日本心臓血管外科学会雑誌
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54 巻, 5 号
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巻頭言
症例報告[先天性疾患]
  • 宮崎 隆子, 新川 武史
    2025 年54 巻5 号 p. 207-211
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    心室中隔欠損症(VSD)経過観察中断後に右室流出路狭窄が進行したと考えられる右室二腔症(DCRV)の成人例を経験したので報告する.症例は30歳代女性.生直後にVSDと診断され,乳児期と幼少期に感染性心内膜炎による入院歴あり.VSDに対しては定期経過観察されていたが,就職を契機に受診が中断していた.定期経過観察中断後10年以上経過し,労作時息切れと胸痛を主訴にかかりつけ医を受診し,VSDの評価目的に当院紹介となった.心エコーでVSDとDCRVを認め,VSDは5×4 mmと微小であったが,DCRV狭窄部の最大流速が4.87 m/sであり,外科的治療適応と判断した.手術は経右房アプローチで右室内狭窄解除術を施行.術後右室内狭窄は解除され,現在外来で経過観察中である.DCRV成人例は稀であり,DCRVという疾患概念への認識不足や症状の非特異性により,成人期DCRVは診断困難である.よって,本疾患概念を念頭において診療にあたることが重要と思われる.また,狭小な心室中隔欠損であっても継続した経過観察が必要であると考える.

症例報告[成人心臓]
  • 古山 ゆりあ, 川田 幸太, 亀田 徹, 小山 真, 吉川 翼, 判治 永律香, 矢尾 尊英, 大熊 新之介, 川崎 宗泰, 藤井 毅郎
    2025 年54 巻5 号 p. 212-215
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    症例は66歳男性.健診で心電図異常を指摘され循環器内科を受診した.CT検査で瘤を形成した胸部大動脈肺動脈瘻および肺動脈基部前面に瘤を伴った冠動脈肺動脈瘻を認めたため当科紹介となった.無症状であったが,冠動脈肺動脈瘻を伴った瘤は約20 mmで破裂の危険性があることからコイル塞栓術と外科的治療の方針とした.最初に胸部大動脈肺動脈瘻に対してコイル塞栓術を施行した.つづいて,胸骨正中切開でアプローチし,左右の冠動脈から肺動脈へ多数の蛇行した異常血管と肺動脈基部に瘤を認めたため,人工心肺下で瘤を剥離切除し,肺動脈瘻開口部を結紮縫合閉鎖した.術中の冠動脈造影と術後心臓CT検査では異常血管と瘤は消失し,経過良好にて退院となった.瘤を伴った胸部大動脈肺動脈瘻および左冠動脈肺動脈瘻に対してコイル塞栓術と瘤切除術・瘻閉鎖術による一期的手術を施行した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

  • 権代 竜郎, 沼田 智, 高橋 昂久, 中島 智仁, 岡本 雲平, 夜久 裕亮, 小田 晋一郎
    2025 年54 巻5 号 p. 216-219
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    症例は75歳男性.僧帽弁形成術,自己心膜製ステントレス弁による僧帽弁置換術,機械弁による僧帽弁置換術と3度の心臓手術歴があり,最終手術から6年が経過していた.利尿薬抵抗性の下腿浮腫が出現し,精査で心嚢内慢性拡張性血腫による右心不全が原因と考えられた.心不全改善目的に左側開胸で血腫摘除術を施行し症状の改善を得た.血腫は以前の閉胸時に使用されたePTFE心膜シートに被覆されるように貯留していた.慢性拡張性血腫は稀な病態であり,今回ePTFE心膜シートによる広範囲被覆が血腫形成に影響を与えた可能性が示唆されたため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 眞庭 優, 鬼塚 大史, 栗栖 和宏, 上野 安孝, 塩瀬 明
    2025 年54 巻5 号 p. 220-222
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    症例は53歳男性,強直性脊椎炎で加療中に労作時呼吸苦の増悪を認めた.心臓超音波検査で重症大動脈弁閉鎖不全症を指摘され大動脈弁置換術を施行した.比較的若年のために人工弁は機械弁(SJM Regent 21 mm)を選択した.術直後の経過は良好であったが術後5週目でしだいに心不全の増悪あり,術後52日目に心臓超音波検査で間欠的な経弁逆流を認めた.弁透視検査で間欠的な開放位固定が確認され人工弁不全の診断となった.造影CTを施行したものの人工弁周囲に血栓や組織形成を疑うような造影欠損は認めなかった.術後56日目に大動脈弁再置換術(On-X 21 mm)を施行した.術中に明らかな構造的異常は指摘できなかったため,弁輪部の圧迫による変形が弁不全の原因と考えられた.蝶番部分の変形により開閉不全を生じた機械弁の症例を経験したので報告する.

  • 池淵 正彦, 木村 優希, 瀧 亮佑, 田埜 和利
    2025 年54 巻5 号 p. 223-227
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    症例は幼少期にファロー四徴症で心内修復術を受けている52歳の完全内臓逆位の男性.50歳時に左中大脳動脈の脳塞栓症で血栓回収術を受け,後遺症なく回復.Holter心電図,心エコー検査,造影CT検査などで塞栓源が同定できないまま抗凝固療法が開始された.心エコー検査では中等度の大動脈弁閉鎖不全症(AR)を認めたが,左室拡大なく自覚症状もなかった.その後,52歳時に心不全で入院し,ARの増悪と,大動脈基部拡張症,三尖弁閉鎖不全症,単冠動脈,逆位の左上大静脈遺残(PLSVC)が確認された.PLSVCは左房還流型であり,脳塞栓症を生じた奇異性塞栓症の原因病変と診断した.本症例に対し,ベントール手術,三尖弁形成術,PLSVC結紮術を行ったので,文献的考察を加えて報告する.

  • 風間 慎太朗, 中村 喜次, 安元 勇人, 新妻 楠望, 中山 泰介, 鶴田 亮, 伊藤 雄二郎, 林 祐次郎, 鹿田 文昭
    2025 年54 巻5 号 p. 228-232
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    重症大動脈弁閉鎖不全症に大動脈弁下狭窄症を合併した患者に,Y-incision techniqueでの弁輪拡大術,大動脈弁下線維性肥厚部・異常心筋切除,大動脈弁置換を施行した1例について報告する.大動脈弁下狭窄症は先天性心疾患として知られており,成人症例での報告は少ない.大動脈弁置換が必要な症例の場合,左室流出路狭窄に対して肥厚心筋切除のみでは狭窄部解除が不十分な可能性がある場合,Konno法による弁輪拡大と大動脈弁置換が選択されることが多い.一方,近年Y-incision techniqueによる弁輪拡大の報告がある.従来のManouguian法,Konno法と異なり左房や僧帽弁,右室流出路への侵襲を加えず弁輪拡大することが可能であることが報告されている.本症例において従来であればKonno法が検討されるところではあるが,術前CT・心エコーではY-incision techniqueによる大動脈弁輪拡大と線維性肥厚部・異常心筋切除が可能と考えられ,良好な結果を得られた1例を経験したため報告する.

  • 大城 規和, 吉田 毅, 樋口 卓也, 川島 隆
    2025 年54 巻5 号 p. 233-236
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    症例は48歳女性,ストレスがたまると針を前胸部に刺す自傷を繰り返し,過去に3回の開胸手術,8回以上の針を抜く処置を施行していた.今回は左前胸部に針を刺しその後持続する胸痛で受診した.針は皮下に埋没し体表からは確認できず,CTで皮下1 cmから右室内腔へ到達した長さ6 cmの針を認めた.心嚢液貯留は認めず循環動態は安定していたが,心拍動により針が前進し左室へ穿通する可能性,心損傷が拡大する可能性があり緊急で手術を施行した.開胸手術や針抜去の処置を繰り返しており縦隔は高度癒着が予想され,また開胸に伴う心損傷拡大のリスクが高く,人工心肺補助下で開胸した.経食道超音波で針の先端を確認し針が進まないように注意し開胸した.右室へ穿通している針を確認,針周囲へ4-0モノフィラメントプレジェット付きをU字に縫合し針を抜去した.抜去後,経食道超音波で心室中隔穿孔がないことを確認し手術を終えた.術後2日目でドレーン抜去,術後6日目にかかりつけの精神病院へ医療措入院となった.

症例報告[大血管]
症例報告[末梢血管]
  • 渡部 こずえ, 須原 正光, 重松 邦広, 小櫃 由樹生
    2025 年54 巻5 号 p. 247-250
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    症例は58歳男性.蛋白尿を契機に13歳時に慢性糸球体腎炎と診断された.徐々に腎機能が低下し,26歳で血液透析導入となった.38歳で生体腎移植を施行された.3年前より右下肢間歇性跛行を認めていたが,跛行症状の増悪を認めたため当科紹介となった.造影CTで右総腸骨動脈全長と右総大腿動脈に高度石灰化に伴う高度狭窄を認め,間歇性跛行の原因と考えられた.また,移植腎動脈は右外腸骨動脈に吻合されていた.入院時,降圧薬内服中にもかかわらず著明な高血圧を認めたため,血漿レニン濃度を測定したところ126 pg/mlと上昇していた.後方視的には約1年前よりクレアチニン値の上昇も認めていた.移植腎動脈吻合部より中枢の総腸骨動脈狭窄により移植腎血流低下をきたし,腎血管性高血圧と移植腎機能低下も併発していると考えられた.血行再建として右総大腿動脈血栓内膜摘除術・両側総腸骨動脈ステントグラフト留置術を施行した結果,間歇性跛行の改善とともにレニン濃度の低下・高血圧症の改善・クレアチニン値の改善も得られた.腎移植患者において移植腎機能低下が疑われる場合,中枢動脈の狭窄病変も鑑別として考慮すべきと考えられたため,文献的考察を加えて報告する.

各分野の進捗状況(2024)
U-40企画コラム
  • 永瀬 崇, 辻本 貴紀, 本宮 久之, 藤内 康平, 北方 悠太, 野田 和樹
    2025 年54 巻5 号 p. 5-U1-5-U5
    発行日: 2025/09/15
    公開日: 2025/09/26
    ジャーナル フリー

    本稿では若手心臓血管外科医における国内留学の実情について,筆者の留学体験とアンケート調査結果を踏まえて概説した.筆者は2023年4月より1年間福岡市立こども病院心臓血管外科に国内留学し,豊富な小児心臓外科手術の経験に加え,臨床研究・学会発表の機会を得た.この経験について家族での引越し・育児支援体制の構築など,生活面での工夫も含めて報告する.さらに全国のU-40幹事を対象としたアンケート調査を実施し,国内留学の動機・成果・課題を分析した.その結果,国内留学は多くの若手医師が肯定的に評価し,症例経験や知識習得,人脈形成に有用であると考えている一方で,情報不足や人事的制約,生活環境の変化が弊害となっているという意見も認めた.今後は医局の理解,ならびに医局の垣根を越えた支援体制と情報共有の強化が,国内留学普及の鍵になると考えられる.

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