発達心理学研究
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16 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 野村 晴夫
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 109-121
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では, 高齢者の人生転機の語りに基づき, 構造的一貫性に着目したナラティヴ分析の方法論的検討を目的とした。一高齢女性の転機の語りを材料として, まず, Habermas & Bluck (2000)の提起した, ライフストーリーにおける時間的・因果的・主題的一貫性の分析枠組みに依拠し, 高齢者の語りを分析するための下位カテゴリーを抽出した。その後, 理論的な推測を考慮しつつ, 当初の分析枠組みを検討することによって, 新たに語りの状況要因を加味した状況的一貫性の分析枠組みを付加し, 同様にその下位カテゴリーを抽出した。その結果, 故人や神仏等の超越的他者に起因する因果的一貫性や, 聞き手との相互性を考慮した状況的一貫性等, 物語様のさまざまな構造を把捉し得る分析カテゴリーが, 見出された。そして, 最終的に得た分析カテゴリーを用いて, 調査対象者の転機の語りを分析し, 転機に付与された意味づけを考察した。本研究の試みから, 仮説的分析枠組みに基づく分析カテゴリーを用いることによって, 高齢者の転機の語りの構造的一貫性を具体的に分析する方途が示唆された。
  • 江上 園子
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 122-134
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    母親の「母性愛」を信奉する傾向がポジティヴな結果をもたらすだけではなく, 子どもの発達水準の認知という要因との交絡によっては養育場面でネガティヴに転化するという可能性を実証した。研究Iでは, この「『母性愛』信奉傾向」を「社会文化的通念である伝統的性役割観に基づいた母親役割を信じそれに従って養育を実践する傾向」と定義し, 「『母性愛』信奉傾向尺度」を作成し, 信頼性・妥当性についての検討を行った。研究IIでは, この尺度を用いて, 「母性愛」信奉傾向が高く子どもの発達水準を低いものであると認知している母親の場合は, 怒りの感情制御が困難になるという仮説の検証を行った。その結果, 「母性愛」信奉傾向と子どもの発達水準との交互作用が怒りの感情制御に影響することを一部で明らかにした。つまり, 子どもの発達水準が高い場合は「母性愛」信奉傾向の高さはポジティヴに作用するが, 発達水準が低い場合はポジティヴに作用せず, むしろネガティヴな影響を与えうることが示唆された。したがって本研究は, ポジティヴ/ネガティヴの二分法的に議論されがちな「母性愛」を両方の可能性を秘めたものとして解釈し, 「母性愛」を「両刃の剣」であると結論した。
  • 山名 裕子
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 135-144
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究での目的は, 均等配分方略の選択が皿1枚あたりのチップの数によって変化するかどうかを検討することである。配分するチップが4個から20個, 配分先の皿の枚数が2, 3, 4枚の組み合わせによって9課題が設定され, 就学前の幼児160名がチップをお皿に分けるという配分課題に参加した。その結果, 配分するチップの数が少ない課題では, 3歳の幼児でも8割が正しく配分ができること, また3, 4歳では配分するチップの個数が多くなるほど正答者数が少なくなるが, 6歳ではどのような課題でも8割の幼児が正しく配分できるようになることが示された。選択された方略の分析から, 高度なユニット(unit)方略が5, 6歳で多く選択されるような課題があることも示された。このユニット方略とは, 配分する前に, 皿1枚あたりの数を何らかのレベルで把握し, 一巡(1回通り)でチップを配分する皿に分けていく方略と定義される(山名, 2002)。ユニット方略のように皿1枚あたりのチップを配分前に把握できていなくても, 一巡目に配分していくチップの数がバラバラではなく, 1個, あるいは2個以上のまとまりを形成しながら配分していくことが示唆された。このような皿1枚あたりの数を検討づけるような, 見積もりという点がわり算につながるようなインフォーマル算数の知識の視点として, 重要なことが示唆された。
  • 中川 佳子, 小山 高正, 須賀 哲夫
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 145-155
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では, 日本語文法理解における発達の順序性とその獲得時期を検討するために, 幼児期から児童期における文法能力を評価した。日本語を母語とする3歳から12歳までの390人の被検児を対象に日本語文法テスト(J.COSS : JWU, Japanese test for Comprehension of Syntax and Semantics)を用いて横断的調査を行った結果, 以下のような可能性が示唆された。(1)尺度分析の再現率が信頼できる範囲であったことから, 20項目の発達の順序性は通過率に伴い段階状であった。また, 複雑性という視点から, 構成要素数・視点の置き方・語順方略と助詞方略・文の構造・接続助詞という機能について発達の順序性を分析した。(2)通過率が50%という操作的定義にもとづき文法20項目の獲得時期が示された。この獲得時期は, 手続きの違いにより多少異なる項目もあったが, 従来の研究とほぼ同様の時期が示された。(3)誤反応分析から日本語母語児がどのように文を誤って解釈しているかが示され, 日本語文法理解の発達的変化が明らかになった。
  • 長屋 佐和子
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 156-164
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    0〜24ヶ月児の母親(120名)を対象として, 自身の子どもの性別・数・年齢が乳幼児表情写真(IFEEL Pictures)に対する情緒読み取り傾向に与える影響について検討した。その結果, (1)情緒読み取りには子どもの性差の影響が認められ, 息子をもつ母親に比べて娘をもつ母親のほうが受動的な情緒(「恥」・「注意」)の読み取りが多い, (2)子どもが1人の場合は息子をもつ母親のほうが「不満」に注意を払う傾向があり, 子どもが複数の場合は娘をもつ母親のほうが受動的情緒(「恥」・「注意」)の読み取りが多い, (3)子どもの数にかかわらず, 息子をもつ母親は子どもの年齢が高くなるほど「自己主張」および肯定的情緒を多く読み取る傾向があるが, 娘の場合にはそのような関係が見られない, (4)子どもが複数の場合, 息子との関係では, 子どもの年齢が高くなると「対象希求」が増加, 「我慢」が減少する傾向がある, などの所見が得られた。従来の観察研究によれば, 母親は息子との間に肯定的な関係性を維持する傾向があるのに対し, 娘との間では多様な情緒による相互作用が行われる, とされてきた。本研究の所見から, 母子の行動上の特徴だけでなく, 母親側の認知側面においても同様の傾向が確認された。このように母親の認知面に注目することによって, 今後さらに母子相互作用の様相が明らかになると同時に, その所見の臨床場面への応用が可能になると思われる。
  • 中川 美和, 山崎 晃
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 165-174
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    謝罪には誠実な謝罪と道具的謝罪がある。誠実な謝罪には, 違反に対する責任の受容と被害者に対する罪悪感の認識が必要とされる。研究1では, 5, 6歳児を対象として, 謝罪する際に責任を受容し罪悪感を認識するかを確認することによって, 誠実な謝罪の出現時期を明らかにした。その結果, 6歳児では, ほとんどの者が謝罪する際に責任を受容し罪悪感を認識すると回答したのに対し, 5歳児ではほとんどの者が責任は受容すると回答したものの, 罪悪感を認識すると回答した者は約半数に留まった。このことから, ほとんどの子において誠実な謝罪の必要条件が整うのは6歳児になってからであることが示された。続いて研究2では, 5歳児を対象として, 被害者の感情を推測させることが加害者における被害者に対する罪悪感を高めるかを明らかにすることによって, 他者感情推測が誠実な謝罪に与える影響を検討した。その結果, 5歳児であっても, 被害者の抱くネガティブな感情を推測することによって, 謝罪する際違反に対する責任を受容するだけでなく被害者に対して罪悪感を認識すると回答した者が多くなった。つまり, 被害者の感情を推測することによって, 責任の受容と罪悪感の認識という誠実な謝罪に必要な2つの条件が満たされることから, 他者感情推測は誠実な謝罪を促す要因であることが示された。
  • 丸山 真名美
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 175-184
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 児童における生活時間の階層的構造の発達と時間処理方略の発達を検討することであった。本研究の被験者は, 小学校1年生, 2年生, 3年生の合計78名であった。生活時間構造の階層性を検討するために「カード分類課題」, 時間処理方略を調べるために「間隔時間比較課題」を行った。また, 時間処理能力を「カード配列課題」によって検討した。その結果, (1) 1年生から2年生にかけて, 生活時間の階層構造は高次なものになること, (2)イメージ・システム処理能力は2年生から3年生にかけてより高次なものへと発達すること, (3)より高次な階層的時間構造を有しているものは, 課題に適切な時間処理方略を使用することが明らかになった。さらに, 時間処理方略も言語処理方略からイメージ処理方略の順に獲得されることも示された。最後に, 今後の課題について述べた。
  • 田中 浩司
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 185-192
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    幼児期の子ども達が, オニ役割・コ役割それぞれの役割を意識して鬼ごっこ遊びを行うようになる過程について, 発達的に検討した。実験は, 4歳児15名, 5歳児18名, 6歳児12名を対象とし, 仲の良い同年齢児3名に, 実験者1名を加えた4名で鬼ごっこ遊びが行われた。その結果, 4歳児ではオニ役割からコ役割, およびコ役割からオニ役割への役割交代が困難である場合が多く, 5・6歳児ではこれらの役割交代が可能である場合が多いことが明らかとなった。オニ役割において, 4歳児は複数の仲間を追いかけることは少なかった。また, 6歳児は, 捕まえようとする対象を変えながら, 複数のコ役割を追いかけていた。コ役割においては, 4歳児, 5歳児は, 6歳児と比べて, コ同士が接近した逃げ方をしていた。この結果から, 子ども達は加齢に伴い, オニ役割において集団全体を追いかけるコとして意識するようになり, 複数のコ役割を追いかけるようになることが示唆された。また, コ役割において子ども達は, 加齢に伴いオニとコとの関係を意識しながら, 他の仲間と距離をとって逃げるようになることが示唆された。以上の結果から, 実際の鬼ごっこ遊びで見られる仲間集団に向けられた意識が考察された。
  • 鈴木 亜由美
    原稿種別: 本文
    2005 年 16 巻 2 号 p. 193-202
    発行日: 2005/08/10
    公開日: 2017/07/24
    ジャーナル フリー
    本研究では, 幼児の自己調整機能の自己抑制的側面と自己主張的側面に注目し, 実験課題と仮想課題の2つを用いて, 両課題における反応の関連とその発達的変化を検討したものである。4〜6歳児101名を対象として, 魅力的なおもちゃに対する誘惑抵抗状況を自己抑制状況, 「後でこのおもちゃで遊ぼうね」という約束を忘れ去られてしまう状況を自己主張状況と設定し, それらの状況での被験児の行動を観察した。また, その状況下で自己抑制するか自己主張するかという認知が実際の行動に及ぼす影響を調べるために, 仮想的な対人葛藤状況における反応を同時に測定した。その結果, 仮想課題では年齢とともに状況に一致した反応を選択する子どもが増加するのに対し, 実験課題で状況に一致した行動をとる被験児の数には年齢差が見られなかった。また, 仮想課題と実験課題で一貫して状況に一致した反応を示す子どもは自己抑制状況では年齢とともに増加する傾向が見られたものの, 自己主張状況では年齢差が見られないことがわかった。自己主張状況では仮想課題で状況に一致した反応を選択する被験児でさえも, 実験課題では実際に自己主張することが難しいという可能性が示唆された。
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