発達心理学研究
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18 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 麻生 良太, 丸野 俊一
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 3 号 p. 163-173
    発行日: 2007/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,現在の感情理解の発達を(i)感情を抱く主体の心の所在(自己か他者か)の広がり(参加者条件)の観点から,そして時間的広がりを持った感情理解の発達を(i)の観点と(ii)感情生起の原因となる対象(人か人以外か)の広がり(対象条件)の観点という2つから検討することであった。目的(i)(ii)を検討するために,実験1では3歳児15名,4歳児18名,5歳児24名を対象に,紙芝居を用いて感情の原因を推論させる課題を行った。その結果,各年齢での参加者条件,対象条件の課題通過率に差は見られなかったが,5歳児は3,4歳児よりも課題通過率が高いことが明らかになった。実験2では,実験1の問題点を改善し,目的(i)(ii)の再検討を行った。4歳児69名,5歳児64名を対象に,感情生起の原因となる対象を人と物とし,また,幼児自身が参加できるように,人形劇を用いて現在の感情の原因を推論させる課題を行った。その結果,各年齢での参加者条件の課題通過率に差は見られなかったが,時間的広がりを持った感情理解において,4歳児は,感情生起の原因となる対象が人の方が,物よりも先に理解することができ,5歳児では人と物では差がないことが明らかになった。実験1・2の結果から,感情理解には自他の関与に関係なく同時に発達することや,意図を持った対象(人や動物)との相互作用の中でのみ理解される発達段階があることが示唆された。
  • 溝川 藍
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 3 号 p. 174-184
    発行日: 2007/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児期の「偽りの悲しみ表出の理解の発達」について検討した。見かけの感情と本当の感情を区別する能力については,Harris et al.(1986)などの先行研究から幼児期に発達することが知られている。しかし,より直接的に欺きの理解と関連する「偽りの悲しみ表出(本当は悲しくないにもかかわらず,悲しみを表出すること)」の理解についてはこれまでほとんど扱われてきていない。調査は4歳児と6歳児を対象とし,個別に仮想場面を用いて行なった。まず,主人公が感情を偽る状況を3枚の図版で提示し,「主人公の本当の感情」,「主人公の見かけの感情」,「他の登場人物が推測する主人公の感情」について,「喜び」,「悲しみ」,「普通」の3つの表情図から1つを選択,理由づけすることを求めた。課題は,偽りの喜び表出場面4課題(自己防衛的動機×2,向社会的動機×2),偽りの悲しみ表出場面4課題(自己防衛的動機×2,向社会的動機×2)の計8課題であった。その結果から,6歳児は4歳児よりも感情の見かけと本当を認識しているものの,向社会的な偽りの悲しみ表出の理解は6歳児にも難しいことがわかった。本研究から,自己防衛的動機による偽りの悲しみ表出の理解が幼児期に発達することが新たに示された。また,向社会的動機による偽りの悲しみ表出の理解は児童期以降に発達するという示唆が得られた。
  • 加藤 孝士
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 3 号 p. 185-195
    発行日: 2007/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,可塑性の低いとされている内的業モデル(Internal Working Model: 以下IWM)の更新要因を探ることを目的とし,乳幼児の養育者に注目し,IWMと重要な人物からのサポートの関係を検討した。結果,出産前に不安定なIWMを保持していたが,現在は安定型のIWMを形成していると認知している更新群の養育者は他群の養育者に比べ養育者が重要だと認識する人物からのサポートを十分に受けていること,広いサポートネットワークを保持していることが示された。更に,更新群の養育者は他群の養育者に比べ,幸福感を高く感じていることが明らかとされた。加えて,重要な人物からのサポート,サポートネットワークと養育者の幸福感が関係していることも示された。したがって,重要な人物からのサポート,サポートネットワークとIWMの関係が幸福感を介した間接的関係であることが予測されるため,現在のIWMの下位因子(見捨てられ不安・親密性の回避)を目的変数とする階層的重回帰分析を用い関係を検討した。結果,見捨てられ不安と重要な人物からのサポート,サポートネットワーク間に直接的な関係はみられなかった。しかし,親密性の回避と重要な人物からの情緒的サポート,サポートネットワーク間には,直接的な関係が示された。よって,養育者のIWMと重要な人物からのサポート,及びサポートネットワークが関係していることが示された。
  • 西山 修, 富田 昌平, 田爪 宏二
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 3 号 p. 196-205
    発行日: 2007/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育者養成校に通う学生のアイデンティティと職業認知の因果構造を解明し,養成校において如何なる支援が有効か考えるための1つの資料を提示することである。アイデンティティの測定には谷(2001)の多次元自我同一性尺度(MEIS)を用い,特性論の観点から検討を試みた。対象は養成校卒業期にある学生1,083名であった。分析には主に共分散構造分析を用い,アイデンティティと職業認知に関わる諸変数の因果関係を同定することを目指した。その結果(1)「同一性の感覚」が「保育職の理解」,及び「保育職の適性感」に正の影響があること,(2)「保育職の適性感」は「充実感・満足感の予期」,「関心・興味」,及び「保育職へのコミットメント」に正の影響があること,そして,(3)「関心・興味」は「保育職へのコミットメント」,及び「継続の意思・ウェイト」に正の影響をもたらすことなどが示唆された。保育者養成における自我形成の重要性と,「保育職の適性感」等の職業認知に焦点をあてた支援の必要性が示されたと言える。これらの結果について,入学期の知見(西山・田爪・富田,2006)と比較しつつ,心理社会的な観点から若干の考察を加え,今後の研究課題を示した。
  • 上長 然
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 3 号 p. 206-215
    発行日: 2007/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,思春期の身体発育の発現が摂食障害傾向に及ぼす影響について,どのような構造で関連するのか検討することを目的として実施した。中学生503名(男子252名,女子251名)を対象に,思春期の身体発育状況,思春期の身体発育に対する心理的受容度,身体満足度,体重減少行動,露出回避行動,摂食障害傾向および現在の身長・体重について測定した。その結果,男子では,思春期の身体発育は摂食障害傾向と関連せず,実際の体格が肥満傾向にある者ほど体重減少行動を行い,摂食障害傾向が高まっていた。一方,女子では,思春期の身体発育によって体重減少行動が増加することが示された。また,思春期の身体発育の経験者による検討から,実際の体格が身体満足度と関連するとともに,思春期の身体発育に対する心理的受容度が身体満足度と関連し,身体満足度の低さが体重減少行動・露出回避行動を高め,摂食障害傾向を助長するという構造が示され,思春期の身体発育の際,それをどのように受け止めるかという心理的受容度の重要性が示唆された。
  • 西野 泰代
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 3 号 p. 216-226
    発行日: 2007/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    小学6年生〜中学3年生933名を対象に質問紙調査を行い,情緒的な問題行動の生起メカニズムについて検討を行った。「学級での疎外感」と「教師の態度」という先行要因から「情緒的な問題行動」という結果へ至る過程に「自己価値」を介在させた仮説モデルに基づき,学校段階(小学生と中学生)と性に差があるモデルと差がないモデルを設定した多母集団の共分散構造分析を実施して,探索的に検討した。その結果,検討したモデルでは性に差が認められ,また,この時期の子どもたちの「情緒的な問題行動」には「学級での疎外感」と「自己価値」が直接の影響を及ぼしていることが示された。「学級での疎外感」は「情緒的な問題行動」を促進する方向に,「自己価値」は「情緒的な問題行動」を抑制する方向に影響を及ぼしていた。「教師の態度」は「情緒的な問題行動」を引き起こす規定要因ではなかった。また,「自己価値」の緩衝効果について,重回帰分析を用いて検討した結果,学級での疎外感が,情緒的な問題行動を促進する程度は,自己価値低群に比べ自己価値高群において減じられていることがわかり,自己価値が緩衝効果をもつことが明らかになった。
  • 藤田 文
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 3 号 p. 227-235
    発行日: 2007/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,魚釣りゲーム場面における幼児の交互交代行動の発達を検討することであった。4歳児(年中児)から5歳児(年長児)の同年齢のペア52組に魚釣りゲームで遊んでもらった。年中児の平均年齢は5歳0ヶ月で,年長児の平均年齢は5歳11ヶ月だった。この状況では1本の釣り竿しかゲームに使用することはできなかった。10分間のゲームの過程がビデオ録画された。ビデオ分析の結果,年中児よりも年長児の方が明確な規準で交代しており,特に年長女児でその割合が高いことが示された。また,年長女児では,釣り竿をもって実行している子どもが主導する交代が多いことも示された。これらの知見から,年長児は年中児よりもゲームの中で他者の行為を考慮していること,特に女児で男児よりもその傾向が早く発達することが示唆された。
  • 外山 紀子, 大林 路代
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 3 号 p. 236-247
    発行日: 2007/12/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    3つの個別研究により,プライバシーと知る権利に関する子どもの理解を検討した。研究1では,小学4年生・6年生・中学2年生・大学生を対象として,同じクラスに属していれば誰もが容易に知り得る情報(公的な情報: たとえば,入っているクラブ活動の名前),容易に知り得ず,私事性の強い情報(私的な情報: たとえば,日記や小遣い帳の内容),両者の申間にあたる情報(準公的な情報: たとえば家で遊んだ友達の名前)を,学級新聞に掲載してもよいか/すべきでないか判断を求めたところ,4年生も年長者と同じように,公的な情報は掲載してもよいが私的な情報は掲載すべきでないと判断することが多かった。研究2では,小学4・6年生は,「よいこと」が書かれた日記や,「よい」動機によって電話番号を教えてほしいと頼まれた場合には情報を開示してもよいと判断し,「悪いこと」が書かれた日記や「悪い」動機によって電話番号を教えてほしいと頼まれた場合には開示すべきでないと判断する傾向が高かった。年長者は,情報内容や動機のよしあしにかかわらず,開示すべきでないと判断することが多かった。研究3では,たとえプライバシーを侵害したとしても,社会の利益となる情報は開示すべきであるという判断が,小学4年生にも一部認められたが,年長者ほど顕著ではなかった。
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