従来の研究に乏しい日本人幼児の社会的比較について,4歳から6歳の幼稚園児の自由時間での行動を対象とした観察を通じて,検討が加えられた。社会的比較を他者を参照する行為として捉えた上,比較の対象は能力,所有物,地位,行為,特性に,比較の様態は他児への関心,認知明瞭化,直接評価,自己間接評価,他者間接評価,類似確認,達成・競争,模倣に,それぞれ分類された。3つの縦断分析と2つの横断分析を通じて,(1)他児への関心は年齢とともに増大するが,それは女児に顕著である,(2)直接・間接に自他を比較することを通じた自己評価がかなり認められる,(3)類似性の確認は女児,自他の競争は男児に主に見られ,前者は年齢とともに減少する,などが明らかにされた。これらの結果のうち,欧米での先行研究の結果と異なる(1)(2)については,基本的に他者との関係において自己を認識する日本文化の特質,という観点から理解し得ることが示唆された。
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