発達心理学研究
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22 巻, 3 号
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  • 郷式 徹, 渡邉 静代
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 205-214
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    少数の物の個数を把握する場合,一つずつ数える(counting)他に,瞬間的に個数を捉えるサビタイジング(subitizing)を用いることがある。サビタイジングは視空間的な知覚処理過程として考えられることが多いが,一方で言語的な処理過程に干渉されることが示されている。本研究ではサビタイジングと言語的な処理過程との関係について検討することを目的とした。実験1では5歳児24名を対象に,実験2では成人16名を対象に,サビタイジング時に言語的な処理過程を必要とする二重課題として無関連言語音を聴覚提示した。また,サビタイジングの対象として無意味な図形によって構成された刺激と有意味な図形によって構成された刺激を用いて,数に関わらない意味処理がサビタイジングに干渉するかを検討した。その結果,幼児では無関連言語音の言語的な処理か有意味刺激の意味処理のいずれかのみでサビタイジングに干渉が生じた。一方,成人では両方そろったときにだけ干渉が生じた。これはサビタイジングと無関連言語音の処理および意味処理が並列に行われるとともに,サビタイジングに割り当てられる処理容量には限界があることと成人では5歳児に比べて処理容量が大きいために生じると解釈された。
  • 滝吉 美知香, 田中 真理
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 215-227
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,思春期・青年期における広汎性発達障害(以下,PDD)者が自己をどのように理解しているのかを明らかにすることを目的とする。22名のPDD者と880名の定型発達者を対象に,自己理解質問(Damon & Hart,1988)を実施し,得られた回答を自己理解分類モデル(SUMPP)に基づき,領域,対人性タイプ,肯否の3つの側面において分類した。その結果,(1)PDD者は,他者との相互的な関係を通して自己を否定的に理解し,他者の存在や影響を全く考慮せずに自己を肯定的に理解する傾向にあること,(2)PDD者は,「行動スタイル」の領域における自己理解が多く,その中でも障害特性としてのこだわりに関連する「注意関心」の領域がPDD者にとって自己評価を高く保つために重要な領域であること,(3)PDD者は,自己から他者あるいは他者から自己へのどちらか一方向的な関係のなかで自己を理解することが多く,Wing(1997/1998)の提唱する受動群や積極奇異群との関連が示唆されること,(4)社会的な情勢や事件への言及がPDD者の自己理解において重要である場合があることなどが明らかにされた。
  • 中道 圭人
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 228-239
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    幼児の反事実的推論に因果関係の領域が及ぼす影響を検討した。実験1では3-5歳児(N=74)を対象に反事実課題を実施した。反事実課題では,幼児に初期状態⇒原因事象⇒結果状態からなる因果関係を含んだ物語を提示し,その因果関係の原因事象が異なっていたら結果状態がどのように変化するかを尋ねた。因果関係には3つの領域(物理・心理・生物)があった。その結果,年少児より年中児・年長児で,物理的領域より生物的領域で,その2領域より心理的領域で推論遂行が良いことが示された。実験2では3-5歳児(N=30)を対象に結果選択課題を実施した。結果選択課題では,3領域それぞれに関して,ある原因事象を提示し,その結果状態がどのようになるかを尋ねた。その結果,結果選択に関して領域による遂行差は見られず,反事実的推論の領域による遂行の違いが実験1で用いた因果関係に対する理解の違いに起因するのではないことが示された。これらの結果は,反事実的推論能力が4-5歳頃に向上すること,その能力には領域に関する何らかの制約が影響している可能性を示唆している。
  • 篠原 郁子
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 240-250
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    母親が乳児の心の世界に目を向け,乳児を心を持った一人の人間として捉えるという特徴(mind-mindedness:MM)について,後の子どもの発達との関連を検討した。子どもが生後6ヵ月時に測定された母親のMMの高さが,その後,3歳時と4歳時の子どもの欲求・信念理解,感情理解を促進するのかを縦断的に分析した。高いMMを持つ母親の子どもは,4歳時点において感情理解に優れ,同時に,一般語彙の理解も高いことが示された。また,母親のMMの高さは,生後6ヵ月時に観察された母親による子どもの内的状態への言及頻度の高さを介して,子どもの感情および語彙理解を促進するという影響プロセスが見出された。一方,3歳時の欲求理解能力,および,4歳時の誤信念理解能力について,母親のMMの単純な高さではなく,MM得点の中位群に属する母親の子どもの成績が最も優れることが見出された。母親のMMは,子どもの心の理解発達について側面ごとに異なる影響を持つことが示唆された。欲求や信念理解の発達に中程度のMMが寄与していた点について,その理由と影響プロセスを検討するという課題が示された。
  • 長濱 成未, 高井 直美
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 251-260
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,就学前期における自己調整機能の発達を,自己主張,自己抑制,自他調整の3側面から検討することを目的とした。3歳から5歳の幼児120名を対象に,仮想課題を用いて,自分が遊んでいた玩具が取られてしまう自己先取場面,他児が遊んでいる玩具で遊びたくなる他者先取場面,他児と同時に玩具を見つける対等場面の3場面を想定させ,自分ならばどのようにするか,口頭と選択肢で回答を求めた。その結果,口頭回答については,対等場面で,5歳児に自他調整の回答が多く見られたが,3歳児では自他調整の回答は少なかった。5歳児では,先行,後行,順番など,自分も相手も交互に物が使えるように自他関係を調整する回答が多く出現しており,この時期に自他調整の方略が発達することが示唆された。また4歳児,5歳児の口頭回答では,他者先取場面において,依頼という方法で自己主張が多く見られ,対等場面に比べても自己主張は増加していることから,場面の違いに応じた自己主張をしていることがわかった。一方,3歳児の口頭回答では,特に他者先取場面で無反応が多く見られ,先に物を保有する他者には,対処法を見出せない様子が窺えた。最後に,選択回答については,自己先取場面において,行動的主張の回答が,3歳児で多く見られ,5歳児において少ないことが示された。
  • 山本 尚樹
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 261-273
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究は,神経学的な要因から論じられてきた乳児の寝返り動作の獲得を,個人の運動特性や知覚との関係などを考慮に入れた近年の行動発達研究の観点から捉えなおすことを目的とした。寝返り動作を乳児が初めて獲得する環境への方向定位の自発的な転換と位置づけ,その獲得過程の縦断的な観察を2名の乳児の日常の活動を撮影した映像資料から行った。対象児は脚部を活発に動かし,視線の方向と一致しない乱雑な体幹の回旋運動が増加する時期をともに経ていたが,一方の乳児はその脚部の動作に頸の伸展動作が伴うようになっていった。他方の乳児には脚部の動作の発達的変化は認められなかったが,上体に始まり視線の方向と一致した体幹の回旋運動を多く行っており,この回旋運動を徐々に大きなものへと変化させていた。こうした動作の発達的変化を経つつも,寝返り動作の獲得時期に対象児は視線と方向を一致させつつ体幹を大きく回旋させるようになっていたことが確認された。また寝返りを行う際の動作の構成は各対象児で異なり,獲得時期の体幹の回旋運動に頻繁に観察された動作パターンから対象児は寝返りを行っていることが確認された。以上の結果から,乳児の寝返り動作の獲得過程は環境への方向定位と自己の身体動作の関わり方のダイナミックな探索過程であることが示唆された。
  • 寺川 志奈子, 田丸 敏高, 石田 開, 小林 勝年, 小枝 達也
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 274-285
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    5,6歳児が,4人のグループで均等分配できない15個の飴を分配するという,対人葛藤が生起しやすい場面においてどのような行動をとるか,分配場面に至るまでに遊びを通して形成されてきたグループのピア関係の質との関連において検討することを目的として,「保育的観察」という約45分間の保育的な遊びのプログラムを設定した。保育的観察は,初めて出会う同性同年齢の4人が,保育リーダーのもと,親子遊び,親子分離,子ども4人だけの自由場面1,保育リーダーによって組織された遊び(あぶくたった),再び子どもだけの自由場面2,子どもどうしによる飴の分配を経験するという一連の過程からなる。グループの遊びの質的分析から,自由場面1から2にかけて,4人の遊びが成立しにくい状態から,5歳児は「同調的遊び」へ,6歳児は「テーマを共有した,役割分担のあるルール遊び」へと,4人がいっしょに,より組織化した遊びに参加するようになるという時系列的変化が明らかになった。すなわち,遊びを通してグループのピア関係の成熟度が高まっていくプロセスが捉えられた。また,飴の分配に関しては,6歳児では,自由場面2においてピアとして高い成熟度を示したグループの方が,そうでないグループに比べて,均等分配できない数の飴の分配という対人葛藤が生起しやすい場面において,グループ全体を意識した相互交渉による問題解決を図ろうとすることが明らかになった。
  • 三好 昭子
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 286-297
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,Eriksonの漸成発達理論における第IV段階の活力(virtue)である有能感(competence)について両極端な2つの事例から,有能感の生成要因を明らかにし,有能感がアイデンティティに基づいた生産性にどのように影響するのかを示した。明治時代の東京で,学童期から抜群の学業成績を収め,若くして小説家としての地位を確立した作家谷崎潤一郎と芥川龍之介の有能感の様相が対照的だったことを示し,同じような経歴を重ねながら,どうして有能感の様相が対照的であったのかという観点から比較分析を行った。谷崎の場合は無条件に愛され,寛大にしつけられた結果,第IV段階以前の活力を基盤とした確固たる有能感が生成された。それに対して芥川の場合は,(1)相互調整的でない養育環境と(2)支配的なしつけを受け,初期の活力の生成が阻害され,早熟な良心が形成された。その結果,芥川は(3)主導性を発揮することができず,目的性が過度に制限され,有能感の生成が妨げられたことを明らかにした。そして谷崎は作家としてのアイデンティティに基づいた生産性を発揮し続けたが,作家としてのアイデンティティを主体的に選択しえなかった芥川は,義務感によって生産に従事し続けたことを示した。さらに初期の発達段階における活力の生成を阻害されると,どんな才能・能力に恵まれても自分の才能・能力が何に適しているのかを見出すことができなくなる可能性を指摘した。
  • 寺坂 明子
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 298-307
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    怒りには複数の側面があり,攻撃的な行動の背景には慢性的な怒りが存在することが知られている。本研究では,児童期・思春期における怒りについて,慢性的な怒りを含めた多次元的な構造とその特徴を検討した。慢性的な怒りについては認知的側面である敵意と情緒的側面であるいらだちから捉え,怒りの多次元的測定にはMultidimensional School Anger Inventoryのうち怒り体験と怒り表出も併せて用いた。研究1では小学5・6年生を対象に調査を行い,怒りの多次元的特徴と妥当性を検討した。研究2では研究1と同集団に対する追跡調査(中学2・3年時)を行い,怒りの多次元構造と発達的変化を検討した。調査の結果から,いずれの時期においても慢性的な怒りを含めた怒りの多次元構造が示され,慢性的な怒りが破壊的表出と関連しやすいことが示唆された。また,積極的対処以外の怒りの各側面で小学生時よりも中学生時で高いことが示された。変数間の関連,教師による行動評定との関連からは,男女で表出の在り方が異なると考えられた。
  • 大鐘 啓伸
    原稿種別: 本文
    2011 年 22 巻 3 号 p. 308-317
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2017/07/27
    ジャーナル フリー
    障害児の早期療育に合わせてその子どもの母親に,子どもとの関係性や障害受容を促進するよう支援していくことが必要である。特に,母子通園施設は,障害告知後の支援として初期にあたるため,母親の心理状態を踏まえた支援を行うことが課題となる。そこで,本研究では,母子通園施設を利用した母親の気持ちから,支援の過程で変化する母親の心理状態を検討することとした。まず,母子通園施設を利用した52名の母親の手記から,入園時7項目,通園中5項目,卒園時5項目に母親の気持ちを分類評定した。次に,その結果について数量化III類およびクラスター分析を行ったところ,<自責解放>,<育児困難感>,<関係発達的育児希求>,<育児効力感希求>の4つのカテゴリーが抽出された。このうち,3つの時期と関連がなかった<自責解放>については,支援よって変化していった過程を2つの事例から検討した。それらのことから,支援の過程において,母親は子育てや障害に関して様々な葛藤を抱いていたが,第三者からのサポートを感じ,子どもへの共感性を促進させていった。また,母親の心理状態には,母親の養育観と障害認知に関する障害観が相互作用していることが推測された。そのことを踏まえて子どもと母親の双方の気持ちに共感し,母親がサポートを受けている気持ちを持てるように支援する必要があると考えられた。
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