発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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17 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 岸野 麻衣, 無藤 隆
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 3 号 p. 207-218
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    教師は,個人・社会・歴史の多様な要因の中で,キャリア形成と心理的な発達を背景に熟達化していき,専門性を向上させる。このような多様な観点から,教師の専門性を包括的に理解するため,11名の熟練小学校教師のライフ・ストーリーにより,専門性の向上の転機での内的な過程を明らかにした。本研究では特に歴史的要因として生活科の導入という公的な教育制度の変更を取り上げ,生活科に関わった教師を対象とした。結婚や出産,学校の異動や他の教師との関わり,校内研究,生活科の導入など,様々な要因が重なる中で,教師は自分の実践を見直し,教師主導から子ども主導への教育観の変化,安定した教育観の確立,仕事のやりがいや創造性の探求による教師としての自己の確立が起きていた。各教師がそれぞれ置かれた状況の中で,直面した出来事を自分の課題に引き付けて捉え,積極的な意味づけを行うことで,子ども観や教育観に変化が起きていた。特に生活科の導入を挙げた教師にとっては,他の要因と重なる中でそれぞれ意味のあるものとして生活科が受け止められ,実践が深まることに結びついていた。教師の専門性は,熟達化やキャリア形成が別個に進むのではなく,実践を問い直す中で意味を見出し,全般的に向上していくことが示唆された。
  • 金丸 智美, 無藤 隆
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 3 号 p. 219-229
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の第1の目的は,不快場面に置かれた3歳児を対象に,快,不快情動の変化から捉えた情動調整プロセスの個人差を明らかにすることである。第2に,同一の子どもについて2歳時点から3歳時点への情動調整プロセスの個人差の変化を示す。第3に,不快場面での情動調整行動を検討し,3歳児の情動調整の自律性を明らかにする。2歳前半に実験的観察を実施した母子41組の中で,3歳後半の時点で32組の母子を対象に実験的観察を実施した。その結果,情動調整プロセスの個人差について,不快情動から捉えた情動調整プロセスタイプの中に,快情動変化から捉えた個人差が存在することが明らかになった。情動調整プロセスの個人差の変化については,2歳時に不快情動を表出した多くの子どもが,3歳時には不快情動を表出しなくなることや,2歳時に快情動を表出しなかった子どもの多くは,3歳時には快情動を表出したことを示した。また,情動調整行動に関しては,他の活動を積極的に行ったり,気紛らわし的行動が増え,より自律的な行動が増えることを示した。以上より,3歳児は2歳児と比較して,より自律的で適応的な情動調整が可能となることを明らかにした。
  • 浅野 志津子
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 3 号 p. 230-240
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,先行研究ですでに検討されている学習動機に加えて,どのような学習の楽しさが生涯学習参加の2つの側面,即ち,現時点での学習への意欲的な取り組み方をあらわす積極性と将来にわたって学習を継続しようという持続性に影響するのかを検討した。研究1では,放送大学学生365名に質問紙調査を行い,学習の楽しさ尺度(3尺度)を構成した。重回帰分析を行い,年齢別に検討すると64歳以下では知る楽しさ,65歳以上の高齢者では多様に思考する楽しさが生涯学習参加への積極性と持続性に影響していた。しかし,高齢者の「多様思考の楽しさ」が影響を及ぼす生涯学習の側面は教育年数によって異なり,高等教育修了者では持続性に影響し,初等・中等教育修了者では積極性に影響していた。研究2で,高齢の学生21名に面接調査を行い,その相違を検討した。その結果,高等教育修了者の「多様思考の楽しさ」は多分野の学問を次々に関連づけ,興味が広がる「拡大的多様思考の楽しさ」であるために持続性につながり,初等・中等教育修了者のそれはある課題に対して異なる視点を獲得して理解を深める「深化的多様思考の楽しさ」であるためにその課題に対する積極性につながるという傾向が窺われた。
  • 伊藤 順子
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 3 号 p. 241-251
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,向社会性についての認知と遊び場面での向社会的行動との関連を明らかにすることであった。調査1では,5歳児34名(男児18名・女児16名)を対象とした。向社会性についての認知を,規範的側面と評価的側面の2つの側面から査定し,遊びにおける仲間との相互作用との関連を検討した。その結果,評価的側面についての認知が低いほど,何もしていない・傍観的行動の頻度が多く,評価的側面についての認知が高いほど,連合遊びの頻度が多い傾向が示された。さらに,調査2では,5歳児29名(男児17名・女児12名)を対象に,向社会性についての認知と,困窮場面および援助方略との関連を検討した。その結果,評価的側面についての認知が高い幼児は,低い幼児よりも,友だちの困窮場面に遭遇する回数が多く,かつ困窮場面を改善する回数が多いこと,また,仲間との連合遊びの中で困窮場面に遭遇する回数が多いことが示された。以上のような結果から,幼児の向社会性についての認知は,遊び場面での向社会的行動と関連していることが示唆される。
  • 森田 慎一郎
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 3 号 p. 252-262
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    日本では,今後,「専門性」を有する職業への就職を希望する学生の割合の増加が見込まれる。このような状況をふまえ,研究1では,学生における職業への志向を,「専門性」を特徴づける諸概念に基づき測定する尺度の作成を試みた。まず,社会学のプロフェッション研究の知見に基づき,「専門性」を特徴づける5つの概念(「利他主義」「自律性」「知識・技術の習得と発展」「資格等による権威づけ」「仕事仲間との連携」)を想定した。次に,大学2年生207名を対象とした質問紙調査を行い,因子分析の結果,5つの概念それぞれへの志向を測定する「職業専門性志向尺度」が完成した。研究2では,医師を志望する学生に焦点をあて,「職業専門性志向」のなかで,彼らの「職業決定」に影響を与えるものの探索を行った。先行研究の知見から,「人間関係」と関連の強い志向が影響を与えることが予想された。医学部進学予定の大学2年生96名を対象とした質問紙調査を行い,重回帰分析の結果,「人間関係」と関連の強い「仕事仲間との連携志向」のみならず,「人間関係」と関連の弱い「知識・技術の習得と発展志向」も「職業決定」に影響を与えることが示された。
  • 関根 和生
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 3 号 p. 263-271
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児が経路説明時に産出する発話と自発的な身振りから,どのような空間参照枠の使用が示唆されるか,また,それらが加齢に伴いどのように変化していくのかということを検討した。公立保育園に通う幼児55名に保育園から自宅までの経路説明を求めたところ,加齢に伴い身振り量,発話量が増加し,ランドマークや左右への言及数が多くなることが明らかにされた。また,身振りの形態的特徴を観察したところ,4歳児は,帰宅経路の方向に身体を定位させて身振りを産出する者が多く,手を肩よりも上に上げる割合が多かった。一方,6歳児では,実際の帰宅経路とは関係のない方向で身振りを産出する者が多く見られ,腕の上げ下げが最も多かった。また,俯瞰的な視座から経路を描写するサーヴェイ・マップ的身振りの産出が5歳児,6歳児でみられた。こうした身振りの形態的特徴から,4歳児では自己の身体を原点とした参照枠を,6歳児では経路上のランドマークに基づく参照枠を主に使用していることが示唆された。以上の結果から,幼児期には参照枠が自己中心的参照枠から固定的参照枠へと変化していくことが示唆された。最後に,参照枠の発達的変化に影響を与える要因として,言語的符号化能力と通園経験による学習効果が議論された。
  • 佐藤 賢輔, 針生 悦子
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 3 号 p. 272-281
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    日本語話者の幼児は助数詞をいつ,どのように理解していくのか,という問題を明らかにするため,数えられる対象が動物か非動物かという存在論的区別と助数詞カテゴリーの関連についての幼児の理解に注目し,幼児における助数詞の理解の発達的変化を検討した。3歳から6歳の幼児81名を対象に,実験者が操るパペットが,絵カードに描かれた事物をわざと誤った助数詞を用い数えてみせ,幼児がその誤りを指摘し,適切な助数詞を用いて修正できるかをみる「エラー検出法」を用い,幼児における主要な有生助数詞,無生助数詞の理解を調べた。その結果,5歳半以下の幼児は,パペットの助数詞の誤りをほとんど指摘できなかったのに対して,年長児(5歳半〜6歳半)は,パペットが存在論的カテゴリーの境界を越える誤った助数詞を用いた場合に,特にその誤りを指摘できた。また,パペットの誤りを修正する際や,適切な助数詞を選択肢から選択する課題においても,年長のみで,存在論的カテゴリーの境界を越える助数詞の誤りが少ないという傾向が認められた。以上の結果から,幼児の助数詞カテゴリーに関する理解が5歳ごろから始まり,その初期において,幼児が対象の存在論的区別に関する知識を手がかりとして利用していることが示唆された。また,各助数詞カテゴリーの獲得順序について,基礎レベルのカテゴリー名と対応のある助数詞の獲得が早いという可能性も示唆された。
  • 松島 公望
    原稿種別: 本文
    2006 年 17 巻 3 号 p. 282-292
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,キリスト教主義学校生徒のキリスト教における「宗教性」の発達および援助行動との関連について検討した。まず,Glock(1962)およびVerbit(1970)による「宗教性」に基づいた中高生版宗教意識尺度,宗教行動尺度,および援助行動尺度を作成した(対象者1,999名)。次に,キリスト教主義学校生徒(1,881名)を対象に,キリスト教における「宗教性」の発達的差異を検討した。その結果,「クリスチャンであること」と「家族がクリスチャンであること」がキリスト教における「宗教性」の高さを示す要因となることが示唆された。また,一部のキリスト教における「宗教性」では,学校段階による発達的差異がみられることが示唆された。最後に,中学・高校生クリスチャン(183名)を対象に,キリスト教における「宗教性」と援助行動との関連を検討した結果,親がクリスチャンではない「クリスチャン一世」と親がクリスチャンである「クリスチャン二世」間では異なる特徴を持つことが示唆された。
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