日本心臓血管外科学会雑誌
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48 巻, 3 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
巻頭言
原著
  • 新改 法子, 森本 剛, 矢野 久子, 小山 忠明
    2019 年 48 巻 3 号 p. 161-169
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    [目的]開心術後に発生するSSIの予防を目的に,SSIバンドルを含めたリスク因子を検討した.[方法]研究デザインは後ろ向きコホート研究である.神戸市立医療センター中央市民病院で2008年1月~2010年12月(I期:感染対策実施時期)および新病院移転後の2014年1月~2016年12月(II期:感染対策強化時期)に開心術を施行した1,579例を対象にした.SSIのリスク因子は,単変量解析およびロジスティック回帰分析を用いて分析した.SSIの判定は米国疾病管理予防センターの医療関連感染調査に使用するSSI定義を用いた.[結果]SSI発生率は4.5%であり,I期とII期では,SSI発生率が6.6%から2.9%に有意に減少し(p<0.001),適切な予防抗菌薬の選択,術後72時間以内に予防抗菌薬の中止,術後1日目および2日目朝の血糖管理における対策の実施率が有意に増加していた(p<0.001).単変量解析の結果,手術手技,手術時期,手術時間,術後2日目朝血糖値,切開の1時間前以内に予防抗菌薬の投与開始,バンドル100%達成率において統計学的有意差を認めた.ロジスティック回帰分析の結果,複合手術(オッズ比2.5;95%信頼区間1.3~4.8)はSSIの発生する危険性が高くなり,切開の1時間前以内に予防抗菌薬の投与開始(オッズ比0.57;95%信頼区間0.33~0.97)と手術時期(II期,オッズ比0.41;95%信頼区間0.23~0.71)はSSIの発生する危険性が低くなった.[結語]SSI予防としては,特に予防抗菌薬は切開の1時間前以内に投与を開始することが重要であり,SSIバンドルの実施率を向上させること,複合手術を受ける患者はSSIの発生に注意を要することが肝要である.

症例報告
[成人心臓]
  • 桐生 健太郎, 角浜 孝行, 山浦 玄武, 千田 佳史, 田中 郁信, 高木 大地, 板垣 吉典, 山本 浩史
    2019 年 48 巻 3 号 p. 170-172
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    心臓腫瘍において,心内膜への転移性腫瘍は比較的稀と報告されている.今回われわれは食道原発性転移性心臓腫瘍において,右心房・右心室内膜への転移症例を経験した.腫瘍は可動性に富み,肺塞栓症での突然死のリスクがあった.食道癌としては5年生存率約11%であったが,突然死のリスク軽減のために腫瘍摘出術を施行した.術後経過は良好であり,現在食道外科外来にて化学療法を継続,ADLとしては自宅生活可能である.腫瘍摘出によって,QOLの改善,突然死のリスクを軽減できることは予後にはかかわらず,有用であると考えられた.

  • 森山 周二, 原 正彦, 金子 泰史
    2019 年 48 巻 3 号 p. 173-178
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    原因不明の肝硬変による繰り返す肝性脳症と診断されていた収縮性心膜炎の1例を経験した.症例は69歳男性.労作時の呼吸苦と下肢の浮腫で来院した.最近1年間で肝性脳症のため3回の入院歴があり,来院時高アンモニア血症,高ビリルビン血症,腎機能低下に加えCT検査で心膜の石灰化と両側胸水を認めた.経胸壁心エコー検査で拡張早期の心室中隔の異常運動と右室の拡張制限を認めた.心臓カテーテル検査で中心静脈圧(36 mmHg)と平均肺動脈圧(53 mmHg)の上昇および右室圧波形にdip-and-plateauを認めた.収縮性心膜炎の診断で手術を行った.右房全体から右室自由壁にかけての石灰化を伴った肥厚した心膜を切除した.術後は呼吸困難,浮腫は改善し社会復帰した.

  • 鷹合 真太郎, 加藤 寛城, 上田 秀保, 野 宏成, 山本 宜孝, 木村 圭一, 飯野 賢治, 竹村 博文
    2019 年 48 巻 3 号 p. 179-184
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    冠動脈バイパス術後の胸骨骨髄炎に対して,局所陰圧閉鎖療法(NPWT ; negative pressure wound therapy),大胸筋皮弁を用いた創部閉鎖術による二期的再建法を施行し,良好な結果を得た2例を報告する.症例はいずれも両側内胸動脈を使用した冠動脈バイパス術施行例で,SSI(surgical site infection)を発症した.創洗浄・NPWTを施行も創閉鎖に至らず,MRIを施行したところ創底部に腐骨・胸骨骨髄炎を併発していることが確認された.二期的再建法の方針とし,第一段階目として腐骨除去・デブリードマン,つづいてNPWTを継続した.その後,第二段階目として,組織欠損部に大胸筋皮弁を充填し,胸壁再建術を行った.術後2カ月の経口抗生剤加療を完了し,再燃を認めていない.胸骨骨髄炎のため創部治癒に難渋したが,二期的再建法を行い良好な結果を得た.初期治療として感染制御が重要であり,壊死組織や腐骨化した胸骨・異物の除去,NPWTによるwound bed preparationが必要不可欠と考えられる.大胸筋皮弁は手術手技が簡便であり,胸部のみの手術操作で終えることができる.また,冠動脈バイパス術後で内胸動脈が使用されている場合も施行可能であり,有用な移植材料の1つと考えられる.

  • 白﨑 幸枝, 松山 正和, 中村 栄作, 石井 廣人, 中村 都英
    2019 年 48 巻 3 号 p. 185-188
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は27歳女性.妊娠25週6日目に左大腿部痛の後2度の意識消失があり,当院産婦人科に救急搬送された.心エコーで心房壁に付着部を持つ可動性を有する構造物を両心房に認め,切迫奇異塞栓(impending paradoxical embolism ; IPE)が疑われた.心房内の血栓の形態からさらなる塞栓を起こす可能性が高く,帝王切開にて児の救命も可能と考えられたため緊急手術適応と判断した.手術室に搬入し,帝王切開を行った後,人工心肺を用いて低体温下に右房を切開し,血栓を除去した.さらに術中経食道エコーにて右肺動脈に塞栓を認めたため,右肺動脈切開し塞栓を除去し,手術を終了した.術後,下肢静脈エコーで大腿静脈血栓を認め,下大静脈フィルターを挿入した.その後16日目に退院した.動脈系の塞栓症には至っておらず卵円孔に血栓が嵌入した状態はIPEと呼ばれる.IPEは稀な病態であり,妊娠に合併し,外科的血栓除去を行った症例の報告はなく,文献的考察を加え報告する.

  • 山田 章貴, 顔 邦男, 辻本 貴紀, 藤末 淳, 麻田 達郎
    2019 年 48 巻 3 号 p. 189-192
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は,中咽頭癌に対して7カ月前に化学放射線療法を施行された72歳,男性.3カ月前に脳梗塞を発症し,リハビリ療法中であった.1カ月前より腰痛にて歩行困難となり,化膿性脊椎炎と診断され抗生剤投与を受けていた.2週間前より呼吸苦が出現,高度の肺うっ血にて3日前より人工呼吸管理となった.大動脈弁位の疣贅および高度の大動脈弁閉鎖不全症が認められ,感染性心内膜炎の診断で緊急手術となった.胸骨正中切開すると,前縦隔心左側に経食道エコーのプローブが見られ咽頭破裂と診断された.縦隔内を十分に洗浄し,生体弁を用いた大動脈弁置換術を行った後,開腹し大網を採取した.ついで頸部手術に移り,梨状窩の穿孔部を直接閉鎖,前縦隔を通した大網で咽頭修復部位を被覆し,胸骨を一期的に閉鎖した.術後経過は比較的順調で,術後32日目に一般病棟へ転室した.術中経食道エコープローブによる,稀できわめて重篤な咽頭破裂の合併症を経験し,救命したので報告する.

  • 平山 大貴, 真鍋 晋, 弓削 徳久, 木下 亮二, 葛井 総太郎, 内山 英俊, 大貫 雅裕, 広岡 一信
    2019 年 48 巻 3 号 p. 193-196
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は50歳男性.過去3度の慢性膵炎の入院治療の既往があり,径5 cmの膵仮性嚢胞を保存的に加療していた.胸痛精査で冠動脈2枝病変(#5:75%,#2:75%)が指摘され,冠動脈バイパス術(右内胸動脈-左前下行枝,左内胸動脈-鈍縁枝,大伏在静脈-後下行枝)を施行した.術後問題なく経過し,第9病日で退院した.退院から1週間後に全身倦怠感,呼吸苦が出現,心臓超音波検査で心嚢液貯留を認めた.エコー下穿刺にて漿液性心嚢液1,000 mlを排出したが,1週間後には再貯留した.心嚢ドレーンを留置したが,持続的に心嚢液が排出された.そこで膵仮性嚢胞に対して超音波内視鏡下に経胃嚢胞穿刺,ステント留置を行い,膵嚢胞内貯留液を胃に排出したところ,速やかに心嚢液も消失した.本症例における術後の再発性心嚢液貯留は,膵仮性嚢胞との関連が否定できず,若干の文献的考察を踏まえ報告する.

[大血管]
  • 佐藤 大樹, 三島 健人, 佐藤 裕喜, 若林 貴志, 登坂 有子, 中澤 聡
    2019 年 48 巻 3 号 p. 197-201
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は48歳,女性.39歳時より皮膚筋炎に対してステロイドを内服中.48歳時に突然の胸部絞扼感が出現し,急性心筋梗塞が疑われた.冠動脈造影検査で右冠動脈閉塞を認め,同部位から塞栓物(血栓)を回収した.左室造影検査では上行大動脈内に可動性腫瘤を認めた.腫瘤は血栓の可能性も考慮し,ヘパリン治療を開始したが,腫瘤は縮小せず,手術の方針とした.腫瘤は右冠動脈口より2.5 cmほど遠位の大動脈壁に付着しており,20 mm×7 mm×7 mmの棒状であった.腫瘤付着部位の大動脈壁の性状は保たれていたため,腫瘤除去のみで手術を終了とした.腫瘤は病理組織検査で白色血栓,および赤色血栓よりなる混合血栓組織であった.術後から血栓予防目的に抗血小板薬と抗凝固薬の内服を開始し,術後1年が経過したが,再発なく経過している.

  • 早川 真人, 西島 功, 永野 貴昭, 新里 建人, 池村 綾, 宮城 和史, 伊波 潔, 瀬名波 栄信, 下地 光好, 赤崎 満
    2019 年 48 巻 3 号 p. 202-205
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    症例は78歳の女性.胸部異常陰影を指摘され,CTにて右大動脈弓,左鎖骨下動脈起始異常(ALSA)を伴うKommerell憩室(KD)を指摘された.自覚症状は認めなかったが,動脈瘤の最大径が63 mmであったことから手術の方針とした.手術は胸骨正中切開でアプローチし,側枝を作製した4分枝管人工血管を上行大動脈に端側吻合した.次に頸部分枝の再建を行った後,側枝よりConformable GORE® TAG®(W.L. Gore and Associates,34 mm×200 mm)をZone 0からTh 7の範囲に展開した.最後にALSAのコイル塞栓術を行い,最終確認造影ではエンドリークを認めなかった.術後36日目に独歩退院となり,術後2年目のフォローでは瘤径の縮小を認め経過は順調であった.

  • 永冨 脩二, 山本 裕之, 豊川 建二, 向原 公介, 寺園 和哉, 緒方 裕樹, 井本 浩
    2019 年 48 巻 3 号 p. 206-209
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    急性大動脈解離を原因とするStent graft(SG)collapseと,その後再拡張が得られた症例を経験し報告する.症例は64歳男性.21カ月前に腎動脈下腹部大動脈瘤に対し腹部SG内挿術を施行していた.併存する胸部大動脈瘤もあり外来経過観察していたが,突然の背部痛を主訴に救急外来を受診した.急性大動脈解離(Stanford B, DeBakey IIIa)の診断で保存的治療を行うも第7病日に突然の腹痛と両下肢痛が出現した.造影CTで解離腔が末梢側へ進展し偽腔によるSGメインボディの圧排閉塞所見を認めた.両側急性下肢動脈閉塞を呈しており,緊急で右腋窩-両側外腸骨動脈バイパス術を施行した.術後18日目CTでSGは自然に元の形状まで拡張し順行性血流が得られていた.非解剖学的血行再建はSG collapseの際の有効な治療手段と考えられる.

  • 鷹合 真太郎, 加藤 寛城, 上田 秀保, 野 宏成, 山本 宜孝, 飯野 賢治, 木村 圭一, 竹村 博文
    2019 年 48 巻 3 号 p. 210-214
    発行日: 2019/05/15
    公開日: 2019/05/30
    ジャーナル フリー

    オープンステントグラフトで右鎖骨下動脈起始異常(aberrant right subclavian artery, ARSA)を処理し得た弓部置換術の2例を経験したので報告する.症例1は弓部大動脈瘤にARSAを合併していた.食道後方経路でのARSA再建は困難と考え,胸部正中切開での弓部大動脈置換術を施行し,オープンステントグラフトにてARSA起始部を閉鎖した.右腋窩動脈の血行再建として非解剖学的バイパスを追加した.症例2はStanford A型急性大動脈解離にARSAを合併していた.Primary entryはARSA起始部近傍にあり,オープンステントグラフトにてARSA起始部閉鎖とprimary entry閉鎖を行い,弓部大動脈置換術を施行した.右腋窩動脈の血行再建として非解剖学的バイパスを追加した.2例とも食道との交差部を避けて,ARSA近位部への血管内塞栓術も同時に行い,ARSA起始部への逆行性血流を制御した.術後経過は良好であった.本法はARSAを伴う症例に対しても,胸骨正中切開による弓部大動脈置換術でのアプローチで施行可能であり,有用な術式と考えられた.

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