日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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54 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 碓氷 章彦, 湊谷 謙司, 岡田 健次, 長田 裕明, 山中 勝弘, 伊藤 英樹, 松井 茂之, 田村 高廣, 六鹿 雅登
    2025 年54 巻4 号 p. 143-153
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    [目的]胸部大動脈手術を対象にフィブリノゲン製剤を使用し低フィブリノゲン血症を改善することにより,凝固機能が改善し,出血傾向が制御できるか否かを観察した.[方法]胸部または胸腹部大動脈手術で150 mg/dl未満の低フィブリノゲン血症を呈した32症例を対象に,ROTEM sigmaを用い血液粘弾性測定を行うとともに,3分間出血量を測定し,出血傾向の改善を評価した.[結果]血中フィブリノゲン値は人工心肺終了時には109±26 mg/dlに低下したが,フィブリノゲン製剤投与により平均231±38 mg/dlと有意(p<0.0001)な上昇を示した.3分間出血量は,ヘパリン中和後は平均144±88 mlであったがフィブリノゲン製剤投与後は85±74 mlと有意な減少を示した(p=0.0001).しかし,6例において3分間出血量はむしろ増加し,出血量低下を示した症例は26例(82%)であった.Fibtem A10はヘパリン中和後に4.8±2.7 mmと極度の低値であったが,フィブリノゲン製剤投与により14.1±4.1 mmと手術開始時を超える値を示した(p<0.0001).外因系凝固能を反映するExtem A10および内因系凝固能を反映するINTEM A10は,ヘパリン中和後は31.3±11.0 mm,30.9±10.7 mmと低値であったが,フィブリノゲン製剤投与により42.2±8.9 mm,39.1±8.7 mmと有意に上昇した(p<0.0001).32例に死亡例はなかったが,血栓塞栓症を否定できない症例を3例認めた.2例は心筋梗塞で,再建した右冠動脈の閉塞が原因であり,他の1例は弓部置換術後の新規脳梗塞であったが,フィブリノゲン製剤投与との因果関係は明らかではなかった.[結語]フィブリノゲン製剤投与により血中フィブリノゲン値は速やかに上昇し,出血量は減少した.加えて,外因系および内因系凝固能の有意な改善を認めた.

症例報告 [成人心臓]
  • 福島 剛, 平尾 慎吾, 山下 剛生, 菅谷 篤史, 小宮 達彦
    2025 年54 巻4 号 p. 154-158
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    弁輪拡大術は人工弁患者ミスマッチを防ぐためしばしば施行される術式である.このたび,従来のNicks法では拡大が困難であった症例に対し,切開線を工夫することで十分な拡大に成功した症例を経験したため報告する.70歳女性,重症大動脈弁狭窄症に対して弁輪拡大を伴う大動脈弁置換術が施行された.無冠尖と左冠尖の交連部,無冠尖領域のバルサルバ洞に高度な石灰化を認め通常のNicks法ではアプローチが困難であった.そこで,無冠尖領域のバルサルバ洞を左冠尖と無冠尖の交連部の2 mm横から切開した.Aorto-mitral curtainまで切開を進めたが十分な拡大が得られなかったため,右線維三角の方向に折れ曲がる形で切開を追加しL字型の切開線とした.パッチでの拡大を行うことで弁輪は10 mm拡大しInspiris(Edwards Lifescience, Irvine, CA, USA)21 mmをsupra annularに縫着することができた.術後経過は良好で術後16日で独歩退院した.術後経胸壁心エコー検査で人工弁患者ミスマッチは認めず,人工弁周囲逆流も指摘されなかった.通常のNicks法で十分な拡大が得られない症例に対してL字型切開は有効である.

  • 矢澤 翼, 小山 明男, 内田 亘
    2025 年54 巻4 号 p. 159-162
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    アルカプトン尿症(AKU)は,発症率が10万人から25万人に1人と報告される稀な遺伝疾患であり,ホモゲンチジン酸尿,関節炎,黒色色素沈着の3徴が特徴的である.今回,もともとAKUと診断されていた72歳男性患者が重症大動脈弁狭窄症と診断され,外科的大動脈弁置換術を施行された.術中所見では,大動脈の黒色変化および大動脈弁の黒色石灰化を認めた.機械弁On-X(On-X Life Technologies, Austin, TX, USA)を移植されたが,術後1年2カ月時点で問題を認めていない.AKUによる大動脈弁の黒色石灰化は特徴的であり,心臓手術が診断の契機となることがあるため記憶すべき所見である.AKUでは石灰化を来しやすく,生体弁移植後の構造的弁劣化の可能性が報告されていることから,機械弁の使用も考慮される.文献的考察を加えて報告する.

  • 有本 宗仁, 北中 陽介, 田中 正史
    2025 年54 巻4 号 p. 163-167
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    症例は,77歳男性.心電図検査で虚血性変化を認め,当院を受診した.冠動脈CT検査を行い,左冠動脈前下行枝に高度狭窄,心尖部に小さな左室瘤を認めた.経皮的冠動脈形成術を施行し,同時に左室造影検査を行った.CT検査と同部位に瘤を認め,心室瘤の診断で破裂の危険性があり手術加療の方針となった.手術では,心尖部の左室瘤と心膜に癒着は認めなかった.左室瘤を切除し,切除部位をフェルトで補強し,horizontal mattress sutureとcontinuous over-and-over running suture二重縫合を行った.術後経過は良好であった.病理検査では,瘤壁内に残存した心筋を認め,偽性仮性左室瘤と診断された.心尖部に出現した偽性仮性左室瘤は稀な病態であり,報告する.

  • 杉本 聡, 山下 知剛, 山内 英智
    2025 年54 巻4 号 p. 168-173
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    IgG4関連疾患は,IgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする全身性の線維性炎症性疾患で,IgG4関連動脈疾患の報告が増えてきているものの,その中でも冠動脈病変は稀である.今回われわれは,難治性血性心嚢液を契機に診断されたIgG4関連冠動脈周囲炎の1治験例を報告する.症例は79歳,男性.1年前に心筋梗塞を発症しPCIを施行された.血性心嚢液の貯留とそれに伴う心不全を発症し,穿刺心嚢ドレナージと薬物療法で一過性に改善するも心嚢液再貯留を繰り返した.血性心嚢液の原因精査で悪性疾患や膠原病は否定的であり,冠動脈周囲腫瘍を認めたため生検と心嚢ドレナージ目的に当科紹介となった.手術は胸骨正中切開アプローチで,右冠動脈周囲に右房室間溝を跨るように腫瘤を認め,表面を一部切除して病理へ提出し,心膜腹膜開窓術を施行した.病理細胞診でIgG4陽性形質細胞浸潤を認め,IgG4関連冠動脈周囲炎の診断となった.術後はステロイド投与することなく,心嚢液は再貯留せず,また心不全や狭心症も発症しなかった.手術から11年後,肺癌で亡くなるまで良好に経過した.難治性血性心嚢液を伴う冠動脈周囲腫瘍に対して悪性疾患や膠原病だけではなく,IgG4関連冠動脈周囲炎を考慮することが重要である.

症例報告 [大血管]
  • 鉢呂 康平, 勝山 和彦, 山田 知行, 鈴木 友彰
    2025 年54 巻4 号 p. 174-177
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    症例は63歳,男性.突然発症の両下肢痛を主訴に当院へ救急搬送された.造影CTで大動脈閉塞を伴う腹部大動脈瘤と両側総腸骨動脈瘤を認めた.両側外腸骨動脈から両側浅大腿動脈にかけての造影効果は改善していたが,右膝窩動脈で再度血流は途絶していた.急性下肢動脈閉塞症を伴う急性大動脈閉塞症に対して緊急手術を行うこととした.まず腹部正中切開を行って大動脈を露出し,腹部大動脈と両側総腸骨動脈を遮断して16×8 mmの分岐型人工血管による中枢側吻合を行った.次に右総大腿動脈に縦切開を加えて右膝窩動脈の血栓除去を行い,人工血管の右脚を後腹膜下経由で右鼠径部に誘導して端側吻合を行って右下肢の灌流を再開した.左脚も同様に左鼠径部に誘導して左総大腿動脈に端側吻合し,両側総腸骨動脈をそれぞれの外・内腸骨動脈分岐部直上で閉鎖して手術を終了とした.術後の造影CTでは両下肢の血流は改善していたが,右下腿の筋肉に一部壊死所見を認めていた.術直後から右下垂足の症状を認めていたが,徐々に運動機能は改善を認め術後32日目に杖歩行で自宅退院となった.

  • 西田 佑児, 北澤 直樹, 齋藤 直毅
    2025 年54 巻4 号 p. 178-183
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    本症例は86歳女性で,嗄声を主訴に紹介され,CTにて遠位弓部大動脈に最大55 mmの嚢状大動脈瘤を認めた.術前の冠動脈造影で左前下行枝に有意狭窄が確認された.左鎖骨下動脈debranchを伴う胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)が実施された.手術終了間際,突然の心停止に至ったため,心肺蘇生を行いつつ開胸心マッサージ・下行大動脈の遮断・体外式膜型人工肺装置(ECMO)を導入し,血行動態を安定化させたのちに診断を進めたところ,右外腸骨動脈損傷による出血が認められたため人工血管置換術を施行した.心機能低下によりECMOからの離脱が困難となり,冠動脈バイパス術(CABG)を追加施行した.術後は神経学的異常を認めず,リハビリテーション目的の転院を経て,術後約2カ月で自宅に退院し,日常生活に復帰した.本症例は,術中アクセスルート損傷の迅速な診断と治療が救命に寄与したことを示しており,特に高齢患者や併存疾患を有する症例においては,事前のリスク評価と緊急対応体制の整備が重要である.

  • 中村 優飛, 髙木 寿人
    2025 年54 巻4 号 p. 184-190
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    症例は69歳の男性で,B型亜急性の大動脈解離(aortic dissection; AD)に対して,偽腔拡大予防の胸部大動脈ステントグラフト(thoracic aortic stent graft; TA-SG)内挿術(thoracic endovascular aortic repair; TEVAR)を行った.19カ月後に発熱・倦怠感を来し,GaシンチグラフィでTA-SGにRI集積を認め,TA-SG感染と診断し抗生剤治療を行った.いったん軽快したが,その後感染の再燃で3回の入院を繰り返した.31カ月後に背部痛を来し,TA-SG末梢端のmigrationを認めたため,追加TEVARを行った.この1カ月後に,当日の抜歯後歯痛・頭痛で入院した.胸部症状はなかったが,翌日に突然心肺停止となり死亡した.剖検ではTA-SGと大動脈壁の間から排膿があり,2カ所の大動脈食道瘻(aorto-esophageal fistula; AEF)と大動脈基部破裂を認めた.TA-SG中枢端より離れた部位にエントリーを持ち,TA-SGとは無関係に発症したA型急性AD破裂と診断した.持続的な菌血症は潜在的であっても,炎症性サイトカイン発現や脈管栄養血管塞栓症などの機序で,大動脈壁に瘻孔や解離をもたらす可能性がある.本症例ではTA-SG感染による持続的な菌血症がAEFの発生に関連し,またA型急性ADを発症せしめたと考えられた.吐血などの典型的な症状が見られない場合には診断が難しいが,TEVAR後の持続的菌血症状態ではAEFを含めた,大動脈脆弱化による変化を念頭に置く必要がある.

症例報告 [末梢血管]
  • 上田 秀保, 飯野 賢治, 坂井 亜衣, 北澤 直樹, 中堀 洋樹, 山本 宜孝, 村田 明, 竹村 博文
    2025 年54 巻4 号 p. 191-194
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,女性.最大短径33 mmの内胸動脈瘤を認め,加療目的で当科紹介となった.血管内治療の適応と判断し,大腿動脈アプローチによるコイル塞栓術を試みた。しかし,瘤内の壁在血栓にカテーテルが迷入し,流出血管への到達が不可能であったため,血管内治療を断念した.その後,内胸動脈瘤の流出血管のコイル塞栓術を行うために,Chamberlain法(傍胸骨横切開)で内胸動脈を外科的に露出した.露出した内胸動脈を直接穿刺し逆行性アプローチで内胸動脈瘤の流出血管に対してコイル塞栓術を施行した.さらに,内胸動脈瘤への流入血管に対しては左上腕動脈アプローチからコイル塞栓術を行うhybrid手術を行った.術後CTでは内胸動脈瘤の完全血栓化を認め,退院後のfollow-up CTでは内胸動脈瘤の縮小を認めている.内胸動脈瘤に対してChamberlain法(傍胸骨横切開)による内胸動脈への直接アプローチは,開胸操作を要さないため高齢者や耐術能に乏しい症例に対して有効であると考え,文献的考察を交えて報告する.

各分野の進捗状況(2024)
第55回日本心臓血管外科学会学術総会 優秀演題
U-40 特別企画コラム 第55回日本心臓血管外科学会学術総会
  • 衣笠 由祐, 廣瀬 聡一郎, 濱田 雄一郎, 松野 祐太朗, 池田 千晶, 呉 晟名, 上野 匠海, 堀江 弘夢, 吉川 侑希, 杭ノ瀬 慶 ...
    2025 年54 巻4 号 p. 4-U1-4-U6
    発行日: 2025/07/15
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    急性大動脈解離手術は若手心臓血管外科医にとって目指すべき1つの目標である.各人は術者を勝ち取るために,それぞれの施設の手術を必死に覚え修練に励んでいる.他方,大動脈解離手術については標準化されていない部分も多く,意外と施設間でさまざまな違いがある.そこで今回,若手心臓血管外科医が自施設のやり方や自身の考え方について全国内での立ち位置を知るとともに,日常感じている疑問なども共有し,今後の大動脈解離診療に活用したいという思いからアンケートを実施したため,その結果を報告する.

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