発達心理学研究
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21 巻, 1 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 麻生 良太, 丸野 俊一
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,過去から現在への時間的広がりを持った感情理解の発達は,推論の仕方の発達的差異,すなわち現在の状況に依拠した推論から他者の思考に依拠した推論への発達的変化を反映していると想定した。(i)現在の状況に依拠した感情の推論とは,他者が過去に感情を帰属した手がかりが提示されることで,現在の他者の感情を,その手がかりから推論することであり,(ii)他者の思考に依拠した感情の推論とは,他者が過去で感情を帰属しなかった手がかりが提示されることで,現在の他者の感情を,「他者はその手がかりを見て過去を思い出している」という思考にもとづいて推論することである。この仮説を検証するために,3,4,5歳児を対象に,(i)と(ii)のどちらかの推論過程にもとづいて感情を理解する物語課題を提示し,現在の他者の感情を推論させると同時に,その理由を求めた。その結果,3歳児は(i)の推論過程でのみ,4,5歳児は(i)と(ii)両方の推論過程にもとづいた時間的広がりを持った感情理解ができることを示した。これらの結果は仮説を支持するものであり,時間的広がりを持った感情理解の発達変化は推論過程の変化に起因する,また,4歳頃を境として,状況に依拠した推論から他者の思考に依拠した推論へと変化することを示唆した。
  • 河﨑 美保
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 12-22
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,児童が他者の誤りからいかに学ぶことができるかを実証的かつ実践的に検討するため,算数授業において教師から指名された児童が他の児童を代表して解法を発表する場面を構成し,発表される解法を正しい解法のみとするときと誤った解法を含めたときとで聞き手の児童の正解法理解がいかに促進されるかを比較検討した。従来の研究から,正誤解法の提示は事前に正解法を利用する児童に効果があることは知られているが,本研究では,事前に誤解法を利用する児童でも,自らと同じ誤解法が発表される場合は効果が生じることを示す。小学校5年生6クラス170名に算数文章題の授業を行い,児童が正解法を発表し教師も正解法を解説するCC条件と,児童が誤解法を発表し教師は正解法を解説するIC条件を用意し,聞き手児童の事前解法との交互作用を検討した。授業前後のテスト結果より,IC条件では,発表されたものと同じ誤解法を事前に利用していた群の方がそれ以外の誤解法を利用していた群よりも正解法の根拠を高い割合で記述できるようになった。CC条件ではこうした差は見られなかった。この結果から,誤解法の説明は同じ誤解法を使う聞き手の学習に有効であることが示唆された。そのプロセスには,提示される解法と自らの解法とが一致することにより,正誤両解法の対比が行いやすくなり,解法手続きの重要な要素のメタ認知的理解が促進されるメカニズムがあることを考察した。
  • 園田 直子, 丸野 俊一
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 23-35
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    従来の系列化に関する研究では,双方向の可逆的な心内操作を行わなくとも成功できる課題が使用されていたために,知覚判断から推移律判断にもとづく系列化への変化のプロセスを明らかにできていなかった。そこで本研究では,視覚的手がかりが使用できない重さの系列化課題を新たに考案し,比較方略から予測される正答率と,実際の正答率を比較することで,その背景にどのような思考方略が使用されているかを考察する。それによって知覚的手がかりを用いる段階から,推移律にもとづく操作が可能になるまでの発達的変化のプロセスを明らかにする。対象は5歳児から12歳児および大学生であった。その結果,(1)知覚手がかりが利用可能な条件では7歳頃に,真の推移律を用いる必要がある条件では12歳頃に系列化が可能になる,(2)推移律にもとづく内的操作が可能になるためには,基準点を固定して双方向の比較を行う方略を利用できなければならない,さらに,真の推移律に至るまでには,1対比較による疑似測定,および「総あたり」による不完全な推移律の段階があることが見出された,(3)推移律判断が完成するにともなって,課題条件によって実行方略が使い分けられていた。この結果は,推移律にもとづく判断による段階に移行しても,使用方略はある方略から別の方略に入れ替わるのではなく,複数の方略が並行して使い分けられているというSiegler(1996)の重層波モデルに符合していた。
  • 高田 利武
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 36-45
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    従来の研究に乏しい日本人幼児の社会的比較について,4歳から6歳の幼稚園児の自由時間での行動を対象とした観察を通じて,検討が加えられた。社会的比較を他者を参照する行為として捉えた上,比較の対象は能力,所有物,地位,行為,特性に,比較の様態は他児への関心,認知明瞭化,直接評価,自己間接評価,他者間接評価,類似確認,達成・競争,模倣に,それぞれ分類された。3つの縦断分析と2つの横断分析を通じて,(1)他児への関心は年齢とともに増大するが,それは女児に顕著である,(2)直接・間接に自他を比較することを通じた自己評価がかなり認められる,(3)類似性の確認は女児,自他の競争は男児に主に見られ,前者は年齢とともに減少する,などが明らかにされた。これらの結果のうち,欧米での先行研究の結果と異なる(1)(2)については,基本的に他者との関係において自己を認識する日本文化の特質,という観点から理解し得ることが示唆された。
  • 菅井 洋子, 秋田 喜代美, 横山 真貴子, 野澤 祥子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 46-57
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,乳児期の絵本場面における母子の共同注意の指さしの発達的変化を,積木場面と比較し明らかにすることを目的とした。20組の母子を対象とし,1歳半,2歳半,3歳時期にわたる家庭での観察による縦断研究を実施した。主な結果は次の通りである。(1)絵本場面での母子相互作用は,指さし生起頻度の指標を用いて積木場面と比較すると,頻繁になされていることが示された。(2)絵本場面で子どもの指さしは,1歳半,2歳半から3歳時期へ,発話を伴うことで減少することが示された。このことは,幼児期(3歳〜6歳)に,子どもの指さしが消失していく傾向を示した絵本場面研究へ一つの見通しを与えることが示唆された。一方積木場面では,子どもの指さしが1歳半から2歳半,3歳時期へ発話を伴いながら増加していくことが示され,絵本場面とは異なる発達的変化が示唆された。絵本場面では,より幼い1歳半時期に,子どもが発話を伴わずに指さした時でも,母親と頻繁に共同活動を展開していくことが特徴としてみいだされた。(3)絵本場面での母子の指さし対象は,絵本の挿絵と文字に加え,周囲の実物にも及ぶことがみいだされた。これらの対象を中心とした共同活動の時期別特徴が示され,絵本だけでなく,現実世界の実物へも注意を向け合い,共同活動を展開していることが示唆された。以上,積木場面との比較から,絵本場面での母子の共同注意の指さしの発達的変化の特徴が示された。
  • 氏家 達夫, 二宮 克美, 五十嵐 敦, 井上 裕光, 山本 ちか, 島 義弘
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 58-70
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,2,083組の愛知県と福島県の中学生とその両親を対象に,両親の夫婦間葛藤が子どもの抑うつ症状にどのように影響するのかを検討した。本研究では,先行研究で独立に分析されてきた親行動と子どもの親行動知覚という2つの媒介要因を1つのモデルに組み込んだモデルの検証を試みた。愛知サンプルと福島サンプルで独立に分析をした結果,両親の夫婦間葛藤の直接効果は認められず,包括的モデルが両サンプルともに適合することが示された。夫婦間葛藤は親行動に影響し,子どもに対する親の温かさを低め,冷たさを強めるように働くこと,子どもに対する親行動は,それを子どもがどのように知覚するかを経由して,子どもめ抑うつ症状を予測することが示された。先行研究では,両親の夫婦間葛藤が子どもの抑うつ症状に関係するプロセスが性によって異なっていることが示されていたが,本研究の結果は,基本的には男女ともに同じモデルが適合することが示された。
  • 伊藤 朋子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 71-82
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,ヒューリスティックス&バイアスアプローチ(e.g.,Kahneman&Tversky,1973)に対してGigerenzer(e.g.,1991)が行った批判をもとに,課題解決におけるコンピテンス要因として確率量化操作を想定する立場(e.g.,伊藤,2008)から,個数表記版(伊藤,2008),頻度表記版,割合表記版の3表記からなる「ベイズ型くじびき課題」に対する中学生と大学生の推論様式を発達的に分析した。その結果,個数表記版,頻度表記版,割合表記版のいずれにおいても,正判断率は低く,基準率無視解の出現率も低く,大学生であっても課題構造P(H|D)を正しく把握していないと考えられる連言確率解が頑強に出現すること,また,中学生と大学生の判断タイプの水準には発達的な違いがみられること,が明らかになった。これらの結果から,ベイズ型推論課題の難しさの本質は,Gigerenzer(e.g.,1991)のいうような課題の表記法などのパフォーマンス要因の問題にあるというよりも,P(H|D)という課題構造の把握そのものの難しさというコンピテンス要因の問題にあることが示唆された。
  • 荘島 幸子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 83-94
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,身体に対する強烈な違和感から,身体的性別を変更することを望む我が子(身体的性別女性,A)から「私は性同一性障害者であり,将来は外科的手術を行い,身体的に男性になる」とカミングアウトを受けた母親(M)による経験の語り直しに焦点を当てた事例研究である。子からカミングアウトを受けて2年が経過した第1回インタビュー時に,「性別変更を望む我が子を簡単には受け入れることができない」と語っていた母親1名に対し,約1年半の間に3回のインタビューを行った。分析の視点は,【視点1:Aについての語り直しの状況】,【視点2:構成されるMの物語】,【視点3:語りの結び直し】の3つであった。A-Mの関係性は,3回のインタビューを経て良好なものへと変化していた。分析の結果,Mが語り直しのなかで,親であることを問い直しながら自らの経験を再編し,M自身の人生の物語を再構成していく過程が明らかにされた。語りを生成する際には,他者(周囲の他者/聞き手としての他者)が重要であることが見出された。考察では,自責の念や悔いといった語り直しから母親の生涯発達を捉え,従来の段階モデルを越えた議論を行った。また,Mの語り直しを促進させ,親物語の構成を下支えする1つの軸となる役割を担う存在として聞き手を位置づけた。
  • 中島 伸子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 95-105
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    素朴生物学研究では,加齢にともない身体サイズが増大するという生物の成長現象については,就学前の幼児でもかなりの程度理解していることが示されてきたが,老化にともなう加齢変化の理解については未解明であった。本研究の目的は,幼児は老年期特有の身体外観上の加齢変化-皺の増加・毛髪の変化-をどのように理解しているかを検討することであった。26名の4歳児,33名の5歳児,24名の大学生を対象として調査を行った。若年成人から老年期においては,成長期に特徴的な身体サイズの増大よりも,皺の量・毛髪の加齢変化が生じやすいことの理解は,4歳ではできないが,5歳から可能であることが示された。さらに,皺の量と毛髪の加齢変化の原因について,もっともらしい説明を選択させる課題を全年齢群に対して行ったところ,4歳児では明確な傾向はみられないが,5歳児は大学生と同様に身体内部的原因(髪の毛を作る体の力が弱くなるから毛髪が減少する等)を人為・外部的原因(髪の毛を切るから毛髪が減少する等)や心理的原因(心配な気持ちになることが多いから毛髪が減少する等)より好む傾向が明確にみられた。これらの結果は,老年期特有の身体外観上の加齢変化についての理解は4歳から5歳にかけて大きく変化することを示唆する。こうした発達的変化について,素朴生物学的概念の発達,特に生気論的因果の獲得という観点から考察した。
  • 宮里 香, 丸野 俊一, 堀 憲一郎
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 1 号 p. 106-117
    発行日: 2010/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究はごっこ遊びに含まれるどのような要因が幼児の比喩理解を促進するのかを明らかにするため,特にやりとりに伴う身体運動感覚の効果に着目し,非言語的な文脈手がかりがある中での幼児の比喩理解について検討した。実験協力者は年中児,年長児各13名であり,同一の実験協力者に以下の4つの条件でそれぞれ提示された比喩の意味について回答を求めた。実験者と幼児が身体を使ってごっこ遊びをする主体やりとり条件,人形を使ったごっこ遊びをする人形やりとり条件,実験者が提示した言語的文脈に沿って幼児が人形を動かす動き条件,言語的文脈とともに状況的文脈が静的に提示される静止提示条件である。全ての条件で非言語的な文脈手がかりが与えられた。その結果,主体やりとり条件では他の条件よりも人格特性を表す比喩が適切に理解された。さらに非言語的指標を用いた分析から,主体やりとり条件では人形やりとり条件よりも幼児が高い情動反応を示しており,情動反応が大きいほど比喩が適切に理解されたことが示唆された。
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