日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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54 巻, 1 号
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巻頭言
症例報告 [成人心臓]
  • 嶋田 隆志, 田﨑 雄一, 迫 史朗, 三浦 崇
    2025 年54 巻1 号 p. 1-4
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    症例は71歳の男性.急性下壁心筋梗塞(AMI: acute myocardial infarction)後の心不全増悪を契機に心室中隔解離を伴う心室中隔穿孔(VSP: ventricular septal perforation) を認めた.心不全症状は大動脈バルーンパンピングと利尿剤の使用で安定したため,AMI発症から23日目,VSP同定から12日目に左室切開アプローチでVSP閉鎖術を行った.右室側穿孔部は単純にパッチ閉鎖し,左室側穿孔部は2重パッチによるinfarct exclusion法に準じて閉鎖した.中隔解離腔にはBioGlue Surgical Adhesive(Artivion, Inc.Kennesaw, GA, USA)を封入した.経過は良好であり,術後36日目に自宅退院となった.術後1年6カ月が経過し,NYHA I度で外来通院中である.

  • 庭野 陽樹, 内藤 祐嗣, 杉木 宏司, 村上 達哉
    2025 年54 巻1 号 p. 5-8
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は67歳男性.心筋梗塞後の左室瘤に対して手術加療目的に当科紹介となった.手術では,左室瘤の開口部は50×20 mmであり,両乳頭筋が近く,乳頭筋の変位とそれによる僧帽弁への影響を避けるためdouble patch closureを行った.心内膜側にはウシ心膜パッチを,心外膜側にはダクロンパッチをあてて,2枚のパッチ間にフィブリン糊を注入した.僧帽弁形成術,冠動脈バイパス術も行い,術後は合併症なく経過し,術後27病日に自宅退院となった.病理組織所見にて瘤壁に心筋細胞を認めず仮性瘤の診断となった.本症例のように開口部が大きく乳頭筋が近い左室瘤に対してはdouble patch closureが有効であると考えられた.

  • 原口 知則, 野田 怜
    2025 年54 巻1 号 p. 9-13
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は70歳女性.7年前より他院で混合性結合組織病(MCTD)と診断されステロイドの内服治療を受けていたが,症状の安定にともない半年前より中止されていた.労作時の呼吸苦と発作性心房細動をみとめるようになり大動脈弁狭窄および狭心症と診断されたため,生体弁による大動脈弁置換および前下行枝へ冠動脈バイパス術を施行した.術中に血小板の急激な減少を伴う出血傾向とLOSをきたしたためにIABPを装着して帰室した.術直後に右肺全葉の浸潤影をみとめ,第4病日からはふたたび著明な血小板減少をみとめるようになった.第5病日にIABPを抜去し抗凝固剤をヘパリンからナファモスタットに変更したが血小板減少は持続し,第9病日には術前には見られなかった回旋枝根部の完全閉塞をみとめたため緊急PCIを施行した.血小板はその後も減少し続け手指先端や口腔内の壊死が進行し粘血便も出現するようになった.第24病日には原因不明のくも膜下出血を併発し第34病日に広範囲腸壊死により死亡退院となった.

  • 鶴原 諒一, 早津 幸弘, 長沼 政亮, 寺尾 尚哉, 野村 颯, 山谷 一広, 畑 正樹
    2025 年54 巻1 号 p. 14-17
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は45歳男性.息切れ,動悸を主訴に近医を受診し,心電図異常を指摘された.冠動脈カテーテル検査を施行したところ,左前下行枝と右冠動脈に多発の特発性冠動脈解離(SCAD: spontaneous coronary artery dissection)を認めた.光干渉断層撮影では左冠動脈は2腔構造,右冠動脈は多数の解離腔を呈していた.心電図同期CTでは,壁運動低下を呈する左室心尖部に血栓を認めた.虚血により心機能も低下しており,手術適応として当院紹介となった.両側内胸動脈および橈骨動脈を用いた心拍動下での冠動脈バイパス術,および左室心尖部の血栓摘除術を施行した.吻合部の内腔は解離していたが,真腔と思われる部位へ吻合し,良好なflow patternを確認し得た.術後合併症を認めることなく経過し,術後22日目に退院となった.術後2.5年が経過し,グラフトの開存,心機能の改善を認めている.

  • 西本 幸弘, 森崎 晃正, 高橋 洋介, 左近 慶人, 西矢 健太, 因野 剛紀, 野田 和樹, 長尾 宗英, 柴田 利彦
    2025 年54 巻1 号 p. 18-22
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    70歳以上の房室中隔欠損症に対する外科的手術はたいへん稀である.今回,75歳の高齢で不完全型房室中隔欠損症と診断され手術を施行した症例を経験したので報告する.症例は75歳男性.労作時呼吸困難を主訴に,精査にて不完全型房室中隔欠損症,重症左側房室弁閉鎖不全症,重症右側房室弁閉鎖不全症,持続性心房細動,冠動脈狭窄症と診断し,手術適応と判断した.手術は自己心膜による一次孔欠損型心房中隔欠損閉鎖術,生体弁による左側房室弁置換術,弁輪形成を伴わない右側房室弁形成術,modified Maze IV手術,左心耳閉鎖術および冠動脈バイパス術2枝を施行した.左側房室弁は当初形成術を施行したが,弁尖の変性肥厚が進行しており,形成術では逆流制御困難であり弁置換術とした.術後経過はおおむね良好で手術15日後に自宅へ退院となった.術後1年半が経過したが,洞調律を維持し,心血管イベント等を認めず経過良好である.

  • 布施川 真哲, 西岡 成知, 佐々木 啓太, 三浦 修平, 増田 貴彦, 丸山 隆史, 栗本 義彦, 奈良岡 秀一
    2025 年54 巻1 号 p. 23-26
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    近年,開胸手術が困難な僧帽弁閉鎖不全症症例に対しMitraClip(Abbott Vascular, Redwood City, California, USA)が施行される症例が増加している.一方,MitraClip不成功により外科的再介入を要する場合もあり患者背景から外科的再介入はハイリスクとなる.今回,MitraClip施行後に早期および中期に外科的再介入を要した2例を経験したため報告する.症例1は82歳男性.慢性心房細動による重度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)で心不全を繰り返し,高齢でフレイルであることからMitraClipを施行した.しかし,留置後にクリップの脱落によるMRの急性増悪で心不全コントロールがつかず留置後10日目に僧帽弁置換術(MVR)を施行した.症例2は72歳男性.重度の虚血性MRで心不全となるも出血性脳梗塞の併発や肺気腫の既往からMitraClipを施行した.MitraClip施行により僧帽弁狭窄(MS)を来すも内科治療にて心不全が代償化された.しかし,留置後2年でMRとMSにより心不全増悪となりMVRを施行した.MitraClip施行後に外科的再介入を要する場合,弁置換術を必要とするような開胸手術が不可欠となる.弁置換術を施行する場合は,弁下組織を可能なかぎり温存する工夫が重要であると考えられた.

症例報告 [大血管]
  • 中尾 優風子, 久冨 一輝, 笠 雄太郎, 田倉 雅之, 田口 駿介, 寺谷 裕充, 中路 俊, 松丸 一朗, 三浦 崇
    2025 年54 巻1 号 p. 27-30
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は74歳女性.増大傾向を認める大動脈弓部小弯側の嚢状動脈瘤に対して全弓部置換術を予定した.術前血液検査で寒冷凝集素価2,048倍と異常高値を認め,低体温循環停止下での全弓部置換術において低体温時の凝血や復温時の溶血の可能性が危惧された.通常われわれは最低直腸温27℃の中等度低体温体外循環法を用いており,血液内科と協議し術前に患者血液を用いて冷却試験を施行した結果,25℃下での試験管内で凝集反応を生じなかった.この結果について血液内科,麻酔科,人工心肺技師らと協議し,中等度低体温下で手術可能かもしれないが,術中の凝血や溶血は人工心肺トラブルの要因となるため,これを予防し安全に手術を行うために術中体温を30℃以上で管理することとし,最低直腸温30℃の軽度低体温体外循環下に全弓部置換術を施行した.心筋保護液の送液温度も30℃に設定し,30分おきに注入した.循環停止中はintra-aorticballoonocclusion(IABO)カテーテルにて下行大動脈を閉塞させ,大腿動脈送血を行うことで脊髄・腹部臓器の血流を維持した.また選択的順行性脳灌流量は通常の1.5倍量(20ml/kg/min)に設定した.術中に凝血や溶血を生じず,術後は脳神経学的異常所見や心機能低下を認めず良好な結果が得られた.寒冷凝集素高値を示す患者に対しては,その重症度や術式を考慮した上で,個々の症例に応じた人工心肺管理を計画する必要がある.

  • 佐野 友規, 岩田 圭司, 澁川 貴規, 柿澤 佑実
    2025 年54 巻1 号 p. 31-36
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
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    重症COPDを併存する多発大動脈瘤に対して,工夫したアクセスルートを用いたTEVARを含む4期的手術を行った症例を経験したので報告する.症例は71歳女性.近医胸部Xpで,胸部大動脈瘤(TAA)を疑われた.CTでは,大動脈蛇行と,最大で最大短径65 mmのTAAなどを含む,計6つの大動脈瘤を認めた.しかし,1秒率39%,%肺活量64%の高度混合性換気障害を併存していたため,耐術能の観点からTEVARを含めた多期的手術が選択された.また,両側の腸骨動脈から大腿動脈にかけての石灰化が高度であり,狭窄を伴っていること,大動脈蛇行が高度であることなどから,血管内治療の際のアクセスルートの工夫が必要であった.1期目では,TAAに対して下行大動脈をアクセスルートとしたTEVAR,2期目では,胸腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術(腹部4分枝再建),3期目では,残存TAAに対して人工血管側枝をアクセスルートとしたTEVAR,4期目ではエンドリークに対する追加TEVARと腹部大動脈瘤,総腸骨動脈瘤に対するEVARの計4期によって治療を完了した.低侵襲化を念頭にステントグラフト内挿術のアクセスルートなど治療戦略を工夫し,術後呼吸器合併症含め,重篤な合併症を回避できた.

  • 上平 聡, 花田 智樹, 金築 一摩, 山内 正信
    2025 年54 巻1 号 p. 37-41
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は79歳男性,偽腔開存型の急性A型大動脈解離を発症し,緊急で上行大動脈(hemiarch)置換術を施行.術後CTでdistal anastomotic leakと下行大動脈以下の複数re-entryからの血流が偽腔に入り血栓化不良であった.術後2カ月目にはCT上遠位弓部レベルで退院時46 mmから67 mmまで大動脈径の急速拡大を認め追加治療の適応とした.治療は全身麻酔下に左右腋窩―左総頸動脈を8 mm径 のリング付きT字型e-PTFE製人工血管 でバイパス術を先行作製.あらかじめ12 mm径の孔を開窓したステントグラフト(Relay Plus®)を右大腿動脈アプローチで腕頭動脈起始部に開窓孔を合致させ人工血管内に展開留置.さらに右総頸動脈から逆行性に分枝ステントグラフトを腕頭動脈から開窓孔を通して展開し完成させた.つづいてステントグラフト末梢端から腹部大動脈にかけてZenith® dissection stentを拡張展開.左腸骨動脈のre-entryも腸骨動脈用ステントグラフトを展開し閉鎖した.術後6カ月目のCTでは左腎動脈周囲の大動脈にわずかに解離腔を残すのみで解離腔は血栓化退縮した.本法は作製も容易で追加治療としてきわめて低侵襲であり,また人工血管にlandingさせるため逆行性解離のリスクもなく,有用な治療法と思われた.

症例報告 [末梢血管]
  • 東 健太, 柚木 継二, 佐伯 宗弘, 成宮 悠仁, 森田 翔平, 鳥家 鉄平, 井上 知也, 立石 篤史, 田村 健太郎, 久持 邦和
    2025 年54 巻1 号 p. 42-44
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は66歳女性.詳細な期間は不明だが関節リウマチに対して数年間のステロイド内服があり,多発関節変形のため松葉杖を数年間使用していた.右上肢のしびれを主訴に近医を受診,頸椎症と診断され経過観察となったが7日後の再診時に右上腕の拍動性腫瘤に気付き当院紹介となった.造影CTで右上腕動脈瘤(19×17×16 mm)の診断となり,しびれは瘤による神経圧迫による症状と考えられた.上腕動脈瘤の原因として長期的な松葉杖の不適切使用があげられ,術後は松葉杖を使用せず他の補助器具を使用することを確認した上で.全身麻酔下に上腕動脈瘤切除および中枢・末梢の直接吻合を行った.上肢の動脈瘤は稀であり外傷および医原性の仮性動脈瘤が多く,壁在血栓による塞栓症,神経圧迫,破裂などの合併症を起こしうるため積極的な手術が推奨される.また松葉杖が原因となった症例では再発リスクを考慮した血行再建が必要となる.本症例では歩行補助器具をロフストランドクラッチへ切り替えることで直接吻合による再建を行うことができた.

第54回日本心臓血管外科学会学術総会 卒後教育セミナー
U-40 企画コラム
  • ―3学会共催心臓血管外科サマースクールの経験から―
    辻本 貴紀
    2025 年54 巻1 号 p. 1-U1-1-U7
    発行日: 2025/01/15
    公開日: 2025/02/01
    ジャーナル フリー

    3学会共催心臓血管外科サマースクール(以後,心臓血管外科サマースクール)は,医学生高学年および初期研修医,専攻医1年目を対象に心臓血管外科の魅力を伝えリクルートを行う会であり,今年の8月の開催で13回目を迎えた.2023年度と2024年度の心臓血管外科サマースクールは1カ所開催(羽田訓練所)で参加者約100名,講師約50名の規模で開催し,筆者は企画および運営を担当した.プログラム内容および参加者アンケートの結果を分析し,若手心臓血管外科医のよりよいリクルートにつながるコンテンツについて考察を踏まえて報告する.

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