発達心理学研究
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17 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 中道 圭人
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 2 号 p. 103-114
    発行日: 2006/08/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    幼児の条件推論にふりの設定が及ぼす影響を検討した。実験1では年少児(n=24)と年長児(n=28)を対象に,Nakamichi (2004)の4枚カード課題(経験的あるいは反経験的な条件式を与え,4枚のカードの中から条件式に対する違反を同定してもらう)での条件推論にふりの設定が及ぼす影響を検討した。その結果,年少児より年長児で,反経験的条件式より経験的条件式で推論遂行が良いことや,年長児はふりの設定によって反経験的条件式での条件推論が促進されることが示された。実験2では年少児(N=28)を対象に,詳細な説明を加えた"不思議な国にいる"というふりの設定の影響を検討した。その結果,実験1と同様に年少児の推論遂行はこのようなふりでも促進されず,年少児におけるふりの効果の無さはふりの理解し難さが原因ではないことが示された。これらの結果から,ふりの設定の条件推論への影響は,年齢により異なることが明らかとなった。
  • 小松 孝至
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 2 号 p. 115-125
    発行日: 2006/08/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,保育園に通園する女児1名とその母親が,保育園からの帰宅時を中心に,母親の運転する車内で録音した会話の記録(4歳4ヶ月〜5歳8ヶ月,のべ153日分,34時間)から,保育園で出会う友人と女児自身が関連づけて描かれる会話事例を分析し,会話における対象児の自己の構成とその発達的変化について考察した。50事例を分析した結果,能力,ままごとや演劇での役名などにもとづいて,対象児と友人が対比される表現がしばしばみられた。この表現を中心に発達的な変化を検討したところ,記録開始の時期には対象児自身と友人を単純に挙げるだけであった表現が,次第に対比の基準とは異なる観点からの情報が加えられて複雑化してゆき,最終期には,対比に加えて挙げられた友人の特徴を描くさまざまな説明や物語が組み込まれた会話事例がみられた。また,母親の役割も,子どもの表現を直接修正する支援者的な側面が弱まり,挙げられた友人や対象児について共同で話題を展開する,話し相手としての側面が強くみられるようになった。
  • 木村 美奈子, 加藤 義信
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 2 号 p. 126-137
    発行日: 2006/08/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,4,5,6歳児を対象に,映像を実在視せず表象として理解するようになるまでの発達プロセスを検討した。表象性理解の指標としては,映像世界と現実世界との(風の作用を介しての)インタラクションの可能性を子どもがどのように認識しているかを取り上げ,特に志向性の方向(映像は現実に影響を及ぼしえるか,現実は映像に影響を及ぼしえるか)と,その源泉がヒトであるかモノであるかの違いが子どもの認識に及ぼす効果を調べた。その結果,以下の二点が明らかとなった。(1)5歳前半までは映像とのインタラクションが可能であると考える子どもが多くみられたが,6歳台ではその可能性を否定する子どもが増加した。(2)志向性の方向と源泉についてはその効果がみられたが,年齢によって異なる現れ方をした。映像の表象性理解には従来考えられていたより長い発達的プロセスが必要であり,そこにおいては志向性の要因が影響を及ぼすことが示唆された。
  • 中川 愛, 松村 京子
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 2 号 p. 138-147
    発行日: 2006/08/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    養育者が乳幼児と関わりあう場合,大人に対する場合と異なる行動をする。一つは,声が高くなったり,発話速度がゆっくりになるmothereseという音声を発する。もう一つは,眉を上げたり口を大きく開けて顔の表情を誇張するといったmultimodal mothereseという行動で,養育者はこれらを直観的に行う。そこで本研究では,養育者にみられるこれらの行動が育児未経験で乳児との接触経験のない学生においてもみられるか否かを明らかにする目的で研究を行った。乳児との接触経験がない男子学生(18〜24歳)18名,女子学生(18〜22歳)14名を被験者とし,生後3〜4ヶ月の男児1名を対象乳児とし,実際に乳児をあやす場面で,学生が(1)どのようなあやし行動を行うのか,(2)どのようなあやし言葉を発するのか,(3)その音声にmothereseが出現するのかについて調べ,それらに(4)男女差はみられるのか検討を行った。男女とも乳児の機嫌が悪くならなかった学生は,multimodal mothereseとして知られる非接触的あやし行動や遊戯的音声を発言しながら乳児と関わっていた。一方,男女ともに乳児の機嫌が悪くなった学生は,身体運動的なあやしや接触的あやし行動,注意喚起や受容的な発言をしていた。しかし,そのどちらにおいても,男女ともにmothereseが出現していた。即ち,乳児との接触経験がなくてもmothereseが出現することが明らかになった。
  • 中谷 奈美子, 中谷 素之
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 2 号 p. 148-158
    発行日: 2006/08/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,子どもの反抗行動に対する母親の認知と虐待的行為の関係を,特に子どもの悪意や敵意と捉える「被害的認知」に着目して検討することであった。3〜4歳の子どもを持つ一般の母親270名に調査用紙を配布し,207名から協力を得た(回収率76.7%)。調査は,子どもの反抗に対する母親の認知,虐待的行為,さらに,認知を媒介として虐待的行為に影響を及ぼす要因として母親の育児ストレス,自尊感情,親に対する愛着,母親の就労,子どもの性別について測定された。重回帰分析の結果,予測した先行要因→認知的要因(媒介要因)→虐待的行為のプロセスが確認された。すなわち,虐待的行為に影響を及ぼす母親の認知特性は,子どもに対する否定的認知ではなく,母親の自尊感情の低さや育児ストレスの高さからもたらされる被害的認知であることが明らかにされた。また,先行要因として検討した育児ストレスは,認知の歪みをもたらすだけでなく,虐待的行為に直接正の影響を及ぼすこと,親に対する愛着は虐待的行為に負の影響を及ぼすことが明らかになった。以上の結果から,子どもの養育における母親の認知的要因の役割について議論され,児童虐待ハイリスクの母親に対して,認知の歪みや育児ストレスなどを考慮して介入することの重要性が示唆された。
  • 辻 あゆみ, 高山 佳子
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 2 号 p. 159-170
    発行日: 2006/08/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    辻・高山(2004)では,他者と互いの意図を調整しながらやりとりをすることが困難な自閉症児に対する支援のあり方を検討するために,一事例の自閉症児とその母親とのシャボン玉遊び場面でのやりとりを観察した。その結果,対象児は,母親との間でやりとり関係を成立させる中で,自分の行動を連続させることが多くなっていることが明らかになった。そこで,本研究においては,対象児と母親が注意を共有させながらやりとりしている場面に着目し,そこで観察された対象児の連続する行動,すなわち⌈S-S行動⌋を詳細に分析することによって,対象児が母親と互いの意図をどのようにして調整しあったかを探ることを目的に行った。その結果,対象児は,物を介して母親とやりとりをする中で,自己の意図を明確にし,母親も意図を有していることを理解するようになったことが明らかになった。また,そうした理解をベースに,対象児は,母親の行動を予測できるようになり,それによって,自分の意図の調整をするようになったと考えられた。
  • 湯澤 正通, 湯澤 美紀, 渡辺 大介
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 2 号 p. 171-181
    発行日: 2006/08/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,重ね合わせと数の使用および内化が幼児期における面積と長さの量概念の発達にどのように関わっているかを検討した。研究1では,均等な分割を促進したり,妨害したりするような条件で量を等しく2分するために3〜6歳の幼児が使用する認知的道具を調べた。その結果,3歳児は,4〜6歳児と比較して,条件にかかわらず,刺激を細分し,細分した個体を,数に関する方略によって均等に分ける傾向が強かった。それに対して,4歳半ごろから,半分という単位で量を捉え,刺激を直接2分する反応が増加したが,4歳児では,誤った手がかりを与えられた条件で不均等な分割をする子どもが多かった。5歳半ごろから,重ね合わせの自発的使用が増加し,誤った手がかりを与えられても,一貫して中央で分割することができる幼児が増えた。研究2では,4〜6歳児に重ね合わせの使用の訓練を行うことの効果を調べた。その結果,重ね合わせの使用がその認知的道具の内化と因果的に関連していることが示唆された。
  • 森下 葉子
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 2 号 p. 182-192
    発行日: 2006/08/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    父親は,子どもとの関わりを通して精神面・行動面においてどのような変化を遂げるのだろうか。本研究は,その内容を明らかにし,その規定因を育児関与の頻度および個人的要因・家族要因・職場要因の3要因から検討したものである。まず,父親の発達の内容を明らかにするために,3〜5歳の子どもの父親92名を対象に自由記述による質問紙調査を,さらにそのうちの23名に対し個別面接調査を行った。そこで得られたエピソードから尺度を作成し,それを用いて第1子が未就学児である父親224名に質問紙調査を行った。その結果,父親になることによる変化として⌈家族への愛情⌋,⌈責任感や冷静さ⌋,⌈子どもを通しての視野の広がり⌋,⌈過去と未来への展望⌋,⌈自由の喪失⌋の5因子が抽出された。これら5因子と育児関与,性役割観,親役割受容感,親子関係,夫婦関係,職場環境,労働時間との関連を検討した結果,⌈自由の喪失⌋以外の4因子は,育児に関心をもつことにより促され,そして,育児への関心は親役割を受容していること,平等主義的な性役割観をもっていること,夫婦関係に満足していること,子どもとの関係を肯定的に認識していることにより,促されることが示された。
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