発達心理学研究
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22 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 上野 将紀, 奥住 秀之
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 101-108
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,4〜15歳の子ども及び成人における眼前のロープを通り抜ける際の「またぐ」か「くぐる」かの行為の選択について,障害物の物理的な高さと下肢長との関係の年齢変化を検討することを目的とした。実験参加者は4〜15歳児128名,成人18名である。実験参加者は,2本のバーに水平に結ばれたロープを,またぐかくぐるかのどちちかの方法で通り抜けた。またぐ高さの最大値を転換点,またいで身体がロープに触れなかった高さの最大値を成功点と定義し,それぞれを下肢長で除して(基準化して)転換比と成功比を求めた。結果は以下の通りである。転換比も成功比も7歳以降で成人とほぼ同じとなり,それは約0.7〜0.8であった。4〜6歳においては,成功比,転換比とも,成人値よりも有意に小さかった。性差については,転換比は女性より男性で高いが,成功比に差はなかった。以上から,またぐかくぐるかの行為の判断は自己の下肢長とまたぎ越す事物の物理量との関係で選択されていること,7歳以降ですでに成人と同程度にまでその判断が可能になること,4〜6歳では成人よりも低い高さで行為を転換させるが,それは自らの下肢長や運動能力の知覚と関係している可能性があること,女性の転換比の小ささはリスク回避という特性に関係していることなどが示唆された。
  • 郷式 徹
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 109-119
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,保育園年少児と年中児(3〜5歳)を対象に他者の視線方向による標的刺激への定位反応への影響を調べた。さらに,そうした影響の発達的な変化を構成論的アプローチによりモデル化し,コンピュータ・シミュレーションによって検討した。対象者自身の視線を測定指標とした場合,他者の視線方向の影響は新生児期から見られる。しかし,本研究では手がかりパラダイムを用いることで,行動を指標とした場合,標的刺激への定位に関して,年中児では視線方向の影響が見られたが,年少児では見られないという実験データを得た。この結果は3〜5歳の間に視線方向の影響が生じない状態から生じる状態への移行が見られることを示している。そこで,その移行の原因を年齢とともに漸増する注意の移動の縮小と4歳半ころに生じる注意の範囲の急激な拡大の発達的変化と想定した計算論的なモデルを構成した。このモデルについてコンピュータ・シミュレーションを行ったところ,実験データとほぼ同様のデータが示され,想定した計算理論的モデルの妥当性が示唆された。
  • 奈田 哲也, 丸野 俊一
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 120-129
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,「自分とは異なる他者の考えを聞き,双方の考えを比較・検討することで自分の考えを捉え直す(自己省察する)という一連の過程を繰り返し体験していく中で,異なる考えの有効性や新たな解決方略を発見し,最終的には,単独で有効方略を実行できるようになる」という,奈田・丸野(2009)が構築した知の内面化過程モデルから示される知識構成の展開の様相の妥当性を確かめることであった。そのため,小学校3年生を対象に,協同活動セッション前後に加え,4ヶ月後にもテスト課題を与えるとともに,テスト課題を解く際に,協同活動セッションで得た知識内容によって解きやすさが異なるような場面がでてくるように設定し,知識改善の結果が,単なる既有知識の精緻化ではなく,新たな知の構成によるものであるのか否かを検討した。また,協同活動セッションでは,"他者の異なる考えを聞く"と"自己省察を行う"といった2側面の有無の組み合わせから成る4条件を設けた。その結果,他者から提示される異なる考えを踏まえ,それに自己省察を加えるという2条件の組み合わせを行った条件においてのみ,新たな知を構成しておかなければ解きにくい場面であっても,遅延テスト課題まで知識改善の程度が維持されており,奈田・丸野(2009)に基づく知識構成過程の妥当性が示された。
  • 浅川 淳司, 杉村 伸一郎
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 130-139
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児68名を対象に計算能力と手指の巧緻性の特異的な関係について検討した。具体的には,まず,手指の巧緻性に加えて走る,投げる,跳ぶなどの運動能力も測定し,計算能力との関係の強さを比較した。次に,手指の巧緻性が他の認知能力と比べて計算能力と強く関係しているかを明らかにするために,言語能力を取り上げ手指の巧緻性との関係の強さを計算能力と比較した。さらに,言語能力に対応する運動能力としてリズム運動を設定し,認知能力に関係すると考えられる手指の巧緻性とリズム運動という運動能力間で,計算能力との関係の強さを比較した。重回帰分析の結果,全体ならびに年中児と年長児に分けた場合でも,計算能力に最も強く影響を与えていたのは手指の巧緻性であった。また,言語能力にはリズム運動が強く影響を与えており,手指の巧緻性は関係していなかった。以上の結果から,計算能力は運動能力の中でも特に手指の巧緻性と強く関係し,手指の巧緻性は言語能力よりも計算能力と強く関係することが明らかとなった。これらの知見に関して,脳の局在論と表象の機能論の観点から論じた。
  • 福山 寛志, 明和 政子
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 140-148
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    ヒトは,1歳頃から関心ある対象へ指さしを行うようになる。この行動は「叙述の指さし」と呼ばれ,欲しい対象を求める「要求の指さし」とは区別される。叙述の指さしは,他者の注意を対象へ向けさせ,関心・経験を共有するための行動と考えられてきた。しかし,他者が関心,経験を共有できる存在であることを理解した上で,乳児は叙述の指さしを行っているのだろうか。こうした点を明らかにするため,本研究は,1歳前半(34名),1歳後半(28名)の児を対象に,指さし行動の生起および他者との共有経験の理解度との関連を調べた。乳児と向かい合った実験者の視野外に対象(ターゲット)を提示し,それを目撃した乳児の指さし行動を記録した。他の2つの対象(ディストラクタ)は,通常のインタラクションの中で両者に共有された。最後に3つの刺激すべてを乳児に提示し,1つを自由に選択させた。1歳後半児の多くは,乳児が指さした対象に実験者が注意を向けた時点で指さしを止めた。1歳前半児は,実験者が対象に注意を向けても指さしを継続する傾向にあった。また,実験者の注意に応じて指さしを止めた児は,他者と特別な経験として共有していたターゲットをディストラクタよりも多く選択した。他者との共有経験の理解とその行動表出との発達的関連について議論した。
  • 高田 利武
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 149-156
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    文化的自己観が内面化された結果と考えられる相互協調性と相互独立性の発達的変化について,児童後期から若年成人期を対象とした二つの縦断資料を通じて検討された。文化的自己観尺度(高田ほか,1996)への反応で,相互協調性については(1)児童後期から青年前期での低下,(2)青年前期から青年中・後期での上昇,(3)青年後期から若年成人期での低下,という横断資料(高田,1999)で認められた傾向が追認された。更に,相互協調性の水準はある発達的時期から次時期へと順次影響する一方,時期を越えた影響は見られないことが,構造方程式モデルによる分析により示された。それに対して,相互独立性については,横断資料とは異なり児童後期から青年後期,および青年後期から若年成人期にかけて変化は認められなかった。調査対象者のもつ固有の偏りがその背景にあるとともに,日本文化で優勢ではない相互独立性の意味内容が発達的に変化する可能性が示唆された。これらの結果は,尺度のみに依拠した研究の限界はあるものの,自己再構成の時期である青年期に日本文化で優勢な相互協調的自己観が主体的に内面化される,という仮説を裏づけるものと理解された。
  • 川田 学
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 157-167
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    乳児期における他者理解のひとつの形式とされる同一化(identification)について検討するため,擬似酸味反応(virtual acid responses)と呼ばれる現象について実験的に検討した。擬似酸味反応とは,例えば他者が梅干を食べようとしているところを見るだけで,(他者が酸っぱそうな顔をしていないのに)自分が酸っぱそうな顔になってしまうといった現象で,久保田(1981)によって6か月児の一事例が報告されていた。本研究には,43名の乳児(生後5か月〜14か月の乳児をyounger群[5〜9か月]22名,older群[9〜14か月]21名に分割)が実験に参加した。材料にレモンを用い,事前にレモンを食する経験をした乳児(Le群)とそうでない群(N-Le群)に分け,両群に対して実験者が真顔のままレモンを食する場面を呈示した。最終的に9個の行動カテゴリを抽出した。主要な結果として,(1)Le群>N-Le群でより多くの行動カテゴリの生起が見られること,(2)顔をしかめたり,口唇の動きが活発になるなどの典型的な擬似酸味反応はLe-younger群で多く見られるが,Le-older群では手のばしや発声のような外作用系の活動が多いこと,(3)他者が真顔のままレモンを食す場面を呈示されたLe群と,他者がいかにも酸っぱそうな表情でレモンを食す場面を呈示されたN-Le群では,反応が変わらないかむしろLe群においてより活発であった。以上の結果に基づき,生後1年目後半の乳児の意図理解や三項関係の発達と関連づけて議論した。
  • 溝川 藍, 子安 増生
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 168-178
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,5,6歳児102名を対象に,心的状態の理解と園での社会的相互作用の関連について検討した。心的状態の理解については,幼児を対象に個別に誤信念課題及び隠された感情課題を実施し,社会的相互作用については,各児のクラス担任を対象に,担当児の園での行動に関する質問紙調査を実施した。社会的相互作用の尺度項目について因子分析を行なった結果,「同情・共感」因子,「仲間関係」因子,「仲間からの受容」因子の3因子に分かれることが示された。月齢,性別,言語能力を統制した偏相関分析の結果,一次の誤信念の理解は,「同情・共感」因子及び「仲間からの受容」因子との間に有意な正の偏相関があることが示された。さらに,一次の誤信念の理解度別に,月齢,性別,言語能力を統制した偏相関分析を行なった結果,一次の誤信念の理解度高群においては,隠された感情の理解は社会的相互作用と関連しなかったのに対して,一次の誤信念の理解度低群においては,隠された感情の理解と「同情・共感」因子及び「仲間関係」因子の間に有意な負の偏相関が認められた。これらの結果から,誤信念の理解が5,6歳児の円滑な社会的相互作用の構築の基盤となっていることが示された。また誤信念の理解が未発達な子どもにおいては,隠された感情の理解は必ずしも社会的相互作用の発達にポジティブな影響をもたらさないことが示唆された。
  • 松岡 弥玲, 岡田 涼, 谷 伊織, 大西 将史, 中島 俊思, 辻井 正次
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 179-188
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,発達臨床場面における介入や支援における養育スタイルの変化を捉えるための尺度を作成し,養育スタイルの発達的変化とADHD傾向との関連について検討した。ペアレント・トレーニングや発達障害児の親支援の経験をもつ複数の臨床心理士と小児科医師によって,養育スタイルを測定する項目が作成された。単一市内の公立保育園,小学校,中学校に通う子どもの保護者に対する全数調査を行い,7,000名以上の保護者からデータを得た。因子分析の結果,「肯定的働きかけ」「相談・つきそい」「叱責」「育てにくさ」「対応の難しさ」の5下位尺度からなる養育スタイル尺度が作成された。ADHD傾向との関連を検討したところ,肯定的働きかけと相談・つきそいは負の関連,叱責,育てにくさ,対応の難しさは正の関連を示した。また,子どもの年齢による養育スタイルの変化を検討したところ,肯定的働きかけ以外は年齢にともなって非線形に減少していく傾向がみられた。本研究で作成された尺度の発達臨床場面における使用について論じた。
  • 渡邊 ひとみ, 内山 伊知郎
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 2 号 p. 189-199
    発行日: 2011/06/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,独身勤労女性152名を対象とし,出産後に計画している仕事とのかかわり方(継続型,一時離職型,退職型,未確定型の4つのライフコース)とアイデンティティとの関連を検討した。価値が置かれている生活領域でのアイデンティティは,個全体としてのアイデンティティに大きく影響するといわれることから,「家庭(実家)」,「余暇活動」,「職場」,「習い事」,「友人関係」の5領域を用い,重視している生活領域とその重要性の程度,そしてアイデンティティとの関連の中でライフコースの差異を検討した。その結果,「職場」領域ではなく「家庭」領域にライフコースによる差がみられた。退職型および一時離職型女性は継続型女性よりも「家庭」領域を重視していたことから,就業を継続する女性の増加という社会的変化には,職場を最重視する女性の増加ではなく,実家を最重視する女性の割合低下が関連している可能性が示唆された。各生活領域でのアイデンティティに関しては,ライフコースによる大きな差はみられなかった。最後に,ライフコース選択の違いには「家庭」や「職場」におけるアイデンティティがその領域の重要性の程度と関係しながら影響を及ぼしており,生活領域特有の要因を考慮に入れたアイデンティティ研究の重要性が示された。
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