻 6 号 p. 295-298
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    外傷を契機に破裂したと考えられるバルサルバ洞動脈瘤に対してパッチ閉鎖術を施行し,良好な結果を得たので報告する.症例は38歳男性.野球でダイビングキャッチを試みた際に前胸部を強打し,その日の夜から咳嗽と起座呼吸が出現した.心エコーでバルサルバ洞動脈瘤破裂,心室中隔欠損を認めた.人工心肺下に手術を施行し,windsock型のバルサルバ洞動脈瘤を確認した.瘤を切除した後に直接閉鎖し,右室流出路,大動脈の両側から心室中隔欠損を含めてパッチ閉鎖を施行した.合併症なく経過し,術後11日目に自宅退院した.若干の文献的考察を加え報告する.

  • 山田 宗明, 加藤 泰之, 高橋 亜弥, 塩見 大輔, 木山 宏
    2016 年 45 巻 6 号 p. 299-301
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    症例は51歳男性,突発する背部痛にて救急搬送された.救急外来にてショックバイタルとなり,造影CT検査にて心嚢液貯留を伴う急性A型大動脈解離および完全内臓逆位を認めた.同日緊急手術を施行した.遠位弓部にエントリーを認めたため,上行弓部大動脈置換術を施行し,遠位側吻合はstepwise法を用いて行った.術者は患者の左側に立ち,4分枝付き人工血管を鏡面像になるように使用した.術後経過は良好で,術後23日で独歩退院となった.完全内臓逆位に対する上行弓部大動脈置換術は報告がなく,きわめて稀な症例のため若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 横山 毅人, 川合 雄二郎, 新津 宏和, 豊田 泰幸, 津田 泰利, 白鳥 一明, 竹村 隆広
    2016 年 45 巻 6 号 p. 302-305
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    弓部大動脈瘤の肺動脈穿破は稀な疾患であるが,発症後急激に心不全が増悪し重篤な状態となるため診断,救命が困難である場合が多い.今回われわれは,同疾患に対して胸部ステントグラフト留置術を施行し,良好な結果を得られたため報告する.症例は79歳男性.全身倦怠感,呂律困難にて近医を受診し,CTにて偶然胸部大動脈瘤を認め当院紹介となった.術前CTで遠位弓部大動脈に嚢状瘤を認め,一部血栓の外側に血流も認め,最大血管径は80 mmであった.また,肺動脈も拡張しており,最大血管径は38 mmであった.大動脈瘤切迫破裂に対して治療が必要な状態であったため来院翌日,準緊急的に頸部分枝バイパス術の後,胸部ステントグラフト留置術を施行した.術中大動脈造影で弓部大動脈瘤が肺動脈に穿破していることが判明し,穿破によるシャントが心不全の急激な増悪の原因であることが明らかになった.術後のCTにて,肺動脈から瘤内への血流を認めたが,その後のCTで瘤径の拡大はなく経過観察の方針とした.心不全は改善し,他に大きな合併症がなかったため,術後37日目リハビリ目的に近医に転院し,術後5カ月目自宅退院となった.

[末梢血管]
  • 金子 健二郎, 大森 槙子, 小澤 博嗣, 平山 茂樹, 金岡 祐司, 大木 隆生
    2016 年 45 巻 6 号 p. 306-312
    発行日: 2016/11/15
    公開日: 2016/12/10
    ジャーナル フリー

    腎動静脈奇形(Arteriovenous malformation : AVM)に対する治療は,現在血管内治療が主流となってきている.流入動脈と流出静脈がそれぞれ1本であるAneurysmal typeの腎AVMに対する血管内治療は,瘤自体の塞栓を目的とするのではなく,inflowとなる流入動脈のコントロールが重要となる.今回,多発瘤を伴う腎AVM症例で,流入血管のコントロールのみで治療しえた2症例を経験したので報告する.症例1は76歳女性.他疾患精査時にAVMを指摘された.右腎動脈の内膜欠損部から瘤は4個形成されており(径38/44/24/35 mm),下大静脈(IVC)に流入する流出静脈を認めた.治療は,内膜欠損部をまたぐ形で右腎動脈本管にカバードステントを留置する予定としたが,腹部大動脈からの細い枝が中枢の瘤に流入していることが判明した.そのため,その中枢の瘤のみコイル塞栓を行った後,カバードステントを留置することで,動静脈シャントを遮断した.症例2は78歳男性.腰痛精査時,CTで腎AVMを指摘された.右腎動脈からの後区域枝末梢がそのまま瘤化(多発)し,IVCへ流入していた.瘤から腎実質への分岐はないため,その入口部のみコイル塞栓を施行した.両症例ともに,腎血流はすべて温存され,腎機能の悪化も認められなかった.術前レニンアンギオテンシン系は両症例とも亢進はしていなかったが,術後血圧のコントロールが良好となり,症例1では,BNPの著明な低下が認められた.Aneurysmal typeの腎AVMに対する治療は,破裂予防目的のみならず,シャント量の多さからくる高血圧や,心不全の改善目的という側面も考慮すべきものであると考えられる.

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