日本心臓血管外科学会雑誌
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47 巻, 3 号
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巻頭言
症例報告
[先天性疾患]
  • 上田 英昭, 藏元 慎也, 松葉 智之, 重久 喜哉, 井本 浩
    2018 年 47 巻 3 号 p. 95-99
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    ファロー四徴症修復手術後の長期生存例が増加していることに伴い,その後の後遺症(合併症・遺残症・続発症)が問題となっている.今回われわれは,ファロー四徴症に対する初回手術後48年間に複数の後遺症に対し再手術・追加手術を繰り返した症例を経験した.症例は58歳,男性.9歳時にファロー四徴症に対する心内修復術を行った.その後30歳時に心室中隔欠損遺残短絡に対する再閉鎖,遺残右室流出路狭窄に対する1弁付きパッチでの右室流出路再建および大動脈弁閉鎖不全に対する大動脈弁置換を行った.さらに47歳時に大動脈基部拡大に対する大動脈基部置換を,51歳時には徐脈性心房細動に対しペースメーカー植え込みを行った.今回58歳時には1弁付きパッチ機能不全による肺動脈弁閉鎖不全と三尖弁閉鎖不全による右心不全に対し,生体弁での肺動脈弁置換および三尖弁輪縫縮を施行した.術後は右心不全に対する厳密な内服コントロールの継続を要しているものの,NYHA機能分類はIII度からII度へと改善した.ファロー四徴症修復術後の長期生存が得られるようになったが,術後経過観察においては,起こり得る後遺症を予測して早期に診断し,手術介入の時期が遅くならないよう心掛けることが重要であると考えられた.

[成人心臓]
  • 新美 一帆, 田中 恒有, 朝野 直城, 太田 和文, 齊藤 政仁, 権 重好, 石田 敬一, 高野 弘志
    2018 年 47 巻 3 号 p. 100-104
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    症例は46歳男性.肺炎の診断にて他院で入院加療を受けていた.経過中に呼吸苦が増悪し,造影CTで肺動脈内に血栓像を認め,急性肺血栓塞栓症の診断で当院に救急搬送された.経胸壁心エコーで右房内に大きな浮遊血栓を認めたため同日緊急手術を施行し,右房と肺動脈内の新鮮血栓を除去したが,肺動脈内には広範に器質化血栓も認め,基礎に慢性血栓塞栓性肺高血圧症が存在していたことが判明した.肺動脈血栓内膜摘除術(Pulmonary endarterectomy : PEA)の器具の準備がなく,人工心肺から離脱困難であったため,経皮的心肺補助装置(Percutaneous cardiopulmonary support : PCPS)を装着していったん手術を終了した.術後もPCPSから離脱困難であったため,術後5日目にPEAを施行し,人工心肺から離脱可能となった.術後右心カテーテル検査では肺高血圧症を認めず,第22病日に独歩退院となった.

  • 布井 啓雄, 藤井 毅郎, 片柳 智之, 大熊 新之助, 片山 雄三, 小澤 司, 塩野 則次, 渡邉 善則
    2018 年 47 巻 3 号 p. 105-108
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    症例は64歳女性.感冒様症状を主訴に近医を受診した.胸部X線写真にて心拡大を指摘され,心臓超音波検査にて左室内に21×14 mm大の有茎性で可動性のある腫瘤性病変を認めた.塞栓症を回避することと病理診断を目的に手術の方針とした.腫瘤性病変は前乳頭筋にstalkを持つ弾性軟な病変であり,直視下での腫瘍の観察と切除は困難と考え,内視鏡下に腫瘍の完全切除を施行し,病理組織にて乳頭状弾性線維腫と診断された.左室内に生じた乳頭状弾性線維腫は非常に稀であり,また内視鏡下切除が有用であったため文献的考察を含め報告する.

  • 藤井 大志, 北原 博人, 寺崎 貴光
    2018 年 47 巻 3 号 p. 109-112
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    特異な経過を呈した感染性粘液腫の1例を経験したので報告する.症例は62歳,男性.発熱と僧帽弁に腫瘤像を認め,疣贅を伴う感染性心内膜炎の診断で入院した.出血性脳梗塞を合併したため保存的加療を開始したところ,第6病日の心エコーにて腫瘤像の急速な増大を認めた.入院後にも新たな出血性脳梗塞を認めていたが,感染のコントロールが得られず,感染巣の掻爬と塞栓の予防を目的に第16病日に手術を施行した.術中所見では疣贅と考えていた腫瘤は僧帽弁後尖より生じた粘液腫で,腫瘍から連続して弁輪部から左心室に膿瘍が波及していた.感染巣の掻爬後に自己心膜で弁輪補強し,機械弁による人工弁置換術を施行した.術後は抗生剤治療を6週間継続し,リハビリ目的に独歩転院となった.

  • 近藤 康生, 高島 範之, 鈴木 友彰, 浅井 徹
    2018 年 47 巻 3 号 p. 113-117
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    心臓血管外科手術後の患者の約50%にヘパリン起因性血小板減少症(HIT)抗体が存在するが,その1%程度しか臨床症状を呈するHITを発症しない.特に遅延発症型HITはあまり知られておらず,きわめて稀である.症例は81歳男性で生体弁AVR(Mitroflow 21 mm)+PVI手術を行い,術翌日から術後5日目まで8,000単位/日の未分画ヘパリンを静脈投与していた.経過は順調でワーファリン内服のまま術後15日目に軽快退院した.術後18日目に右不全麻痺を伴う脳梗塞を発症し再入院となった.脳MRIでは多発性梗塞を左半球に認め,心原性脳梗塞が疑われたため15,000単位/日のヘパリンの投与を開始した.術後24日目に血小板の低下(27,000/μl)と造影CTにおいて大動脈遠位弓部の内腔の巨大血栓を認め,HITが疑われた.ヘパリンおよびワーファリン内服をただちに中止し,アルガトロバン投与を開始した.幸い神経学的な障害は残さず回復し,術後58日目に退院となった.現在術後3年となるが大きな問題なく経過している.心臓血管外科術後において説明のつかない血栓症を発症した際は遅延発症型HITを念頭におく必要がある.

  • 榎本 匡秀, 木下 武, 鈴木 友彰, 浅井 徹
    2018 年 47 巻 3 号 p. 118-122
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    症例は78歳,男性.糖尿病性腎症で血液維持透析を導入された際の精査にて冠動脈三枝病変を認め,初期治療として右冠動脈の病変に対する経皮的冠動脈形成術percutaneous coronary intervention(PCI)を施行した.術後1日目より持続した発熱の精査目的に施行した造影CTにて,術前にはなかった左房内を占拠する腫瘤を認めたため,血行動態の破綻を危惧し,手術加療の方針となった.手術は心拍動下冠動脈バイパス術(左内胸動脈-鈍角枝-前下行枝,右胃大網動脈-後下行枝)を行った後,人工心肺下で心停止のもと左房腫瘤除去術を施行した.右側左房切開で左房内を観察すると,腫瘤は左房後壁にあり,表面平滑で内膜破綻や血腫はなかった.左房外膜を切開すると左房筋層内にあたる内部に陳旧性の血栓を認め,可及的に除去した.左房腫瘤は,画像所見と肉眼所見から壁内血腫であり,後ろ向きに原因を検索してみると,PCIの際に迷入したワイヤーが出血の原因であると考えられた.術後113日目の外来受診時にも左房壁内血腫の再発がないことを確認している.PCI後出現した左房壁内血腫に対して,心停止下での左房壁内血腫除去を行った稀な1例を経験したので報告する.

  • 中島 智博, 中村 雅則, 宇塚 武司, 川原田 修義
    2018 年 47 巻 3 号 p. 123-127
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    症例は48歳,男性.2011年10月頃より労作時の呼吸困難感,体重増加があり近医を受診した.精査にて冠動脈重症3枝病変,低左心機能,僧帽弁閉鎖不全症,冠動脈前下行枝領域の壁運動が無運動であり左心室の拡大を認めた.左室形成術の必要があるか否かを手術前に評価することが必要であった.患者は慢性腎不全により血液透析を導入されていた.心筋viability評価にはガドリニウムを使用した遅延造影MRIが一般的であるが,慢性腎不全患者においてガドリニウム使用により全身性線維症を発症する危険があり禁忌とされており,本症例でも該当した.われわれは心筋viability評価のために,FDG PET-CTを行った.その結果,前下行枝領域には心尖部の極一部を除きviabilityがあると診断された.2012年1月,左室形成を行わず,冠動脈バイパス術5枝による血行再建と僧帽弁輪形成術を行った.術後補助循環を要したが,離脱できその後の経過は良好であった.術後左室造影検査にて左室収縮能は改善し,左室容積は縮小した.本症例においてFDG PET-CTが心筋viability評価に有用であった.文献的考察を踏まえて報告する.

  • 白岩 聡, 本田 義博, 榊原 賢士, 葛 仁猛, 加賀 重亜喜, 鈴木 章司, 中島 博之
    2018 年 47 巻 3 号 p. 128-132
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    症例は63歳男性.46年前にバイク事故で1カ月の入院歴があり,その翌年より心雑音を指摘されるようになった.45歳から発作性心房細動が出現し,62歳からは心房細動が慢性化した.同時に労作時の息切れや動悸が増悪したため,循環器内科へ紹介された.心エコーで前尖の広範な逸脱による重度三尖弁逆流を指摘され,手術の方針となった.右房を切開し確認すると,三尖弁前尖の腱索断裂があり,前尖-中隔尖交連部付近の弁輪部に裂孔を認めた.裂孔部は縫合閉鎖し,ePTFE糸を用いた腱索再建および人工弁輪による弁輪縫縮を施行した.また心房細動に対しMaze手術を併施した.術後は三尖弁逆流が良好に制御され,さらに洞調律で軽快退院した.外傷の既往および術中所見から,最終的に外傷性三尖弁閉鎖不全と診断した.本邦で報告された外傷性三尖弁閉鎖不全に対する自己弁温存手術は,検索し得た範囲で20例であった(自験例含む).ほぼ全例において前尖が障害されており,腱索断裂が最多であった.その他,乳頭筋断裂,弁尖の損傷など病態は多岐にわたっていた.本疾患は稀であるが,近年多く施行されている僧帽弁形成術の応用が可能であり,自己弁温存を目指す価値が十分にあると思われた.

  • 後藤 拓弥, 黒子 洋介, 川畑 拓也, 衛藤 弘城, 小林 泰幸, 逢坂 大樹, 笠原 真悟, 増田 善逸
    2018 年 47 巻 3 号 p. 133-137
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    ベーチェット病を基礎疾患に持つ患者の大動脈弁手術は,術後高率に弁周囲逆流,弁動揺,そして吻合部仮性瘤を合併することが知られている.患者は37歳の男性で,大動脈弁置換術直後に高度な弁周囲逆流により基部置換術が行われ,その後も吻合部仮性瘤を繰り返し,経過中に不全型ベーチェット病と診断されステロイドによる加療が開始された.その後,ベーチェット病に対する免疫抑制療法導入中にStaphylococcus epidermidisによる菌血症をきたし,大動脈基部に吻合部仮性瘤が再燃した.6週間の抗生剤加療の後にホモグラフトによる大動脈基部置換術を施行し5年間,問題なく経過しているため報告する.

[大血管]
  • 滝浪 学, 緑川 博文, 植野 恭平, 影山 理恵, 菅野 恵
    2018 年 47 巻 3 号 p. 138-141
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性.64歳時にCrawford 3型胸腹部大動脈瘤(TAAA)の診断で胸腹部大動脈置換術を施行した.70歳時にTAAA手術時の島状再建部真性動脈瘤および下行大動脈にpenetrating atherosclerotic ulcer(PAU)を認め,腹部分枝de-branching胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した.その後,弓部に広範囲胸部大動脈瘤と前回のstent graft中枢端より頭側に形成された真性瘤を認めたため,71歳時にTEVAR治療後frozen elephant trunk(FET)併用全弓部置換術を施行し,合併症なく独歩で退院した.今回われわれは,TAAA手術後に続発する広範囲胸部大動脈瘤を合併した症例に対し,ハイブリッド治療を併用した手術を施行し,良好な結果を得たので報告する.ハイリスクな広範囲大動脈瘤に対し従来の外科手術に加え,TEVARを応用することで低侵襲かつ良好な治療成績があげられる可能性が示唆された.

  • 高木 大地, 角浜 孝行, 山浦 玄武, 田中 郁信, 桐生 健太郎, 板垣 吉典, 山崎 友也, 山本 浩史, 嵯峨 知生, 廣川 誠
    2018 年 47 巻 3 号 p. 142-147
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    症例は77歳男性.発熱,背部痛を主訴に受診.CT検査で遠位弓部大動脈の急速拡大(最大径49 mm)と血液培養からBacteroides fragilisが検出され,感染性動脈瘤と診断した.抗生剤(meropenem : MEPM)に良好に反応したことや,frailtyを認めたことなどから,準緊急的にTEVARを施行した.炎症反応が陰性化して退院となったが,2週後に感染の再燃を認めて再入院した.6週間のMEPM投与後,Metronidazole(MNZ)内服を開始した.退院となったが,ふらつき・構音障害が出現し,内服開始約7週間後に再入院となった.MRIで小脳歯状核の病変を認め,Metronidazole誘発性脳症と診断.抗生剤をAmoxicillin/Clavulanateに変更したところ,約2週間程度で脳症の改善を得た.その後1年間,感染の再燃は認めていない.B. fragilisを起炎菌とした感染性大動脈瘤に対してステントグラフト治療を行った.感染再燃を認めたが,MNZを含む抗菌薬の使用により,再度コントロールすることができた.一方で,MNZは脳症を引き起こすことがあり,使用にあたっては十分な注意が必要である.

  • 安川 峻, 真鍋 晋, 平山 大貴, 平岡 大輔, 葛井 総太郎, 内山 英俊, 大貫 雅裕, 広岡 一信
    2018 年 47 巻 3 号 p. 148-152
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    梅毒性大動脈瘤は抗生剤による治療が確立した現在では稀な疾患であるが,巨大な場合には周囲臓器を圧排して発症することがある.今回われわれは,気道閉塞および上大静脈症候群で発症した巨大梅毒性胸部大動脈瘤を経験し,良好な結果を得たので報告する.症例は62歳,男性.呼吸困難を主訴に前医に救急搬送され,CT検査で上行から弓部にかけて最大径90 mmの嚢状大動脈瘤を認めた.圧排により両側主気管支は高度に狭窄し,上大静脈は完全閉塞していた.検査中に気道閉塞から呼吸停止となったが蘇生され,気管内挿管後に当院転院搬送となった.人工呼吸器管理とするも呼吸状態が不安定なため緊急手術を行った.大動脈瘤は胸骨裏面に達していたため,大腿動静脈バイパスで体外循環を開始して冷却し,循環停止下に開胸した.大動脈瘤と周囲臓器の癒着は強固であった.脳分離体外循環を用いて上行大動脈から腕頭動脈遠位まで1分枝再建を伴う上行部分弓部大動脈置換術を行った.術前の梅毒血清反応は強陽性で,病理学的所見からも梅毒性大動脈瘤と診断した.術後のCT検査で両側主気管支の狭窄は解除されていた.術後benzyl penicillinを14日間投与し,大きな合併症なく退院となった.

[末梢血管]
  • 松崎 賢司, 瀧上 剛, 松浦 弘司
    2018 年 47 巻 3 号 p. 153-156
    発行日: 2018/05/15
    公開日: 2018/06/01
    ジャーナル フリー

    症例は39歳男性.左腸骨動脈解離,破裂にて緊急で開腹人工血管置換を施行した.術後閉腹不能であり,術後8日目に一時的腹壁形成術(TAC)をComposix Mesh® と持続陰圧閉鎖(NPWT)を用いて施行した.初回術後19日目に術前にはなかった総肝動脈瘤破裂をきたし,緊急再開腹手術を施行した.その後再度Composix Meshをあてなおし再TACを施行した.腸管浮腫軽減と後腹膜血腫吸収が得られたため初回術後43日目に閉腹手術を施行した.Composix Meshは完全に除去した.Components Separation法と腹直筋前葉翻転法による自己組織のみでの閉腹が可能であった.初回術後106日目に独歩退院となった.遺伝子検査にてCOL3A1の変異が確認され血管型エーラスダンロス症候群(EDS)と診断された.腹部動脈破裂術後の長期閉腹不能例にComposix MeshとNPWTによるTACが有効であった.若年者の血管破綻は血管型EDSの可能性があり治療に難渋することが予想される.

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