発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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14 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 清水 武, 根ケ山 光一
    原稿種別: 本文
    2003 年 14 巻 2 号 p. 113-123
    発行日: 2003/08/15
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    手に持ったものを振ることによって,対象の物理的特徴が視覚に頼らずとも知覚可能であるという。本研究は,このダイナミックタッチと呼ばれる触の探索について,知覚系(Gibson, 1966)の概念に従い,発達的に検討をおこなった。探索を検討するにあたり,集団内および個体内での多様性に注目し,システムがより安定した接触形態を模索する発達過程として捉えた。実験は小学生児童21人と大学生14人を対象に棒の長さ知覚課題を設定し,長さを探索する際の棒の持ちかたと振りかたを観察した。結果より,子どもでは特に棒の把握形態に,大人では棒を振る方向について個体内での変動が大きいことが示された。対象を振って知覚するダイナミックタッチの探索は,大人において洗練が進む過程にあり,子どもにおいては振りかたか探されはじめる時期にあると考えられた。最後に,今後の検討課題に関する議論がなされた。
  • 富田 昌平, 小坂 圭子, 古賀 美幸, 清水 聡子
    原稿種別: 本文
    2003 年 14 巻 2 号 p. 124-135
    発行日: 2003/08/15
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,Harris, Brown, Marriott, Whittall, & Harmer (1991)の空箱課題を用いて,幼児の想像の現実性判断における状況の迫真性,実在性認識,感情喚起の影響について検討した。2つの実験において,実験者は被験児に2つの空箱を見せ,どちらか一方の箱の中に怪物を想像するように要求した。その際,実験者は披験児に怪物の絵を見せ,その実在性の判断を尋ねた。想像した内容についての言語的判断と実際的行動を求めた後,実験者は被験児を部屋に一人で残し,その間の行動を隠しカメラで記録した。最後に,実験者は被験児に想像した内容についての言語的判断と感情報告を求めた。状況の迫真性の影響は,実験者が事前に怪物のお話を問かせる例話条件,実験者が魔女の扮装をしている扮装条件,それらの操作を行わない統制条件との比較によって検討した。実在性認識と感情喚起は,それらの質問に対する回答と他の測度での反応との関連から検討した。以上の結果,(1)状況の迫真性の影響は場面限定的であること,(2)実在性認識の影響は言語的判断における信念の揺らぎに見られること, (3)感情喚起の影響は部屋に一人で残されたときの自発的な行動において見られることが示された。
  • 登張 真稲
    原稿種別: 本文
    2003 年 14 巻 2 号 p. 136-148
    発行日: 2003/08/15
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    既存の複数の共感性尺度をもとに、新たな項目も加えて青年期用の新たな多次元的共感性尺度を作成した。この尺度は共感的関心(他者の不運な感情体験に対し,自分も同じような気持ちになり,他者の状況に対応した,他者志向の暖かい気持ちをもつ),個人的苦痛(他者の苦痛に対して,不安や苦痛など,他者に向かわない自分中心の感情的反応をする),ファンタジー(小説や映画などに登場する架空の他者に感情移入する),気持ちの想像(他者の気持ちや状況を想像する)の4下位尺度からなり,青年前期・中期・後期を通して同じ意味内容で検討でき,利用できる尺度である。既存の共感性尺度や向社会的行動尺度との関係,項目分析,信頼性分析によって尺度の妥当性,信頼性が確認された。この尺度を用いて中学生,高校生,大学生の共感性の発達を検討したところ,男子はどの下位尺度得点も中学生では女子より低いが,共感的関心と気持ちの想像は高校生,大学生と徐々に高くなり,性差は減少する。また,共感的関心と気持ちの想像が高い男子の場合,中学生から高校生にかけて,個人的苦痛を感じる人の比率が高くなり,気持ちの想像が高い男子の場合は高校生から大学生にかけて,個人的苦痛が低い人が増えるという変化がみられた。女子の場合は,共感的関心と気持ちの想像は中学3年生が高いが,その後はやや減少し,ファンタジーが高校生より大学生が高いほかは,顕著な発達的変化はみられなかった。
  • 赤木 和重
    原稿種別: 本文
    2003 年 14 巻 2 号 p. 149-160
    発行日: 2003/08/15
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,青年期自閉症者における鏡像認知の特徴を明らかにすることである。特に,(1)マークが添付された自己像を認識しても自発的にはマークに触らない自閉症者がいるかどうか,(2)マークが添付された自己像を認識した時点で,他者にどのようにこの事態を伝達するかについて明らかにすることを目的とした。知的障害者通所授産施設に在籍する青年期自閉症者35名を対象に,表象機能の発達水準が類似した健常幼児51名と比較した。マークを触るのを引き出すような誘導条件を設定し,マーク課題を行った。その結果,(1)自発的にはマークを触らないが,他者からの働きかけに応じて自己像のマークを触る者が健常児よりも青年期自閉症者に多く見られること。しかも特に一定の発達的特徴をもつ者にみられやすいこと,(2)青年期自閉症者も健常児と同様に,マークのついた自己像を見てとまどいを示す反応をみせるが,そのとまどいを他者に伝達する行動を示しにくいこと,が明らかになった。以上の結果は,生活年齢を重ねた青年期自閉症者の自己認識の特徴や自閉症のコミュニケーションの特徴との関連で考察された。
  • 福田 佳織
    原稿種別: 本文
    2003 年 14 巻 2 号 p. 161-171
    発行日: 2003/08/15
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,家庭の夕食場面における母親・父親の幼児への摂食促し行動と幼児の情動状態(ポジティブ・ネガティブ)との関連を検討した。また,家族システム論的視点を援用して,母親の摂食促し行動と父親の摂食促し行動の関連,それらの行動と夫婦関係性変数および家族成員の人日読静学的変数との関連を検討した。対象は,4,5歳児を持ち,父母がそろった家庭である。分析には,家族全員がそろった家庭内の夕食場面のビデオ撮影(2回),夫婦関係性および人口統計学的変数を尋ねる質問紙の全データがそろった28家庭を用いた。その結果,母親・父親の摂食促し行動が強いほど幼児のネガティブな情動状態が強いという結果が得られた。さらに,母親が夫婦関係性を良好でないと評価しているほど母親の摂食促し行動が強く,また,対象児の月齢が低いほど,母親も父親も摂食促し行動が強いことが示された。これらの結果は,限定的ではあるが,母親・父親の養育行動と幼児の情動状態が強く関係することを実証的に示したものであり,また,家族システム論の主張とほぼ一致するものであったといえるだろう。
  • 三好 昭子
    原稿種別: 本文
    2003 年 14 巻 2 号 p. 172-179
    発行日: 2003/08/15
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では人間の主観的な感覚に焦点を当て,たいていのことはできるような気がするという感覚そのものを直接的に測定する主観的な感覚としての人格特性的自己効力感尺度(the Scale Measuring aSense of Generalized Self-Efficacy, 以下, SMSGSE)を作成した。これは,人間の内にある「主観的な感覚としての人格特性的自己効力感」(a Sense of Generalized Self-Efficacy, 以下,主観的な感覚としてのGSE)を反映して外に表れる行動特性を測定するための尺度ではなく,内にある主観的な感覚としてのGSEそのもの,すなわち全般的感覚レベルのGSEを測定するための尺度である。研究1では224名の大学生を対象に質問紙調査を実施し,SMSGSEの信頼性と妥当性について量的に検討した結果,SMSGSEは男女によって平均値に違いのない安定した1因子構造であり,信頼性も高かった。さらに内容的妥当性,構成概念妥当性,基準関連妥当性も高く,6項目の洗練された尺度であることが示された。研究2ではSMSGSE得点の高・中・低得点群,各5名,3名,4名を対象に面接調査を行った。その結果,SMSGSEは日常生活におけるひとりひとりの人間の主観的な感覚としてのGSEを適切に測定しており,併存的妥当性の高いことも示された。今後SMSGSEは,主観的な感覚としてのGSEを測定するために利用されることが期待される。
  • 小野寺 敦子
    原稿種別: 本文
    2003 年 14 巻 2 号 p. 180-190
    発行日: 2003/08/15
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    妊娠7-8ヵ月から親になって3年間の間にどのように自己概念が変化するかに焦点をあてて検討した。自己概念は,「活動性」「怒り・イライラ」「情緒不安定」「養護性」「神経質」「未成熟」の6尺度,さらには可能自己,自尊感情の視点から縦断研究を行って検討した。その結果,女性は母親になると「怒り・イライラ」が徐々に強くなってきたと自己をとらえていたが,他の5尺度では有意な変化はみられなかった。これは男女ともに気質的な側面を示す自己概念は親になっても比較的安定していることを示している。また親になる前後にみられた自己概念全体のズレの要因を検討した。女性の場合は妊娠期における身体的・精神的戸惑いが,男性の場合は,育児の否定的側面のイメージが希薄であることと,学歴が低いことが自己概念全体のズレと関連していた。また女性は母親になると自尊感情が低くなる傾向がみられた。次に,親としての役割意識の変化を"3つの自分"という観点から検討した。その結果,男女で大きな相違が見られた。女性は母親になると「社会にかかわる自分」が小さくなり「母親としての自分」が大きくなっていた。しかし男性は父親になってからも「父親としての自分」の大きさは変化せず「社会にかかわる自分」の割合が大きくなっていた。
  • 酒井 厚, 菅原 ますみ, 菅原 健介, 木島 伸彦, 眞榮城 和美, 詫摩 武俊, 天羽 幸子
    原稿種別: 本文
    2003 年 14 巻 2 号 p. 191-200
    発行日: 2003/08/15
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    子どもが親に抱く対人的信頼感は,どのような要因に影響されるのか。従来の研究では,養育者側の環境的な要因と,気質などの子ども側の生得的な要因による影響を別々に検討してきた。本研究では,これら2つの要因の影響を同時に検討するため,人間行動遺伝学的な視点から,子どもが親に抱く対人的信頼感への遺伝要因と環境要因の影響について検討した。児童・思春期(小学校4年生〜中学校3年生)の双生児381組(一卵性215組:二卵性166組)を対象とし,子どもが親に抱く対人的信頼感への遺伝要因と環境要因の相対的な影響率について,子どもの発達段階ごとに単変量遺伝解析を用いて検討した。その結果,子どもが親に抱く対人的信頼感への遺伝要因と環境要因の相対的な影響率は,子どもの発達段階により異なり,相手が母親か父親かによっても異なっていた。また,同一遺伝子を有する一卵性双生児のきょうだいを対象に,親から受ける養育態度を子どもがどう認知しているかによって,親への対人的信頼感が異なるかどうかについて検討した。その結果,親からの養育をより暖かいものと認知している子どもの方が,そうでない子どもよりも親への対人的信頼感が有意に高かった。同一遺伝子を有し成長過程が比較的類似する一卵性双生児においても,養育態度という環境要因によって親への対人的信頼感が異なることが示された。
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