発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
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22 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 多田 幸子, 杉村 伸一郎
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    布置参照枠は,抽象的で柔軟な空間表象を形成するための空間的参照枠として,近年注目されつつある。本研究では,布置参照枠の利用の発達を,探索がどの参照枠に基づいたものであるかを正確に推定できるように設定を工夫した再定位課題を用いて検討した。4歳児18名,5歳児29名,6歳児28名に,長方形の箱の四隅の1つに対象を隠すのを見せた後,定位を喪失させ,先ほどの対象を探し出させる課題を4試行実施した。その結果,4-5歳児は布置参照枠を十分に利用することができず,誤った探索は環境参照枠に基づいたものが多いこと,4-5歳児では試行によって異なる参照枠を利用する者が多いが,6歳児になると布置参照枠の利用の一貫性が高くなること,その一方で,6歳児でも厳密に布置参照枠に基づいた探索を行っていないこと,が明らかになった。以上の知見から,布置参照枠の利用は4-5歳から徐々に可能になるが,それが洗練されるのは6歳以降であると考えられた。
  • 志波 泰子
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    幼児期の実行機能を測る課題として,次元変化カード分類課題(DCCS課題)が広く用いられている。DCCS課題では,色と形の2次元で描かれた2種類のカードを指示された次元で分類し,ターゲットカードを備えた2個のトレイのどちらかに入れなければならない。幼児は,先行段階では教示に従ってカードを正しく分類できるが,後行段階では以前の分類に固執して失敗する。このような幼児の困難の原因については,論争中であるが,幼児は実行機能の注意の抑制が未熟なために,彼らの視覚表象的イメージ記憶が妨害的効果を与える場合があると考えられた。本論文では,DCCS課題で,幼児はターゲットカードと分類カード上の図形を対連合的に学習して,後の学習が生じずに固執を起こして失敗するが,視覚表象の影響が避けられればカードを分類できることを検証した。20人の3歳児と20人の4歳児が,DCCS課題でターゲットカードがないときは,カード間の対連合学習が生じず,新次元に従ってカードを分類できること,さらに,ターゲットカードがあり対連合学習が生じても,視覚表象的イメージ記憶に干渉して,これらを忘却させれば,幼児はカードを分類できるという2つの仮説の調査に参加した。実験統制上の限界はあるが,彼らはどちらの場合も課題に成功できたといえた。さらにDCCS課題と心の理論課題および言語能力との関連性についても調査を行い,これらの結果について議論がなされている。
  • 野澤 祥子
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 1 号 p. 22-32
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    1〜2歳の仲間同士における自己主張の発達的変化を明らかにすることを目的とし,保育所の1歳児クラスを対象として約1年間の縦断的な観察を行った。分祈には,誕生月を説明変数とした潜在曲線モデルを用い,発声や発話の声の情動的トーンにも焦点を当てて検討を行った。その結果,多くのカテゴリにおいて,その初期量や変化率が誕生月の違いによって異なること,すなわち,観察開始時の月齢によってその後に辿る発達的変化のパターンが多岐に亘ることが示唆された。次に,この結果に基づきつつ,個々の子どもの発達的軌跡を参照し,その共通性から発達的傾向を検討した。その結果,自己主張がなされる場合,1歳前半には発声による主張が特徴的にみられること,2歳前後にかけて不快情動の表出を示す行動が増加し,その後は減少すること,2歳後半にかけて情動や行動を制御した発話や交渉的表現など,よりスキルフルな自己主張が増加することが示唆された。自己主張の発達を検討する際に,声のトーンを含む情動的側面に着目することや,個々の子どもの発達的変化を考慮することの重要性が考察された。
  • 溝川 藍
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 1 号 p. 33-43
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    感情表出の機能の理解は,社会的適応とも関連する重要な発達課題の1つである。溝川(2009)のインタビュー調査からは,嘘泣きと本当の泣きを区別できる幼児の約4割が「嘘泣きの表出者に対して向社会的行動を取る」と語ることが報告されている。しかし,幼児が嘘泣きのどのような側面に注目して「他者の向社会的行動を導く」と判断するのかは明らかになっていない。本研究では,4歳児28名と5歳児32名を対象に個別実験を行い,仮想場面の主人公(表出者)と他者(受け手)の間に被害-加害関係がある状況と被害-加害関係の無い状況で,主人公が嘘泣きと本当の泣きを表出する場面をそれぞれ提示し,「主人公は本当に泣いているか」,「主人公の感情」,「他者の感情」,「他者の行動」について尋ねた。嘘泣きと本当の泣きを区別できた子どもの回答の分析から,4歳児は被害無し状況よりも被害有り状況で,嘘泣きが他者の向社会的行動を導くと判断することが示された。5歳児では,被害有り状況では嘘泣きの表出者に悲しみ感情を帰属した者ほど,被害無し状況では嘘泣きの受け手に共感的感情を帰属した者ほど,向社会的行動判断をしていた。本当の泣きに対しては,年齢や被害の有無にかかわらず,大半が向社会的行動判断をしていた。結果から,嘘泣きが向社会的行動を導くとの判断をする際に,4歳児は状況における被害の有無を考慮し,5歳児は表出者や受け手の感情を考慮することが示唆された。
  • 吉田 真理子
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 1 号 p. 44-54
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,実験とインタビューを通して,幼児における未来の自己の状態を予測する能力を調べた。特に,「起こるかもしれない」未来の自己の状態を予測しはじめる時期を特定するため,実験では,不確実に生起しうる未来で必要となるアイテムを前もって準備するか否か,インタビューでは,実際の未来の行事に対して自覚的に心配を抱いているか否かを検討した。対象児は幼児36名(3歳児11名,4歳児12名,5歳児13名)であった。その結果,(1)4歳頃から不確実に生起しうる未来に必要なアイテムを準備するようになること,(2)4歳頃から未来の行事に対して心配があると答えるようになること,(3)アイテムの準備と心配の有無には関連がみられること,(4)未来の複数の可能性を予測する際にはそれらの生起確率を考慮する必要があることが明らかとなった。以上の結果から,子どもは4歳頃から,未来の自己の状態を,複数の可能性があるものとして予測するようになることが示唆された。
  • 菊池 知美, 松本 聡子, 菅原 ますみ
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,幼児期の子どもを育てている両親が子どもの通う幼稚園・保育所に対し,就学に向けて期待をどの程度抱き,どのように変化していくのか,また,年中時の期待等は年長時の期待をどのように予測するのか,その特徴を見出すことであった。対象は,父親280人と母親321人で,年中(4歳)時から年長(5歳)時に渡る縦断的調査である。結果,父親の場合,子どもが就学に向かうと授業態度への期待が,母親の場合は,授業態度への期待,および基本的生活習慣への期待が高まることが示された。さらに,年長時の期待を基準変数とし,子どもの行動特徴・性別を含めた年中時の期待を説明変数とした重回帰分析を行ったところ,母親は子どもが男児であると学習・授業態度への期待に影響があることが示された。また,父親は年中時の子どもを「多動」行動であると認識し,同様に,母親は不安な様子や涙ぐむ等の「情緒」行動を認識すると,年長時の学習の期待に影響があることが示された。よって,子どもの行動を親がどのように認識するかが幼稚園や保育所に対する期待の形成に反映する可能性が示唆された。
  • 伊藤 崇
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 1 号 p. 63-74
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    集団的な保育活動において一斉に着席する活動は,そこに参加する幼児自身によってどのように達成されているのだろうか。この問いに関し,保育所の3〜4歳児(年少児)クラスを対象として,自由に遊ぶ活動が終了してから,全員が着席し「お誕生会」が始まるまでの準備過程を,年少児が保育所に参入した直後の3ヶ月間に渡って検討した。「お誕生会」の映像をビデオで記録し,それが開始される直前の過程で年少児と保育者の行った発話およびイスへの着席行動を分析したところ,以下のことが明らかとなった。集団レベルで見ると,4月から6月にかけて起きた変化として,「お誕生会」の開始までに要する時間が短くなった。この変化は,少なくとも2つの変化によって生じていた。第一に,4月にはなかなか着席しなかった幼児が6月にはすぐに座れるようになること,第二に,4月には座ったり立ち上がったりを繰り返していた幼児が,6月には一度座った席から離れなくなったことであった。以上の結果から,一斉に着席する活動が,ただ単に「座ること」ではなく「立たずに座り続けること」によって実現されていたことが明らかとなった。この結果に関して,立つという行動が集団の中でもつ意味の変化という観点から検討した。
  • 榊原 久直
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 1 号 p. 75-86
    発行日: 2011/03/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    対人関係障碍を中核とする自閉症児は生得的な障碍ゆえに後天的に対人関係の中で形成される障碍「関係障碍」を有しているとされる。そのため自閉症児への関係支援は対人関係の障碍の軽減や他機能の発達だけでなく,障碍特性そのものの軽減にも有効であると考えられる。本研究では関係支援の基盤となるべく,対人関係の障碍の顕著な自閉症児A児(CA10:5〜11:11)に対し,養育者以外の他者(関与者)が特定二者となることを目指して関与する中で,これまで看過されていた関与者を含めた,両者によって形成される関係性の発達的変容の内実を明らかにした。結果は以下の通りである。(1)A児から関与者に対する関与は,下位のレベルへと揺れ動きながらも『不特定の第三者』,『気を許す特定二者』,『自ら求める特定二者』,『愛着対象』へと推移した。(2)関与者からA児に対する関与は,『対象児優先の養護的な関与』,『関与者主導のプレイフルな関与』,『愛着関係によって促される養育的な関与』,へと重層化した。(3)A児と関与者の関係発達において関与の質的変容にはズレが存在し,「関係性の同時的・連続的変化」,「関係性の安定的・累積的変化」,「関係性の連鎖的変化」の3つの相互作用が抽出された。(4)自閉症児と関与者の関係性の共変容過程は,自閉症特有の要因を有しながらも,乳児と養育者との相互主体的な関係の初期発達と同じ過程を踏みなおすことが推察された。
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