発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
18 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 瀬野 由衣, 加藤 義信
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2007/04/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,「見ること-知ること」課題に含まれる実行機能的な要素に着目した。先行研究では,課題に含まれるこうした要素に着目しておらず,行為反応と行為を伴わないで正しく自分や他者の心的状態に言及する反応(自分は「知っている」,他者は「知らない」)を区別してこなかった。本研究では,この二つの反応を質的に異なる反応として区別し,後者の反応のみを正答とした。実験では,90名の3〜6歳児を対象にした。まず,参加児と他者(実験補助者)が対面し,その後,参加児は対象の隠される場面を見て,他者は後を向いて隠し場所を見なかった。参加児には,自分と他者のそれぞれが隠し場所を知っているか否かを尋ねた。その結果,(1)3〜4歳児では行為反応が多数現れるが,5〜6歳になると行為を伴わないで正しく心的状態に言及するようになること,(2)自分について「知っている」と答えることと,他者について「知らない」と答えることの間には困難さの違いはないこと,(3)隠された対象の知覚的手がかりを減少させた課題では,正答率が上昇すること,(4)「見ること-知ること」課題と心の理論課題(誤信念課題)の間には発達的関連があること,以上の4点が示された。以上から,「見ること-知ること」の関係を理解する発達的プロセスは行為反応から,行為を伴わないで正しく心的状態を言及できるようになる発達的プロセスとして描けることが示唆された。
  • 瓜生 淑子
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 1 号 p. 13-24
    発行日: 2007/04/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,70人の幼児に対して,人気のキャラクター(アンパンマン)を登場させた課題場面を構成し,アンパンマンを救うために対決場面で敵(ばいきんまん)に嘘の在処(アンパンマンを救うための大事なものが入っていない空の箱)を教えられるかを検討した。その結果,年中児は80%が,年長児は100%が正答した。誤信念課題(位置移動課題)の結果とも比較したところ,誤信念課題正答より1年以上先んじた成績であることから,年中児以上になると,「心の理論」獲得に先立って嘘をつくことが可能になってきていることがわかった。しかし,年少児では,嘘をつく課題の方が逆に正答率が30%程度と低く,嘘をつく反応への葛藤がうかがえた。回帰分析の結果,この課題では,「男児」優位が示されたことから,認知的課題である誤信念課題と違って,パーソナリティ要因の影響も示唆された。しかし,嘘をつく課題では,正答率の低い年少児も含めて良い回帰モデルが作られたことなどから,年少児の正答率の低さは,そもそも嘘をつく行為がこの時期,まだ萌芽的であることを示していると解釈され,「心の理論」獲得の時期は欧米の子どもに比べてやや遅く,年中児以降と考えられるのではないかと考えられた。
  • 塚越 奈美
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 1 号 p. 25-34
    発行日: 2007/04/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    4歳児・5歳児・6歳児(各42名)計126名が本研究に参加した。願いごとをすると空の箱に対象物が出現する現象を見た後,部屋に1人きりになった場面での子どもの行動が観察された。現象の再現可能性を子どもが検証しようとしているかどうかに着目し,主に,仕方を変化させながら複数回願いごと行動をするかと,箱の仕組みやトリックを調べる行動を示すかどうかを中心に分析した。その結果,そのような行動のうち片方あるいは両方を示した子どもの人数の割合は,4歳児26%,5歳児64%,6歳児71%であった。特に,5歳児・6歳児では,仕方を変化させながら複数回願いごと行動のみを示した人数と,この行動と箱の仕組みやトリックを調べる行動の両方を示した人数が多かった。これらの行動の年齢差は,目の前で示された不思議な現象を単純に信じるのではなく,それがなぜ起きるのかを自分で確かめようとする姿勢の違いを反映した結果ではないかと議論された。
  • 加藤 邦子, 近藤 清美
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 1 号 p. 35-44
    発行日: 2007/04/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,父子遊びと母子遊びに行動評定を実施することにより,遊びタイプを見出し,父母比較,養育態度との関連性について検討することである。親子遊びにおける観察の指標は,「子どもの自発性の尊重」,「親の適切な構造化と限界設定」,「敏感性」(Sensitivity)を用いた。対象は72組の3歳児とその父母であった。その結果,父母比較では,行動評定値と子どもの属性との関連,遊びタイプの分布,遊びタイプと養育態度との関連において違いが明らかになった。母親の「子どもの自発性の尊重」は,子どもの月齢,きょうだい順位との間に有意な正の関連がみられた。親子遊びは,行動評定値の高低により,H-H-H,L-L-L,Limit High, Limit Lowの4タイプに分類された。父子遊びではH-H-H(41.7%),L-L-L(30.6%)が多く,母子遊びでは,Limit High(30.6%)が多かった。養育態度との関連性は,L-L-Lの父親は,4タイプの中で最も柔軟性が乏しく育児コミットメントも消極的で,Limit Highの母親は硬い養育態度を示した。L-L-Lタイプの父親とLimit Highタイプの母親の組み合わせをもつ3歳児と,両親がH-H-Hタイプの3歳児を比較したところ,集団場面でトラブルが起こったときに感情の統制が低いという関連がみられた。
  • 小坂 千秋, 柏木 恵子
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 1 号 p. 45-54
    発行日: 2007/04/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本稿は,育児期の夫婦1,062組を対象に,妻が就労を継続あるいは中断・断念した理由を明らかにし,その様態が夫婦の学歴・居住状況にどう関係しているか,またどの要因が就労継続・退職に影響をもたらしているのかについて検討した。主な結果は次の通りである。(1)就労継続・退職の理由として,「家庭優先」「やりがいのある仕事」「自立志向」「夫や夫の親からの就労反対」「夫の家事育児サポート」「自分の親や周囲からの育児サポート」の6要因が明らかにされた。(2)就労継続・退職の理由得点を夫婦の学歴により比較した結果,夫婦とも大学卒のほうが夫婦とも高校卒よりも妻の「家庭優先」や「夫や夫の親からの就労反対」が低く,「夫の家事育児サポート」が高いことが明らかにされた。また,居住状況による分析の結果,親と同居している女性に「やりがいのある仕事」が高く,夫の親と同居あるいは近居の場合に「夫や夫の親からの就労反対」が高いことが見出された。(3)就労継続・退職の理由が退職経験の有無に及ぼす影響を検討したところ,「夫や夫の親からの就労反対」が顕著な影響を及ぼしていることが明らかにされ,家族の要因が女性のライフコースを左右することが明らかにされた。
  • 矢藤 優子
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 1 号 p. 55-66
    発行日: 2007/04/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    養育者と子どもの「注意の共有(joint attention)」は,子どもの言語発達をはじめとする認知発達や情緒発達に重要な役割を果たす。本研究は,母子の注意共有場面において子どもに向けられた母親の発話を詳細に分析し,注意共有パターンや子どもの月齢によってどのような違いが見られるかについて明らかにすることを目的としてなされた。23組の母子を対象として子どもが7カ月齢と12カ月齢の時に家庭訪問を行い,おもちゃ遊び場面の行動観察を行った。子どもに向けられた母親の発話を分析した結果,発話量は子どもが7カ月齢の時よりも12カ月齢の時のほうが多く,注意共有のパターン別にみた発話量にも,子どもの月齢による違いが見られた。母親は,子どもの発達的変化に応じて子どもに与える言語的情報の量や内容を変えていたことが示唆された。母親は,子どもがいずれの月齢の時でも,母子が注意を共有している対象物について言及することが最も多かったが,発話の内容を詳細に調べると,子どもが7カ月齢の時には子どもや母親の主観的な側面についての発話がより多く,12カ月齢の時には客観的情報を提供したり子どもの応答を引き出すような発話がより多く見られた。母親は,2項関係から3項関係へという子どもの発達経路に沿った形での「足場作り」を行っていたと考えられる。
  • 藤崎 亜由子, 倉田 直美, 麻生 武
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 1 号 p. 67-77
    発行日: 2007/04/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    近年登場したロボットという新たな存在と我々はどのようにつきあっていくのだろうか。本研究では,子どもたちがロボットをどう理解しているかを調べるために,5〜6歳児(106名)を対象に,2人1組で5分間ロボット犬と遊ぶ課題を行った。あわせて,ロボット犬に対する生命認識と心的機能の付与を調べるためにインタビュー調査を行った。ロボット犬は2種類用意した(AIBOとDOG.COM)。DOG.COMは人間語を話し,AIBOは電子音となめらかな動きを特徴とするロボットである。その結果,幼児は言葉をかけたりなでたりと極めてコミュニカティブにロボット犬に働きかけることが明らかになった。年齢群で比較した結果,6歳児のほうが頻繁にロボット犬に話しかけた。また,AIBOの心的状態に言及した人数も6歳児で多かった。ロボット犬の種類で比較した結果,子どもたちはDOG.COMに対しては言葉で,AIBOに対しては動きのレベルで働きかけるというように,ロボット犬の特性に合わせてコミュニケーションを行っていた。その一方で,ロボット犬の種類によってインタビュー調査の結果に違いは見られなかった。インタビュー調査では5割の子どもたちがロボット犬を「生きている」と答え,質問によっては9割を超える子どもたちがロボット犬に心的機能を付与していた。以上の結果から,動物とも無生物とも異なる新たな存在としてのロボットの可能性を議論した。
  • 宮本 英美, 李 銘義, 岡田 美智男
    原稿種別: 本文
    2007 年 18 巻 1 号 p. 78-87
    発行日: 2007/04/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    近年,人間とロボットの社会的関係に注目したロボットの研究開発が進められるに伴い,ロボットを用いた自閉症療育支援も提案されてきている。これまでの研究では自閉症児がロボット等の無生物対象に興味をもち社会的反応を示すことが報告されているが,ロボットが他者のような社会的主体として扱われていることを評価するのは容易ではない。本研究では,ロボットが社会的主体としてどのように関係性を自閉症児と共に発展させるかを検討した。養護学校の児童とロボットの相互作用場面を縦断的に観察し,ロボットの意図的行動に固執した二名の自閉症児のパフォーマンスを分析した。その結果,対象児はロボットの意図に対して鋭敏であり,ロボットと相互作用を続ける中で固執していた行動パターンを修正していたことが示された。以上の知見は,ロボットが自閉症児と社会的関係を発展させられると同時に,彼らの社会的反応の促進に有効である可能性を示唆している。
feedback
Top