発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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20 巻, 4 号
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  • 阪脇 孝子, 中垣 啓
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 337-350
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,順列操作の発達に関して,順列を実際に作成する際の「実行的理解」と,順列の組織性の発見に関わる「概念的理解」とを区別し,一般化された概念的理解の発達指標として「対称性の理解」(中垣,1979)が適切なものであるかどうかについて検討を行った。研究1では,幼稚園年長児,小学校2年生,4年生,6年生,中学校2年生を対象として,ブロックを用いて順列を作成する課題(実行的理解に関する課題)と順列の総数予測(概念的理解に関する課題)および対称性の理解を問う課題等を実施した。その結果の分析により,対称性の理解が確立されている場合,複雑な課題であってもより安定した遂行成績が得られる傾向が示された。研究2では,さらに研究1の結果を元に,概念的理解の確立に至る前の移行的年齢層であると思われる小学校5年生を対象として同様の課題を実施した。その結果の分析により,研究1と同様の結果が得られた。これらの検討から,対称性の理解が順列操作の一般化された概念的理解の発達指標として適切であるということが示された。
  • 大島 聖美
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 351-361
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,妻の夫への信頼感が青年期後半の娘の見る父親からの支持的な関わりに影響しているかどうか,さらに娘の見る父親からの支持的な関わりが娘の心理的健康に与える影響を検討することである。そのため,父親用,母親用,娘用の質問紙を作成し,青年期後半の女子とその両親153組を対象に質問紙調査を実施した。分析の結果,夫への信頼感が高い妻の娘ほど,父親から支持的な関わりを多く受けていると認識していることが示された。以上のことから,青年期後半の娘の父親に対する見方には,妻の夫への信頼感が影響している可能性が示唆され,父親の影響を考える上で,母親も考慮する必要性が確認された。さらに,娘が父親から支持的な関わりを受けたと認識することは,娘の自尊心の高さ,抑うつの低さ,幸福感の高さと関連することが明らかとなった。よって,父親から支持的な関わりを受けたという認識は,青年期後半の娘の心理的健康にとっても重要であることが示唆された。
  • 田中 あかり
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 362-372
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    家族と共にいる時の母親の情動表現スタイルが幼児の各気質側面にどのように影響を及ぼしているのかを検討した。幼稚園に通う3歳から6歳の計311名の幼児の母親に,母親の情動表現スタイルについての質問(Self-Expressiveness in the Family Questionnaire:SEFQ)と子どもの気質についての質問(Children's Behavior Questionnaire:CBQ)で構成される質問紙調査を行った。その結果,(1)自己中心的で不快感を与える情動表現スタイル得点の高い母親の子どもは自己コントロール得点が低く,親和的・共感的な情動表現スタイル得点の高い母親の子どもは自己コントロール得点が高い,(2)自己中心的で相手に不快感を与える情動表現スタイル得点の高い母親の子どもは否定的情動の生じやすさ得点が高いが,母親の親和的で共感的な情動表現スタイル得点と子どもの否定的情動の生じやすさ得点に関連は見られない,(3)子どもの活発さ・積極性得点はどちらの情動表現スタイル得点とも関連は見られない,(4)子どもの気質の3側面,自己コントロール,否定的情動の生じやすさ,活発さ・積極性は負の相関関係にある,ことが確認された。これらの結果から情動表現スタイルの背景に母親の子どもの情動の調整者としての役割が考えられることを挙げ,子どもの気質を支える環境について議論した。
  • 小林 佐知子, 北川 朋子
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 373-381
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    母親の抑うつ状態に対するマスタリーの効果について,対処の視点から検討した。マスタリーはさまざまな出来事へのコントロール感を表すものであり,母親の抑うつ度を低減する働きをする心理的要因と考えられる。妊娠期から出産1ヶ月後にかけてマスタリーと抑うつに関する質問紙調査を行った130名の初産婦のうち21名に対し,出産18ヶ月後の時点でストレスや対処に関する半構造化面接を行った。マスタリー高群9名と低群5名を分析対象者とした結果,マスタリーの高い母親は,マスタリーが低い母親に比べて(1)問題焦点型の対処を多く用いていること,(2)抑うつ状態になりにくいこと,(3)対人ネットワークを拡大する行動を多く用いており,より広いサポート源からの情緒的サポートを獲得していること,(4)マスタリーが高くても,状況の改善がみられない場合に抑うつ度が高くなる可能性があることが示唆された。これらの結果を踏まえ,母親の抑うつ状態に対する介入や支援のあり方を中心に考察を行った。
  • 青木 聡子
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 382-392
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,育児における夫婦間の協力に着目し,協同育児としてそれにかかわる要因を明らかにすることである。具体的には,幼児をもつ共働き夫婦185組を対象に質問紙調査を実施し,パス解析を行った。その結果,夫は,「配偶者からの育児の相談や調整の期待」を感じとって,「相互理解・調整」や「遊び相手の分担の衡平さ」,「世話の分担の衡平さ」が促進されること,それと同時に,「積極的・肯定的な親役割意識」や育児にかかわることに対する理解・支援が得られる「仕事環境」であるという認識も重要であることが示された。また,妻は,夫同様に,「配偶者からの育児の相談や調整の期待」や「育児による負担・制約の少なさ」を感じることで,「相互理解・調整」や「遊び相手の分担の衡平さ」,「世話の分担の衡平さ」が促進された。さらに育児の責任にかかわる「相互理解・調整」には,「積極的・肯定的な親役割意識」が反映されること,育児にかかわることに対する職場からの理解・支援が得られ,育児と仕事を両立し易い「仕事環境」であると感じていることも重要であることが示された。
  • 上宮 愛, 仲 真紀子
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 393-405
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    子どもの証言能力の査定では,嘘と真実の理解や,意図的に嘘をつけるかどうかが重要な問題となる。従来,幼児による嘘と真実の理解は,嘘と真実を概念的に弁別させる,定義させる,同定させる,実際に嘘をつかせるなど,様々な課題を用いて研究されてきた。しかしこれらの課題間の関係は必ずしも明らかではなく,嘘と真実に関するどのような理解が実際に嘘をつく行為と関わっているのかは明確でない。本研究では,様々な課題を用いて嘘と真実の理解を調べるとともに,これらの課題と嘘の産出との関係を調べた。年少,年中,年長児(3-6歳)73名が,人形が嘘をついているか,真実を話しているかの判断する同定課題(1),嘘と真実の違いについて説明する弁別課題(2),嘘と真実の定義をする定義・善悪判断課題(3),話者の信念と嘘との関係を調べる嘘の基準を明確化する課題(4),適切な嘘をつけるかどうかを検討する行動課題(5)を行った。その結果,年少児に比べ,年中,年長児は嘘と真実の善悪判断や同定を正しく行うことができた。また,年長児では嘘か否かの判断には信念が関わっていることの理解が可能になり始めることが示された。行動課題では,年少児は意図的に相手を騙すことができるような嘘をつくことは難しいが,年中,年長ではそれが可能になる。また,嘘をつく能力は,"信念の理解"によって一部予測できる可能性が示唆された。
  • 竹尾 和子, 高橋 登, 山本 登志哉, サトウ タツヤ, 片 成男, 呉 宣児
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 406-418
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では子どもにおけるお金のやりとりに着目し,お金に媒介されて生じる親子関係の発達的変化を捉えることを試みた。大阪の小学生134名,中学生225名,高校生173名を対象に,お金のもらい方・使い方,それをめぐる価値規範や親子関係・友だち関係について質問紙調査を実施した。分析の結果,子どもの経済力の増加,市場経済への参入による購買活動の拡大とお金の自力での獲得,親の権威のもとでのお金のやりとりから友だち関係に重きを置いたお金のやりとりへの移行,親から与えられた価値規範からの自立など,子どもの親からの自立過程や社会的自我の発達過程が明らかにされた。これにより,お金は商品交換を媒介するだけでなく,文化的道具として規範的に親子関係や友だち関係を媒介し,その媒介構造の発達的変化から,子どもの発達や自立過程が生じることを分析することが可能であることが示された。
  • 鹿子木 康弘, 森口 佑介, 板倉 昭二
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 419-427
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    近年,学際的な領域で自身の心的な活動に気づくことができる能力(内省能力)が注目を集めるようになっている中,発達心理学においても子どもの内省能力の発達を検証した研究がなされている。しかしながら,先行研究においてはどのような要因が内省能力の発達と関連するかが検証されていない。そこで,本研究は,他者の視点から自身の心的な状態を捉える再帰的な認知能力,つまり二次的信念の理解が内省能力の発達に関連するという仮説を検証した。実験においては,7歳から9歳の52人の子どもに2つの内省課題と二次的誤信念課題が与えられた。その結果,各内省課題において,二次的誤信念課題の正答群は,誤答群より内省能力が有意に高かった。これらの結果は,二次的な心的表象の理解が内省能力の発達に関連するという仮説を支持するものであった。われわれは,これら2つの能力の関連のメカニズムを,再帰的な思考の社会認知的な役割に焦点を当てて論じる。
  • 岡田 涼
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 428-436
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    これまで,青年期における自己愛傾向と心理的健康および自尊心との関連については,多くの議論がなされてきた。本研究では,自己愛傾向と心理的健康および自尊心との関連について,メタ分析による大規模なサンプルに基づいて検討した。自己愛傾向の指標については,Narcissistic Personality Inventoryに焦点をあてた。心理的健康の指標としては,抑うつ,不安,神経症傾向,孤独感,主観的幸福感(生活満足感,ポジティブ感情/ネガティブ感情)を取り上げた。データベース検索,文献検索,マニュアル検索を通じて,心理的健康については29論文から35の研究,自尊心については48論文から74の研究を収集した。収集された研究に基づいて,母相関係数を推定したところ,自己愛傾向と心理的健康との関連は.2程度であり,心理的健康と自尊心との関連は.3程度であった。この結果は,自己愛傾向と心理的健康および自尊心との関連が比較的弱いものであることを示している。本研究の知見から,自己愛傾向の下位側面と心理的健康との関連を検討する必要性が示唆された。
  • 一柳 智紀
    原稿種別: 本文
    2009 年 20 巻 4 号 p. 437-446
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,物語文の読解授業においてテキスト理解を話し合う過程で,児童がテキストに書かれた言葉に着目しながら,どのように互いの発言を「聴き合い」,教師はそれをどう支援しているか明らかにすることを目的とした。小学校5年生2学級の国語授業を対象に,授業観察と直後再生課題を行い,授業中の発言および再生記述を,テキストや他児童の発言との関連から検討した。その結果,(1)話し合いでの児童による言及の多さや,発言回数に対する再生比率の高さから,テキストを引用した発言や他児童の発言に言及している発言が,テキスト理解の「聴き合い」を促進していること,(2)教師は,話し合いの中で音読やテキストに「戻す」問いかけを繰り返し行うことで,児童をテキストとの対話へと促していること,(3)テキストとの関連が不明確な児童の疑問を教師がリヴォイスすることで,読解の視点を多様にし,「聴き合い」を促進していることが明らかとなった。また,テキストを引用した発言や,他児童の発言に言及している発言は学級間で頻度が異なることから,話し合いのグラウンド・ルールの共有度が,談話のスタイルおよび「聴き合い」に影響していることが示唆された。
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