発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
21 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 先﨑 真奈美, 柴山 真琴
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 3 号 p. 221-231
    発行日: 2010/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児期までに異なった自己制御行動を発達させつつあるとされる小学生が出会い,同じ活動に参加する時に,どのような自己制御行動をとるかを,ある体操教室でのフィールドワークに基づいて明らかにすることを目的とする。研究方法は,エスノグラフィーの手法を採用し,実際の場面で子どもが他者とやりとりをする中で,自己制御行動がどのように生起しているのかを検討した。日本学校通学児5名と国際学校通学児3名を対象とし,2006年7月から2007年3月までの間に23回観察を行った。分析の結果,国際学校通学児は自己主張・実現行動の方略が日本学校通学児よりも多様であるだけでなく,自己主張行動では複数の自己主張・実現行動カテゴリーを組み合わせた方略を用いていた。一方,日本学校通学児は,自己抑制行動の対象とする幅が国際学校通学児よりも広く,さらに自己主張・実現行動とも自己抑制行動とも捉えられる自己主張/自己抑制行動をとっていることが明らかになった。
  • 小川 絢子, 子安 増生
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 3 号 p. 232-243
    発行日: 2010/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,実行機能,特にワーキングメモリと葛藤抑制の機能が他者の誤信念に基づく行動への理由づけにどのような影響を与えるのかを検討した。3〜5歳児70名を対象に理由づけ質問を含む誤った信念課題と実行機能課題,語彙検査を実施した。結果,月齢や言語能力の影響を除いても,単語逆唱スパン課題で測定されたワーキングメモリの機能が他者の誤った行動に対する適切な理由づけに影響することがわかった。この結果は,他者の誤った行動に対して,過去の他者の行動や認識状態に言及して理由づけするためには,呈示されたストーリーの内容を保持しておき,求められたときにストーリー中の必要な情報を活性化することが必要になることを示唆している。加えて,赤/青課題で測定された葛藤抑制の成績が,現在の状況に固執した理由づけを行うかどうかを予測することがわかった。この結果は,他者の誤った行動に対しても,現在の現実の状況のみに言及する子どもは,葛藤抑制の機能が弱く,対象の場所のような現在の情報を抑制しておくことが難しいことを示している。
  • 志波 泰子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 3 号 p. 244-253
    発行日: 2010/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    先行研究で,言語コミュニケーション領域では,「心の理論」の獲得以前に,幼児は話者の誤信念をより良く理解し,単語を学習すること,さらに,話者の誤信念表象は行為の予測領域の誤信念表象に先行して理解され,2つの領域の思考メカニズムは違っている可能性があることが提起された。本研究では,1.言語コミュニケーション領域では,幼児は,相手の注意をあるものに向けようとする話者の「伝達意図」を理解し,誤信念の理解を前提とせずに話者の意図を推論できること,2.話者の意図は行為の予測よりもより良く,早く理解され,行為の予測領域とは意図の推論メカニズムが違っていること,さらに,3.話者の誤信念の理解と行為の予測の誤信念の理解は思考メカニズムが違うとはいえないという3つの仮説を検討した。3歳から5歳の子どもたちに,主人公が新奇なおもちゃに命名する単語学習課題と標準誤信念課題を用いて調査した結果は,人と物の関係性の強い単語学習課題では,彼らは話者の誤信念の理解を前提とせずに話者の意図を推論し,単語を学習できた。言語コミュニケーション領域では意図は誤信念を前提とせず,行為の予測領域よりもより良く,早く理解され,2つの領域の意図の推論メカニズムは違うといえた。絵カード物語に手続きを変更した課題では,話者の誤信念と行為予測の誤信念の理解には差がなく,2つの領域の誤信念の理解は思考メカニズムが違うとはいえなかった。
  • 水本 深喜, 山根 律子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 3 号 p. 254-265
    発行日: 2010/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,近年特に距離の近さを増しているとされる母娘関係に注目し,その距離が成人期へ移行しようとしている娘の自立や適応にどのように関わっているのかを明らかにする。これにあたり,大学生女子(n=173)とその母親(n=149)から質問紙調査により収集したペアデータを用い,青年期から成人期への移行期にある女性とその母親との距離にどのような特性があるのかを明らかにし,これらと女性の自立や適応との関連性を検討した。まず,母親との距離と精神的自立の各因子のプロフィールより,母娘関係を「密着型」,「依存型」,「母子関係疎型」,「自立型」に類型化した。次にこの類型を基に母親との距離がどのような場合に娘の自立や適応に促進的に働き,どのような場合に抑制的に働くのかを探った。その結果,母娘間距離には,遠近といった量的特性のみでなく,その関係性において娘が自己統制感を持つことができているかどうかという質的特性があり,これらが娘の自立や適応と関わっていることが明らかになった。さらに,この距離認知の母娘間におけるズレを検討した結果,このズレはその関係性における情緒的絆と関連して娘の自立や適応に影響を与える要因となるような個体差的側面と,自立に向けて関係性が変化していることを示す発達的側面を反映していると考えられ,自立の時期の親子関係を理解する手がかりとなり得ることが示唆された。
  • 深瀬 裕子, 岡本 祐子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 3 号 p. 266-277
    発行日: 2010/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,Erikson(1950/1977・1980)の精神分析的個体発達分化の図式Epigenetic schemeにおいて空欄となっている老年期における8つの心理社会的課題を示し,Erikson,Erikson,&Kivnick(1986/1990)との比較から,日本における心理社会的課題の特質を検討することを目的とした。高齢者20名を対象にErikson et al.と同様の手続きによる半構造化面接を行った。その結果,8つの心理社会的課題を説明する肯定的要素と否定的要素,および課題に取り組むための努力である中立的要素がそれぞれ抽出された。これらより,第VIII段階における8つの心理社会的課題を具体的に示した。また,各課題に取り組む際に,戦争体験,家制度,社会の中での高齢者の地位という日本独自の文化が影響していることが示唆された。以上の知見は社会参加に積極的な人々における心理社会的課題の取り組み方を示すものであり,特に高齢者の心理社会的課題を理解する上で重要であると考えられた。
  • 石本 雄真
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 3 号 p. 278-286
    発行日: 2010/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,教育臨床や心理臨床の領域での視点から捉えた居場所感が青年期の学校適応,心理的適応に対してどのような影響を与えるのかについて検討することを目的とした。「ありのままでいられる」ことと「役に立っていると思える」ことから居場所感を捉える尺度を作成し,家族関係・友人関係・クラス関係・恋人関係といった対人関係の種類ごとに居場所感と学校適応,心理的適応との関連を検討した。大学生188名,中学生384名を対象に関係ごとの居場所感,学校生活享受感,自己肯定意識について測定した。その結果,対人関係の種類ごとに自己肯定意識や学校生活享受感に影響を与える居場所感の因子が異なっていることが分かった。中学生では,自己肯定意識に対して家族関係での居場所感が概ね促進的な影響を与えていたが,大学生では家族関係での居場所感はほとんど影響を与えていなかった。また中学生では,学校生活享受感に対して複数の対人関係における居場所感が促進的な影響を示していたが,大学生ではいずれの対人関係における居場所感についても学校生活享受感に対しての影響がみられなかった。中学生においては,男子はクラス関係での自己有用感の他に家族関係での本来感が学校生活享受感に促進的な影響を示していたが,女子は友人関係での本来感が影響を示していた。これらのことから,年齢,性別ごとに居場所として重要となる対人関係の種類が異なるということが明らかになった。
  • 山内 星子
    原稿種別: 本文
    2010 年 21 巻 3 号 p. 287-295
    発行日: 2010/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,感情のデュアルプロセス理論の枠組みを用いて,母親の感情特性が青年の感情特性に影響を与えるメカニズムを検討することを目的とした。感情生起に先行する認知的評価の枠組みが母親から子へと言語的やりとりを媒介して伝達し,間接的に青年の感情特性に影響するという"認知レベルの学習"と,母親の感情特性が連合学習によって直接的に青年の感情特性に影響するという"行動レベルの学習"の2つの学習の存在を仮定した。高校生97名とその母親(計194名)から得られたペアデータに対して共分散構造分析を行ったところ,4つの感情(怒り,悲しみ,不安,恥)において"認知レベルの学習"のみが見出された。一方,"行動レベルの学習"はいずれの感情においても見出されなかった。この結果は,青年の感情特性が,連合学習のようなシンプルなメカニズムではなく,認知的評価に関する母親との言語的やりとりのような,比較的高度な認知処理をともなう過程によって形成されていることを示唆しており,不適応的な感情特性の形成に対する予防的アプローチの可能性が示唆された。
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